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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-106 ダブルまどか、クレセントムーン聖皇国にて引越しの挨拶回りをする。 scene.2

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


 菊夜と沙羅の家は不在だった。時空騎士(クロノス・マスター)の任務が終わった後にそのまま家に戻らなかったのか。

 菓子折りと手紙をポストに投函し、次に向かったのは美姫と妹の楓那が暮らす家だ。


 こっちはどちらも在宅だった。任務が終わってからすぐに戻ったみたいだねぇ。


「お姉ちゃん! 圓さんが来たよ!」


 庭にいた楓那はボクの姿を見つけると、美姫を呼びに行った。……帰ってきたばかりだし、そんな慌てて呼びにいかなくてもと思うんだけどねぇ。

 美姫が玄関先に出てきたところで、玄関で立ち話もなんだからと美姫がリビングに招いてくれた。


 お茶とお茶菓子……ではなく、ジュースと食べ始めると止まらなくなる馬鈴薯を薄くスライスして塩やコンソメを振りかけたものだけど、スナック菓子を用意したところでいよいよ本題へ。


「こちらは碓氷美姫さんと妹の碓氷楓那さん。どちらもフィギュアスケートの選手だよ。先ほど紹介した燕さんと同郷の出身、美姫さんは『天恵の実』の力を得ている。こちらは四季円華さん。美姫さんも参加してくれた例の魔法の国の戦いで新たに仲間になってくれた元『管理者権限』を持つ神様だよ」


「か、神様ですか!?」


「そ、そんな大したことはないわ。私もお二人と同じく普通に暮らしていただけですから……ただ、運良く『管理者権限』を手に入れることができただけですし」


「四つの前世を持つ円華さんが普通……っていうのは面白い冗談だねぇ。まあ、アメジスタさんとかを見ていれば分かると思うけど、『管理者権限』を持つ神も人と同じように野心を抱くし、弱い面も持っているし、人と何ら変わらない。これからご近所さんになるし、ある意味で美姫さんの同僚になるからよろしくねぇ」


「よろしくお願いします、円華さん」


「お願いします!」


「こちらこそよろしくお願いします」


「さて、今日来たのは円華さんのことを紹介しに……というのもあるんだけど、こっちに来てからそこそこ経ったよねぇ? そこで何か不便なことってないかと思って。教えてくれたら改善方法を模索するんだけど」


「お姉ちゃん……何かあるかな?」


「特にない……わよね? まさか、異世界にコーラとポテチまであるなんて思わなかったわ」


「近々、この聖都にアイスリンクも完成すると聞いていますし……寧ろ、異世界に召喚されるというのはもっと不便なことだと思っていました」


「まあ、最初はそこそこ不便だったけどねぇ。数年掛ければ改善もできるし、後は意欲のある人に融資すれば技術は加速する。多種族同盟の技術力はボクの知る範囲だと異世界一、もうすぐ大倭秋津洲帝国連邦にも並ぶと思うよ」


 畏怖と尊敬の混じった視線を三人に向けられ、困惑するボク……正直、苦手なんだよねぇ。そうやって純粋に尊敬されるのって。

 ボクはただ、ボクがやりたいようにこれまで生きてきただけだし。それがたまたまニーズに合っていたというだけなんだけどねぇ。



 碓氷姉妹の家を後にし、次に向かったのは春海とメイドの翠が暮らす洋館。

 インターフォンを押して真っ先に出迎えてくれたのは翠だった。ちなみに、この洋館はそこそこの大きさだからメイドなり執事なりを雇ってはどうかと提案してみたのだけど、自分の存在意義が無くなるということで翠に拒否されてしまった。

 ……これだけの広い屋敷を一人で管理って本当に頭が下がるよねぇ。……屋敷どころかラピスラズリ邸に加えて王女宮、その他保有する建物も丹念に掃除しているお前が言うと嫌味にしか聞こえないよッ! って言う声が聞こえたけど、空耳だよねぇ。


「お久しぶりです、圓さん。……あの、そちらの方は?」


「今日から近所に引っ越してきた四季円華さんです。時空騎士(クロノス・マスター)に任命しましたので、これから任務で共闘することもあると思います」


「四季円華です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いしますわ。私は木虎春海、こっちは私の大切な人――南部翠さんよ」


「メイドの南部です。よろしくお願いします、円華様」


「互いに自己紹介も終わったし、今後は近所同士仲良くしながら親睦を深めてくれると嬉しいねぇ。さて、ボクが今日、この辺りを回っている理由はこっちで生活を始めてからそこそこ時間が経ったでしょう? そこで、困っていることとかないかと思って」


「圓様は管理人のような業務もなさっているのですね。ご多忙の中、本当に頭が下がります」


「まあ、この場所を紹介したのはボクだからねぇ。こっちに南部さんを召喚したのもボクだし、不自由な生活を遅らせる訳にはいかないんだよ。主に責任の問題で」


「……南部さんを召喚するようにお願いしたのは私よ。圓さんに責任はないと思うのだけど」


「わ、私はお嬢様と再会することができてこれ以上嬉しいことはありません!」


「困っていることは特にないわね。欲しいものもこの聖都で揃うし」


「私も特にありませんね」


「そう、それは良かった」


 不自由な生活は絶対にさせないと約束した上で召喚を行っているし、不自由な生活を送らないで済むように必要なものは全てこの聖都で揃うようにしてあるから、この質問で希望が上がらない方が良いことなんだけどねぇ。

