Act.9-144 フルレイド『大穴の果てへの参道』終盤ゾーン 二十日目 scene.5
<一人称視点・リーリエ>
わざわざ別の名前を付ける必要もないし、新しく仲間に加わった従魔にカトリジャーヌ・ᚨ・ラピュセル・ラビュリントと名付けた。
名前:カトリジャーヌ・ᚨ・ラピュセル・ラビュリント
種族:勇者、世界最強の騎士、全迷宮統括者
所有:リーリエ
HP:20,000,000
MP:19,000,000
STR:65,000,000
DEX:29,000,000
VIT:29,000,000
MND:30,000,000
INT:10,000,000
AGI:49,000,000
LUK:20,000,000
CRI:20,000,000
▼
ちなみに、ラピュセルは隠し名らしい。名前に「ᚨ」とルーン文字が入っているのは彼女だけなのだそうだ。全ての迷宮統括者の統括者だから、彼女だけ特殊なんだろうねぇ。
『完敗です。……元々、私が負けた場合は仲間に加えて頂きたいと思っておりましたが、まさかあれほどの力を制御して瀕死に追い込み、私を従魔にしてしまうとは思いもよりませんでした。……これまでの不遜な態度、過小評価、謹んでお詫び致します』
カトリジャーヌを回復させてから彼女の案内でレイドゾーンの最深部に向かう。
どうやら彼女との戦いはカトリジャーヌの言っていた通りこのレイドゾーンに隠された財宝を持つに値する存在であるかどうかを見極めるものであると同時に、自身を軍門に加えるに値する存在であるかを見極める試練でもあったらしい。だから、ボクが圧倒的に不利になる二対一の戦いを仕掛けてきたそうだ。
ついでに、ボクが勝たなくてもある程度の実力を示せば軍門に降るつもりだったらしい。カトリジャーヌもまさかフルレイドのレイドボスと彼女自身が完膚なきまで叩きのめされるとは思っていなかったみたいだ。まあ、そりゃ、そうだよねぇ。
レイドゾーン『大穴の果てへの参道』の最奥に眠る秘宝、一体何なのだろうか? と期待に胸躍らせつつ進むと、庭園の一角に地下へと続く階段があった。
階段を降りた先には異世界にはあまりにも不釣り合いな巨大モニターが置かれた真っ白な部屋。どうやら、世界地図? が映し出されているらしい。
「確かに、この世界の全貌って分からなかったしなぁ。これが秘宝って言われりゃ、秘宝かもしれないが、ここまで長い旅だったしもっと豪華なものが欲しかったぜ」
「世界の全貌知りたければ、普通に人工衛星打ち上げれば良かったんだけどねぇ。今の技術力でも別にできないことはないよ。【万物創造】があれば人工衛星も打ち上げるために必要な施設も用意できるし。魔法によるアシストが可能な分、こっちの方が楽に打ち上げられるかもしれないねぇ」
「「マジかよ!!」」
ラインヴェルドもオルパタータダも驚いているけど、別にやらなかっただけだからねぇ。必要に駆られることも無かったし。
「ここに眠る秘宝の正体は、高難易度大迷宮を含む全ての大迷宮の位置を示すこの巨大モニターに映し出される情報なんじゃないかな? 実際、ここにある情報は有益だよ。高難易度大迷宮の真の名称を考えれば、世界に出現する高難易度大迷宮の総数も明らかになるし、どの高難易度大迷宮が攻略済みなのかも一目瞭然。ボクとしてはかなりの収穫があったと思っているよ」
ラビュリントという共通の姓、割り振られた希臘文字。
まあ、何となく予想はしていたけど、高難易度大迷宮の総数は二十四個。そして、それぞれの高難易度大迷宮の正式名称は迷宮統括者に与えられたミドルネームと同じものを使い、例えば与えられた文字がαなら、【アルファの深淵迷宮】なんて呼ばれる。
そして、この高難易度大迷宮の正体は異世界化後に追加されたオリジナルのフルレイド――『フルレイド:深淵大迷宮』を構成する一連のダンジョンということになる……らしい。『Eternal Fairytale On-line』の要素が明らかに強いと思っていたら、その予想は当たっていて『Eternal Fairytale On-line』システムの異世界拡張版だったってことだねぇ。
そして、このレイドゾーン『大穴の果てへの参道』も『フルレイド:深淵大迷宮』を構成するゾーンの一つ、その中でも最大級のものということになるらしい。
「大方予想通りだねぇ……」
「どうしました? お嬢様?」
「いや、ちょっとねぇ。……ボクの前世の死因に関してちょっと引っ掛かりを覚えていたんだけど、その謎が解明できたんだ。この【アルファの深淵迷宮】、所在地から考えると仮称で【ルイン大迷宮】と呼ばれている高難易度大迷宮ということになるよねぇ?」
「そうだな。……えっと、攻略者は、シャマシュ……ってことは、親友がクラスメイト達と共に挑んだ高難易度大迷宮は既にシャマシュの術中に落ちていたってことか」
「そうじゃなければ、ドレッドナインボスが通常エネミー判定で出てきたことにも説明がつかない。【アルファの深淵迷宮】を攻略し、迷宮統括者を何らかの術で支配し、高難易度大迷宮のシステムを改竄した。ボクを誘き出して殺すための仕掛けとして利用するために。そう考えると辻褄が合うんだよねぇ」
