Act.9-117 学園都市潜入計画の下準備 scene.1
<一人称視点・リーリエ>
「えっと、確かペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸で臨時班を動かすのと同時期に学院都市セントピュセルに潜入するって話だったな? 『這い寄る混沌の蛇』に警戒されないようにフォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生として学園に一時期籍を置く……まあ、気持ちは分かるぜ。いくら優秀な部下を配置していても、すぐに対応することは難しい。いっそ自分が出向いた方が……ってことだろ? まあ、気持ちは分からないでもないぜ。で、その件を聖女様には伝えたのか?」
会議室に到着早々、統括侍女のミナーヴァ=スドォールトが淹れてくれた紅茶に口をつける間も無くオルパタータダが単刀直入に聞いてきた。
まあ、ボクもまどろっこしいやり取りは抜きに直球で投げ合う方が好きだけどねぇ。貴族同士だとなかなかこうはいかない。……まあ、気心の知れたボクらだから成立するやり取りってことになるねぇ。
「それはこれから。まずは、メンバーの選定とオルパタータダ陛下の許可をもらわないといけないからねぇ。一応、フォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生って扱いだし。今のところ決まっているのはボクと事情を話したら勝手についてくることを決めてしまったソフィスさんの二人だけだねぇ。他にもネストを含め希望者は居たんだけど、疑われないためにもフォルトナ王国の出身者をメンバーに加えたいからねぇ、ネスト達には申し訳ないけど参加をお断りしたよ」
「ってことは人員が欲しいってことか。ルーネス、サレム、アインスの三人はどうだ?」
「あの三人はブライトネス王立学園に通ってもらいたいと思っている。学園に通った前歴があると難しくなるでしょう? 説明が。それに、警戒される恐れもある。留学の名目がしっかりと立つ人が望ましいんだけどねぇ」
「あっ、そういやミナーヴァ。お前の娘のスドォールト伯爵令嬢ってそろそろ学園に通う年齢だったよな?」
まさか、オルパタータダから話を振られるとは思わなかったのだろう。ミナーヴァは驚きつつも、オルパタータダの話の意図を察して僅かに黙考した。
フォルトナ王国で統括侍女をやっているだけあって侍女としては超優秀、ノクトに匹敵すると言っても過言ではない。比較的早く正体を明かしていたから、フォルトナ王国で家庭教師をしていた頃には随分とお世話になったんだよねぇ。
……ただ、戦闘は完全に守備範囲外だからシューベルト達が暴れ始めたら何もできなくなるんだけど。それに、ノクトみたいに王に対してしっかりとものが言えるタイプでもないから、完全無欠って訳でもないんだけどねぇ。まあ、そもそも陛下に対してしっかりと諫言できるっていう方が珍しいんだけど。
最近はノクトも諦めたのか、諫言をすることも減ってきてはいるけどねぇ。……全面的にラインヴェルドが悪い。
「はい、来年から学園に通うことになっております。ただ、学園に通う期間は三年ですから、丁度一年間留学するのも良い考えではあると思います。それに、圓様とソフィス様とご学友として共に学べる機会は娘にとってきっと良い経験となるでしょう。将来、どのような道に進むとしても娘にとっては素晴らしい時間となる筈です。まだ娘と相談していないのでなんとも言えませんが、私個人としては是非留学に娘を連れて行って頂きたいと思います」
「リーシャリス=スドォールト伯爵令嬢は淑女の鑑だと伺っております。そのような方とご一緒できるのはとても光栄なことです」
「とりあえず、一人候補は出たな。残りは俺の方で募集を掛ける。……正直、候補者は尋常じゃない数になりそうだが、篩はこっちで掛けさせてもらうぞ。希望はどれくらいだ? あんまり人数多くて悪目立ちするのは嫌なんだろう?」
「そうだねぇ、合計で四人くらいが丁度いいかな? って思っている」
「分かった。こっちで進めさせてもらうぜ」
「さて、用事も終わったし、紅茶も飲み終わった。そろそろ次の用事に――」と立ち上がろうとしたタイミングでオルパタータダがアイコンタクトで指示を出し、ミナーヴァがカップに紅茶を注いだ。……つまり、「まだ帰るんじゃねぇぞ」っていう意思表示だねぇ。
「お前の話も聞いてやったんだ。俺の話だって聞いてくれてもいいんじゃねぇか?」
「……嫌な予感しかしないけど、協力してもらう約束はしちゃったしねぇ。オルパタータダ陛下の話は聞きませんという態度はないよねぇ」
「旧フォルトナ王国国内で、お前を宮中伯兼辺境伯に任命したいという声が主に俺を中心に出ている」
「……言っているの、オルパタータダ陛下だけじゃないの?」
「そういうと思って国中の貴族と後はフィートランド大公を集めて意見を募ったら反対意見は全く出なかったぜ。肯定的な意見ばかりだ……信頼と実績を積み重ねてきたお前だ。いっそアネモネ閣下に国王にになってもらえば安泰だし良いのではないかっていう過激派から、そうじゃない奴まで幅広くいたが、立地も立地だし、お前以外に適任者がいないっていうことと、第二の大臣、或いは第二の宰相と呼ばれる宮中伯にお前がなってくれればフォルトナ=フィートランド連合王国はより盤石になるという考えもある。それに、いずれはルーネス達を婿に迎えるんだし、今のうちから権力をある程度持っているべきだという考えもある」
