乙女の丸ティ盗難 THE 4
「はははははは! 千切り大根かよっ!」
「けひゃひゃ! そうなんでぇ! 『ぶっ!』ってよぉ!」
屋上に閉め出された俺とじろさんは、最初こそ足掻いていたが次第にどうでもよくなり、お互いの昔話を出し合っては盛り上がっていた。
「百ちゃーーーーん!」
「百太郎さん!」
だからだろう、屋上の扉が開くのすら気が付かなかった。
「ぶっははははははは! んだよそれっ、千切り大根かよっ! はははははははは!」
「けっひゃひゃひゃ! まじなんでぇ! 『ばるん!』ってよぉ! けひゃひゃっ!」
「はははははははははは!」
「けひゃひゃひゃひゃひゃ!」
やべえ、腹がっ、腹がよじれるっ……。
「百ちゃんごめーん! やっぱ、百ちゃん犯人じゃなかった!」
「ほんと、申し訳ありませんわ! 私達が間違っておりましたの!」
「ははははっ! ……いや、俺もさっ、じろさんっ。小学生の頃エイリアン見てさっ!」
「おう、おう、ほんとけぇ! 千切り大根けぇ! けひゃひゃひゃ!」
「そうそうっ! ひじきとにっころがしもいてさ!」
「まじけぇ! そりゃかなり厄介じゃねえけぇっ! たまんねえな、おいっ、けひゃひゃ!」
まさか、じろさんと共通点があったとは驚きだ。楽しくて仕方がない。なんで二人して屋上にいんのか忘れたけど、そんなのどうでもいい。
「無視とは……いい度胸だな……」
「殺っちゃいます? 殺っちゃいましょうか?」
「致し方ありませんこと、よ……」
「そうですね。やっちゃってください。……先輩達」
なんか、チャイムが鳴ってる……。
まあ、正確に言えば授業終了を知らせる、教頭の歌だ。
この学園では普通にチャイムが鳴るときもあれば、教頭の生歌も流れる。
時間は決まってない。教頭の気分でやってるみたいだから、ない日もあれば教頭の歌しかない日もある。
『毛根毛根ポア! 毛根毛根ポア! 毛根毛根ポア! &ぉ! 芽派亜菜ぁ~』
今日は、教頭の歌の日だ。毛に関するっぽい変な歌が流れてる。
「すいませんでした……」
「すいませんした……」
そして、俺とジロさんは揃って、アリス、中島、恋ちゃん、あと何故か居る由加に土下座をして詫びている……。
「反省してますか?」
恋ちゃんの問いに、してますと答える。
まあ、そんなの嘘だがな。
正直言うと、何について謝っているのか1ミクロンも俺とじろさんはわかってない。
二人で楽しく会話してたら急に間に薙刀がぶっ刺さってきて威圧され今だ。
……因みに薙刀は3本に増えていた(どうやらアリスも手に入れたみたい)。
「隊長。多分、めんどくさいから言っとけって感じですよ、特に百太郎の方」
「いや、そんなことは決してない。とりあえず、黙れ由加」
「ほら、ほらっ。私に黙れとか言ってますし」
「そんなことないって、本当に反省してるから、鼻垂れ女はほんと黙れ」
最強軍団の一員気取りか知らんが、調子に乗んなっての、この豪快鼻かみ耳詰まり女め。
「豪快鼻かみ耳詰まり女ぁぁ……!? てめっ、馬鹿にしたな! おもいっきりかまないと鼻の下荒れるんだぞ! 真っ赤になって荒れてくるんだぞ! この馬鹿!」
「え、あ、口に出てた? まあ、事実だから謝らんけど」
「もぉーーー怒った! こうなったら全面戦争や!!」
「ちょ、ちょっと由加ちゃん。落ち着きましょうっ」
殴り掛かろうとでもいうのか、向かってこようとする由加を中島が両肩を掴み止める。
「止めないでください先輩! 私は何があろうと百太郎は許しません! 奴が謝ろうとも、なにを差し出されようとも!」
「そ、そう? 例えばこんなものでも駄目、かしら?」
中島は言いながら、ポケットから出した白い……なんだあれ? まさか、ティッシュ?
