Act.9-98 魔法の国事変〜最終章〜 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
カルファと合流後、ボク達はハート魔導城の迷路の庭を突破して城の扉まで到達した。
豪華なシャンデリアが燦然と輝く玄関ホールには決戦用ホムンクルス【ガーディアン・ゴーレム】と防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】、スートランプ、スートランプⅡが大量に配置されている。
そして、その中で圧倒的なプレッシャーを放つ存在が親衛隊所属の魔法少女――【エース】ネモフィラだ。
青い花をモチーフとした魔法少女は「物事の本質を見抜く」固有魔法によって相手を解析し尽くし、まるで未来視に到達したとすら錯覚するほどの戦闘を繰り広げることができる。
この固有魔法は魔法少女との戦いでは有効だけど、見気の未来視で充分に対抗することができるとボクは考えている。……まあ、実際に戦ってみないと分からないけどねぇ。
「かなりの戦力が揃っているみたいだが……もっと奥に物凄い威圧感を放つ存在が三体いるみてぇだな。ということで親友! 俺達はソイツらとクソ面白い戦いを繰り広げたい! 言っておくが、俺達の希望を叶えないっていう選択肢はねぇからな!」
「……本当に暴君だねぇ。カルファさん、この先にはQueen of Heartだけじゃなくて、ミューズ・ムーサ・ムーサイとリツムホムラノメノカミもいるんじゃないかな?」
「その通りです。Queen of Heartは残る二人の賢者を倒した後、その魂を別の高級魔法少女に移し替え、残った肉体には簡素な人格を付与して己を守る盾としました。恐らく、お二人が感じ取った威圧感の正体はそれかと」
……三賢者の魂と三賢者の現身の身体。二つを揃えればQueen of Heartにとっては脅威となる。しかし、それをそのまま封印しておくとおう選択肢はあり得ない。
少しでも欲があるなら何らかの処置を施してどちらも有効に活用しようとするんじゃないかな?
まあ、傲慢な女王の典型に性格が調整されているQueen of Heartはそういう合理的なことを思いつくとも実行するとも思えないし、五老臣の誰かが提案して実行したんだと思うけどねぇ。
「ミーフィリアさんにこの場は任せてもいいかな?」
「雪菜殿と黒華殿はQueen of Heartと戦うことが決まっている。ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下はミューズ・ムーサ・ムーサイとリツムホムラノメノカミに既に照準を合わせてしまっている。私が対処する以外のの選択肢はそもそも残されていないのだろう? ――案ずることはない。私でも十分に戦える相手だと判断した」
「まあ、『永劫の虚無』を見事に討伐したミーフィリアさんの実力は信頼しているよ。それが無くとも『落葉の魔女』の異名を持つ大魔術師の腕を疑ったことはないけどねぇ」
「ローザ殿にそう言ってもらえるのは嬉しいな」
「だから、この判断はミーフィリアさんを軽んじた故のものではないということを理解してもらいたい。カルファさん、申し訳ないけどここで一旦お別れだ。残るメンバーを考えてもこの先でカルファさんの出る幕はないからねぇ。ミーフィリアさんをカルファさんが援護するのか、ミーフィリアさんがカルファさんの援護をするのか、それとも別々に戦うのかは相談して決めてもらいたいけど、この場は二人にお任せしたい」
「確かに、この先に行っても私ではあまり役に立てそうにありませんね」
「私もそれが良いと思う。カルファ殿、よろしく頼む」
「――何を勝手に決めているのですか? ここから先に私が通すとでも?」
ネモフィラがボクに狙いを定めて距離を詰めようとした瞬間を狙い、ボクは離れた空間同士を繋ぐゲートを展開する「空間魔法-ゲート・オブ・ワープホール-」をボク、ラインヴェルド、オルパタータダ、雪菜、黒華の足下に展開――ネモフィラの後方へと転移した。
「空間魔法ですか。確かに一度は振り切られましたが、十分に余裕を持って追いつくことができる範囲内です」
「確かに魔法少女の身体能力を使えば追いつけるかもしれんな。まあ、神速闘気を纏わなければの話ではあるが。……しかし、本当に敵に背を向けて良いのか? その固有魔法で今一度観察してみるといい。私が本当にお主が全力を出して戦うに値しない存在なのかそれではっきりするのではないか?」
杖を構えて不適な笑みを浮かべるミーフィリアに固有魔法を使い、ネモフィラは額から噴き出した冷や汗を拭った。
鋭く目を見開く。その瞳に今度はしっかりとミーフィリアが映っていた。どうやら、ネモフィラはミーフィリアを全力を尽くさなければ勝てない相手であると判断したらしい。
「いいでしょう。どうせ、この先には最強の守護者が残っています。私によって殺されるか、それとも別の人に殺されるのか、その程度の違いしかありません。――この場にたった二人で残ったことを後悔させてあげます」
◆
ネモフィラが守っていたエントランスを抜けた先では無数のスートランプやスートランプⅡが待ち受けていた。
「圓、雪菜、黒華、お前らはこの先で重要な戦いがあるんだから消耗は抑えておいた方がいいだろ?」
