Act.9-119 魔法大監獄の強化は神龍ヴァナュスと共に。 scene.1
<一人称視点・リーリエ>
木を切り倒し終えたところで「極大付与術」を発動してレベル三全体を砂漠へと変える。
レベル三のテーマは無限飢餓地獄付きの大沙漠だ。水も食料もほとんど与えられない中、永遠と続くと錯覚する沙漠を歩き続ける。
錬金術の技術を結集して作った人工太陽が照り付ける中、従来の方向感覚を狂わされる魔法の国の魔法と陰陽術の「奇門遁甲」と「迷界方陣」を組み合わせることで脱出を困難にしている。
これら魔法に加えて天然の蜃気楼の発生、ダメ押しに三百メートル以上先の視覚情報を曖昧にするオリジナルの無属性魔法「遠視曖昧」を発動しているので、まあ、普通に脱出は不可能だねぇ。
魔法少女化していれば飲まず食わずでも生きられるだろうけど、まあ、普通なら沙漠の中でミイラ化して終わるだろう。これでレベル三? っていうくらいの難易度になっちゃったねぇ。
一段降りてレベル四。元々は煮えたぎる血の池と燃え盛る火の海からなる「焦熱地獄」があったけど、事前に空間魔法でレベル四とレベル五を入れ替えておいたので、絶えず雷撃が降り注ぐ「雷平原」……いや、元「雷平原」と呼ぶべき場所がレベル四になっている。
「レベル四は定期的にサイクロンが発生して、雷と竜巻から逃げ惑うような場所にしようと思っているんだけど……」
「なんか滅茶苦茶恐ろしいこと言っているんすけど!?」
「ラファールさんって属性風だから、雷の方はボクの方で発生させるよ。環境を変えるレベルの魔法を放てば『極大付与術』を発動しない限りは永続的にサイクロンが発生し続ける環境を構築できるだろうし」
ラファールが膨大な風の魔力を放出し、それに合わせてボクも膨大な雷の魔力をレベル四全体に放った。
膨大な雷と風の魔力が収束して巨大なサイクロンが複数発生するエリアが誕生する。
「『雷暴風領域』とでも名付けようか?」
『かなりの魔力を使ってしまいましたが、囚人の方々が死んでしまうことは本当にないのでしょうか?』
「まあ、死んじゃったら死んじゃったっすね。レベルが上位のところに預けられるのって、基本的には凶悪犯なんすよ。レベル四以降だと懲役が終わることはまずないっすから。このレベル四以降で部屋から出る方法は脱獄か処刑しかないっすね」
一応、減刑措置もあるようだけど、レベル四以降は凶悪犯罪者が封印されるような場所だから減刑されることはまずない。……というか、この魔法大監獄ってそもそも更生することを前提にしていないんだよねぇ。元々、魔法大監獄は人間に戻しても手に負えない、何者かにより復活されてはたまらないような凶悪魔法少女を収監するための場所だった。更生する可能性のある者は再訓練、重度なら資格喪失という措置が取られ、この魔法大監獄に収監されることはほとんど無かった。
それが増加したのは、Queen of Heart派が権力を手にしてから。自分達の考えに逆らう者を例外なく投入していったことで囚人数が増加したという経緯がある。
そもそも、ここはシャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメを封印するためだけに原初の魔法使いノーアが作った封印の地を監獄に改造したものだし、元々はそれほど沢山の囚人を収監することは念頭に置かれていないんじゃないかな?
レベル四を超えてレベル五へ。入れ替えたので煮えたぎる血の池と燃え盛る火の海からなる「焦熱地獄」……だった場所になっている。残っているのは血の池だけだけど。
「カリエンテ、よろしく」
『任せるのじゃ!!』
カリエンテが灼熱の魔力を撒き散らし、その力で大地が変質――無数の火口が誕生して噴火を始め、溶岩が流れ出し、血の池がぐつぐつと沸騰し始める。
『うむ、こんな感じじゃな。我の魔力を流し込んでおいたから古代竜であっても地形を変えることは難しいじゃろう。「極大付与術」を使えばまた別じゃが』
『わたくしの氷の力でも余裕で書き換えられますが?』
『なんじゃと!! ならば、勝負――』
「スティーリアさん、君の実力は理解しているけどコンセプトに沿わないからやめようねぇ。カリエンテさん、すぐ挑発に乗るのは君の悪い癖だよ。もう少しゆとりを持つことを覚えようか?』
『申し訳ございませんでした』
『悪かったのじゃ』
まあ、スティーリアもカリエンテがボクに良いところを見せたことに嫉妬してカリエンテに挑発の言葉を掛けてしまったんだろう。……昔は不仲だったからその時の癖で……っていうのもあるかもしれないねぇ。本当に可愛い子だよねぇ。
そして、カリエンテ。火の古代竜だからなのかすぐに頭に血が昇る、煽られ耐性皆無。……こういう性格を多少なり治さないと、激情したところを狙って攻撃してくるタイプの敵に付け入られる隙を作ってしまうことになると思うんだけどねぇ。
◆
レベル五の改造が終わったので、レベル六に移動した。
このエリアは猛吹雪が吹き荒れる「極寒地獄」。特に付与魔法を使っていないのでそのままの状態だ。スティーリアも足を踏み入れてないそうだし。
スティーリアが竜化して猛烈な氷の魔力を撒き散らす。このエリアでやることはただ一つ、スティーリアの古代竜の魔力でエリアの吹雪を強化することだ。それ以外に天候面で手を加えることはない。
……じゃあ、他に何がする気なのかって疑問に思うよねぇ。流石にあの灼熱地獄よりも上となれば、過酷なものを用意するつもりだよ。
