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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-147 ヴァルムト宮中伯領の危機 scene.2

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


 サフランとルークディーンにクラインリヒが増援の目処が立ったことを報告しに行っている間、ボクはアルベルトのもてなしを受けることになった。

 一応、アネモネは二つの国の国家元首だからねぇ。流石に外に突っ立たせておく訳にはいかないし、かと言ってサフランとルークディーンに報告する場に同席させるほど親しい訳でもない。まあ、これが順当な判断だよねぇ……普通なら順当だと思うじゃん。どうやら最悪手だったらしい。


 滞在の時間は短時間。だから、会わない可能性の方が高いと思っていたけど、会いたくないと思っているほど会ってしまうというか……間違いなく会ったら一触即発の相手だしねぇ。歩く火薬庫みたいな人だし。


 あまりにも過激な態度を取ったからヴァルムト宮中伯家の管理する町屋敷の一つの管理を任せるという形で左遷された筈なんだけどなぁ。


 こういう形で会いたいとは思わなかったけどねぇ。アルベルトには自分の力だけで乗り越えて欲しかったから。

 ラインヴェルドの陰謀を感じていたけど、案の定だった。さては、秘密裏にラピスラズリ公爵家あたりを動かして情報を集めて、チャンスと判断したからゴーサイン出したな、ラインヴェルド。


 白髪交じりの茶色い髪に、厳しいまなざしを持ったご婦人――レイリア=レンドリタ。

 思わずうわぁという表情になりそうだったところをなんとか押し留める。


「お久しぶりでございます、アルベルト様」


「……ああ」


「ヴァルムト家のために惜しまず働かれているご様子、レイリアも安心致しました。慢心することなくこれからもどうぞお勤めくださいませ」


 アルベルトは無表情。まあ、いつものことだから感情も起こらないのだろう。


「町屋敷の一つを任されている貴女が何故ここにいるのかは知らないけど、こんなところで油を売っていないで本来の仕事に戻るべきなんじゃないかな」


「貴方様とは違いこのレイリア、ご当主様のために動く時間を無駄にしたことはございません。魔物達の出現で人手が足りなくなったのでこちらに戻ってきただけです。……ヴァルムト宮中伯領の一大事に女性を連れて帰ってくるとは随分といいご身分になられたようですね」


「レンドリタ夫人ッ! このお方はビオラ商会合同会社の商会長殿だ。今回、出現した高難易度大迷宮(レイドダンジョン)を無害化するために協力して頂けることになった」


「そうですか。ヴァルムト宮中伯家のためにご尽力くださるのですね。ありがとうございます。今後もヴァルムト宮中伯家のために引き続きご尽力ください」


「――レイリアッ!」


「それは無理な相談ですね。今回の一件も私に利益があるからこそ引き受けたお話です。今時点においてヴァルムト宮中伯家の利益のために協力する理由はありません。そうですわね? アルベルト様」


「……えぇ、まあ、そういうことになりますね」


 歯切れが悪いねぇ。まあ、必要なら守るよ? ルークディーンに想いを寄せるプリムラのために。だけどそれだけだ。ボクにはプリムラ絡み以外でヴァルムト宮中伯に義理立てする理由はない。


「アネモネ……思い出しました。平民から商才を発揮し、王族と昵懇になることで権力を獲得した成り上がりの女商人ですね。小汚い小娘ならば、その半端者とお似合いだと思いますよ。ただ、権力を手に入れて随分と調子に乗っているご様子。ヴァルムト宮中伯家は歴史ある宮中伯家、そのヴァルムト宮中伯家を敵に回してこの先生きていけるとでも?」


「まるで、ヴァルムト宮中伯を代表して発言しているようですが、貴女は所詮使用人の一人でしょう? それとも、それがヴァルムト宮中伯家の総意と受け取るべきでしょうか? 家人であるならば、主が恥じるような真似は控えた方がよろしいかと。……協力が必要ないのであればご自由に。つい最近、ヴァンヤール森国というエルフの国でも話した気がしますが、別に私は半分善意でこの場にいるだけです。高難易度大迷宮(レイドダンジョン)は別に放置すれば消えるものでもありませんから、別にこの地が滅んでから探索しても利益は得られますからね」


「あの方が恥じるですって!? あの方を誰よりも大切に思うこのレイリアをあの方が恥じる筈がないでしょう、小娘如きがッ!」


 きついながらも上品な態度だったレイリアが金切り声を上げ始めたところで、嫌な予感がしたボクはアルベルトが持っていた見覚えのあるナイフが輝き出したのを見て、その予感が正しかったのを確認した。


「……アルベルト殿、凄い嫌な予感がします」


「奇遇ですね。私もです。……第二王子殿下の予言が最悪な形で当たってしまった」


 金色の光が屋敷を塗り潰し、一人の男……というか、ラインヴェルドってもう言った方がいいか、見覚えのあるナイフっていう時点で分かるだろうし。


「随分と好き勝手言ってくれるじゃねぇか。俺の親友に掛けたその言葉、一度口から出た以上はもう取り返しが付かないぜ。今のレイリアの親友への侮辱の言葉、一言一句逃さず聞かせてもらった。親友への暴言は俺に対する暴言も同じ、ヴァルムト宮中伯家の俺に対する宣戦布告と受け取ったぜ。ってことでいいんだよな? クラインリヒ=ヴァルムト」


