Act.9-94 魔法の国事変 scene.34
<三人称全知視点>
「光炎貫突槍」
三つの魔法陣から光の槍が出現し、螺旋を描くように回転しながら光の速度で繁松の背中へと放たれた。
神瞳通を使って認識範囲を広げた繁松は光の槍に消滅の力を向けるも、やはり円華の固有魔法の力で無効化されてしまう。
仕方なく超人的な魔法少女の身体能力を発揮して三本の槍を回避したが、円華は更に九つの魔法陣を展開し、新たに九つの槍を同時に繁松へと放った。
そこに追い討ちを掛けるように九つの魔法陣を生成――次々と繁松に向けて槍を射出していく。
「光炎星矢!!」
更に光の矢の雨を繁松の頭上と足下に展開した巨大な光の魔法陣から放つ。
繁松の神瞳通は消滅能力が危険視されがちだが、この副次的効果が封じられても圧倒的な認識能力は健在である。流石に未来視までは行えないが魔法少女の身体能力と組み合わせれば攻撃を認知してから回避することも造作ない。
勿論、それは神瞳通の怖さを誰よりも知っている円華も承知の上だ。
では、いかにして繁松を倒すのか? 円華が選んだのは飽和攻撃を叩き込んで繁松の対処能力を上回るという作戦である。
「――ッ!? 手数があまりにも多過ぎる! 捌き切れん!!」
繁松にとっては全て見えているにも拘らず回避できないという地獄のような時間がまるで永遠かと錯覚するほどに続いた。
槍を回避しようと回避行動をとった瞬間に頭上から降り注いだ矢を浴びる。それも、一本や二本ではない。矢の雨の密度は高く、とても回避し切れるものではないが、矢の雨をできる限り避けようとすると、今度は魔法陣から放たれる槍に貫かれる。必然的に槍の回避に専念することになるが、矢の雨は次々と繁松の全身に突き刺さり、身体能力を鈍らせて体力を削っていく。
その上、神瞳通も使う際にかなりの集中力を要する。認識範囲を広め、相手を消滅させるほどの認識を行うためには目から入ってきた常人の数倍、いや数百倍、数千倍の情報で処理しなければならない。神瞳通を会得したタイミングでこの常人離れした処理能力も獲得はしているが、それでも限界はある。
魔法少女化することでその処理能力も格段に増し、集中力も高まった。『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』において、太多繁松は神瞳通の使い過ぎによる処理能力のキャパシティ越えによって生じた大きな隙を突かれて敗北を喫しているが、その弱点も魔法少女化した時点で大きく補填されている。
しかし、それでも長く攻撃に晒されれば集中力も切れてくる。処理能力のキャパシティ越えには至っていないものの、長時間の神瞳通使用が疲れを生じさせ、繁松の集中力は低下。
通常であれば回避できる筈の光の槍を浴びてしまう。
「――くっ、こんな結末な、認めないッ!」
「――させないわ!」
無数の槍と矢に貫かれ、満身創痍の繁松は最後の力を振り絞って時間を巻き戻そうとするが、桃花、篝火、美結、小筆、汀、クレール、デルフィーナ、レナード、トーマス、エイミーンが『時空魔導剣クロノスソード』を振り下ろして時間加速魔法「時間加速」を発動して、「豊穣なる時間の支配」の発動を無効化されてしまった。
その後も光の矢を無数に浴び、光の槍で腹部を貫かれたタイミングで魔法少女の姿を維持できなくなり、繁松は元の老人の姿に戻った。
口からは血を流し、背中には無数の光の矢が突き刺さり、幾本の光の槍が繁松の身体を貫通している。光の矢と光の槍が魔法解除によって消滅した瞬間、背中には無数の鏃跡が残り、腹部を含む数箇所に空洞が空くという凄惨な姿と成り果てた。
「……負けたか。……これだけの力を得ても、私は貴女を永遠の存在にできなかったのか」
「……ギィーサム」
「貴女は本当に変わらないですね。……そんな悲しそうな顔をしないでください。僕はただ僕の願いを叶えるために生きて、そして死んでいくだけですから。……あの世界でも、この世でも」
「ギィーサム、本当に私を殺すことが貴方の願いだったのかしら? ……私は違うと思うわ。もう、自分の心を偽る必要はないのよ」
自分かギィーサムの前から去らなければ、彼が孤独に苛まれることも、「セレンティナ=フリューリングを永遠の存在にする」という願いを抱くことも無かった。
自らが最愛の姉を追い詰めることに加担し、喧嘩別れになってしまった最愛の姉は失意のままに死んだ。
もう二度と最愛の姉には会えないという事実をギィーサムは唐突に突きつけられ、美化された思い出を、理想化されたセレンティナに縋らなければ心が壊れてしまうような状態だった。いや、もう、既にギィーサムの心は壊れてしまっていたのかもしれない。
もう、そこまで壊れてしまっていたギィーサムには、セレンティナが転生しているということが、彼女が幸せな人生を送っているということが許せなかったのだろう。
自分がこれほどセレンティナを愛しているというのに、セレンティナだった人は新たな生を受け、自分のことなど忘れてしまってそれぞれの人生を楽しんでいる。
「総てを愛し、永遠の存在」にするという願いを抱くようになったギィーサムはそれと同じだけ自分を見捨てた姉を、姉を奪った世界を許せなかったのだ。……その事実にギィーサム本人は気づいていなかったようだが。
円華はセレンティナの姿となり、僅かな命となった繁松を抱擁した。
