Act.9-96 魔法の国事変 scene.36
<三人称全知視点>
――時間は少し遡る。
圓達がハート魔導城を目指す中、親衛隊の魔法少女達――【キング】ネハシム、【クイーン】プレイグ、【ジャック】マシュー・プキンとの戦いを引き受けたノイシュタイン、オスクロ、セイント・ピュセル、拳法姫の娘々、紅桜の五人はネハシム、プレイグ、マシュー・プキン、そして親衛隊の魔法少女達に加勢した人造魔法少女――スートランプ
、スートランプⅡと戦いに身を投じていた。
と言っても、ネハシム、プレイグ、マシュー・プキン――親衛隊の魔法少女達との戦いはセイント・ピュセル、拳法姫の娘々、紅桜の三人には荷が重いということでノイシュタインとオスクロの二人が引き受けているという状況だが。
「聖槍の聖撃!」
﴾神すら殺し英霊を従える槍を操るよ﴿と呼ばれる固有魔法によって生じた槍を前にしても蒸発することなくその場に存在し続ける三人の親衛隊の魔法少女を見て改めて三人の魔法少女が猛者だと判断したノイシュタインは聖槍の破壊の力を宿した黄金の光線を放った。
その黄金の光線は核兵器をも凌駕する力を秘めている。流石に光線には因果を無視して命中するという性質はないが、当たれば魔法少女であっても蒸発、更に掠っただけでも戦奴化するという規格外の力を持つ。
つまり、ノイシュタインの攻撃はいずれも掠ることだけでも即刻ゲームオーバーとなる厄介なものばかりである。ノイシュタインを撃破するためには一撃も攻撃を浴びずに八賢人の現身という高級魔法少女にダメージを与える必要がある。
無論、身体能力も尋常ならざる上に耐久力も高いため並大抵の攻撃では倒すことはできない。
更に、ノイシュタインという魔法少女の正体は戦奴を含めた総軍であるため、戦奴が増えるほどノイシュタインは強くなる。その上、戦奴と化した者の能力をノイシュタイン自身も使えるようになるため、戦奴のバリエーションが増えれば増えるほどノイシュタインの隙は無くなっていく。
また、戦奴側もノイシュタインが死なない限り何度でも甦ることができるという不死性を獲得するため、戦奴を撃破することでノイシュタインの力を削ぐことは不可能である。
戦奴の解除はノイシュタイン本人が行うか、ノイシュタイン自身が死亡するか、あるいはノイシュタインと戦奴の間に生じている絆を断ち切るかのいずれかでしか行えないため、ノイシュタインの力を削いでから戦いたいのであれば、『這い寄る混沌の蛇』が保有する「絆斬り」で一人ずつ戦奴を減らすか、ノイシュタインを単体で全く繋がりのない世界――異世界に召喚してしまうかの二択である。まあ、総軍と化したノイシュタインを圧倒できるほどの力があるならば、別にそのままノイシュタインを撃破してしまうのが一番手っ取り早くはあるのだが……。
ちなみに、このチートと呼ぶに相応しい反則級魔法も求道神レベルまで強化した求道の霸気の防御力ならば無効化できる。
実は固有魔法の無効化そのものは求道の霸気でも可能なのだが、ノイシュタインがあまりにも強過ぎるため、通常の求道の霸気では連続で十秒程度耐えるのが限界なのである。まあ、求道の霸気も維持し続けることは不可能に近いので、対抗手段があるからと余裕を見せず、一気に畳み掛けるべきだ。……まあ、それができるならば、ではあるが。
『全く、素早い奴らめッ! 我がブレスを浴びて朽ち果てるがいい!! 暗黒竜の咆哮!!』
古代竜としての本来の姿を解放したオスクロが口を大きく開き、闇のブレスをマシュー・プキンへと放つ。
「……狙いが見え見えだ。その程度の攻撃で我輩を倒せると思ったか?」
『我の攻撃がこれで終わったと思ったか! 暗黒竜の怒號』
再びオスクロがブレスを放つ……が、今度のブレスは無数の漆黒の光条のようなものへと分裂し、紡錘形の輪郭をなぞるようにマシュー・プキンに殺到する。闇のブレスを躱すために空中へと跳んでいたマシュー・プキンは身動きの取りにくい空中でマシュー・プキンに襲い掛かり、マシュー・プキンは攻撃を躱し切れずに直撃で浴びてそのまま地面に落下した。
しかし、マシュー・プキンは強靭な肉体を持つ魔法少女である。古代竜のブレスを耐え切ってみせ、満身創痍でも微塵も諦めの感情を見せずに立ち上がった。
マシュー・プキンは地面を抉る勢いで加速すると、そのまま細剣の切っ先を高速でオスクロへと突き出す。
