Act.9-143 フルレイド『大穴の果てへの参道』終盤ゾーン 二十日目 scene.4
<一人称視点・リーリエ>
扉の先に待ち受けていたのは、地下だということを忘れてしまうほどのまばゆいほどの光があふれる庭園だった。
小川が流れ、緑に溢れ、花が咲き乱れる。その絶景を一望できる場所に作られた白亜の円形テラスに一人の女性が座っている。その側には歯車で構成され、機械仕掛けになっている翼を持つ全身が水晶でできた天使――九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』の姿があった。
『ようこそ、私の庭園へ。この地に最初に辿り着くのは貴女であると確信しておりました、『蒼穹白姫』のリーリエ』
アッシュブロンドの長髪に、銀色掛かった青い瞳――ボクはこの女性を知っている。
……いや、知っているというのが正しいかは微妙かもしれないねぇ。そもそも、彼女は『スターチス・レコード』の人間の筈。それなのに、彼女はボクのことを『蒼穹白姫』のリーリエと呼んだ。
「君は一体何者なのかな? カトリジャーヌ=ラ・ピュセル……魔王と対立関係にある勇者の一人であり、『スターチス・レコード』に登場し、ヒロインである聖女と共に魔王を倒す冒険に出る筈だったものの没となった隠し攻略対象候補の勇者にとてもよく似ているけど、ナニカが決定的に違う。彼女は人間の勇者で、断じて魔物ではないからねぇ。……それに、ボクのことを『蒼穹白姫』のリーリエと呼んだってことは、『Eternal Fairytale On-line』に関する知識――ゲームの知識を持っているということだよねぇ。……まさか、『管理者権限』を持つ神という訳ではないよねぇ?」
『私は『管理者権限』を持つ神ではありません。ただ、私は『Eternal Fairytale On-line』と『スターチス・レコード』に関する知識を持っておりますし、他のゲームについても存在だけは知っています。メタ視点を持つ私をただの魔物と考えることは難しいでしょうね。改めまして、私はカトリジャーヌ・ᚨ・ラピュセル・ラビュリント、ユーニファイドの世界地図と迷宮の位置を示す『世界情報』を守護する役割を与えられた全迷宮統括者です』
「つまり、エヴァンジェリンさん達の頂点に君臨する存在ということか。……なるほど、道理で後半戦にエヴァンジェリンさん達に似た魔物が出た訳だ。合点がいったよ」
エヴァンジェリン達は知らないようだけど、カトリジャーヌは一方的にエヴァンジェリン達のことを知っているみたいだねぇ。
『さて、この場に辿り着いた者がこの庭園の最奥に眠る財宝を与えるに足る存在かを見極める最後の試練を与える役割が私にあります。本来ならば、皆様全員を相手しなければなりませんが、レイドボス四人を打ち破ったフルレイドを相手に我々二人で勝利を収めることは不可能です。そこで、この最終決戦の場では特別ルールを皆様に呑んで頂きたいと思っています。即ち、『蒼穹白姫』のリーリエ、貴女との一対二の戦いを――』
「……一対二だと、それはあまりにも不公平な提案ではないのか? そもそも、レイドボスは一体のみというのが原則ではないのか?」
『レイドボスが一体ずつ相手をするという絶対のルールはありません。レイドボスが共闘しても問題ないと私は考えます。貴女方がレイドゾーン外部にレイドボスやレイドエネミー達を放流していたように』
「そこ突かれると痛いんだよねぇ。まあ、そんなことしなくても勝てたけどさぁ。……プリムヴェールさん、問題ないよ。どちらにしろ一人はボク一人だけで相手しようと思っていたし、それに、この一人と一匹に決定打はない」
「そうだな。……二対一の戦力差程度簡単に覆せる。カトリジャーヌとやらは圓殿の強さを甘く見積り過ぎだ」
プリムヴェール、苛立ちを覚えたのは分かるけどそういうあからさまな挑発すると戦力増やされるよ? まあ、もう向こうに戦力となるレイドボスは残されていないけど。
九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』の背にカトリジャーヌが乗り込む。
上空から睥睨する九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』はいきなり敵を追尾する光条を放つ『追尾する聖なる光』を使用した。再使用規制時間は短めだけど、回避が不可能に近い厄介な技だねぇ。
「このボクに光属性攻撃は効かないよ。《八百万遍く照らす神軍・太陽神》」
《太陽神》の光操作で九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』の放った『追尾する聖なる光』を九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』に浴びせ、まさかホーミング効果を持つ筈の攻撃が放った本人に戻ってくるとは思わず、あまりの驚きでカトリジャーヌが思考停止したタイミングを狙い、《太陽神》の力で光の速度の蹴りを浴びせる。
