Act.9-122 ヴァンヤール森国からの救援依頼 scene.3
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
冥道の霸気を氾濫しない程度に宿す。きっとボクの眼は黒一色に塗り潰され、悍ましいほど濁ってしまった瞳に見えているんだろう。
客観的に見たことはないけど、闇に反するように炯々と輝いていて見えたり、漆黒の黒い何かは渦を成しているように見えるんじゃないかな?
この状況で鏡見たことないから知らないけど。
二対の金色の翼を持つ銀髪の女騎士のアレクサンドラは剣を抜こうとして……恐怖から剣を抜くことができずにそのまま後退さった。
元老達は色々なものを垂れ流し、リーティアナは気丈に振る舞おうとしているけど、もうすぐ限界が来るという感じだねぇ。
まあ、仕方ない反応だと思う。これは、『死』そのものだ。究極の未知である『死』そのものに向き合って正気でいられる者の方が少ない。……まあ、仮に『死』に向き合えても霸気耐性が薄いと結局やられちゃうんだけどねぇ。
「君達が選べる選択肢はいくつかある。お望みのものを選んでくれていいよ。一つ目、このまま魔物に滅ぼされて死ぬ。二つ目、イフェスティオさんの逆鱗に触れて死ぬ。エルフの森って焼くのが伝統なんでしょう? 知らないけど」
「……そ、そんな伝統ないのですよぉ〜!!」
「あれ? そうだっけ? 三つ目、多種族同盟と全面戦争を繰り広げて死ぬ。四つ目、丁度魔法の国から戻ってきてから実験したものでちょっと試したいものがあるんだよねぇ。新型魔法少女、どれくらいの力があるか知りたくない?」
「……おっ、おお、そりゃ気になるぜ! 新型魔法少女だろ? 絶対凄い奴だろうぜ! 暴れさせてみろ! クソ笑ってやる」
「……みんなにちょっと無理させちゃったねぇ。冥道の霸気は解くよ」
アイツらはどうでもいいけど、マグノーリエ達が可哀想だからねぇ。別に悪いことしていないのに怖い思いをさせちゃった……後で埋め合わせをしないといけないねぇ。
「このヴァンヤール森国をその実験の舞台にする。まあ、相手は雑魚ばかりだけどどれくらいの時間で一都市を滅ぼせるかっていう参考記録にはなるんじゃないかなって思ってねぇ」
「……真顔で恐ろしいことを言っているぞ。やっぱり、怒っているのか? 圓」
「うん、凄い怒っている。……ボクにとってはエイミーンさんもミスルトウさんもマグノーリエさんもプリムヴェールさんも大切な仲間なんだよ。それを侮辱したんだ、死んで当然だと思わないかな?」
こんなことをしている間にも時計は進む。さて、残り二十五分だ。どう動く?