繁松はセレンティナに包容され、ようやく自分が本当は何を願っていたのかを思い出した。
(……そうか、僕はずっと、姉上に……)
抱き締められた温かさが、凍てついた心を溶かしていく。
まるで、ギィーサムだった頃に戻ったかのように、繁松の心は優しさに満たされた。
「……ごめんなさい、姉上。……僕は」
「いいのよ。……私こそ、貴方を独りにして、寂しくさせてしまってごめんなさい。……でも、私は貴方のことを片時も忘れたことは無かったわ」
あのゲームだった頃の世界ではついぞ伝えられなかった言葉――セレンティナは決してギィーサムのことを忘れてなどいなかった。
『日蝕〜絆縁奇譚巻ノ三〜』の世界でラスヴェートはギィーサムの墓を前に泣き崩れた。彼が自殺をしたと聞いて、セレンティナの死が彼を追い詰めてしまったのではないかと恐怖と罪悪感に苛まれた。
だから、四季円華として生まれ変わった時、ギィーサムの転生者である太多繁松と出会って、年齢は随分と離れてしまったがもう一度あの頃とは違う関係を構築できるのではないかと期待していた。
しかし、再会したギィーサムは円華の敵と成り果てていて、円華として生まれ変わった人生でできた多くの友を殺され、傷つけられ、だから敵対するしか無かった。
すれ違ったまま本当の願いを叶えられなかったセレンティナとギィーサムはこの異世界ユーニファイドでようやく本当の意味で向き合い、そして、本当の願いを叶えることができたのである。
「姉上……お願いがあるんだけど、いいかな?」
「えぇ、勿論よ。お姉ちゃんに叶えられることだといいのだけど」
「ギィーサムに、僕みたいな思いはさせないで欲しいんだ。まだ、この世界では学園生活は始まっていない……だから、あの不幸はまだ止められると思う」
血を吐きながらも、最後の願いを託す繁松の顔を見ながら、円華は「私はどうすればいいのかしら?」と頭を悩ませる。
『管理者権限』を持つ神となった円華はラスパーツィ大陸に干渉しないと決めていた。
セレンティナは自分とは別の存在として生きている。確かにこれから起きる未来のことを教えれば最悪の未来は回避できるだろう。
でも、本当にそれでいいのだろうか? 例え、それが円華にとってもこの世界のセレンティナにとっては違うのではないだろうか、と。
「……でも、私は」
神となった自分にはもうラスパーツィ大陸に関わってはならない……そう戒めていた自分の心が、繁松の最後の願いで揺れる。
本当は円華も、セレンティナがギィーサムとイリオットと、大切な人達と共に生きたいという願いを捨てられずにいたのだ。……しかし、それは本来あるべき歴史への干渉で。
繁松の亡骸を抱えた円華は、堂々巡りの思考の海に沈んでいった。
◆
円華が繁松との戦いを繰り広げていた頃、桃花、篝火、美結、小筆、汀、クレール、デルフィーナ、レナード、トーマス、エイミーン、鬼燈の十一人は残った那由多彼方と戦いを繰り広げていた。
「アクセラレーション・スパーク! アクセラレーション・ソニック! アクセラレーション・フラッシュ! アクセラレーション・ライトニング! 終焉の光条!」
神速闘気を纏って俊身を使うことで基礎スピードを高め、更にダメージを受ける代わりに速度を上昇させる魔法を連続で発動して速度を高めたレナードが魔法を込めた弾丸に闘気を込めて爆発的な威力へと高めて発射する。
殺戮級の光条が那由多彼方へと迫るが――。
「願いを叶える魔法の札!」
那由多彼方が一枚のカードを掲げて呪文を唱えた瞬間、殺戮級の光条は跡形もなく消え失せた。
「……やっぱり、恐ろしい魔法よね。那由多さんの固有魔法って」
「願いを叶える魔法の札」という固有魔法は縛りが少ない故に強力無比な力を持つ。
汀、クレール、デルフィーナが魂魔宝晶を持つ魔法少女でありながら魔女化に怯えずに済むのは、那由多彼方が何度目かの願いで生み出した「自動浄化魔法」のおかげである。
この力は那由多彼方の弱点を解消するために生み出したものであったのだが、その元々の願いは結局のところ叶えられることはなかった。
「自動浄化魔法」では那由多彼方自身の固有魔法の使用による魂魔宝晶の濁りを取り除くことはできない。魂魔宝晶の呪いを除去するためには魂魔宝晶から生じた魔女を討伐することで得られる魔女の卵に呪いを移すしかない。
しかし、魔女は魔法少女から生まれる存在である。
「自動浄化魔法」があるにも拘らず魔女になる魔法少女は那由多彼方の仲間にはいない。
また、地上世界でも魔法少女に遭遇できる確率は限りなく低く、必然的に魔女が出現することはほとんどないため、魔女の卵を入手する機会はほとんどない。
確かに万能に限りなく近い魔法ではあるが、制限も多く、代償も大きい。
桃花達は汀達からこの弱点について聞き、この固有魔法を使い続けさせることで魔女の卵を枯渇させ、那由多彼方を魔女化させ、魔女化した那由多彼方を討伐するという作戦を立てた。魔女化することでどんな魔女が生まれてくるかは分からないが、少なくとも自我を失った那由多彼方を討伐する方が勝算があると考えたのである。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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