Act.9-141 フルレイド『大穴の果てへの参道』終盤ゾーン 二十日目 scene.2
<一人称視点・リーリエ>
扉の先から現れたのは四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』、八なる大穴の守護者『ルナー・シェード』。ここに、六なる大穴の守護者『トータサシン』を加えた四体がボク達の前に立ちはだかるレイドゾーン『大穴の果てへの参道』の最難関を構成するレイドボス達ということになるのだろう。
後、残り二体残っている。消去法で最後は九なる大穴の守護者『ソロネ・オファーニム』だと思うけど、正直、残るレイドボスが誰であれ四体のレイドボスを超える戦力は存在しないし、して欲しいとも思わない。
四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』は生きて畝り出す紅炎のような二匹の炎蛇だ。
魔法防御力を無視して大ダメージを与える炎の矢を放つ『審判の炎の矢』、一定時間ごとに自身を中心に激しい炎を燃え上がらせる『紅炎の双蛇の炎宴』、二十万ダメージを命中した頭数で割ったダメージを与える特殊な青い炎の領域を発生させる『蒼焔の均一なる煉獄』を使用する。
五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』は鱗を纏った三叉槍を持つ巨人だ。
百秒の蘇生禁止効果が発生する三叉槍による猛烈な薙ぎ払い攻撃である『三叉の撃衝』、三叉槍の薙ぎ払いと同時に激流を解き放つ『水撃の三叉槍』、激流を纏った三叉槍で貫いて傷口から敵の水分を吸収して吸収した体力を回復する『吸水の大刺突』を使用する。
八なる大穴の守護者『ルナー・シェード』は斧槍を持った暗紫の甲冑騎士だ。
構えた斧槍を大きく振り回し周囲を薙ぎ払う『漆黒の大竜巻』、斧槍を振り下ろして攻撃する強力な単体攻撃の『漆黒の斧撃』、移動阻害に加えて攻撃速度、威力を低下させるデバフゾーンを展開する『漆黒の沼地』、無数の小さな暗紫の甲冑騎士を召喚する『漆黒の尖兵召喚』を使用する。
いずれも単体でも強力なレイドボス達だ。それが三体共闘するっていうだけでも意味不明なのに、場合によっては五体同時にってことになった可能性もあるのか。……二体手負いとはいえこっちも手負いだから、なんとか均衡を維持していたタイミングでの三体投入は完全な悪夢だよねぇ。
まあ、それを今からボク達は突破することになるんだけど。
今回のボクは完全に後方支援に回る。
ラインヴェルド達七人と、ミスルトウ、ラル、メアレイズ率いるパーティーがそれぞれ一体ずつレイドボスを相手し、その援護を一手にボクが引き受けるという形だ。
役割分担は四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』はメアレイズ達が、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』はミスルトウ達が、六なる大穴の守護者『トータサシン』はラル達が、そして、八なる大穴の守護者『ルナー・シェード』はラインヴェルド達がそれぞれ担当。それぞれの攻撃の範囲が重ならないように位置取りは広めに取る。
「琉璃色の茨荊! 琉璃色の茨荊! 琉璃色の茨荊! 琉璃色の茨荊! ホーリーバインド・ホステージ! ホーリーバインド・ホステージ! ホーリーバインド・ホステージ! ホーリーバインド・ホステージ!」
まずは時計を割って付与術師系二次元職の大付与術師の覚える奥義を発動し、命中すると瑠璃色の茨のような輝きが対象に纏わりつかせる。
この魔法には命中した対象がその後に別の攻撃を受けたとき、そのダメージに連動してダメージを与える効果がある……マリエッタがレベル50で習得する「ホーリーバインド・ホステージ」と同じ効果を持つ魔法だねぇ。ただし、こちらには熟練度の等級で茨の数とダメージが上昇するっていう特徴があるんだけど。
この魔法で四体のレイドボスそれぞれに瑠璃色の茨を十個ずつ設置し、更にマリエッタがレベル50で習得する聖なる戒めを設置し、破壊させることで大ダメージを与える光属性魔法「ホーリーバインド・ホステージ」も四体に満遍なく設置する。これでレイドボスへの下準備は完了。
「メトロノームヘイスト! 超絶技巧曲ラ・カンパネラ! 助奏のオブリガード! 快活のヴィヴァーチェ! 神速のエチュード! 舞踏のパヴァーヌ! フォルティシシシモ! スフォルツァンド! 超絶技巧のヴィルトゥオーソ!」
ここからは援護歌を連打。後は武器メインで戦うメンバーの武器に付与術師系一次元職の付与術師の覚える味方単体の武器の攻撃力を上昇させる補助魔法「白刃」
