Act.9-99 魔法の国事変〜最終章〜 scene.2
<三人称全知視点>
【エース】ネモフィラの固有魔法は全てを見通す力を持つ。彼女の魔法が脅威的なものであることはミーフィリアも圓から得た情報で嫌ななほど理解していたし、カルファも五老臣という魔法の国の中枢に居たので親衛隊の強さは把握している。
ミーフィリアは固有魔法を使用しているネモフィラを見気を最大限に発揮している状態の猛者に置き換え、戦闘のシミュレーションを行ってからこの魔法の国侵攻に臨んでいる。他の親衛隊所属の魔法少女とも戦闘する可能性があったため、圓から与えられた情報を基にシミュレーションを行ってはみたが、「物事の本質を見抜く」固有魔法以外には近接格闘術しか戦う術を持たない彼女が一番、ミーフィリアの戦闘スタイルと相性が良いと感じていた。
ミーフィリアは近接戦闘を苦手としているが、遠距離戦闘と広範囲攻撃を得意としている。一対多という戦闘を得意とし、決戦用ホムンクルス【ガーディアン・ゴーレム】や防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】が犇めき合っているこの状況はまさにミーフィリアのためだけに誂えられた舞台にすら思える。
圓の人選は常に的確で、まるで未来を見通しているのではないかと度々錯覚する。その洞察眼はネモフィラの固有魔法に限りなく近いが、魔法に頼らない分、圓の方が圧倒的に恐ろしく感じた。
流石にミーフィリアも圓と戦うとなれば命を捨てる覚悟をしなければならないが、ネモフィラの場合は僅かに緊張する程度で済む。とはいえ、油断すれば命を落とす危険な相手であることは揺るがないが。
「蒼氷の女王の尖兵」
ミーフィリアは『氷の尖兵を作り出す魔法』、『作り出した氷を分解する魔法』、『空気中の水分と氷像の水分を凝固させる魔法』の三つからなる複合魔法で凝固と分解を繰り返すことで移動、大気中の水分から水分を補填することで再生も可能な不死身の氷の尖兵を生み出すとネモフィラ達に嗾しかける。
「なるほど、無限に再生するのですか。……厄介な魔法ですね」
ネモフィラには不死身の氷の尖兵の性質も弱点も完全に見通すことができている……が、見通すことができているというだけで対処の方法が用意できた訳ではない。
近接戦闘を得意とするネモフィラでは不死身の氷の尖兵を溶かして消滅させる手段はない。ネモフィラが苛立ちを募らせる中、ミーフィリアは『作り出した氷を分解する魔法』、『氷を熱して水蒸気に変える火魔法』、『水蒸気の分子を加速させる火魔法』からなる大規模術式を発動して、「蒼氷の女王の尖兵」で生み出した氷の尖兵を核として水蒸気爆発を発生させた。
巻き込まれる恐れのあったミーフィリアはカルファと共に「空間転移門魔法-ポータル・オブ・ワープゲート-」を発動して一時的にハート魔導城から撤退する。激しい爆発に巻き込まれて決戦用ホムンクルス【ガーディアン・ゴーレム】と防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】、スートランプ、スートランプⅡは壊滅した。スートランプはJOKERが生き残っていたため復活を遂げたが、今の攻撃で戦力は半減し、更にネモフィラもかなりのダメージを受けた。
「……仕留め損なったか」
ミーフィリアの狙い通りであればこの一撃で仕留めることができた。しかし、現実は甘く無かったようで、ネモフィラはミーフィリアの攻撃を耐え切って生き残っている。
ネモフィラは地を蹴って加速、ミーフィリアとの距離を詰め、近距離戦闘の間合いに入れようとする。
「真・凜冽な女王の抱擁-局所極寒-」
そのネモフィラの動きをミーフィリアは見気の未来視を使って予測し、空間跳躍、座標指定、透過能力を空間魔法で付与した空間魔法による干渉以外では回避不能な水に干渉することで周囲の人間の体感温度を下げる対人干渉系制圧魔法を発動した。