「突き刺した相手を洗脳する細剣」という固有魔法の込められた細剣は掠るだけでも効果を発揮する。流石に戦奴を通じて本体にも洗脳の影響を及ぼすことはできないが、オスクロの洗脳に成功して「オスクロに聖痕があるのは勘違いだ」という洗脳が施されれば戦奴化が解除されてしまう。
洗脳できる相手は一人に限られ、新たに洗脳をした場合はその前にかけられた洗脳は解除されてしまうが、一度戦奴化が解除されてしまったという事実は変わらない。戦力強化をするためには再び聖痕を刻んで戦奴にする必要がある。
ノイシュタイン単体でも尋常ならざる強さだが、オスクロが戦奴であることによるノイシュタインの強化の恩恵は大きい。何が起こるか分からないユーニファイドで不測の事態に対処するためにはオスクロの力が必要不可欠だと考えているノイシュタインは、少なくともオスクロだけは手放したくないと考えていた。……まあ、当のオスクロ本人にとってはお世辞にも嬉しいとは言えない執着なのだが。
オスクロは上空へと飛翔して細剣による突きを回避すると、無数の闇の槍を降り注がせた。
『――暗黒流槍群!!』
無数の闇の槍が降り注ぎ、マシュー・プキンを刺し貫く。最後に巨大な漆黒の槍が落下し、マシュー・プキンの腹部を貫通した。
『――まさか、これほどの攻撃を浴びても戦闘を続行できるとは!?』
流石のオスクロも死を免れないほどのダメージを負ってなお、平然とした顔で戦闘を続行するマシュー・プキンに動揺を隠せない。
「自己洗脳だな。頬のところに赤い筋があるだろう? 自らを細剣で傷つけて自分は何もダメージを受けていないと思いこんでいるのだ。恐らく、生命力にも何らかの補正を入れているのだろう。……とはいえ、失った部位を再生することはできないし、補正にも限界がある筈だ。それに、今魔法が解除されればマシュー・プキンは命を落とす。つまり、マシュー・プキンは洗脳魔法を使うことができないということだ。事前に圓殿から聞いていた攻略方法は自己洗脳でもどうにもならないほどのダメージを与えることだ。――固有魔法自体は剣に宿っている。剣さえ回収できれば圓殿も納得して頂けるだろう。構わず倒せ」
『言われずともそのつもりだ! 暗黒の楔!』
闇の魔力で作られた無数の楔がマシュー・プキンに打ち込まれる。しかし、魔法そのものに威力が無かったため、マシュー・プキンは全く意に返さず空中へと足を踏み出した。どうやら、洗脳魔法で「自分は空を走れる」と錯覚させたらしい。
『――暗黒輪球爆!!』
オスクロは闇の魔力を迸らせ、無数の闇の球体を繋ぎ合わせた輪を宛らマシュー・プキンを原子核としてその周囲を回る電子の軌道の如く配置――内部の輪から順番に狭まっていき、マシュー・プキンに命中すると同時に漆黒の炎の爆発を引き起こす。
爆発は輪の数と同じ九回引き起こされ、その度に「暗黒の楔」により設置された楔が消滅と同時に追加ダメージを与える。
「暗黒の楔」には攻撃によるダメージが発生した場合に呼応して追加のダメージを発生させるという効果がある。一度使用すれば再度設置しなければならないという点は些か厄介な点ではあるが追加ダメージはかなり多いのでオスクロも重宝している技だ。
幸い、「暗黒輪球爆」の攻撃速度はあまり速くはない。
対象を取り囲み、対象の行動に合わせて移動するという性質上、回避不能の攻撃となるため速度の遅さはあまり苦にはならない。次の攻撃の発生よりも前に「暗黒の楔」を設置できるという点では「暗黒の楔」と相性がいい魔法だ。
『――暗黒竜の咆哮!!』
更にダメ押しとばかりに闇のブレスをマシュー・プキンに向けて放つ。
古代竜の有する最大火力攻撃のブレスを吐きながらも並行して「暗黒の楔」を再発動し続け、「暗黒竜の咆哮」、「暗黒輪球爆」、そして「暗黒の楔」による追加ダメージでマシュー・プキンを撃破しに掛かった。
流石の自己洗脳状態のマシュー・プキンでもこれほどのダメージを立て続けに浴びせられればただでは済まない。ブレスを浴びた部分の肉は溶け出し、爆発のダメージと「暗黒の楔」による追加ダメージはマシュー・プキンの命を削っていき、三発目のブレスを浴びたところでようやくマシュー・プキンは命を落とす。
マシュー・プキンの手から落下した細剣がカランと石畳の上で音を立てた。
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