今日が始まる
どうも、見てくれてありがとう。俺は百太郎と申します。
鬼我島一番のど田舎、鬼尻から、島一番の都会、鬼腹部に出てきて今住んでる。
都会に興味があったとかって理由じゃなく、単に鬼我島学園に通うため。
勘違いしないでほしいが、学園に通ってるといっても、俺は親が大企業の社長だとか有名人だとかってんじゃない。
そもそも、両親が居ないし、育ての爺はまあ……凄い人というか、島の歴史に関わる凄いやつではあるけど、有名じゃない。
というか、有名であってはいけないというか……まあ、大金持ちでもなければ、色々とくそ高いだろうこんな学園に通わせれるほどの何かがあるわけじゃない。
もちろん、俺自身も頭がいいわけでも、スポーツができるわけでも、何か人より秀でてるってことがない。
が、通ってるのは事実だ。いや、通ってるだけが事実と言う方が正しいかもしれない。
学園長を名乗る見たこともない謎の人物からの葉書ですんなり入学してしまった口で、どうも、別口でスカウト的な入学制度もあるみたいだ。友人の二人や幼馴染みなんかもそういう口だし。正攻法で入学なんて無理な奴等だ。俺含め馬鹿ばっかだし。
「説明長いな……。本題書くか」
ここに投稿したのは……。
「なんだろうな……。何を求めてんだ……?」
ここに投稿したのは、多分、話し相手が欲しいんだと思う。
他人事みたいになってるけど、なんか自分でも、正直わからない。
なんか、重大な決断をした後の様な気分というか……まあ、実際はしてない筈なんだけど。
なんか、わからないけど不安でそわそわしてしまいそうになって、兎に角誰か、近所に住んでいようがいまいが、兎に角、全く関係ない誰かと話したい気分なんだ。
「やばい匂いさせちゃってる気がするな……。でも事実だしな……」
こんなやつでもいいという人が居たら、連絡ください。
「うん……。まあ、これでいっか」
投稿っと。
「地元メンバー的な掲示板だけど……オッケーだよな。……なにメンバーでもねえんだけど」
まあ、誰かから連絡着たらいいな。
「さぁっとぉ……依頼の仕分け終わってねぇ……。どうすっかこれ」
目の前に広がる紙の山。
これは、我が奉仕活動部部員への生徒逹の依頼書。我が部の宝。
鬼我島学園奉仕活動部代表取締役百太郎こと、私への依頼、それは何故か未だに一通もない。
故に、私は部員逹への依頼書を仕分けする任に就いている。一番重要なポジションだ。
「はぁ……だっるっ……」
飛んでいったら儲けだと、毎朝、毎昼、毎夕、各クラスからかき集めては屋上で仕分けしてるのに……飛んでいきやしねえ。
鬼我島の気候安定しすぎなんだよ、まじで。
日差し気持ち良すぎんだよ、お昼寝しちゃうんだよ、ちくしょうが。
「燃やしちまおうかなぁ~……」
と、言いながらも、右手でテキトーに紙の山から一通広げ読んでみる。
ちなみに、左手は今、小指が鼻くそ界の大物とバトル中だ。
「あー……鬼白アリス様。好きです」
あ、駄目だこれ。この鼻くそ卑怯なことに鼻毛を3、4本人質に巻き付いてるやつだ。これは痛い。
「あぁー……あぁっ……あぁあ? 鬼白アリス様。罵って踏んで欲しいです」
お、おお……! 少し痛かったけど取れた。鼻毛もやっぱ3本も長いの抜けた。
「でぇ~……なになに? 鬼白アリス様。殴って欲しいです」
ゴミだな。さっきから、アリス宛、告白とMプレイ希望ばっかだ。
「言うのは簡単だが、あいつのパンチはマジで死ぬからな」
鬼白アリス。
名前の通りと言うべきか、透き通った白い肌にモデルのようなスラッとしつつも出るとこ出てる体型且つ長身で日本人離れした綺麗な顔つきのクラスメイトだ。
艶やかで綺麗な長い黒髪をなびかせて歩く様は凛とした美しさもあり、同時に軽々しく近づけない雰囲気がある。
まあ、ただでさえ本人がそれなのに、学園から更に上がった、ハクチョウ台という金持ちしか住んでいない住宅街の一番天辺に位置する英国の宮殿並みにでかい家に住んでる訳で、誰もが、アリスのみならず、鬼白シア、鬼白ルイ両者の姉二人を含め、鬼白三姉妹の事は鬼我島に住むものなら誰しもが知っているといわれるほど、有名なもんで、より一層、いや二層、三層くらい? 近付き難い存在となってる。……まあ、俺は知らなかったけど。超絶お嬢様だと知らず、消ゴムのカスを頭にぶつけてしまうなんてファーストコンタクトを取ってしまった為、気軽に話せる仲になったとはいえ……代償としてかよくぶん殴られる。
