乙女の丸ティ盗難 THE 3
「百ちゃーーーん!」
「百太郎さん!」
今度は幼馴染みである恋ちゃんと同じクラスであり隣の席に度々なってしまってる中島が屋上へとやって来たようだ。
「なんだよ次は―――」
言いながら二人を見た瞬間俺は叫んでいた。
「帰れー! 帰れお前ら!!」
怪談界のレジェンドが霊を追い払うかの如く叫んでいた。
「覚悟だー!」
「覚悟しなさい!!」
というのも、理由を知るのも嫌なのだが、ふたりの手には2メートル近くありそうな薙刀のようなものが握られていたからだ。
「うおぉぉぉおおおい! 来るな来るな、マジでおい!」
「な、貴様っ、ちょっ、やめっ……やめてっ」
稀に見る女の子の様な反応に少しギャップ萌えのようなものを感じそうになったが、そんなことはとりあえず側に置いておいて、迫り来る“アレ”な二人から身を守るべく、アリスを盾に背後に隠れる。
「アロマ姐さん、ちょっと退いてください!」
「鬼白さん! 怪我をする前に早くお退きになってくださいまし!」
「私が邪魔しているように見えるのか! どう見ても盾にされているだけだろう!!」
「その通りだアリス。悪いが、気付いたからには少しばかり盾になってくれ。あいつら怖い」
なにしでかすか分からないといった点では、アリスの倍以上な二人だ。薙刀持ってる時点でお察し過ぎる。
「き、貴っ様、男のくせになさけなくは―――っひゃっ、ちょ、腰を触るなっ」
「ごめん! ほんとごめん! でも今は! お前より目の前のクレイジーウーメン二人が怖いんだって!」
そもそもどっから持ってきたんだよあんな武器。つうか、何故のっけから殺そうとしてきやがってるんだ。
「百ちゃんんん……あんたってやつはぁぁ……下着を盗むだけじゃあきたらず……あたいのっ、あたいのアロマ姐さんを強姦しようってのかい!」
「そうですわ百太郎さん! これ以上罪を重ねるのはお止めになってくださいまし! 今ならまだ引き返せてよ!」
「ちょ、ちょっとまて! なんで俺が盗んだことになってんだよ! 盗んだ疑惑はそこの―――」
言いながらじろさんへと顔を向ける。
「俺っち、おめぇが犯人って言っちゃった。ぺろ☆」
じろさんは片目を閉じ、口の端から舌先を出す。
正直、ここまで人に対しての殺意を抱くスピードがてぃふぁーるを超えた経験は今が初めてだ。
「ぐおぉのぉぉぉぉ゛や゛ろぉぉぉぉぉおおう゛っ―――」
魔物の咆哮よろしくじろさんへ叫んだとき、また再び屋上の扉が開き何者かがやって来るのが横目に見えるが、俺は構わずじろさんへ飛びかかっていた。
「な゛ん゛でなの゛ぉおおおおおお゛っ!!」
「うわぁ、やめっ、やめろぃ、ももたろっ」
「どう゛してな゛ぁの゛ぉおおおおおお゛っ!!」
「ほんとやめっ、腕毛、脚っ―――げぁああああああああああ!!」
ムシリトル……ムシリ、トル……ムシリトルゥゥゥ……。
「隊長大変です!」
「むっ。どうした由加隊員」
「それが、今しがた、またしても下着が盗まれたとの報告が!」
「ム゛シリ……ム゛シリムシィ……」
ムシリトルゥゥゥゥ……ムシリィィィ……。
「なんですと!? それは、大変! 急ぎ現場に急行せねば!」
「ふむ。やはり犯人は別に居たか。……恋、私も共に行く」
「それは頼もしい限りです! では皆現場に急行!」
「あ、ちょっと待ってくださいまし。……あの、お二人は?」
「ああー、まあ容疑は完全に晴れてないから、鍵閉めて放置しときましょうか」
ムシリィィ……。
「いやぁぁぁ、もうやめてくれぇぇぇえい!」
「ムシィィ……はっ? あれ、なんだこれ、きもっ」
何故、強姦されてるかのように胸の前で腕をクロスして泣いてるじろさんが目の前に……。
「つうか、なんだ、この散らばったチリ毛……腕毛? 脛毛? つうか、きもっ」
何があったか分からない……短時間の記憶に空白があるのはなんだ……?
「なあ、じろさん。俺さっきまで何をして---」
「ふぅぅぅ……ひどいよぉ……うぅぅ……」
「おい、いい歳して膝抱えてなくな。きもいぞ」
おっさんがアンモナイトみたいに膝抱えて丸まって泣く程の事ってなんなんだいったい。
散らばった毛となんか関係あんのか? 知りたくもねえぞ、おい。
「つうか、もう授業始まるじゃねえか」
少しの驚きをもたらしてくれやがった携帯をポケットに仕舞うと、明らかにめんどくさい状況のじろさんは放置することにして、屋上を後にするべく歩き出す。
「しっかし、アリス達も薄情なもんだなぁ。自分達だけそそくさと戻りやがって」
ま、所詮、あいつらの中で俺という存在はそんなもんなんだろうな。泣けてくるねぇ、ほんとに。
「……え? ちょ、まじで?」
ドア開かないんだけど……内側から鍵ぃ……閉められて、はる……?
「おぉーい……まじかよぉ……」
放っていくどころか、屋上に閉め出すとかちょっとやりすぎじゃねえか?
「下着泥とかまじで思ってんのか、あいつら」
背後を振り返ると未だ泣いているじろさんが見える。
「一番濃厚な奴と閉じ込められるとか、俺、詰んでるんじゃねえのか、今」
最悪だ……。俺がなにしたってんだよ……。
なんでこうも、急に今日の運勢最悪なの? 朝のテレビじゃ順位2位だった筈なのにさ……。
「うわっ、つうか、じろさん乙女座やんけ!」
最下位の奴や! ごめんなさいとか朝から謝られてやがった奴!
あらぬ疑いをかけられそうとか家に居た方がいいかもとかなんか怖いこと言われてた奴やんけ!
「2位じゃあかんのか……。1位じゃないと、まくってまうほど運勢悪いんかよ、今日のじろさん」
なんてこったい……。下手したら巻き込まれて死ぬのか、俺……。