『終わりましたわ、圓様』
「寒いっすね。……完成したならとっとと一つ下に移動した看守室で暖を……って何をしているっすか!?」
ボクが取り出したホムンクルスを見て、神龍ヴァナュスが驚く。まあ、この吹雪だけで十分だと思っていたようだから、これ以上追い討ちを掛ける気満々と聞いて驚くのは当然の反応かもしれないねぇ。
レベル二に配置した半機獣、種類的にはそれと同じだけどホムンクルスのモチーフはレベル二にはいなかった狼。凶暴な性格な上に軍隊のように連携を取って囚人の命を狙う厄介な狩人達だ。
「以上が改良後の魔法大監獄ということになる。レベル七については手を加えるつもりはない。それじゃあ、この魔法大監獄の改良後の情報を纏めた冊子を四部作っておいたから上司達に渡して報告しておいてねぇ」
「分かったっす! ……ところで、これからどうするっすか? もし用事がないのであれば、お礼もしたいっすし、看守室でお茶でも」
「生憎とここに来るまでご相伴に預かっているし、三人もボクがこれから暖かいお茶とお菓子で労うから大丈夫だよ」
「じゃあ、報酬のお支払いを――」
「こっちの思惑でやったことだから気にしなくていいよ? 半分はスティーリアが破壊しちゃった弁償の意味もあるし」
『圓様、お手を煩わせて申し訳ございませんでした』
「まあ、ここを任せた以上、どのような結果になっても責任は取るつもりだったし、スティーリアにこの場所を任せたことは何一つ後悔していないから大丈夫だよ。それじゃあ、看守用の隠し通路とエレベーターは通常通り動くから、神龍ヴァナュスも早く戻った方がいいよ。そうそう、ポイズンヴェリーさん、茜音御前さん、サディスティックウィップさんによろしくお伝えしてねぇ」
「分かったっす! お疲れ様でしたっす!!」
神龍ヴァナュスに見送られる中、ボクは『管理者権限・全移動』でラピスラズリ公爵邸の自室に転移し、宣言した通り、仕事を手伝ってくれた三人を紅茶とケーキで労った。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「以上がエルフの歴史研究の第一人者であるミーフィリア女史の研究の成果ということになります。これで、緑霊の森、サンクタルク王朝の歴史は現在分かっている範囲に限りますが、全て説明を終えましたので、次回の講義はサンクタルク王朝から派生した、ウォーロリア山脈帯に棲む山エルフ――マウントエルヴン村国のエルフ達と、それに関連して精霊に関する講義を行いたいと思います。……とその前にこれまで学んできたことをテストする必要もありますわね。姫さま、皆様、本日の講義はここまでです。お疲れ様でした」
「とても分かりやすい授業だったわ。いつもありがとう、ローザ」
プリムラから満面の笑顔でお礼を言われ、「よし、昼からもお仕事頑張るぞ!」と活力が湧いてきた……この絶妙なタイミングで「大変なのですよぉ〜!」と、ここが王女宮であることを忘れているのかアポ無しでプリムラの部屋に突撃してきたのは、もう何となく分かるかも知れないけど、エイミーンだった。
その後ろからオルゲルトが姿を現す。どうやらアポ無しで突撃してきた他国の君主にどう対応しようかと考えた一瞬の隙を突いてここまで来てしまったらしい。
「緑霊の森の族長様よね?」
「誕生パーティでお会いして以来なので、随分ご無沙汰しているのですよぉ〜。緑霊の森の族長のエイミーンなのですよぉ〜。……って、挨拶している場合じゃなかったのですよぉ〜!! ローザさん、大変なのですよぉ〜」
「……大変なことは分かりますが、ここは王女宮ですからね? アポ無しで突撃しないでください。エイミーンさん、詳しい事情は執務室で聞かせて頂きます。姫さま、しばらくお時間を頂けないでしょうか?」
「ローザ、もし良かったら私にもお話を聞かせてもらえないかしら? 私は王女としてはまだまだ未熟だけど……このままじゃいけないと思うの。少しでもお父様やお兄様達の負担を減らしていけるようになりたいし……大して役に立てないと思うのだけど、それでも……」
「承知致しました。姫さまが折角向上心を持っておられるのに、それを摘んでしまうのはよろしいことではありませんね。エイミーンさん、姫さまに同席頂いても大丈夫ですか?」
「問題ないのですよぉ〜」
個人的にはアネモネとして動いているタイミングで声を掛けて欲しかったんだけど……って今更言っても仕方ないか。
プリムラは少しずつ王女として相応しい存在になれるように努力を続けている。今はまだラインヴェルドと二人で、ビアンカと二人で、カルナと二人で、みたいなものが多いけど、少しずつ公務も行うようになった。更に王女として研鑽を積みたい……その向上心はとても好ましいものであると同時に、プリムラらしいとも思う。
ラインヴェルドから生まれてきたとは思えないほど真っ直ぐで、聡明で、ゲームみたいに捻じ曲がった性格の意地悪な悪役王女にはならずに内面も見た目も美人に成長している。
だから、プリムラの言葉はとても嬉しかったんだけど……エイミーンが持ち込んできたトラブルの内容がとても気になる。嫌な予感しかしないんだけど。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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