『それは、つまりヴァンヤール森国は滅ぶしかないということでしょうか?』
「そ、そうですわ! ヴァンヤール森国が多種族同盟に加入するというのは――」
「女王陛下! 我々がエルフの天敵である人間達を手を結ぶなど!!」
「まだ、そんなことを言っているのですか!!」
「……あのさぁ、リーティアナさん。随分と頭の中お花畑なんだねぇ。……エイミーンさん?」
「えっ、私? えっ、ええっと……緑霊の森に対して送られた使者については無礼だったものの女王陛下が謝ったのでとりあえずイエローカードで留めておいたのですよぉ〜。……でも、その時のことを全く反省していなかったのですよねぇ〜? そもそも、この状況下で多種族同盟がヴァンヤール森国の加盟を認めるとでも本気で思っているのですかぁ〜? 少なくとも、緑霊の森は認めないのですよぉ〜」
「……そ、そんな……」
エイミーンが真っ黒な顔をしている。普段はダメダメな感じが目立つけど、本気を出せばミスルトウを凌駕するほど、ラインヴェルド、オルパタータダに並ぶ策士。本気で怒らせちゃいけない人なんだよねぇ。怖や怖や。
「そもそもさぁ、ヴァンヤール森国が多種族同盟へ加盟した際に得られる多種族同盟側の利益は何?」
「り、利益……ですか?」
「ボク達も別に慈善事業をやっている訳じゃないんだよねぇ。緑霊の森は対エルフの窓口の役割を果たしている。緑霊の森を経由して多種族同盟に加盟したいという申し入れは受けることにしているけど、こちらから能動的にエルフと更なる交流をっていう考えはない。この多種族同盟を世界に広げようっていう能動的な意志もないんだ。まず、多種族同盟は奴隷を禁止している。奴隷制度を廃止したことでエルフ達にとっては住みやすい世界になっているけど、逆に言えばエルフの持つ奴隷としての商品価値っていうものは通用しない。二つ目、精霊の力による豊かな農場と、そこで採れる潤沢な食物。……これについては多種族同盟内部でイフェスティオ、イセリア・リヴィエール・ファンテーヌ、ロイーゼ・ヴラフォスと契約していることからも分かると思うけど、特に困ってはいない。【生命の巨大樹の大集落】はヴァンヤール大峡谷に匹敵する肥沃な大地だからねぇ」
『イフェスティオだけでなく、イセリアとロイーゼまで……』
「そういや、あれから音沙汰ないけどシュタイフェさんとは結局契約できたの?」
「ポーチュラカさんから連絡が来て、魔法の国に赴く前に契約を終えていたのですよぉ〜。後契約していないのは圓さんだけなのですよぉ〜。シュタイフェさんは圓さんに会える日をとても楽しみにしているって言っていたのですよぉ〜」
「……そういうの何で早く報告してくれないかな? 分かった。できる限り早く時間を作って会いに行くよ。……えっと、何の話だっけ? 脱線し過ぎだねぇ。残り二十分か。君達に唯一残されたものはあの謎の迷宮だけ。あれは、今後、世界にとって脅威となり得るかもしれないものなんだ。ボクら多種族同盟もあの迷宮を解析したいと考えている。あの迷宮挑戦はヴァンヤール森国にとっても利益になるし、ボクらにとっても利益のある話なんだ」
「そ、それなら……」
『……リーティアナさん、それは無理だと思いますわ。あの方々ならこう考えると思います。「ヴァンヤール森国のエルフ達が根絶やしになってから探索すれば良い」と』
「流石は精霊王殿、皆まで言わなくても分かってくれるのはいいねぇ。手間が省けたよ」
『では、これならどうですか? 光の精霊王と契約できる権利を貴女方にお渡しします。この力は貴女方にとって有益なものになるのではありませんか?』
「そ、そんな!? ヴァンヤール森国の守り神である光の神があのような蛮族達に従属するなど……」
「うーん、そこまで旨味のある話じゃないねぇ。精霊王いなくても十分戦えるし」
『そうでしょうね。……先程から見ていましたが、蹴り一つで世界樹でできた宮廷の一角を最も容易く破壊し、時空魔法と思われる力で即時に修復、その他に強力な闇属性魔法と万物を創造する力……他にもいくつか強力な力を有しているのでしょう。底が見えません……私達精霊のような矮小な力、本来は必要ないのでしょうね』
「そこまで言っていないけどねぇ。矮小とか、自分の価値を貶めるような言い方はやめた方がいいと思うよ。そうだねぇ、まあ、ここまでの議論の中ではまだ一考するに値する提案だけど……エイミーンさん、どうする?」