いくら魔法少女と言えど、体感温度低下による身体能力の低下は避けられない。動きが鈍ったところにカルファは赤く輝く魔法陣が出現させ、四つの雷で作られた柱を生成し、四つの柱を繋ぐように雷撃が走って菱形の領域を作り出し、雷撃に囲まれた領域を超高電圧の雷撃が満たす「滅煇雷域」を、ミーフィリアは空間跳躍、座標指定、透過能力を空間魔法で付与した空間魔法による干渉以外では回避不能な局所的に竜巻を発生させる戦術級魔法の応用版を放つ。
「蒼氷の女王の尖兵」
ネモフィラとの戦いに重きを置きつつも、ミーフィリアはスートランプ達に対する警戒を怠らない。
『氷の尖兵を作り出す魔法』、『作り出した氷を分解する魔法』、『空気中の水分と氷像の水分を凝固させる魔法』の三つからなる複合魔法を再び発動して、大気中の水分から水分を補填することで再生も可能な不死身の氷の尖兵を生み出し、スートランプ達に嗾ける。
満身創痍の中、ネモフィラは立ち上がりミーフィリアとの戦闘を再開しようとした……が、目の前に広がる展開された不死身の氷の尖兵の軍を前に絶句した。
「カルファ殿、もう一度撤退するぞ」
「了解しました」
その撤退がどのような意味を持つのかをネモフィラは理解し、青褪める。
ミーフィリアは「空間転移門魔法-ポータル・オブ・ワープゲート-」を発動し、カルファは「水晶玉に臨んだ場所の映像を映す」固有魔法を使ってハート魔導城から脱出した。
「灼熱の女王の白霧」
ミーフィリアがゲートを解除して脱出した瞬間、再び水蒸気爆発が発生しスートランプ達とネモフィラを飲み込む。
流石に二度の水蒸気爆発を耐え切る耐久力はなく、ネモフィラは今度こそ真っ白な世界の中で命を落とした。
◆
「聖紋解放-グランド・クレスト-!」
ラインヴェルドの手の甲にブライトネス王家の紋章と瓜二つの青い紋章が浮かび上がった。
その顕現した青い紋章――聖紋が『国王陛下の燦煌双剣』に吸収される。
更に光と焔を混ぜて固めたような猛烈なエネルギーを纏わせる火属性と光属性の複合魔法「光焔之王剣」を発動し、その上から武装闘気と覇道の霸気を『国王陛下の燦煌双剣』に纏わせた。
オルパタータダもラインヴェルドとほぼ同時に独創級の『国王陛下の月影双剣』を構え、聖属性の魔力と武装闘気、覇王の霸気を纏わせて戦闘態勢を整える。
「オルパタータダ、どっちにする?」
「リツムホムラノメノカミをもらうつもりだぜ?」
「じゃあ、俺はミューズ・ムーサ・ムーサイか。――それじゃあ、どっちが先に討伐できるか勝負しようぜ!」
「それいいな! じゃあ、俺が先に仕掛ける!」
「きったねぇぞ!!」
ラインヴェルドはオルパタータダと同時に地を蹴って加速、ミューズに向かって思いっきり振り下ろした。
ミューズは槍先が分裂して見えるほどの超高速の突きを放ってラインヴェルドの斬撃を受け止める……が。
「どうだ? 毒入りの剣って奴だ」
攻撃を受け止められると予想していたラインヴェルドは斬撃を繰り出した際に筋肉の収縮を連続で行うことによって、 その際に発する衝撃波を武器を通して相手に叩きこむ「常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀」を模倣してありったけの衝撃を神光闘気と共に叩き込んだ。
ミューズが槍から流れ込む膨大な太陽エネルギーと衝撃でダメージを負い、槍を手放した一瞬の隙を突いて蹴りを入れ、ミューズを壁まで吹き飛ばす。
「――《支配者の門域》!」
二本の白い羽の意匠が施されたナイフを起点に放射状に伸びた光が円形の領域を二つ作り出し、二つの領域を繋げたラインヴェルドはミューズとラインヴェルド自身の位置を連続で入れ替え続ける。
「《蒼穹の門・飛閃神威》」
それに加え、無数のナイフを駆使して《蒼穹の門》を連続展開して転移先を複雑化させ、ミューズを翻弄しながら斬撃を浴びせ続ける。
ミューズの掌底が空を切り、背後に現れたラインヴェルドが背中に深々と斬撃を刻んで姿を消す。かと思えば、ミューズの左に出現したラインヴェルドが刺突を放つ。
