Act.9-97 魔法の国事変 scene.37
<三人称全知視点>
紅桜が「あらゆるものを跳ね返す傘」の固有魔法が宿った傘でスペードとクローバーのスートランプの猛攻を受け止め、拳法姫の娘々が「巻物の中に物を閉じ込める」という固有魔法で閉じ込めた大量のマジカルダイナマイトを傘に護られながらスートランプ達に向かって投げつけ、セイント・ピュセルは「自由に大きさを変えられる剣」という固有魔法によって巨大化した剣を振るってスペードのスートランプを薙ぎ払う。
三人は人事部門所属の魔法少女でそれなりに腕は立つ……が、スートランプ相手に善戦できるほどの強さは持っていなかった。
しかし、現に三人はスートランプ・ゴールドリゲイリアに助けられる形ではあるもののスートランプ相手に一人の犠牲も出さずに戦闘を続け、スートランプとスートランプⅡの猛攻を耐え抜いている。
何故、そんなことが可能なのか。その理由は、三人が忌々しいと感じている戦奴の性質に助けられているからである。
ノイシュタインがいる限り何度でも蘇る。この一種の不死性は例え疑似的であったとしても古来より求められてきた人類の夢であるが、戦奴の性質を考えるとあまり喜ばしいものではない。
ただ、この力によってセイント・ピュセル達は間違いなくスートランプ達との戦いを成立させることができているのであり、セイント・ピュセル達も複雑な心境である。
さて、セイント・ピュセル達がスートランプ達と死闘を繰り広げる中、セイント・ピュセル達の生殺与奪を握っているノイシュタインは【キング】ネハシム、【クイーン】プレイグを相手に戦いを繰り広げていた。
【疫病】或いは【疫禍】、【大姦婦】の二つ名を有する伝説の魔法少女――プレイグはその名に恥じない「キノコを作り出す魔法」という固有魔法を使って意識を乗っ取ることができる特殊な茸――寄生茸の胞子を振り撒いていた。
胞子を浴びた瞬間に茸が増殖――瞬く間に意識が乗っ取られるという状態異常を発生させる魔法少女の固有魔法の中でも最強の部類を持つプレイグにノイシュタインが対処できているのは、自身に発生した状態異常や感情変化などを飴玉として取り出す法儀賢國フォン・デ・シアコルの魔法「状態変化消去魔法」を常に発動しながら戦っているからだ。
無数の飴玉がノイシュタインから零れ落ちる中、本来なら儀式や呪文を必要とする法儀賢國フォン・デ・シアコルの魔法を涼しい顔で無詠唱で発動し続け、更に﴾神すら殺し英霊を従える槍を操るよ﴿の力が宿った槍で黄金の光線を放ち続ける。
「――聖槍の聖撃! ……先に厄介なプレイグの方を倒しておきたかったが、攻撃が当たらぬのは厄介だな」
「私の魔法が無効化され続けている……本当に厄介ですわ」
「――その力、欲しいな。戦奴となり、我に仕えよ!」
「させませんよ! 天界の盾」
ノイシュタインが聖槍をプレイグへと投げつける。
因果を無視して命中する聖槍は嫌な予感がして回避行動に移ったプレイグを物理法則を無視して追尾し始めた。
ノイシュタインがたった一本の得物を投げてしまったため、ノイシュタインを守る武器はない。
ネハシムはこの隙を突いてノイシュタインに攻撃を仕掛けることもできたが、ネハシムが真っ先に行ったのはプレイグを守るように六枚の燃える翼の一枚を盾へと変化させ、プレイグを守るように展開することだった。
「天界の螺旋」
更に三枚の翼をスクリュー状にしてノイシュタインへと放つ。
六枚の翼の半数を消費する技というだけあって、その威力は折り紙付きだ。例え高級魔法少女であっても貫くことが可能な攻撃を素手の魔法少女に受け止める術はないとネハシムは勝利を確信していたのだが……。
「なかなか良き技だ。しかし、我が何も対策せずに唯一の得物を手放したとでも思ったのか?」
ノイシュタインが右手を突き出すと同時に三つの魔法陣が展開され、魔法陣が三つ重なると同時に銀色に輝く壁が出現――スクリュー状の羽を受け止めた。
「銀の盾――貫通困難な盾を作り上げる魔法だ。――しかし、良いのか? 我への攻撃に些か力を割き過ぎだと思うのだが」
ノイシュタインに促され、罠だと疑いつつもプレイグの方に視線を向けると、ノイシュタインの投げた聖槍が翼を一つ消費して創り出した盾を貫いてプレイグに迫っていた。
ネハシムはノイシュタインへの攻撃を切り上げて三枚の羽をプレイグの防御に回そうとする。しかし、ネハシムの羽がプレイグの防衛に回る前に聖槍が徐々にプレイグとの距離を詰めていき、逃げに徹していたプレイグの足を貫いた。
「プレイグよ、お主に命ずる。ネハシムを戦奴にするために我を援護せよ!」
