Act.9-145 翠光エルフ国家連合の建国 scene.1
<一人称視点・リーリエ>
レイドに関する話も終わり、さて、緑霊の森へのヴァンヤール森国の傘下入りの話に……というタイミングで発言の許可を願い出たのはマウントエルヴン村国のポーチュラカだった。
「今回の件を、私は良い機会だと捉えている。かねてからミスルトウ殿と話をしていたのだが、より密接なエルフ同士の交流を行うため、マウントエルヴン村国を緑霊の森の傘下に加えてもらおうと考えていた。具体的には、緑霊の森とマウントエルヴン村国の直通の移動手段の開発、統治政府の統合、この二つだな。緑霊の森とマウントエルヴン村国の直通の移動手段の開発については圓殿の助力を得たいと思っている」
「つまり丸投げだねぇ」
「……でもさぁ、統合してもあんまり旨味なくねぇか。緑霊の森との親密な付き合いも別に同盟国同士でできるだろう? 関税の撤廃も可能だし、何か企んでねぇか?」
「そ、そんな、何も企んでなど、い、いないぞ! 失礼な!!」
「怪しいねぇ、ミスルトウさん。……何か企んでいたよねぇ、絶対。まず、ポーチュラカさんの狙いは緑霊の森に統合されることで、自分が代表として多種族同盟会議に参加せずに済むようにするためだよねぇ? 代表でなければ文官の仕事をしなくても済む。そう安易に考えて自分の責任を減らし、あわよくば政治の表舞台からフェイドアウトしようと思ったんだろうけど……交渉した相手は多種族同盟の過重労働文官組のミスルトウさんだ。マウントエルヴン村国の緑霊の森の傘下入りは別に悪い話じゃない。肥沃なウォーロリア山脈帯の土地と山エルフ達を獲得できるからねぇ。商業面では緑霊の森の方が遥かに発達しているから、マウントエルヴン村国で作られた食物の販売を引き受けることで利益も得られるし、山エルフ達という新しい労働力も手に入る。マウントエルヴン村国としても長年鎖国していた国だから貿易については苦手だろうから、そういったノウハウを学ぶことができるということは大きな利益になる。それに、職業選択の選択肢も増えるし、両者にとって旨味がある話だ。まあ、それも別に傘下入りしなくても解決しようと思えばできる話なんだけど。……ミスルトウさんは恐らく文官としてのポーチュラカさんを手放す気はないと思うよ。緑霊の森傘下のマウントエルヴン村国の代表としての地位を保証してくれるんじゃないかな?」
「その通りです。この私が重要な文官戦力を手放すことなどある筈がありませんよ。ポーチュラカさんには緑霊の森の傘下入り後、緑霊の森マウントエルヴン州の州知事として引き続き代表職務と文官職務を請け負ってもらいたいと思っております。勿論、断るという選択肢はありませんよ」
「そんな……」
ポーチュラカは目算が甘いところがあるからねぇ。ミスルトウの掌の上で見事に踊らされているって今の今まで気づいていなかったんじゃないかな?