今までで、そうだな……少なく見積もっても50回は殴られてるんじゃないだろうか。
昨日なんかは、最早、認められたのか『私のパンチで倒れなかったのは貴様だけだ』と褒められもした。
まあ……そもそも殴らないで欲しいわけだが、彼女のサンドバッグと化してる今、身体が丈夫だという一族の血に感謝だったりはする。
「えぇー……次はこれにしようかなぁ~」
紙の山からまた一枚掴んで広げると、見たこともない何語とも推測できない文字が書かれていた。
「指名は……ああ、やっぱ恋ちゃんか」
五月恋。
俺が生まれ育った鬼尻もかなりの田舎だが、鬼尻よりも更に奥地で、より一層田舎の鬼門という所から3歳くらいの頃に、ばあちゃんとじいちゃんと共に三人で鬼尻へ移り住んできて以来、同じ鬼尻出身でサダシと鉄という馬鹿二人と俺と恋ちゃんの四人は幼少期から、俺が一足早く中学卒業するまで共に過ごしていた。まあ、簡単に言えば学年は一個下だが幼馴染みに中る女の子だ。
見た感じでは、いつもにこやかで明るめの茶色ハネっ毛が更にゆるくふんわりしている印象を与える小柄の愛らしい女の子だが、実際は……。
昔から言動はパワフルでいて意味不明且つ、時より繊細でそして愛らしい。
自分でもなに言ってるかわからないが、言うなれば感情が移り行く様は凄く人間らしいともいえる。あと、愛らしいのは変わらない。
だが、勉強に運動、何をやらしても難なくこなし、ガキの頃から今まで、なにで勝負しても勝てたことがない記憶から俺の中では人間ではないと認識している。
それに、部活も含め、一緒に学園生活をやるようになってから何かと面倒を連れてきたり、時には自ら面倒を起こしたりと、兎に角巻き込まれるので、いくら幼馴染みといえど、近しくも遠ざけたい存在でもあったりする。
「我輩は……我輩から始まってるからこれはゴリラだ。私は……私ってきたら、ロピアンか寝子だな」
ゴリラ、黄緑ロピアン司、大西寝子。
ゴリラと黄緑ロピアン司は中学の頃からの友達で大西寝子は俺とゴリラがある日の罰でバケツを取る為、階段の下のあそこの扉を開けるとワックスが置いてある棚と棚の間で寝ているのを発見して以来、俺たちと絡み始めた為に奉仕活動部にも入ることになり、今に至る。
ゴリラはまあ、あだ名だ。ごついし毛深いし関西弁だし。ただ身長は低い。
本名は……なんだっけなあいつ。ていうか生まれも……どこだったかな。
なんかまあ鬼右肩とかじゃなかったっけな。あそこでっけえ森林公園あるし。
こいつは体格を見込んで運動部の汗臭い助っ人依頼が多い。依頼読んでると、ほんと暑苦しいから死ねって思う。
ロピアンはまあ名前的にも分かる通り親父さんかお母さんのどっちかがヨーロッパの人だったと思う。まあ身長もあるし、目の色もなんか緑でや髪色も金に近くて鼻も高い、見た目はもう日本人じゃないけど凄い優しくていい奴だ。その点はすごく日本人らしい。
単純にカッコよくていい奴だからだろうな、こいつは依頼と称して告白されたりしてる。依頼読む度に自分と比較してしまって死ねって思う。
寝子はまあ、いつも眠そうに目を擦って、髪は寝癖の様な癖っ毛パーマで色は白に近いアッシュ。
それでいて小柄で華奢で狭いとこ大好きで、フラフープを地面に置こうもんなら何故か入って中心で座ってしまう、名の通り猫みたいな後輩の奴だ。
あ、あと、あれだ、なつきやすいさもある。
なんたってこいつは依頼で呼ばれては2年や3年の先輩女子に可愛がられてやがるみたいだしな。なんかもう、羨ましすぎて、たまに、大好きな睡眠中にそのまま死ねって思う。
「おお、いいねぇ。結構スムーズに進んできた。お次は……ご依頼していいのか悩みますが……って、この畏まらせるのはあいつ、だな」
中島だ。
怒らすとキーキーうるさい人である、同じクラスだがクラスメイトに興味なさすぎて存在を知らなかった女子生徒だ。
まあ、初めて言葉を交わしたときはそれはもう、怒ってた。俺に対して。
いや、実際は俺だけじゃないと思うが、というか、ゴリラのせいってのが大きい筈なんだが……。
ゴリラと共にちょっとはしゃいじゃって何回もじろさん(有馬次郎という名の変態担任であり奉仕活動部の顧問みたいな存在)がぶちギレて授業が止まるのにもご立腹だったわけだが、一番はゴリラの野郎が、中島の特注らしいティッシュ(箱ごと)落ちてるの拾って、くしゃみかましまくってた俺にその