「――ッ!? 身体の自由が効かないわ! ごめんなさい、ネハシム様」
プレイグが茸の胞子を撒き散らし、そのまま茸の胞子の中を駆け抜けたプレイグは一枚の羽を変化させて創り出した防護服を纏ったネハシムに右ストレートを放った。
ただの格闘であってもプレイグは歴戦の武闘派魔法少女、一撃一撃が洒落にならないほどの破壊をもたらすことをプレイグの師匠であるネハシムは誰よりも良く知っていた。
右ストレートから左アッパー、回し蹴りからの頂肘、左手からの寸勁――どれもネハシムにとっては問題なく対処できるものではあるが、今回の戦いで警戒しなければならない相手はプレイグではなく、ノイシュタインだ。
流石にネハシムでもネハシムの弟子の中で最も強いプレイグの攻撃を片手間で対処することはできない。ノイシュタインの対処を一枚を防護服に、一枚を念のために残し、残る三枚の翼だけでしなければならないという状況に流石のネハシムも頭痛がした。
ノイシュタインはプレイグにネハシムとの戦いを任せている間に呆気なく聖槍を回収すると、プレイグと近接戦闘を続けるネハシムに容赦なく「聖槍の聖撃」を放つ。
「天界の盾」
三枚の翼を消費して「天界の盾」を三つ展開――盾で破壊の力を宿した黄金の光線を辛うじて防いでみせるが、黄金の光線を浴びたことで二枚の翼は焼き尽くされ、一枚も大きく消耗した。
ネハシムは残った一枚の翼を分裂させ、三枚の翼を創り出した。上限が四枚というだけで、減った翼が元に戻らない訳ではない。
とはいえ、二枚の翼を盾にしてようやく止められるレベルの攻撃を代償無しに連発できるという脅威が無くなった訳ではない。ネハシムは依然として劣勢に立たされている。
「ほう、破壊された翼は時間経過で修復されるのか。それに、消滅しても分裂させることで枚数を元に戻すことができるようだな。上限は六枚……厄介な魔法だな。――ならば! 娘々よ、お主の魔法、使わせてもらうぞ!」
ノイシュタインは「巻物の中に物を閉じ込める」固有魔法を発動して巻物を生成し、プレイグを守るために使用したことで大きな穴が空いてしまった翼を巻物に封じた。
ノイシュタインの目論見通り、封印された翼を補填することはできないようだった。枚数は五枚に減り、一枚はプレイグ対策として手放せないとなると四枚の翼でノイシュタインを仕留めなければならない。
「天界の螺旋! 燃え盛る天界の炎」
三枚の翼をスクリュー状にしてノイシュタインへと放つ。
更に翼の一つを炎へと変化させ、通常の魔法少女であれば一瞬にして灰になる程の高火力火炎放射をノイシュタインに向けて放った。
ノイシュタインは巻物を前に開いて「天界の螺旋」を封印し、続けて火炎放射を巻物を掲げて防ぐ。
ネハシムの狙いは三枚の翼を囮に利用し、巻物諸共ノイシュタインを焼き尽くすというものであったが、巻物を焼き尽くす前に巻物に封印されてしまうというのは流石にネハシムも予想外だったようだ。
ネハシムの翼は残り一枚、しかしその翼はプレイグ対策に必須の防護服に変化させている。
ネハシムはこの一撃で確実にノイシュタインを仕留めるつもりだった。そのため、使える手札を全て消費したのだが、それが裏目に出たことで更なる劣勢に立たされることとなる。
「天界の極寒」
ネハシムは起死回生の一手として防護服へと変化させていた翼を密度を減らしてネハシムの周囲に展開させ、表面を超低温にすること徐々に付近の温度を下げていく。
極寒の中では茸の増殖は起こらない。プレイグの固有魔法を無効化しつつ、更にノイシュタインにもダメージを与えられる。これ以上の手はネハシムにも思い付かなかった。
「なるほど、極寒ならば我にもダメージを与えることができる。良い手を考えたな。しかし、これでお主を守る盾は無くなった」
ノイシュタインは手に持った聖槍をネハシムへと投げる。ネハシムは全力で聖槍を躱し続けたが因果を無視して命中する聖槍から逃げ切ることは流石のネハシムにもできなかった。
聖槍はネハシムの心臓を貫き、聖痕を刻みつける。
ネハシムとプレイグ――親衛隊の魔法少女を二人新たに戦奴に加えたノイシュタインは、その後、紅桜、拳法姫の娘々、セイント・ピュセル、スートランプ・ゴールドリゲイリアに加勢する。
やはり、八賢人の現身と親衛隊所属の武闘派魔法少女の相手はスートランプとスートランプⅡには荷が重く、ノイシュタイン達によって瞬く間に全滅に追い込まれた。
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