半ばレーザーと化したボクの蹴りは九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』の腹に炸裂。ただの蹴りだったにも拘らずHPゲージを目ではっきりと分かるほど削ることに成功した。
まあ、何かしらの強化していない状態での攻撃じゃ、この程度が限界だよねぇ。
『なっ、何が起きたのですか!?』
「圓の魂魄の霸気の一つ、《太陽神》は光を操作する力がある。圓に光系統属性の攻撃は効かねえぜ? それに、光そのものと化した圓に物理攻撃は効かない、擦り抜ける。圓が何故、お前らレイドボス二人との不利な戦いを二つ返事で受けたのか考えなかったのか? お前らに決定打がないからだ」
「ラインヴェルドの言う通りだよ。九なる楽園の守護者『ソロネ・オファーニム』の保有特技は無数の光の柱を創り出す『天壌浄化する光の柱』、敵を追尾する光条を放つ『追尾する聖なる光』、翼を構成する歯車を巨大な機械仕掛けの剣に変化させて強力な光属性の斬撃で攻撃する『機械仕掛けの神剣』の三つ。カトリジャーヌさんの魔法もボクが知っている通りなら光属性系統のみ。……懸念すべきは君の持つ実装されなかったイベント職の世界最強の騎士の奥義――あらゆる防御を無視した究極の斬撃を放つ『絶対切断』だけど、それでも光そのものであるボクにダメージは与えられないと思うよ。さて、長期戦をするつもりはないし、一気に片付けさせてもらうよ。――《神の見えざる手》! 【黄金錬成】!」
『自分に攻撃を!? 血迷いましたか!?』
「いや、違いますね、これは。お嬢様……それ、オーバーキルになりますよ」
十本の不可視の手から【黄金錬成】を発動する。光化することで爆発のダメージを無くすこともできるけど、それをしたらわざわざ大量の魔力を消費して【黄金錬成】を発動した意味がないのであえて生身で受ける。
武装闘気も覇王の霸気も纏わない。ダイレクトにボクが浴びたのは、リーリエが五人は一撃で消し飛ぶほどの威力の攻撃だ。
「過剰殺傷を付与する者」
『まさか、あれだけの攻撃を全て自分の力に――!?』
「それだけじゃないよ。超絶技巧のヴィルトゥオーソ! 勇者に捧ぐ聖女の祈り! 極技・終焉波動剣」
『その上、バフ特技まで!? 『機械仕掛けの神剣』よ、我が手に!! 絶対切断!!』
翼を構成する歯車を『機械仕掛けの神剣』に変形させ、その剣で放つ『絶対切断』か。確かに、恐ろしい技だねぇ。でも――。
「遅い、遅過ぎるよ。圓式比翼-光速-」
光の速度まで加速した上で放つ圓式の斬撃――最早、早過ぎる故に残像も大気を擦過した輝きすら見えない斬撃は九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』を一斬で撃破した。
九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』が撃破されたことで『機械仕掛けの神剣』も消滅する。
まあ、カトリジャーヌの武器が完全に失われた訳じゃないけど大きく弱体化したのは間違いないねぇ。
「さて、これでチェックメイトだ。イービルストーム・オールウェイズワン」
【万物創造】で作成したMOBの捕獲確率を上昇させる課金アイテムのポーション――ドミネートMOBポーションをがぶ飲みしてから、MOBの捕獲確率に影響を与えるっていう隠し効果がある『魔眼』を併用して捕獲率を上げる。
流石にカトリジャーヌもボクの目的に気づいたみたいだねぇ。『まさか、狙いは私の捕獲!?』と言っているし。
カトリジャーヌは必死に抵抗するけど、ボクの「イービルストーム」からは逃れられない。
バリア潰しの効果がある「イービルストーム・オープン」を更に改良した、バリア潰しの効果が付与された必ずHPを一残す特殊な「イービルストーム」を浴びせてカトリジャーヌを弱らせる。
弱らせると捕獲率が上がるからねぇ。さて、これで準備は整った。
捕獲用の専用課金アイテム、支配者の鎖網を生み出してカトリジャーヌに向かって投げる。
カトリジャーヌは為す術なく支配者の鎖網に囚われた。鎖がチカチカと緑色に点灯を続け、カトリジャーヌは必死に脱出しようと踠くも、鎖で作られた網はびくともしない。
八回、鎖が明滅すると緑の光が消え、パリィーンと音を立てて鎖が砕け散る。
――カトリジャーヌ、無事に捕獲完了だねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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