 レイリアを嗜めようとしていたサフランの思いも、最早意味が無い。

 サフランの隣では顔面蒼白のクラインリヒとルークディーンの姿がある。


「そ、そんな滅相もない! ヴァルムト宮中伯家はラインヴェルド陛下に宣戦布告の意思などある筈がございません!!」


「ヴァルムト宮中伯家は代々ブライトネス王国に仕えてきました。その忠誠を疑うというのですか?」


 折角クラインリヒが弁明をしようとしたのに、的確に狙ったんじゃないかというくらいにピンポイントで地雷を踏むレイリア。……あっ、これ、ヤバいかも。

 というか、今の状況にあんまり関係ないことだけどさっきアルベルトが言っていたルクシアの予言って何? ……すみません、現実逃避したくなってきた。


「はっ、忠誠だって? そりゃ、ヴァルムト宮中伯家は代々ブライトネス王国に仕えてきた忠臣だ。それ故の宮中伯……分かっているよ、それくらい。社交界で暮らす王侯貴族はヴァルムト宮中伯の意味を理解している。その頂点に一応は君臨している国王である俺が理解していない筈がねぇだろ? だけどさぁ、俺は違うと思うんだ。それは、ブライトネス王国の忠臣であって、俺の忠臣ではないと。……俺の即位の前後にゴタゴタがあっただろ? クラインリヒ、覚えているか? 俺はやりたくもなかった国王になる条件としてメリエーナを王妃にすることを求めた。しかし、その約束をこの国の貴族の大多数が守ることは無かった。助けてくれたのは、ディラン、バルトロメオ、アーネスト、ミーフィリア、ナジャンダ――ほんの一部の奴らだけだ。それに、あの混乱を鎮めたのは先代の【血塗れ公爵】、結局、宮中伯でありながらお前は職務すらまともに果たせなかった。違うか、なぁ? ――クラインリヒ、パーバスディーク侯爵を知っているか? そこのレイリアの縁続きの哀れな権力に取り憑かれた老人だ。アイツは死んだよ。俺と圓の逆鱗に触れ、【血塗れ公爵】の手によって抹殺された。……本当は俺の手で殺してやりたかったが、お前は国王だから手を汚すなって釘を刺されてしまったんだ。……俺は貴族を恨んでいる。俺とメリエーナの関係を祝福してくれなかったお前ら貴族を、その時に無言だったからって罪がないと思うな。少しでも弱みを見せたらつい壊したくなっちまう。俺からメリエーナを奪った時のように圧倒的な絶望を与えた上で最悪な死をくれてやりたくなるんだ。……まあ、元々は身から出た錆だ。ゆくゆくヴァルムト宮中伯の首を絞めることぐらいお前から話を聞いた時の俺にだって分かったんだ。首輪をつけて管理するなり、処分するなりしなかったお前の責任が今回の件には多分にあると思うぜ?」


 ラインヴェルドの圧倒的な怒りと霸気に呑まれてクラインリヒは意識が飛び掛けている。


「し、しかし、それなら何故ルークディーンと姫殿下の婚約の話が持ち上がったのでしょうか?」


「代々尽くしてくれたヴァルムト宮中伯家の忠義を信頼して大切な愛娘を任せる、だったか? んな訳ねぇだろ? アルベルト、説明してやれ」


「……全ては姫殿下と王女宮筆頭侍女――ローザ様を幸せにするための国王陛下の計略、ヴァルムト宮中伯家はそのための駒、それ以上でもそれ以下でもありません。……陛下はその計画を失敗だったと思っておられるようですが、私はその過ちを犯してくれて本当に良かったと思っています。本来、宮中伯子息とはいえ、ルークディーンでは候補になることすら難しい姫殿下と婚約間近まで話が進み、私もローザ様にお近づきになることができたのですから。……ただ、ルークディーンほどすんなりと話は進まなかったですけどね。……私の出生の秘密を第二王子殿下の婚約者のフレイ様からお聞きした時、第二王子殿下は一つの警告をくださいました。――陛下は、まだ婚約の件は修正できると思っているのではありませんか? 姫殿下とルークディーンの関係構築は順調です。しかし、まだ婚約者候補筆頭に過ぎない。今ならまだ姫殿下の経歴に傷をつけずに状況を変えられる。……多少心に傷を残すとしても、陛下の望む未来に、即ち、ローザ=ラピスラズリ公爵令嬢と姫殿下を婚約させることができると。丁度、高難易度大迷宮(レイドダンジョン)が出現している良い機会ですからね……最善を尽くしたが間に合わなかった。到着した頃には、ヴァルムト宮中伯領は既に魔物の群れの軍勢によって滅ぼされていた。そういうシナリオで事故に見せかけてヴァルムト宮中伯家を滅ぼす、そういう案が陛下の中にあるのではありませんか?」


「ルクシアの奴、本当にいい勘しているぜ。……いいや、違うか。俺が単純なだけか」


 ヴァルムト宮中伯家の一同が真っ青になる中、ラインヴェルドと対峙するアルベルトの顔色は決して良いものではなかった。

 一つでも選択を間違えば、ラインヴェルドに消される。大義名分まで用意されているからアフターケアもバッチリだ。


 ……分が悪過ぎるよねぇ。別に何も悪いことをしていないのに父親のやってきたツケを全て払わされて、少しだけ可哀想になってくるよ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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