Act.9-120 ヴァンヤール森国からの救援依頼 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「魔法の国の一件より少し前に【生命の巨大樹の大集落】にヴァンヤール大峡谷を拠点にするエルフの使者が来たのですよぉ〜。大量の魔物の出現――大襲撃の発生で住処を追われ、【生命の巨大樹の大集落】に難民を受け入れてもらえないかという話だったのですよぉ〜」
「ヴァンヤール大峡谷というと、未開の地の一つですね。あの地がエルフ族の集落の一つであることは存じ上げませんでした。勉強不足ですね」
国交を持っていなかったエルフ族の国家の情報は少ない。
緑霊の森と同盟関係を築いた時点で多種族同盟としてはこれ以上の情報を集めて多種族同盟に入ってもらおうと声を掛けるつもりが無かったからねぇ。……利益に労力が見合わないし。
緑霊の森には対エルフ族の多種族同盟の窓口としての役割をお願いしていた。実際、ボク達が声を掛けたのは亜人種の主要都市であって、亜人種の中には他の国家に住む者、国家に所属せずに集落を形成する者、一人や家族単位で隠れ住む者など様々だ。
まあ、向こう側にその意思があればこっちからアクション起こさなくても声を掛けてくるだろうっていうスタンスで動いていたんだけど、それ以後、多種族同盟に加盟する亜人種国家がボク達がアクションを起こしたマウントエルヴン村国以外にないってことは、まあ、そういうことだよねぇ。……一応、個人単位、家族単位での移住者はいたようだけど。
「要請を受けた緑霊の森の族長代理――族長補佐の父上は難民の受け入れを拒否し、代わりに魔法戦士団と精霊術法師団を派遣した。理由は二つある。一つは緑霊の森の単一兵力で魔物達の排除が可能であると父上が判断したからだ。そして、父上の予想通り魔物の排除そのものは成功した。もう一つはヴァンヤール森国のエルフ達が異種族を危険視しているからだ。人間や獣人族、ドワーフ、海棲種――異種族と同盟を結んでいる我らに同盟を抜けるべきだと進言してくるくらいだからな。……無論、そのつもりはないぞ? その無礼な使者は剰え『緑霊の森のエルフはエルフの面汚しだ。同胞を助けるのは至極当然のこと、この地を歴史と伝統のあるヴァンヤール森国に献上し、我らの庇護下に入るべきだ』などとくだらぬことを言い出した時点で父上がブチ切れ、その使者を霸気を纏った攻撃で半殺してから剥いて麻縄で『魔物達と一緒にお前達のことも滅ぼしてやろうか?』という手紙を括り付けて時空魔法でヴァンヤール森国に送り返した。まあ、その後にヴァンヤール森国の女王が正式に緑霊の森に謝罪を行ったので今回のことは不問にしたが」
「あのミスルトウさんが、と言いたいところですが、あの方は思慮深い賢者であると同時に緑霊の森に思い入れが深い人ですからねぇ。エルフであることに誇りを持ち、エルフを迫害されることを許せなかった……そういう感情があったから、アネモネ閣下と一戦を交えることになったのだと思います。まあ、結局のところは神を僭称する小物に良いように使われただけですが。――プリムヴェールさん、エイミーン様の回収ですか? お疲れ様です」
「すまない、父上に報告を受けたら居ても立っても居られなくなって王女宮に走っていってしまった。……仕事の邪魔をしてすまない」
エイミーンを連れ戻すために来たのだろう、エイミーンに続いてプリムヴェールが姿を見せた。
その後ろでは「ゴゴゴゴゴ」という音がしそうな満面の笑みのマグノーリエの姿がある。
「ですが、その話だと魔物の討伐は終わったのですよね? それでしたら難民の受け入れの必要もありませんし、金輪際関わるつもりはないという盟約を結んで完全に袂を分かって仕舞えば良いのではありませんか? 相手も緑霊の森のエルフの面汚しと思っているようですし」
「……実は魔物の討伐は終わっていません。確かにヴァンヤール大峡谷――ジャイアントホールに出現していた魔物は全てミスルトウ様が指揮を取った魔法戦士団と精霊術法師団が殲滅しました。しかし、討伐しても討伐してもすぐに別の魔物が出現してキリがありません。ミスルトウ様はそこでジャイアントホールの最奥部に向かいました。ミスルトウ様は高難易度大迷宮が存在し、その内部から魔物が絶えず供給されていると予想したのですが、あったのはジャイアントホールの真の最深部へと繋がると思われるダンジョンの入り口……と思われるものと、それを封じる扉でした」
「父上は、その扉の封印の解除を試みたが、失敗した。次にヴァンヤール森国の女王の許可を得た上で冒険者ギルド本部長ヴァーナム=モントレー殿に協力を仰いだが、冒険者ギルドの持つ技術でも封印の解除は不可能だった」
