Act.9-118 学園都市潜入計画の下準備 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「学院都市セントピュセルでの大規模な作戦に対処可能な最善の方法……ですか?」
そもそも、この学院都市セントピュセルでの大規模な作戦自体が初耳だろうし、その対策と急に言われても思考が追いつかないだろうねぇ。
「フォルトナ=フィートランド連合王国とオルレアン神教会の支配圏はフィートランド王国の教国圏離脱により、一部の国を除いて関係が断たれてしまった。他の宗教を有するフォルトナ王国と、オルレアン神教会のみを唯一絶対の宗教とするオルレアン神教会秩序では友好関係を築くことはできず、フィートランド王国とは物別れになってしまった。……ということになっている。まあ、実際は若干違うんだけど。ただ、フォルトナ=フィートランド連合王国もオルレアン神教会秩序と敵対関係のままで居たい訳ではない。そこで、旧フォルトナ王国から留学生を派遣し、相互理解を深めることで、いずれは協調路線を取りたいというフォルトナ=フィートランド連合王国の求めに応じ、学園都市で留学生を預かることをオルレアン教国が認めた……という形にして学園に戦力を送り込むという作戦だ。流石に全員戦力という訳ではなく、フォルトナ王国側の希望者も受け入れてもらうことにはなるのだけど。人数的には四人ってことで検討している。まあ、そちらが応じてくれたらの話だけどねぇ」
「私はローザ様が御協力してくださるのであれば構いませんが、お父様がなんと言うか……」
「そこに関しては心配していないよ。彼はミレーユ姫殿下の父上と一緒で娘に駄々甘だからねぇ。それに、これは将来への布石でもある。多種族同盟にはオルレアン秩序の国家を受け入れる準備はある。元々うちは複数の宗教が乱立していてねぇ……今はあまりにも阿呆なことをするから一部の宗教は直接睨みを効かせているんだけど、以前にも名前を出した最高司教レイティア様が代表を務めているフォティゾ大教会と、黒百合聖女神聖法神聖教会という二つの宗教が共存することができている。まあ、多種族同盟に加盟するのもしないのもそちらさん次第だし、強要するつもりはないけどねぇ。今のところは共通の敵がいるから協力関係を結んではいるけど、『這い寄る混沌の蛇』の件が片付いたら多種族同盟はこの大陸の大部分に干渉するつもりはない。干渉するつもりはないってことは万が一厄災に見舞われても見て見ぬ振りをするってことだ。多種族同盟は多種族同盟加盟国の利益を守るために存在している。そこに加盟していないものについては関知しないっていうスタンスだからねぇ」
「多種族同盟の加盟についても私の一存では決められない話ですので、一旦持ち帰りたいと思いますわ。まだまだ時間もあるのでしょう?」
「そうですねぇ。もうしばらく協力体制は維持するつもりですから」
「フォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生の件は早急にお父様と相談して答えを出そうと思いますわ。ただ、多種族同盟の加盟については返答が遅れることはお許しください」
「まあ、オルレアン教国が加盟を宣言したらその影響力は計り知れない。他の国も加盟を選択せざるを得なくなるからねぇ。それぞれの国で選択をしてもらいたいとリズフィーナさん達は考えるだろうし、各国との秘密裏の情報交換、指針の決定、時間が掛かるのは致し方ない。まあ、ボクが学園にいるうちに答えをくれたらいいよ。どれくらい留まるかは未定だけどねぇ」
留学の件の結果はアフロディーテかミスシス経由で連絡を入れてくれることになった。学院都市セントピュセルへの潜入については後は結果待ち……気長に待つとしよう。
さて、次は魔法の国刑務部門の改良か。……とその前に必要な人材を連れて来ないとねぇ。
◆
<一人称視点・リーリエ>
魔法の国の刑務部門に『管理者権限・全移動』で転移すると、出迎えてくれたのは神龍ヴァナュスだった。
「連絡あってびっくりしたっすよ!! 約束はしたっすがもっと遅くなると思っていたっすから」
「まあ、重要だからねぇ、魔法大監獄の改良は。紹介するよ、カリエンテさんとラファールさん、二人はスティーリアさんと同じ古代竜でねぇ。今回の作業に打ってつけだってことで連れてきた」
「す、スティーリア殿と同じ古代竜っすか!?」
あからさまに真っ青になったねぇ、神龍ヴァナュス。トラウマだもんねぇ、スティーリア。それが他に二体来たら恐怖に震えるのも仕方がないよ。
『全く、圓様が折角お力をお貸しすると出向いたのに、ポイズンヴェリーが不在ってどういうことかしら?』
『うむ、珍しく意見が合うな。我もあまり宜しい態度ではないと思う』
『スティーリア、カリエンテ、魔法の国は今、急速な変革のために各地で混乱が起きています。部門長が姿を見せられないのも致し方がないことだと私は思いますが』