「ポーチュラカさんがマウントエルヴン州州知事、リーティアナさんがヴァンヤール州州知事になるというのが順当な流れなんだろうけど……外様のボクがあれこれ言うのも内政干渉を疑われ兼ねないから避けたいところなんだけど、一つ提案があるんだよねぇ」
「圓さんの意見なら勿論聞くのですよぉ〜!!」
「そうですね、是非お話しください」
「エイミーンさんとミスルトウさんは緑霊の森ではなくブライトネス王国を拠点として動いていて、緑霊の森の運営はミスルトウさんの側近のフレッシオ=ジッリョネロさんが行っているという状況だよねぇ。だから、いっそのこと緑霊の森の統治をフレッシオさんに任せてみるのも良いんじゃないかと思う。他の二つの州との兼ね合いを考えて、緑霊の森州州知事という立ち位置が良いんじゃないかな? それぞれの州は州知事を頂点とする州政府官僚にしてもらい、その監督と外政をエイミーンさんやミスルトウさんがする。どっちもってやっていると忙しいし、しっかりと線引きした方が良いと実は前から思っていたんだ」
「確かに、しっかりと線引きをした方が良いかもしれませんね。なるほど、州政府と中枢政府ですか」
その後、ボクの意見を基に話が煮詰められていき、最終的に緑霊の森を中心とした翠光エルフ連合王国という新秩序が誕生することとなった。
緑霊の森はグリーンウッド州と改められ、グリーンウッド州州知事にフレッシオが、マウントエルヴン州州知事にポーチュラカが、ヴァンヤール州州知事にリーティアナがそれぞれ就任した。
この州知事達を中心に州政府が運営される。この州知事達は中枢政府の一員でもあるため、中枢政府と各州を繋ぐ橋渡し役として奔走することとなる。
続いて翠光エルフ連合王国の中枢である翠光エルフ連合王国政府。
頂点に君臨するのは緑霊の森の族長と翠光エルフ連合王国女王を兼任するエイミーン。ミスルトウは族長補佐と翠光エルフ連合王国全体の政府である太政官の頂点である太政大臣に就任した。
次回以降の多種族同盟の会議にはエイミーン、ミスルトウ、フレッシオ、ポーチュラカ、リーティアナが出席することになる。
ちなみにポーチュラカは最後の悪足掻きでポーチヴァをマウントエルヴン州州知事にしようとしたけど、それだけは全力で阻止させてもらった。これ以上問題児は多種族同盟会議に必要ないからねぇ。……ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンの三人でもうお腹いっぱいだよ。
◆
レジーナ達をそれぞれの国に送り届けた後、ラインヴェルド達を三千世界の烏を殺してレイド開始日に戻してから、ボクはレイド開始から一ヶ月後の世界に飛び、アイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロを転移させた屋敷に転移した。
「先日は重ね重ね不快な態度をとってしまい、本当に申し訳ございませんでしたわ」
「私達を生まれ変わらせて頂き、本当にありがとうございます!」
「まるで若返ったかのように身体が軽いですわ! これなら、どんな潜入任務でもこなせそうです!!」
「圓様から授かった新たな命、必ずやお役に立てて見せますわ」
「夢幻開闢」を使った一ヶ月間の洗脳……じゃなかった矯正。女性化教育。
どこまでのものに仕上がっているかな? と期待しつつ見にいくと、どうやらきっちりボクの望んだ通りの淑女達に染まってくれたらしい。
女性へと生まれ変わったことに幸せを感じ、若返った身体の軽さを喜び、生まれ変わらせてくれたボクの役に立ちたいという気持ちに溢れている。
しっかりと諜報部隊フルール・ド・アンブラルに必要な教養(淑女に必要な立ち居振る舞いから、あらゆる潜入に必要な技術、暗殺技術など諜報員に求められるあらゆる知識と技術)も叩き込まれているようで、今日からでもすぐに諜報任務につけるレベルにまで鍛え上げられている。
どうやら魔法と親和性が高いエルフに魔法使いのデータを組み合わせたことで、魔法使いの魔法を使えるようになっただけでなくエルフとしてのスペックも上がったらしい。……まあ、これは究極調整体のデータを加えたことによるものなのかもしれないけど、魔法の発動速度や威力が段違いに向上しているようだ。また、一度に発動できる魔法の数も増えているらしく、四人とも十二重奏に至ったらしい。