「そんなものでも私はっ―――……なっ! なにぃっ、これはっ!」
差し出されたものを見て、由加は目を見開き驚く。
「私もその、結構荒れやすいんですのよ。だから、お父様に言ったら、特別に……」
中島は催眠術かけるかのように、ティッシュを由加の顔の前でゆっくりと左右に揺らす。
「か、カシミアのコッティ……べらぼうに高級品やんか……あんさん……」
「しかも特注ですの。普通のよりもっと高級ですわ。……ほら」
中島は由加を惹き付けるだけ惹き付け、そっとティッシュを風に任せふわりと舞わせる。
「あぁぁ……そんな……まって……ずずっ……ちっじゅてぃっじゅ……」
それを追い掛けるべく歩き出す由加は、催したのか、一筋の太い鼻水を滴ながら輪から離れていく。
「なんなんでぇ、あの小汚ねぇ嬢ちゃんはよぉ……」
「わからん。中島が凄いのか、あいつが馬鹿なのか、どっちともわからん」
皆が見守るなか、由加はまるで、蝶を追っていた幼き日に戻ったかのように微笑み、時おり軽やかなスキップなどをして、楽しそうにティッシュを追い掛ける。
「うふっ……うふふ……ずずっ……ちっじゅ……」
「ヤクでもキメてるみたいじゃねえか、大丈夫かあいつ……」
素朴と言えば聞こえはいいが、単純にヤバい奴にも見える。
「そんなことより……百ちゃん!」
「え、あ、なに―――っていうか、まじでなに! 危なっ!」
振り返ると、鼻先数センチの位置に薙刀の先端がお目見えし、少し間違えば流血騒ぎになるところだった。
「あ、ごめん。間違っちゃったよぉ~もぉ~いやんっ」
恋ちゃんは、わざとらしく『てへっ☆』なんて言いながら、ウインクして舌を出すと、紙切れを差し出してくる。
「…………」
反応するのもめんどくさいし、なんかイラっともしたので、無言で紙を受け取ると目を向ける。
「うん……」
なんてことはない。俺が毎朝と毎昼と毎夕と皆の分を仕分けしている依頼書だ。
「で……? こんな1枚でも俺に仕分けしろっての?」
そんな筈はない。……と、思いたいが。
自分への依頼なら自分、誰か宛ならその誰かに渡せばいいのに、恋ちゃんはそういう時でも、俺に渡して俺に仕分けさせそうな所があるから、正直、マジで聞いていたりする。
「どうかな~? ちゃんと見て読んで触って揉んで~」
触って揉めだとっ……この野郎っ……。
まあいいや、つうか、この反応……ということはなにかあるのか……。
めんどくせえ……。
なんて口には出さないが(殺されそうだし……)態度には少々出しつつ、依頼書に目を走らせる。
『下着泥棒に本当に困ってます。どうか捕まえてください。お願いします』
内容には、女の子が書いたっぽい丸っこい文字でそう書かれている。
まあ、そうだろうなというところだが、恋ちゃんの期待した表情から、これではないんだろう。
じゃあ、指名欄か。
『奉仕活動部の皆さんでお願いします』
依頼者名……。
『1年F組 愛澤ティナ』
……か。
そうか……。
「○V女優みたいな名前だな、この子」
なんか、ハーフ系だな。で、色白の長身だな、多分。俺的にはあんま興味湧かないやつだ。
「なっ……貴様っ、え、ええ、○V女優な、などとっ……」
「ひ、人様の名前を、す、スケベ……スケベですわっ、百太郎さん!」
「もぉもぉ……ちゃん、さぁぁぁ………」
え、あれ? 違うのか? なんで、恋ちゃん震えてるんだ……?
「死ねぇぇええええええええええええええ!!」
「な、なんでっ……ぃやぁぁああああああああああああああああ!!」