「……いや、まだ三人が婿になるって決まってないからねぇ。外堀埋めるの早過ぎない? まあ、フォルトナ=フィートランド連合王国……というか、フォルトナ王国にとっては旨味しかない話ってことか。ビオラの仕事が若干増えることになるけど誤差の範疇だし、オルパタータダ達としてはどうせなら全爵位コンプリートさせたいっていう思惑もある。辺境伯は持っているけど、宮中伯は持ってないからねぇ、ボクって。えっと、立地も立地……ってことだと場所は神嶺オリンポスと隣接する地域かな?」
「ナトゥーフやルヴェリオス共和国のピトフューイ首相と相談して、支配範囲は神嶺オリンポスと隣接する地域と神嶺オリンポス、後はナタクの村とアフラの村も含まれる。そういや、あの村はお前と因縁があったよな」
「ナタクの村……オリヴィアさんの故郷か。あれから随分と経ったけど村は変わったかな? 変わってないなら掃除が必要そうだねぇ」
「おう、怖い怖い。一応、フォルトナ=フィートランド連合王国とルヴェリオス共和国の共同叙爵という形になるが、別に式への出席とかは必要ないぜ。お前が引き受けてくれるっていうなら、すぐにルヴェリオス共和国と連携を取って叙爵の体制を整える」
「ということは、ナトゥーフ達神嶺オリンポスとフォルトナ=フィートランド連合王国、ルヴェリオス共和国に税金を納めることになるのか。まあ、問題ないけどねぇ。……さて、神嶺オリンポスには手をつけないとして、他の地をどう改良していくか……コンセプトも考えないと。しっかし、一つ仕事が片付いたと思ったら次の仕事が降って湧いてくるの、一体なんでなんだろうねぇ?」
叙爵されるのはグラリオーサ辺境伯兼宮中伯ということになるらしい。……グラリオーサ辺境伯とグラリオーサ宮中伯を同時叙爵っていうのが正しいのかな? これについては叙爵されたら動き出すことになる。……今から行ってどうこうという話じゃないからねぇ。
叙爵式を無しにするってのはオルパタータダなりのボクに対する気遣いだと思うけど、正直負担はあんまり減っていない気がする。まあ、別にいいけどねぇ。
実は今日中に終わらせておきたい仕事が後二つある。そろそろ夕刻だし、授業も終わっているだろう。
魔法の国刑務部門の改良は後回しにして、まずは学院都市セントピュセルの生徒会室に転移した。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
想定通り、生徒会室にはリズフィーナの姿しか無かった。『管理者権限・全移動』で転移してきたボクに驚き、咄嗟に護衛神官と近衛騎士を呼び出そうと思ったようだけど、ボクの顔を見て敵ではないことを判断し、護衛神官と近衛騎士を呼び寄せて人払いをさせると同時に侍女に紅茶を用意させることにしたようだ。
連続三杯目だけど、ボクは割と紅茶と珈琲を飲みまくるタイプだから特に問題はない。
「久しぶりだねぇ、リズフィーナさん」
「お久しぶりですね、ローザ様。……アポイントメントを取ってからお越しになって頂きたかったのですが」
「それだと密談にならないでしょう? ボクの姿を見た瞬間に人払いをしたのは正解だったよ。さて、今日はちょっとリズフィーナさんにお願いがあってねぇ。それに付随して今後、ボク達が四月から行う予定の大規模作戦についても話すつもりでいる。そのついでにトーマス先生から引き継いだ例のイェンドル王国クーデターとグルーウォンス王国革命の件の進捗も聞きたくてねぇ」
当初はトーマスがシナリオ通り解決に動くつもりだったものの、トーマスが拠点をライヘンバッハ辺境伯領に移して拠点を徐々に切り替えることになり、リズフィーナと最後に会話をしたあの場では完全にリズフィーナ達に託すつもりになっていたらしい。……まあ、こっちの蛇の活動が予想以上に多くてペドレリーア大陸まで手が回らなくなったってことだねぇ。
ただ、もし、リズフィーナ達が二つの件であまり進展していないようであれば、四月以降の臨時班で解決しようという話になっている。
「……お恥ずかしい話ですが、なかなか手を出せていない状況ですわ。情報を与えられているので動けるかと思いきや、内政干渉を疑われるため大規模な干渉はできませんし」
「まあ、そうですよねぇ。じゃあ、イェンドル王国クーデターとグルーウォンス王国革命の件は四月以降の臨時班で担当しようと思います。丁度魔法の国の一件も解決してペドレリーア大陸の方にも力を割けるようになりましたので。さて、本題に入りましょう。ヘリオラ・ラブラドライト、フランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティ、オーレ=ルゲイエ、アダム・アドミニスト・カリオストロ・フィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム・アルケミカル・ニコラス・フラメル・サン=ジェルマン・ヴァイスハウプト、那由多彼方、オルタ=ティブロン――『這い寄る混沌の蛇』の冥黎域の十三使徒は六人撃破し、レナード=テンガロン、ルイーズ・ヘルメス=トリスメギストスの二人を仲間に加えることに成功、多少苦戦を強いられてはいるものの『這い寄る混沌の蛇』には打撃を入れられている筈です。一方、向こう側も何も手を打たないまま指を咥えて見ているという訳ではないようで、絆斬りを使って少なくとも二人、手勢を手に入れた可能性があります。その手勢を使い、この学院都市セントピュセルで大規模な作戦を実行する可能性があります。ボクはそれに対処する最善の方法をリズフィーナ様に提供するために参りました」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