を掛けて戦闘を静観。ダメージを負ったメンバーに治癒魔法を掛けていく。……まあ、みんな見気持っているからダメージが入ることなんて滅多にないんだけどねぇ。
◆
<三人称全知視点>
「『紅炎の双蛇の炎宴』が来るでございます! 一旦退避ッ!」
一定時間ごとに自身を中心に激しい炎を燃え上がらせる『紅炎の双蛇の炎宴』の兆候を見抜いたメアレイズがエヴァンジェリン、ドミティア、リヒャルダ、ベラトリックス、サトゥルニナ、アピトハニー、琉璃に指示を出す。八人は速やかに『紅炎の双蛇の炎宴』の攻撃範囲から脱すると、四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』への攻撃を再開した。
メンバーのほとんどがフルレイドのレイドボスほどのステータスを有するメアレイズ率いるパーティーは耐久力にも優れているが、相手はフルレイドのレイドボスの中でも高い攻撃力を誇る四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』である。攻撃を浴びた場合、どれほどの被害が出るのか正直なところメアレイズにも予想がつかない。
幸い、魔法防御力を無視して大ダメージを与える炎の矢を放つ『審判の炎の矢』も含めてどの技も回避方法が決まっているため、ノーダメージで抑えることは難しくない。メアレイズ達はヒットアンドアウェイを繰り返しながら四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』のHPを削っていった。
「兎式・雷鎚覇勁・猛打連撃でございます!!」
『漆黒無双両太刀・黒刃大竜巻!』
『暗黒流星槍』
『劇毒粘液弾』
『狩猟豹の脚! 熊の爪!!』
『叛逆する御使』
『蜂毒針!』
『崩滅雷龍咆哮三重連撃』
メアレイズ、エヴァンジェリン、ドミティア、リヒャルダ、ベラトリックス、サトゥルニナ、アピトハニー、琉璃――いずれも出し惜しみは一切無し。
それぞれが全力の攻撃を遠距離・近距離から連発しているため、HPの低い四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』のHPゲージは高速で削られていく。
四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』は自分だけで八人を撃破できないと判断したのか、助けを求めるように他のレイドボスの方へと向かおうとした……が、メアレイズ達がそれを許す筈もなく――。
「どこに逃げようとしているでございますか? 七彩虹輝終焉拳」
聖属性獲得者に対し、圓が贈った奥義級の聖属性魔法「七彩虹輝終焉刺突」を刺突ではなく鉄拳で応用した七撃によって魂を破壊し、敵を死に至らしめる聖なる拳撃をメアレイズは背中を見せた四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』に浴びせる。
これがトドメとなり、四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』は消滅し、無数のドロップアイテムと金貨を落とす。
四体のレイドボス――その最初の脱落者は四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』となった。
◆
さて、四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』が増援を求めて近づこうとした五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』だが、こちらも四なる大穴の守護者『プロミネンス・ハイドラゴン』を助けられるほどの余裕は無くなっていた。
「遠距離攻撃は『水撃の三叉槍』のみ。どうやら、圓さんから聞いていた五なる楽園の守護者『ネプトオーガ』と戦闘方法は同じようですね。遠距離から魔法を集中砲火すれば問題なく勝てそうですね」
ミスルトウは遠距離から魔法を当てれば簡単に勝利できると判断。見気を駆使して五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の技で最も厄介な『水撃の三叉槍』を躱しながら、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』と距離を取って武装闘気と覇王の霸気を纏わせた「風刃空断」を連続で浴びせる。
「第零改変術式、連鎖爆散なのですよぉ〜」
「燦く星の流星群」
「――汝、六属性の一角を担う火の精霊王よ! 今こそ契約に従い、我が下に馳せ参じ給え! 精霊召喚・イフェスティオ! 天壌焼き焦す聖焔の剣!!」
「真・水伯の女王の吐息-局所暴風雨-」
「青龍の熱息砲!!」