ティッシュを渡しやがった事によって、そっから、盗んだだの、退学にするだの
……まあ、ギャーギャーうるさいことなんのって。
「…………」
つうか、あん時、アリスの頭に鼻かみティッシュも張り付けるって二次災害も起こしたんだよな俺……。
まあ、それからまたなんやかんや色々あって、兎に角、最悪な関わり方だった。
んでも、それは最初だけで、ある理由で隣の席を使うようになってから、いい奴だと知って、それもなんだかんだ色々あって……まあ、好きだったんだろうな。
俺も、あいつ、も………両想いだったのかも知れない。
……ま、あいつはもうその記憶はないけどな。それも色々あって消した。
国内ではかなり有名らしい中島財閥、中島幸次郎氏の一人娘らしく、畏まらせる所以はそれだ。
俺、ほんと世間に疎いんだろうな、それも知らんかったが、まあ、こいつもハクチョウ台の豪邸に住んでやがるお嬢様だ。
因みに、こいつですらアリスの家見たときは引いていた。
見た目は金髪でツインテールでなんか目が青いし鼻も高いし、恐らく、母ちゃんが外国の方なのかもしれん。
ただ、アリスのように長身ではなく小柄で標準より少し小さいと思うが、スタイルは良く、出るとこも(本人は嫌がってるようだが主に上半身の成長)出ている。
一見、その声の高さも相まって、ベタな馬鹿お嬢様っぽいが、奉仕活動部に入る少し前から最初出会った時のようなトゲもなく、普通に常識あって優しさもあり入部してそんな経たないというのにもう、人柄の良さから依頼をバンバン受けてやがる。……ま、下の名前未だに知らないけど。
「中島……なんだろ……。あいつ見た目もあれだし、漢字であっても、カタカナっぽさある名前っぽいイメージなんだよな……」
自得詩歌みたいな、慈英みたいな、慈温みたいな、ジェイとジョンみたいな。
それだと、また好きになるな、多分。
間違いなくあいつが現れる度に、代表戦のテーマが頭に流れる。
「ふっ……負けられん奴やでぇ……」
時代の進歩により、今や、携帯の方が現実やテレビで得るよりも早く情報が掴める訳で、こいつの下の名前も、写真公開したり呟いたりだのなんだので検索したり、おやっさんが有名なだけあって、おやっさん繋がりで何かしら更に調べやすくはあると思うのだが……絶対にそこは調べない。
あいつからまた名乗ってもらうのが勝利だ。八百長はせん。
「絶対に負けられない戦いがぁ……ここにもあるぅっ……」
空に向け力強く誓う。
「馬鹿みてえだな……」
腕を挙げそのまま寝転がる。
「ふぁ……ぁ……気持ちぃ……」
今日の空は雲一つない。
そればかりか、空の青さを更に引き立てるよう、寒さはなく清々しさだけを置いていく風が俺にぶち当たりながら駆け抜けていく。
「あいつの依頼も無かったな……はは」
最近の日課である、空を見上げ、よかったと胸を撫で下ろす時間だ。
綾野布丸。
オレンジのモヒカン頭で眉毛全剃りで、眉毛の代わりかわからんがリング型のピアス(最近は両方)と勿論両耳の方もピアスだらけで、制服もボタンを留めず、ロックバンド系のTシャツをモロに出してる……まあ、見たまんまの最近じゃ珍しいくらい分かりやすい不良。
本来じゃあ、学園には入れない筈だが、何故か急に転校してきて、今のようにこうして俺が屋上で空を見ていると現れ、そこから色々あって交流が生まれ、俺が奉仕活動部をやっていることを知るや『義賊かおい!』って勝手にテンション上がって入部となった変わり者まっしぐらだ。
まあ、急に誰彼構わず喧嘩吹っ掛けるとか狂暴性はなく、というか、そもそも物事の覚え方が一般人と逆なのかなんなのかわからんが、度々言葉が通じない。……だから安心なのか? まあ基本的にいい奴だ。
教頭を投げっぱなしパワーボムして入院させてるが……いい奴だ。教頭が吹っ掛けた訳でお咎めもなく今も通ってる。
「我思う、布丸に依頼あらば、我なし……」
流石に、見た目からして布丸よりはヤバくないと自負してるし、布丸の方が俺より早く依頼されたらほんともういや。
あっても燃やす。ほんといや辞める。
「……っと、やばいやばい。そろそろ授業始まるか」
さぁ~……週始めの一日目の長くてダルいとしか思えない一日の始まりだ。