一撃一撃の威力は現身の身体にも大きなダメージを与えるほどのもの。それが絶え間なく刻みつけられるとなれば流石の三賢者の現身もタダでは済まない。
無数の斬痕を刻みつけられたミューズは結局ラインヴェルドに一撃もダメージを与えられないまま命を落とした。
一方、オルパタータダの方は小手調べに火、水、風、土、結晶属性複合魔法の「結晶騎士軍」を発動し、リツムホムラノメノカミに嗾けた。
しかし、「万世根絶やす中道の剣」を持ったリツムホムラノメノカミは一騎当千の強さを発揮し、無数の結晶の騎士を次々と撃破していく。
一撃でも浴びた瞬間に確実に敵を死に至らしめるほどの切れ味を持つ「万世根絶やす中道の剣」と「結晶騎士軍」の相性が最悪だと判断し、オルパタータダは【破壊成長】のスキルを持つ自身の愛剣で一気に攻めることにした。
「燦く星、宙より堕ちる!!」
オルパタータダは聖属性獲得者に対し、圓が贈った奥義級の聖属性魔法をリツムホムラノメノカミを取り囲むように四つ展開すると、魂魄の霸気《冥府門》によって生じる冥域という領域に繋がる穴を使って戦場から姿を消す。
次の瞬間、オルパタータダはリツムホムラノメノカミの目の前に現れ、素早く武装闘気と覇王の霸気、聖属性の魔力を込めた剣で素早く薙ぎ払った。
姿を消した瞬間に奇襲を仕掛けてくると判断し、背後に意識を集中した瞬間に真っ正面に転移され、リツムホムラノメノカミは僅かに驚いたような表情を見せるも、流石は三賢者の現身、なんとかオルパタータダの剣を受け止める。
ホムンクルスすらシミに変える圧倒的切れ味を持つ剣と、破壊する度に再生する【破壊成長】のスキルを宿したオルパタータダの剣の衝突はオルパタータダの剣を粉砕し、瞬時に再生し……という攻防を繰り返しながら着実にリツムホムラノメノカミを追い詰めていき、激しい攻防の中でリツムホムラノメノカミが見せた一瞬の隙を突いてオルパタータダはリツムホムラノメノカミに斬撃を浴びせた。
その傷がリツムホムラノメノカミにとっては致命傷となり、そのままリツムホムラノメノカミは命を落とす。
それは、奇しくもラインヴェルドがミューズを倒したのと同時だった。
「……ちっ、引き分けかよ」
「勝負はお預けだな。次こそは俺が勝つ!」
「いや、今度こそ俺が勝つ! そして、無様に負けたお前のことをクソ笑ってやる」
ミューズとリツムホムラノメノカミを倒したラインヴェルドとオルパタータダが二人の死体を四次元空間に収納しようとしたその時だった。
二人の見気に怪しげな気配を読み取り、ラインヴェルドとオルパタータダは鞘に戻した剣を抜き払う。
「どうやら、まだ戦いは終わってねぇみてぇだな!」
「面白くなってきやがったぜ!」
ラインヴェルドとオルパタータダは現れた黒い影に同時に斬りかかろうとして、見えない何かに激突した。
その隙に黒い影はミューズとリツムホムラノメノカミの死体に触れる。黒い影はその後、あっさりとミューズとリツムホムラノメノカミの死体を解放し、大気の中に溶け込むように消えていく。
「……アイツ、一体なんだったんだ?」
「ラインヴェルド、三賢者の現身の死体に外傷はないみたいだが……これはかなりヤバイ状況かもしれないな。ミューズとリツムホムラノメノカミの中にあった魔法の気配が完全に消えちまっている」
三賢者の現身である魔法少女の肉体からも、三賢者の魂からも魔法的な力が完全に消えてしまっている。魔法少女は死亡しても魔法の力が完全に肉体から消えてしまうことはないことは確認済みなので、この状況は明らかにおかしい。
「あの影はどこへ消えた? ……まあ、大方この先だよな?」
ラインヴェルドとオルパタータダは一抹の不安を抱えながら扉を押し開け、玉座の間へと突入した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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