……封印、ねぇ。これまで挑んだ高難易度大迷宮にはそんなものが掛けられていなかったし、別系統のものって考えた方が良さそうかな? しかし、封印ねぇ。
「その封印の写真ってありますか?」
「これなのですよぉ〜」
エイミーンから通信用端末を借りて写真を……って、料理の写真ばっかじゃねぇか!! どれだけ食に飢えてんだよ、この人。
しかし、この封印……全く知らないものだったらどーしよっかな? って思っていたけど、思いっきり見たことがある奴だった。シャマシュ教国に召喚された時の魔法陣みたいなことにならなくて良かったねぇ。
「あー、これは特定のレイドダンジョンを封じるための封印ですね。……リベル=マルの大賢者と呼ばれる方が作った秘宝『永久の鍵』があれば封印を突破して内部のレイドダンジョンに入ることが可能ですね」
「流石はローザさん、物知りなのですよぉ〜」
「少し良いかな? リベル=マルの大賢者という存在のことは聞いたことがないのだけれど、その鍵を用意することは本当にできるものなのかな?」
ここで疑問を呈したのはジャンヌだった。いつも物怖じせず現実的な視点から意見を述べてくれるジャンヌは本当に貴重な存在だと思う。……ボクの正体知っている人って割と「圓ならなんでもできるんだろ? 特に驚くこともねぇな」みたいな感じでどんなに頑張っても軽く流されるところがあるし。
「アネモネ閣下に確認してみなければ分かりませんが、様々なことに通じているあの方なら鍵を持っていても別段不思議でもなんでもないと思います。分かりました、閣下には私から伝えておきます。……ただ、こういった案件は直接閣下にメールした方が早いですからねぇ。次からはわざわざ王女宮に来なくて大丈夫ですよ、どの道私じゃ何も解決できませんから」
ボクの正体を知っているスカーレット、メアリー、ヴィオリューテにジト目を向けられたけど気にしない。一応、表向きはローザとアネモネは別人ってことになっているの忘れてない?
ソフィスは今回の件に興味があるらしいけど……内容によるけど、今回の件に多分ソフィスの出番はないと思うけどねぇ。
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
翌日、王女宮での仕事を終えた後、ボクはエイミーン、ミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェール、シア、リコリス、そして謎の迷宮らしきものに興味を持ったラインヴェルド、オルパタータダと共にヴァンヤール大峡谷を訪れた。
まあ、予想していたとはいえかなりの殺気を向けられているねぇ……それを平然と往なしつつ、「さあ、どう調理してやろうか?」と思考を笑顔で巡らせているシアとリコリスが若干……というか、相当怖いけど。流石はビオラ特殊科学部隊のツートップだねぇ。
向かった先はヴァンヤール大峡谷の中心部には世界樹の巨木があり、その近くには木材だけで作られた宮殿のような場所がある。
それが、ヴァンヤール森国の女王リーティアナ=メープルの住まいであり、同時にヴァンヤール森国の最高意思決定機関、長老会の会議が行われる場所でもあるらしい。……興味ないけど。
ついでに、この場所は光の神を祀る神殿の役割を果たしていて、ヴァンヤール森国の女王は女王であると同時に神を祀る巫女でもあるのだそうだ。……どの道この国と仲良くすることはないだろうし、封印の解除だけ行ったらブライトネス王国に帰国するつもりだけど。
正直、そこまで上げ膳据え膳してやるつもりはないからねぇ。ラインヴェルド達はその気だけど封印を解いたら一旦帰国して探索そのものはヴァンヤール森国が滅んでから進めてもいいんじゃないかと思う。
ヴァンヤール森国は緑霊の森に対して多種族同盟を抜けるように言ってきた、多種族同盟からしたら「外敵」に他ならないからねぇ。まあ、緑霊の森が自分達の意志で抜けるつもりならともかく、同じエルフとして派兵するのは当然、剰え「緑霊の森のエルフはエルフの面汚しだ。同胞を助けるのは至極当然のこと、この地を歴史と伝統のあるヴァンヤール森国に献上し、我らの庇護下に入るべきだ」なんて言ってくる連中だからねぇ。
そりゃ女王が真面でもそういう連中がうじゃうじゃいるなら放置でいいと思う。別にこっちは慈善事業で多種族同盟やっている訳じゃないし、そもそも多種族同盟は条約に基づく国際互助組織――つまり、広い意味で見れば助け合いの精神に基づく組織だ。助け合う気がない奴はお断りだよっていうのがボクの意見。……まあ、他の人達はどうか知らないけど。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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