エイミーン、マグノーリエ、レミュア、ミーフィリア、リコリス――他のメンバーのほとんどもミスルトウと同じ判断だ。
シアは近距離で「獣巨人の鉄拳」を連打しているが、「風化の天恵」によって攻撃を無効化することができる故の芸当である。
五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』を討伐するためには五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の攻撃範囲外からの遠距離魔法以外に方法はない。このように考えるのが自然だ。
「……なるほど、試す価値はありそうだな」
ここで動いたのは、これまで五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の動きを眺めていたプリムヴェールだった。
遠距離魔法も使えるプリムヴェールだが、選んだのは細剣に武装闘気と覇王の霸気を纏わせた上での接近――俊身と神速闘気を組み合わせて一気に駆け抜けて五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』に迫る。
「――ッ! プリムヴェールさん!!」
「無茶だ! ネプトオーガの攻撃は重いッ! いくらプリムヴェールでも――」
「お父様、やってみなければ分かりませんッ!」
五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』は薙ぎ払いの構えを見せる。百秒の蘇生禁止効果が発生する三叉槍による猛烈な薙ぎ払い攻撃――『三叉の撃衝』を直撃させるつもりのようだ。
武装闘気を全身に纏っていない今のプリムヴェールなら恐らく一撃で死亡、仮に武装闘気を纏っていても大ダメージは避けられない一撃をプリムヴェールは何の気負いもせずに細剣で受け止めた。
「いくら『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』でも受け止められる筈が無いッ! それなのに、何故プリムヴェールはあの攻撃を受け止めることができているんだ!?」
「受け止められたんじゃない、循環させているんだよ。だよねぇ? プリムヴェールさん」
圓の言葉でようやく真相に気づいたミスルトウは「我が子ながら恐ろしい」とその胆力に恐れを成した。
衝撃コントロールを旨とする高難易度技で、刃で受けた相手の力を円を描くように身体を回して循環させ、自分の斬撃に乗せて返すカウンター技――「圓式独創秘剣術 一ノ型 圓-Madoka-」。
プリムヴェールは五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の行動を全て見切り、「圓式独創秘剣術 一ノ型 圓-Madoka-」を使って受け止められると確信し、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』に勝負を挑んだのだろう。そして、その読みは正しかった。
「お返しだ!」
「圓式独創秘剣術 一ノ型 圓-Madoka-」は受け止めるだけで終わりじゃない。循環させた力を自分の斬撃に乗せて返すカウンター技だ。
プリムヴェールはその技を五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の三叉槍を持っている右腕の肩口を狙い放つ。その瞬間、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の腕が吹き飛び、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』のHPが猛烈な勢いで消し飛んだ。
「『三叉の撃衝』、確かに恐ろしい技だ。しかし、その力を我が物にできれば鬼に金棒。予想通り、HPがかなり吹き飛んだな」
更に五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』の攻撃は全て三叉槍を介して行われる。その三叉槍が腕ごと吹き飛ばされた今、五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』に攻撃手段はない。
武器を奪われ、左手だけになった五なる大穴の守護者『ネプトオーガ』が自暴自棄となって肉弾戦を仕掛けてくるが、見気を使えるプリムヴェール達に生半可な攻撃が当たる筈もなく、魔法の集中砲火を浴びて消滅した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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