「全然足りないのですよぉ〜」
「だっ、そうです」
悪ノリもあるだろうけど、エイミーンもプッツンしているしねぇ。そのエイミーンをミスルトウもマグノーリエもプリムヴェールも止める気配はない。完全にヴァンヤール森国のエルフを同族として見ていない証明だよねぇ。「自分達の選択で勝手に滅亡すればいい」とか考えてそう。
「そんなに助けて欲しいのなら、条件があるのですよぉ〜。一つ目は私達とアレクサンドラさんの契約。二つ目はヴァンヤール森国の緑霊の森への完全従属なのですよぉ〜」
「な、なんだと!?」
「歴史と伝統とかどうでもいいのですよぉ〜。というか、精霊王契約数はこっちの方が多いし、正統性は緑霊の森の方が多いのですよぉ〜」
『私とは契約していないし、他の精霊王と契約できたのはレミュア達のおかげだがな』
「まあ、幹部程度の優遇は約束するのですよぉ〜。でも、そこのご老害共は邪魔なのでとっとと隠居してもらうのですよぉ〜。……リーティアナさん、貴方の守りたいのは面子や歴史、伝統か、確かに目の前にいて、今まさに命の危機に陥っている国民達――そのどちらなのですかぁ〜?」
「勿論、国民の命が最優先です!!」
本来ならば元老達と話し合いで決めないといけないところなんだろうけど、その元老並びに元老の息の掛かった使者の行いでヴァンヤール森国の滅びへのカウントダウンが加速した訳だからねぇ。
「女王陛下、独裁です! ヴァンヤール森国の政治は女王陛下の独断で決められることではありません! 元老の助言と承認があって初めて認められるものなのです!!」
「その通り。……女王陛下、まさか緑霊の森や多種族同盟と結託して我々を排除するおつもりなのではありませんか?」
「そもそも、仮に我々が約束を守ったとして助けてくれる保証はあるのでしょうか? 奴ら人間が我々亜人種にして来たことを貴女様もお忘れになった訳ではないでしょう? それに、魔物の出現も我々だけで解決可能です。その封印とやらを解く力を多種族同盟から奪えばいいだけのこと。それに、彼らを力尽くで従えて彼らの望み通り探索させてやればいいのではありませんか?」
「随分と楽しいお話をしていますね。取らぬ狸の皮算用……机上の空論としては面白いですが、果たして我々に勝てるでしょうか? 残り十分を切りましたね。お仲間の元老さん、もうすぐ完全に死んじゃいますよ?」
満面の笑みでシアが元老達を煽る。……まあ、これが心の底からヴァンヤール森国を想っての発言ならいいんだけどさぁ。コイツら、結局のところ民がいくら死んでも関係ない、自分達の利権が守れればそれでいいっていう考えなんだよねぇ。
エルフ達が亜人種に対して人間がして来たことは非道だ。でも、それをやり返すってのはエルフが人間と同族まで堕ちるということに他ならないんだけどねぇ。コイツらが言っていることって結局そういうことじゃん。
「大体、何故エルフである貴様が人間の肩を持つのだ!?」
「あっ、私がエルフに見えるんですね? 私は元人間ですよ? 私はエルフのDNAを取り込んでハーフエルフとなった私の知る限りは最初の人間です。圓様より神の領域である生物の創造、遺伝子操作、サイボーグ改良、ホムンクルス生成、人造魔法少女開発――禁忌の研究を行うことを唯一許されたビオラ特殊科学部隊で隊長をしているシア=アイボリーと申します。ああ、彼女――リコリス=ラジアータさんは私と違って純正のエルフですけどね?」
元老の一人は起死回生の一手を打ったつもりだったんだろうけど、見定めた相手が最悪過ぎたねぇ。
「あんまり行き過ぎたことは禁止しているよ? 例えば、実在する人物の完全なクローンの作成とか。クローンの技術そのものは解禁して量産魔法少女の開発とかに使っているから何も言えないけど。ただ、別にできないって訳じゃない。髪の毛一本からでも見た目は全く同じ生物を作り出すことは可能だよ。人間だろうと、エルフだろうと、理論上はねぇ。……脱線したねぇ。さて、残りは……五分かな? 時間が過ぎるのは早いねぇ。さあ、とっとと結論を出そうか? 早くしないとその焼死体さん、完全に息を引き取っちゃうことになるよ?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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