「俺とラインヴェルドで先行する。さあ、お楽しみの時間だぜ!」
ラインヴェルドとオルパタータダが同時に剣を抜き払い、地を蹴って加速――俊身と神速闘気の組み合わせで城の廊下を駆け抜け、次々とスートランプに斬撃を浴びせていく。
ハートもダイヤもクローバーもスペードも、最弱も最強もまるで関係無いと言わんばかりに駆け抜ける死の風は無差別にスートランプの屍の山を築いていった。
「……本当に、お二人って王様なのですよね?」
「普通、王族が先陣切って戦うかしら? ……そもそも今回の魔法の国襲撃の臨時班に戦力として数えられている時点でおかしいと思うのだけど」
「無駄にアグレッシブだからねぇ、このクソ陛下達。まあ、実際に下手な護衛より強い国王陛下だから心配はないよ。……ってか、もっともらしい理由を言っているけどただ暴れたかっただけでしょう?」
「「あはは、よく分かっているじゃねぇか!!」」
「付き合い長いからお見通しだよ。まあ、付き合い長くなくても少し振り回されれば嫌でも二人の性格がクソ野郎だってことは分かると思うけどねぇ」
ヘンリーはラインヴェルドを未だ模範的な国王だと見ている節があると思うけど、ヴェモンハルトとルクシアの二人はとっくの昔に性格クソ野郎だっていうことを理解しているし、ヴァンもボクの正体を見抜いたあの日以降、ラインヴェルドの本性に触れる機会が増えた気がするからラインヴェルドのクソっぷりは理解していると思う。
ルーネス、サレム、アインスの三人は優しいから口にしないけど、オルパタータダのクソっぷりは痛いほど理解している。……うん、ヘンリーの目は腐っているって言いたくなるレベルで補正掛かっているよねぇ。ポラリスの同類なのかな?
もうそろそろラインヴェルドの本性に気づいてもいい頃だと思うけどねぇ、ヘンリー。……えっ、プリムラは良いのかって? 彼女には一生「腹黒ってなぁに」っていう純粋な子のまま成長してもらいたいよねぇ。……大人の汚さで汚されてしまって欲しくないというボクのエゴです。
スートランプの軍勢を突破し、そのまま玉座の間へと続く廊下を走る。
絢爛豪華なシャンデリアと魔道具で彩られた空間は『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』の黒の使徒共闘ルートではラストダンジョンの最新部として多くのプレイヤーの記憶に残った筈だ。ここに残された魔道具は全て原初の魔法使いノーア=ネフィリムが残した秘宝、一つ一つが現在の魔法の国の技術では再現できない究極の遺物である。
その廊下の中頃でボク達を待ち受けていたのはミューズ・ムーサ・ムーサイとリツムホムラノメノカミだ。
どうやら、最後の親衛隊の魔法少女――【ジョーカー】スートランプ・ロイヤルガードはQueen of Heartを守護するためにQueen of Heartと共にハート魔導城の謁見の間にいるらしい。
ミューズ・ムーサ・ムーサイはスートランプのAが持つスペード型の槍を、リツムホムラノメノカミは「万界無に還す妙見の剣」と並ぶ魔法の国の国宝「万世根絶やす中道の剣」をそれぞれ無言で構え、戦闘態勢を取った。
ミューズ・ムーサ・ムーサイはスートランプに固有武器は無かった。流石に素手ではいくら強くても防衛には向かないし、何かしらの秘宝で武装させるんじゃないかと予想していたけど、スペードの槍を装備させるというのは少しだけ意外だった。まあ、それでも十分強いんだけど。
ちなみにミューズ・ムーサ・ムーサイの「誰とでも友達になれる」固有魔法は発動しっぱなしらしく洗脳魔法を振り撒き続けているけど状態異常無効化魔法が施された指輪の効果で全てレジストされている。
ミューズ・ムーサ・ムーサイの最大の攻撃手段は無効化されているとはいえ、相手は一般の魔法少女が蟻や羽虫なら世界最高峰の屈強な軍人レベルの強さがある。……油断はできないねぇ。
リツムホムラノメノカミは戦闘能力自体は優れた技術を持つ職人のレベル……まあ、それでも一般魔法少女と比べたら天と地ほどの差があるから本来は挑んではいけない相手なんだけど。
武器の「万世根絶やす中道の剣」は刃を受けたくなるという脅威的な魔法に加え、戦闘用ホムンクルスが一撃で消滅するほどの切れ味を持つ。……とはいえ、刃を受けたくなる魔法についてはミューズ・ムーサ・ムーサイの固有魔法と同じくレジスト済み。だから、当たれば一撃で死亡が確定する程度の切れ味を持つ剣でしかない……それでも十分に危険なんだけどねぇ。
「ミューズ・ムーサ・ムーサイ、リツムホムラノメノカミ! どちらも相手にとって不足無し! クソ面白い戦いを繰り広げようぜ!」
ラインヴェルドとオルパタータダが武装闘気と覇王の霸気を剣に纏わせ、神速闘気を纏ってミューズ・ムーサ・ムーサイとリツムホムラノメノカミに斬り掛かる。
二人の意識がラインヴェルドとオルパタータダに向いた一瞬の隙を突いて「空間魔法-ゲート・オブ・ワープホール-」を発動し、雪菜、黒華と共に二人を突破――そのまま玉座の間へと続く扉を押し開け、Queen of Heartの待つ決戦の地に足を踏み入れた。
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