アイウォスには、ソッフィオーネ=ウォールナット。
エドヴォットには、プラトリーナ=マカダミア。
アオファルには、チコーリア=ピスタチオ。
クェートロには、バルサミーナ=カシュー。
新たな姿と性別を得た四人に新たな名前を与えてから、白夜を呼び寄せて四人を預けた。一応、「夢幻開闢」内部で必要な教育は済ませているけど、夢の中と実世界では違いがあるからねぇ。
もし、任務についた時に力が発揮できないとなれば困るのは当人とボク達だ。念のために最低限数日間はしっかりと白夜に修行をつけてもらった方がお互い安心だよねぇ。白夜からお墨付きをもらえたというのは四人の自信にも繋がるだろうし。
白夜に引き継ぎを終えたところで、ボクはローザの姿に戻ってから三千世界の烏を殺してレイド開始日の王女宮に転移した。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
王女宮での生活に特に異常はなく、今日も今日とていつも通りの日々が過ぎていく。
進展があったのは学院都市セントピュセルへの潜入の準備のためにフォルトナ=フィートランド連合王国を訪れた際にオルパタータダに押しつけられたグラリオーサ辺境伯兼宮中伯関連の話だ。
ナトゥーフやピトフューイとはレイド開始前に話をしたので税金関連の話は問題ない。
ナトゥーフには『わざわざ気遣ってくれなくても良いんだけどね。これからはご近所さんだね、よろしくね』と若干申し訳なくされつつも「ご近所同士仲良くしていこう」と温かい言葉をもらい、ピトフューイからは「相変わらず律儀だな。税収が増えるのはありがたいが……申し訳ない方が大きい。ただ、近くに圓殿の領地があるのは心強いな、これからよろしく頼む」とこちらも温かく迎えてくれた。
ナタクの村に関しては帝国警備隊隊長ドーガ=ジークレッドを討伐した一件を経て雰囲気が変わっていた。
ラナンキュラスの姿を見せたら相当怯えられたけど、ピトフューイから既に話がされていたらしく話はすんなりと進んだ。
ボクが「あの一件で既に決着はついているからこれ以上のことをするつもりはないし、領主の仕事を引き受けた以上はこの土地を不幸にするつもりはない」と伝えたら少しは安心してくれたようだ。
オリヴィアを捨てた実の父親が主導し、ただそれを笑って見ていただけといえばそれまでだけど、ナタクの村が村ぐるみで行ったことは非道なことだった。だけど、それはその後オリヴィアに正式に村が謝罪し、オリヴィアが許したことで終わった話だ。これ以上の制裁を課すつもりはない。
シトロンの村、アフラの村の村長との話もすんなりと終わった。これで下準備は整ったということになる。
グラリオーサ辺境伯兼宮中伯領地は神嶺オリンポスを挟んだ両側の麓一帯となる。
フォルトナ=フィートランド連合王国側はシトロンの村を起点に、ルヴェリオス共和国側はナタクの村とアフラの村を起点にして広げていき、神嶺オリンポスを挟む形で二つの巨大な街を作る――それが、ボクの考えたグラリオーサ辺境伯兼宮中伯領の都市構想だ。
神嶺オリンポスで隔てられた二つの街を転移門で繋ぎ、繋がりをより強固にする。
ルヴェリオス共和国側にはビオラの支店を置いた。ルヴェリオス共和国にはビオラの支店が存在しないからこれが初出店ということになるねぇ。
主な産業は山を生かした農耕と牧畜。これまでは危険種の存在がこれら産業の発展を邪魔してきたけど、全て討伐して必要な準備は整えた。
ライヘンバッハ辺境伯領の牧場とは差別化を図り、こちらは乳牛や鶏などの魔物ではない動物をメインで育てる。
あっちが一人の牧場主で運営されているのに対し、こちらは領地全体で農耕と牧畜を行い、ゆくゆくはブランド化してビオラ系列の店で販売していくつもりだ。……まあ、向こうは何を育てるか完全に牧場主の瑪瑙が決めているし、好きにやらせているからあんまり何を育てているかとか把握していないんだけど。
やっぱり、突撃鹿が一番多いかな? ボクが最後に訪れた時には食用の魔物以外は飼育していなかった筈。まあ、魔物以外を育てていてもグラリオーサ辺境伯兼宮中伯領の経営にはあんまり関係ない話だけどねぇ。……ライヘンバッハ辺境伯領領主としては一度見に行った方が良いかもしれないけど。
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