「そ、そうなんすよ! あっちこっちで忙しくて人が足りないんすよ! 今の魔法大監獄の最高権力者は繰り上げてウチが部門長代行っす」
「……本当に心配な人選だよねぇ。大丈夫かな?」
まあ、サディスティックウィップに比べたらこいつの方がマシか。マシっていう時点でアウトな気がしないでもないけど。
「いやぁ、しっかしカチコチだねぇ」
『申し訳ございません、圓様』
「いやいいんだよ。とりあえず、氷系の部屋ばかりあっても仕方がないし、極大付与術」
オリヴィアの固有魔法と思われがちな、たった一つで強化も弱体化も、属性解除も環境変化も自由自在な魔法だけど、付与術の才能……つまり、魔力を付ける外すという分野で才能があれば基本的に得意属性を問わず使用することはできる。
この力でボクはレベル一からレベル五までに掛けられた全ての魔法効果や環境変化を消し去った。
「レベル一は刃物のように切れ味鋭い葉を持つ木によって構成された森から成る『鉄の森』だったねぇ。こういうのはバリエーションが重要だから、森そのものは残して――全部の植物を黒化しようか?」
覇王の霸気に膨大な武装闘気を乗せてレベル一のフロア全体に流し込む。
「鉄の森」の植物は全て武装闘気を常時纏った黒刀と同じ状態になった。恐竜に踏まれてもびくともしない頑丈さと、尋常ならざる切れ味の植物に囲まれたエリア……既に危険度はかなり上昇している気がするけど、気にせず先に進む。
「レベル二は強力なホムンクルスが犇めき合っている『悪魔の国』だったねぇ。ヴァナュスさん、ホムンクルスの回収はしてくれた?」
「氷で死んでいなかった個体を回収しておいたっす……ほとんど死んじゃっていたっすけど」
『まあ、その程度で死亡するなんて軟弱ですわね!』
「本当にねぇ、同意するよ」
「いや、絶対ここって同意しちゃいけない奴だと思うっす!」
……いや、そもそも堅牢な牢獄ならさぁ、侵入者に破られた時点でアウトなんだよ? しかも二度も。
「ホムンクルスの方はちょっと調整に時間が掛かるねぇ。とりあえず、事前に作っておいたホムンクルスを放流しておくよ。ホムンクルスの調整が終わったら次のレベルに進もうか?」
漆黒のミノタウロス擬きに、巨大な蠍擬き、マンモスのようなホムンクルス――圧倒的な威圧感を放つホムンクルス達は普通のホムンクルスには存在しない機械の要素を持っている。
ホムンクルスとブリスコラに使われたサイボーグ技術を組み合わせた新型兵器――半機獣と呼ぶべき存在だねぇ。
銃や刃物のような並みの攻撃では通用しない頑丈な身体を持ち、鉄を溶かす程の高熱のレーザー光線を口から放つことができる。そこに、動物を模したホムンクルスの魔法強化が施された脅威の身体能力が組み合わさり、その戦闘力はトロールのクローンから作り出したブリスコラを凌駕するほどに仕上がっている。それをとりあえず二十体放流してみた。既存のホムンクルスの改良が終われば四十体くらいにはなる筈だ。
ホムンクルスの個体数は確実にスティーリアの襲撃以前より減っているけど、その分、戦闘能力は飛躍的に上昇している。……正直、このフロアの突破もほとんど不可能に近いと思うんだけどねぇ。
◆
既存のホムンクルスの改造を終え、ボク達はレベル二からレベル三に移動した。
半機獣の戦闘力の高さに(といっても、やっぱりそこは機械的な量産型兵器、一流の猛者相手には通用しない強さなんだけどねぇ)に驚いていた神龍ヴァナュスも少しずつ落ち着きを取り戻してきたようだ。
「確か、このフロアには方向感覚を狂わされる魔法が施されていたんだっけ? ただ、樹海である必要はないからねぇ。いっそ地形を砂漠に変えて……でも、この森を丸々無駄にするのは勿体無いよねぇ。よし、カリエンテさん、ラファールさん、神龍ヴァナュスさんは今から四階に一時避難しよっか。スティーリアさんとボクでこの森の木々を全て切り倒すから」
「こ、この森広いっすよ! それに、一本一本切り倒すっすよね? それなら、ウチらが退避する必要は……」
『何を言っているのかしら? 圓様とわたくしで一度に全ての木を切り倒すのよ?』
「えっ……正気っすか?」
ボクとスティーリアの正気を疑っている神龍ヴァナュスを古代竜としての本性を表して竜化したカリエンテが鉤爪で捕らえてレベル四の入り口に向かって飛翔――ラファールもその後を追って俊身で駆け抜けていき、レベル三にはボクとスティーリアだけが残った。
ボクは『妖刀・光刃円斬』を取り出して抜刀し、攻撃の範囲を広げていく。
スティーリアも『氷百合の魔剣』と『氷百合の聖剣』を作り出して構えた。
「殺戮者の一太刀」
『《圓様に捧げる殺戮者の一太刀》!!』
白々と冴える圧倒的な斬撃がレベル三に広がり、瞬く間に全ての木が根本の部分で切り倒された。
切り倒した木を全て『統合アイテムストレージ』に入れて準備完了。さあ、本格的なレベル三の改良を始めるとしましょうか。
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