乙女の丸ティ盗難 THE 6
「えぇ……なんで、タイミングよくこっち来るん……」
「確実にこっちに向かってきてるね……」
中央入り口から真っ直ぐ向かってくる人物はアリスやった。
切り上げようってタイミングで一番、いや……一番会いたくないのは恋か……。
でも、二番目に会いたくない人物確実なんは、間違いない。
「貴様等、大丈夫か」
「えっ……なにが……?」
言葉の意味もそうやけど、アリスが心配してるっぽい状況が意味がわからへん。
「当たったんじゃないのか? バッテリーに」
「ああ、見てたんか。いや、当たったし、不意やからむっちゃ痛かったで」
「そうか。不意だから痛かったということは、そこまで痛くも、怪我もないということだな」
「いや、怪我はないけど、痛かったで。……というか、なに、二階まで聞こえたん? うわっ、なんか恥ずかしっ」
ただでも、ほんま痛かったしな。でも、やっぱなんか恥ずかしいわ。痛みと恥の狭間やな。
「うむ。まあ、貴様の声が聞こえたのも事実だが、落としたのは私だからな」
「ああ、そうか。やから慌てて来たわけやな」
……は? ていうか、お前かいっ。
「いや、特に慌てた訳ではない。叫べる元気はあるようだからな。本当に致命傷ならロピアンが叫び、貴様は血を流して、虫の息で倒れているところだろう」
「いや、慌てろや……。冷静すぎるやろ分析。こっちは、ほんま痛かったんやからな」
「そうか。それはすまなかった。では、次は少し、慌ててみる事にしてやらんでもない」
次またあるんかいや……。
つうか、なんかなぁ……もやもやしかせえへんわ。やったことの謝罪というか、慌てへんかった事に対しての謝罪っぽいし。
でも、長々話おうても、こいつに響く気がせえへんし……。
「あの、そもそもなんだけど……どうして、バッテリーなんか落としたんだい?」
ロピアンが最もな質問をぶつけると、アリスは途端、静止したように黙り込む。
だが、ロピアンはそれでも尚、更に聞きよる。
「このバッテリーって、その、無線機のバッテリーじゃないかな?」
「無線機? なんのことだ?」
おもいっきり右手に無線機持っとるのに、何故か、アリスはしらばっくれるように、関係ない所へと目を向ける。
なんや、凄い香ばしいやっちゃな。何か隠しとるで明らかに。
「それや。その、右手に持っとるやん」
「これか? これはトランシーバーだ」
「いや、一緒やろ。それに、明らかにバッテリー抜けてるやん。なんでなん?」
「妙だよね。普通に使ってて落ちるものでもないと思うよ」
いくらこいつが怪力で握ったいうても、そんな枝豆みたいにバッテリーだけプリっと出るわけあらへん。
「それは……貴様等には関係はないことだ。うん」
「いや、むっちゃあるで。俺肩当たったし」
「そうだね。もしかしたら僕が当たってかもしれないし」
「それはすまなかった、と、私はさっき謝ったではないか。理由なんぞぞうでもよいだろう。トランシーバーの調子が悪いので触っていたらバッテリーが取れ、落ちた。ただ、それだけのことだ」
ただそれだけの事を隠そうとしてたから聞いてるんやけどな。……絶対嘘ついてるわ。
「なんだ。信用できないというのか?」
「まあ、そうやな。もしかしてやけど、俺を狙ってた?」
「ふっ、馬鹿な。狙っていたら肩なんぞ狙わん。頭のみだ」
「いや、なにスナイパーみたいなこと言うてんねんっ」
こいつやったら確かにそうなんやろうけど、怖すぎるわ単純に。
まあ、でも俺を狙ってた訳じゃないならなんなんやろう?
バッテリー落とした本当の理由ってなんや?
「あ、居た! アロマ姐さーーーん!」
「むっ……もう来たかっ……」
ん? もう来た?
なんでアリスは、自分と同じように控え室棟から出てくる恋に驚いとんのや?
三人で下着泥棒探しとったんちゃうかったか?
「鬼白さーん! どうしたんですのー?」
いや、間違いな。こいつら三人で窓開けてはなんか叫んでたし、中島まで遅れてこっち来よるしな。
「アロマ姐さん、どうしたんですか? 急に無線途切れるわ、気づいたら下でゴリロピアンといるわ」
ゴリロピアンってなんか一つの生命体みたいや……。
「う、うむ。それがな、無線を返そうと思ったら、ボタンが反応しなくなってな」
「そうだったんですか~? じゃあ、直接上に来てくれたらよかったのにぃ……どうして一人で降りてきてるんですか? ゴリロピアンのどっちかが好きなの? 窓から見つけて猛ダッシュ青春? しーぶりーず? え、しーぶりーずなの?」
「そ、そうなんですの? し、知らなかったですわ」
「んなわけないだろ! 全っ然違う! ただ、演劇部の控え室がどこだかわからんから答えられずバッテリー外して放り投げただけだ!」
あ、こいつ、ゲロった。
「お前マジかよ……。つうか投げんなよ。素直にどこって聞けばええやん」
短絡的且つ衝動的過ぎるやろ……。まじで咄嗟やった考えると怖すぎるわ。肩でまだよかった思う。
「そ、そんなことできるわけないだろう! 恋に茶化されるのも中島に聞くのも嫌だったのだ私は!」
「いやいや、一番普通の人がやらへんことできてんねんから、むしろ容易いやろ、お前なら」
暴れん坊の将軍でもそこまでやらんぞ、多分。
「アロマ姐さ~ん……ま、そういうことなら仕方ないですね」
「そうですわね。でも、次は聞いてくださいまし」
え、え? なにこいつらの超理解?
中島なんかは自分に聞くの嫌やったとか言われてんねんで? なんで?
「うむ、すまなかった。善処する」
アリスが頭を下げると、恋と中島は笑顔で許して、共に控え室棟を後にするかのように歩きだした。
「なんなんや、これ……意味分からんぞ」
「そ、そうだね……。ま、まあ仲いいんだろうね……」
苦笑いするロピアンと三人の―――特にアリスの後ろ姿を見る度にジンっと左肩が痛む俺はただその場に立ち、見送ることしかできひんかった。