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モテ男は辛いよ Close To You

 その頃、桜も満開となった春爛漫のシティでは、飛騨乃匠が頭の痛い問題を抱えていた。

 新学年を迎え、久々に専門学部の研究室に出かけてみれば、どうも周囲の様子がおかしい。

 女性という女性が妙に親し気な視線を送って来る。同期の専門学部生ばかりではない。大学院生や助手や教授に、売店や食堂のスタッフからも熱いまなざしを投げかけられる。

 それは何とも居心地の悪い異様な体験だった。


 サンクチュアリの第二世代と同じだ・・・

 アロンダに人類の女たちもあなたを追いかける、と告げられたが、匠はてっきりたちの悪い冗談とばかり思っていたのである。と言うのも、二人の関係は昔とまったく変わらず、サンクチュアリで一夜を過ごした時も、アロンダにはからかわれっぱなしだったからだ。


 神経症の対人恐怖ではないが、女性の視線が気になってしかたがない。外出したが最後、おっかなびっくりで気持ちが休まらないのである。

 これはたまったもんじゃない、と早々に帰宅しては家に閉じこもる毎日が続いていた。


 第二世代へ覚醒してからというもの、これまでになく穏やかで冷静な心に生まれ変わった。アロンダことニムエと再会した時も、千年前の関係にスムーズに戻れたし、キャットことビビの傷を治した時も、自分でも意外なほど落ち着いて対処できた。意識の中で過去生の自分と現世の自分がうまい具合に切り替わる。

 これならこれまでの生活や人間関係と両立させられそうだ、と安心した矢先、異性を否応なしに魅了する「フェロモン現象」に足元をすくわれるなんて・・・


 本格的な春を迎えたあでやかな季節だってのに、なんだって引きこもらなければならないのだろう?

「春の目覚め」なんてシャレにならないと、匠はげっそりしていた。

 異性愛の男性ならごく自然な女性にモテたいという願いは、覚醒しても変わらないのだが、スターのように注目を浴びたいなど、これっぽちも望んだことはない。しかも、ニムエへの一途な想いが蘇って、アロンダさえいれば十分満ち足りている。


 それなのに・・・なんでこうなるんだ!?

 匠は頭を抱えた。誰かに相談しようにも、アロンダはサンクチュアリから戻ってからなしのつぶてだ。買い物がてらタリスを探しにスーパーに出かけたが、イルカちゃんの姿はなく、女たちの熱っぽい視線に悩まされて、うのていで逃げ帰る羽目になった。カミもまだハワイから戻って来ない。

 これで親しい女子がたむろする教養学部に顔を出したら、いったいどうなるんだろう?イヤな予感がする・・・


 案の定だった。勇を鼓してと言いたいところだが、なかばへっぴり腰でエリア21のキャンパスに出かけた匠は、いきなり木村真弓につかまった。(*)

「ロバったら、いったいどこに姿をくらましていたのッ!?電話もメールも返事がないから、心配していた・の・・に・・・」

 振り向いた匠を見た瞬間、真弓は瞬きしてぽか~んと口を開け、言葉が途切れて消えた。まただ!これは困ったぞ。匠の顔が引き攣った。

「飛騨乃さん、どこか感じが変わったような気がするけれど、いったいどういう風の吹き回しなのかしら?」

「・・・あ、あの、いや、マユ、久しぶり!ごめん・・・ちょっと忙しくて、連絡できなかったんだ」

 間があいてしまい、匠は気まずい思いで一杯だったが、真弓には一向に堪えていない。

「いいの。こうしてまた会えたから許して差し上げます!」

 きっぱり言い切ると匠のそばに身を寄せてじっと顔を見上げた。

「ま、まずいよ、コレって・・・」

 匠は本格的に焦って後ずさりした。

 その瞬間、真弓の後頭部に、虹色の柔らかい物体がバシッと勢いよくぶつかった。


「なによッ、あなた、凶暴ねッ!いきなり暴力を振るうなんて、どういうつもりッ?」

 ポンポンで頭をはたかれた真弓が食ってかかった相手は、シティ国際大学のヘッド・チアリーダー、三年生の遠藤美紀子だった。

 長身のとびっきり派手な美人で、頭が良く向こうっ気が強い。学園の花形的存在で皆から一目置かれている。


「そっちこそ九月に入学したばかりでしょ?まだ十七じゃない!先輩に近づこうなんて百年早いのよッ!」

 美紀子は頭一つ背が低い真弓を見下すように、つんと顎を上げて言い返した。

 匠は仲裁に入ろうとしたが、情けないことに二人の剣幕に押されて、口をぱくぱくさせて言葉に詰まってしまう。

 美紀子は強引に真弓を押しのけて匠に歩み寄った。


「ねえ~、飛騨乃さ~ん、わたしを覚えてます?先輩、教養学部でアメフのフリーセイフティだったでしょう?ずっとアコガレてたんですよ~!」


 そんなこと聞いてないよと匠は思ったが、こういう女王様然とした女性にはニムエでなくとも手も足も出ない。すり寄って来る美紀子をかわそうと、ズルズル後ずさりするうちに壁際まで追い詰められた。

 美紀子だけではない。新入生のオリエンテーションでパフォーマンスを披露するため集まったペップ・スクワッド全員が、わやわやと寄って来て匠を取り囲んだ。


「ちょっと、放しなさいってっばッ!さもないと、痛い目に遭ってよ!」

 チアリーダたちにもみくちゃにされ押しやられながらも、真弓がめげずに叫んだ。

 こんなところをアロンダに見られたら、千年前のように半殺しにされるかもしれない?いや、半殺しではすまない。じゃあ、全殺し?・・・

 あらぬ想像が頭に浮かんで、匠はうろたえた。


 美紀子は妖艶な笑みを浮かべて、張りつめた豊かな胸を匠に押しつけてくる。押しのけようにも、迂闊に触れたら最後、抱きつかれると直感して、両手を上げて壁にぴったり張りつくしかなかった。

 また、悪い夢を見ているんじゃないだろうか?いや、悪夢ならどんなにいいだろう。ここまで過激な反応は予想していなかった・・・

 ろうたけた美紀子はうっとりと匠を見つめながら、むき出しの充実した太腿をさりげなく押しつけて、熱い吐息がかからんばかりに顔を寄せた。デオドラントとメイクアップの匂いに混じって、成熟した女の官能的な香りが匠の鼻孔をくすぐる。


 進退窮まった匠は、必死に声を振り絞った。この状況に微かなデジャヴュを感じながら・・・

「ちょ、ちょっと、美紀子。頼むよ、冗談はよせ!そろそろ出番じゃないのか?ほら、アナウンスしてる・・・」


 折よく流れて来た校内アナウンスに美紀子の注意を逸らせようとした匠は、次の瞬間、耳を疑った。



* 「青い月の王宮」 第6話「データ欠測?」


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