 これで残るは十六夜家と甘蔗林家か。問題が発生していないと良いんだけど。



 十六夜家は、舞踊・音曲・茶道・華道・書道・武芸の六芸の家元として知られている。

 総称して十六夜流六芸と呼ばれるこの六芸の歴史と伝統が脈々と受け継がれてきた十六夜家は、『トップ・オブ・パティシエール〜聖なるお菓子と死の茶会〜』の芸事の世界で五大家元の一つに数えられている。


 現当主は十三代目となる十六夜慶春で、十六夜天音はその孫にあたる。

 天音の父親である十六夜慶光は十四代目を襲名すると目されている次代の当主候補筆頭で、母親の十六夜八重は羽林家小水無瀬(こみなせ)子爵家のご令嬢。まあ、名家に嫁ぐのは名家出身っていうところだよねぇ。乙女ゲーム好きが好みそうな「身分差の恋」とかは特に無かったそう。


「久しぶりじゃな、圓殿。して、今日はどのようなご用件かな?」


「この近所に新しく引っ越してきた方を紹介して回っているんだよ。こちらが、十六夜慶春さん。十六夜流六芸の十三代目家元さんだよ。そして、慶春さんの息子で十四代目家元を継ぐことになる十六夜義光さんと、その妻の十六夜八重さん。そしてお二人の娘の十六夜天音さんだよ。天音さんが『天恵の実』を食べた天恵の巫女でねぇ。楓那と同様に彼女の希望でこの世界にアクティベートして現在に至っている。まあ、擬似的な異世界召喚だねぇ。こちらは、四季円華さん。天音さん達から見れば別の世界出身で、美姫さん達も参加した魔法の国侵攻の一件でボク達の仲間になってくれた。天音さんとは任務でご一緒することになることもあると思うからよろしくねぇ」


「四季円華です、よろしくお願いします」


 円華が菓子折りを渡し、お茶室に通されたところで早速ボクの方の本題に入ることにした。


「こっちの世界に来てからそこそこ経つけど、困っていることって特にないかな? と思ってねぇ。この辺りを回りながら聞いているんだけど」


「そうじゃな。十六夜流の新たな門下生がいないので家業ができん……これが問題じゃな」


「この世界は中世ヨーロッパのような世界観だと娘から聞いています。……行儀作法や習い事でも、和風のものは需要がないですよね」


「いっそ、圓殿が門下生になってくれたら嬉しいのじゃが」


「……父上、これ以上圓さんにご迷惑をおかけするのは」


「そうですよ、お父様。娘の願いを叶えてくれただけでなく、こちらで不自由なく暮らせるように手配してくださったのに、これ以上ご迷惑をおかけするのは」


 子爵家出身とはいえ、良くも悪くも昔ながらな気質の十六夜家では家長が圧倒的な発言力を有する……と思いきや、八重も慶春に意見することができる。慶春の妻は物語開始の数年前に病で倒れて亡くなったけど、一般的に思い浮かべるような嫁姑関係ではなく、八重との関係は極めて良好だった。死の間際に八重と言葉を交わし、慶春のことをお願いしてからこの世を去っていったくらいだ。

 昔気質で頑固者、その上思い付いたら周りが見えなくなるきらいがある慶春と生涯添い遂げた妻が託した相手だ。当然、真っ向から家元に意見できる芯の強さは持ち合わせている。


「嬉しいお話だけど、生憎とそういった芸事は大方免許皆伝でねぇ。えっと、茶道だと表千家、裏千家、武者小路千家、舞踊だと花柳流と若柳流、華道だと池坊と小原流……まあ、その他色々ねぇ。一応、前世の頃から和の分野だけに留まらず紅茶に、珈琲、チェス……色々と嗜んできたけど、こっちで生粋の公爵令嬢に転生してからは比較的に西洋のものの方が触れる機会は増えたねぇ。まあ、たまに和菓子を和三盆辺りから作って抹茶を嗜むくらいはしていたけど……」


「お爺さま、この方は絶対に弟子にしてはならない類の方だと思います。……釈迦に説法です」


「……もしかしなくても、天音さんが登場したゲームのそっち方面の監修って圓さんがしたんじゃないかしら?」


「まあ、他に適任がいなくてねぇ。家元さん達に頭下げてお願いしに行ったんだけど、何故か一人として首を縦に振ってもらえなくてトボトボと帰ったことを覚えているよ」

 

 なんか揃って「まあ、当然の反応だよね」みたいな顔になっているけど、少しは同情してくれてもいいんじゃないかな? 割と惨めな気持ちだったんだよ。


「まあ、お弟子さんの件は一応ビオラで募ってみるとして、それ以外の方法はないかな? 頑張って宣伝してねぇ、くらいしか言えないよ。それ以外に困っていることとかはないかな?」


「儂は特に無いな」


「特に無いですね」


「必要なものは全て揃いますし、天音の収入で私達が十分暮らしていくことはできますし……流石に娘の給与に負んぶに抱っこは恥ずかしいので、流石に働き口を見つけないといけないとは思っていますが」


 家業が安定した収入を得られない……というか、ほとんど無収入に近い状態では、家事をしていればどうにかなる状況ではない。

 慶光と八重――二人で共働きに出て収入を得るという方法を選ばなければ、天音の扶養を脱するのは夢のまた夢だ。……世知辛いねぇ。


「もし、就職を考えているのであればビオラに一度お声掛けください。できる範囲で斡旋は致しますので。後は天音さんですねぇ」


「特に無いですわ。異世界とは思えないほど満ち足りた生活を送ることができています」


「分かりました。また、何か不都合なことがありましたら、遠慮なくボクやビオラに仰ってください」


 抹茶を飲み終えたタイミングでお茶のお礼を伝えてからボクと円華は十六夜家を後にした。

 さて、最後は「甘味処菓子工房 パティシエール・シュガー」だねぇ。みんな元気にしているかな?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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