ディランの予想は的中していると思う。そうじゃなければ合点の行かないことの方が多いし。元々予測してはいたけど、その証拠をレイドで得られたのは大きいと思う。
その後、ボクはレイドゾーン『大穴の果てへの参道』にいくつかの細工をカトリジャーヌの協力を得て行った。
庭園の一角にある攻略者の名前が刻まれる石碑――その近くに迷宮の設定を調整できる魔法陣がある。
この魔法陣の仕掛けを使い、まず、ジャイアントホールに漏れ出る魔力量をゼロにしてもらった。ジャイアントホールの魔物出現率がゼロになる訳ではないけど、今回みたいな大量発生は起きないだろう。
続いて、レイドボスの復活。レイドボスはカトリジャーヌを除き、倒されても一定周期で復活する。従魔にした場合も倒されたのと同じ判定となって死亡パターンと同じ周期で復活するんだけど、レイドエネミーの復活に回す魔力を減らすことでレイドボスの復活を早めることができる。
今回、そのシステムを使ってレイドボスの復活を早めてもらった。このレイドゾーンの最奥に眠る秘宝は大きなアドバンテージになるからねぇ、特に敵対する『管理者権限』を持つ神には知られたくない。
この復活システムで九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』を優先的に復活させ、従魔契約を行う。契約主はカトリジャーヌ・ᚨ・ラピュセル・ラビュリントに設定した。
名前:ソロネ・オファーニム
種族:九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』
所有:カトリジャーヌ
HP:30,000,000
MP:29,000,000
STR:40,000,000
DEX:10,000,000
VIT:35,000,000
MND:30,000,000
INT:30,000,000
AGI:20,000,000
LUK:20,000,000
CRI:20,000,000
▼
この従魔ソロネとは別に九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』を最後のレイドボスとして置き、庭園の守護者の役割を果たしてもらう。
今後、レイドゾーンとしてこの場所を解放する以上、ラスボスは必要だからねぇ。
最後にレイドゾーンの設定の今後一切の改竄を禁止する設定と、レイドゾーン内のエネミー達の自主的なレイドゾーン外脱出を禁じる設定、レイドゾーン最終エリアへの転移を解禁する設定を行う。
ここまで来るのに一々レイド攻略していたら面倒だからねぇ。割と用事がある場所だし。
設定が終わったところで、ボク達は一旦ヴァンヤール森国に戻ることにした。レイドの結果報告と、今後の方針を決める話し合いとしないといけないからねぇ。
今回の話は緑霊の森だけで決めるべきものだけど、多種族同盟としてはその結果を知っておきたい。
まあ、それも同席せずとも後日会議の結果を聞けばいいんだけど、エイミーンとミスルトウの願いもあって同席することになった。結局報告しないといけないなら、その後の会議に同席してもあまり変わらないだろうということらしい。
カトリジャーヌと九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』と共に第三砦へと転移する。突然のレイドボスの出現に一触即発の空気になったのは言うまでもない。ボクが一人と一匹が従魔になったことを伝えたら納得して武器を収めてくれたから何も被害は無かったんだけどねぇ。
◆
「今回のレイドで得られたものは以上となります。今後、ジャイアントホールからレイドゾーンから漏れ出る魔力絡みの大襲撃が発生することはないと思います。レイドゾーンについては当初考えていた通り、冒険者ギルドが認めた者のみに挑戦の機会を与えるということで良いと考えています。挑戦する冒険者への支援は緑霊の森の傘下に加わるヴァンヤール森国にお願いするということでよろしかったでしょうか?」
「新しく観光業、宿泊業での利益も得られるようになりますし、今回の件でお世話になった恩もあります。レイドゾーンに挑戦する冒険者への支援はお任せください。ヴァーナム様と相談させて頂き、冒険者ギルドと連携するために必要な準備は全て済ませています」
レイドゾーンに挑戦する冒険者へ宿代の割引についてヴァーナムとリーティアナの間で交渉してきたらしい。レイドゾーンを有するヴァンヤール森国が冒険者を支援する政策であると同時に、外貨を獲得するビジネスの側面も持ち合わせている。冒険者、ヴァンヤール森国双方に利益を生むためにはどうすればいいのか、その方法を模索するのがヴァーナムとリーティアナにとってのレイドだったんじゃないかな? まあ、ヴァーナムにとってのレイドは魔物達に自分のドMな心を満たしてもらうことだったのかもしれないけどねぇ。
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