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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-92 魔法の国事変 scene.32

<三人称全知視点>


 ――那由多彼方は子供の頃から肉や魚を食べることができなかった。これは、那由多彼方が法華宗を篤く信仰する家に生まれ、「死者が天にも生まれ、動物や他人に転生して巡る」と十界思想に含まれる六道輪廻思想の影響を強く受けたからである。


 那由多彼方は幼少の頃、自分と何一つ変わらない一つの命を食べることが「かわいそう」だと思い、口にすることできなかった。給食の時間には「好き嫌いせずに食べなさい」という教員を含む同調圧力により、最悪の学校生活を送ることになる。しかし、その頃の那由多彼方はまだ菜食主義者の範疇に留まっていた。


 しかし、三十七歳の頃に「植物もまた一つの命である」という事実に気づかされたことで、植物すらも食べることができなくなる。

 「命を奪うことでしか命を繋げない地獄の世界」に絶望を感じていた最中に、魔法少女になる機会に恵まれ、以来ずっと魔法少女に変身して何も食べない生活を送っている。


 那由多彼方にとっては「命を奪うことでしか命を繋げない地獄の世界」に生きるという原罪(シン)から全ての生命を解放することが「本統の幸福(ほんたうのさいはひ)」なのである。

 


 那由多彼方、オルタ=ティブロン、太多繁松は桃花達がイドルフを討伐した直後にイドルフの屋敷に突入する。

 これは、イドルフと多種族同盟、黒の使徒連合軍を潰し合わせ、戦いの末に弱ったところを叩いて簡単に目当ての品を奪うためだった。


 しかし、イドルフを討伐した時点で桃花達は「増魔の指輪アンプリフィケーション」、「封魔の指輪(インビビット)」、「無魔の指輪(インバリデート)」の三つの指輪を四次元空間に回収していた。


 この四次元空間は「瀬島新代魔法――四次元顕現」で作り出したものであるが、本来ならば個々人のための別々の空間として出現するものを事前に共有することで、共有した誰もが望む時に取り出し可能な四次元空間となっていた。

 そして、この四次元空間は「瀬島新代魔法――四次元顕現」を使わない限りは開かない。空間魔法を使えても座標が分からなければ取り出しができないのである。


 結果的に、那由多彼方達は自分達がより多くの利益を得ようとしたために却って「増魔の指輪アンプリフィケーション」から遠ざかるということになった。

 否、寧ろ「増魔の指輪アンプリフィケーション」の入手は絶望的になったと言っても過言ではない。しかし、那由多彼方達はその事実に未だ気付かない。


「久しぶりだね、でもまさか魔法の国まで乗り込んでくるとは思っていなかったよ。『管理者権限』を守りきれなかった負け犬がまさか現身を倒すほどの力を得ているなんてね」


 「負け犬」を強調することで「烏羽四賢フォー・セイジズ・オブ・レイヴン」の四人やオルタと交戦したものの黒華の『管理者権限』を奪い返すことができなかった汀、クレール、デルフィーナの神経を逆撫でするつもりだったが、桃花達は全く動じた様子もなく、余裕綽々という表情をしている。


「汀さん、『増魔の指輪アンプリフィケーション』をぼくに渡してくれるかな?」


「その気はないのは分かっているでしょう? 確かに那由多さんにはお世話になったわよ? でも、この世界を原始海洋の時代まで巻き戻すという思想には前々から賛同できなかったのよねー。ということで、『増魔の指輪アンプリフィケーション』は他の二つの指輪と共に回収したわ。もう、貴女達三人の手が届くところに指輪はないわよ」


「なんてことをするの! 全ての命を救済するためには、この世界を罪から解放して幸せにするためには『増魔の指輪アンプリフィケーション』の力が必要なんだよ?」


「……いい度胸だね! それは、仕返しのつもりなのかな?」


「えぇ、その通りよ。どう? 最悪の気分なんじゃないかしら? 私は最高の気分よ。あの時の雪辱を果たすことができたのだから」


「ブライトネス王国戦争の時に、オルタ=ティブロン――貴女は私達の目の前で黒華さんを襲い、『管理者権限』を奪った。あの時、あと一歩で『管理者権限』が手に入ると思った瞬間に掻っ攫われた時の絶望、ようやく少しは理解できたんじゃないかしら? あの時と同じことよ。貴女がもうアポピス=ケイオスカーンに『管理者権限』を献上しているように、『増魔の指輪アンプリフィケーション』は他の指輪と共に圓さんの手中にある。今ここで私達を倒しても絶対に手に入らないわ!!」


 汀、クレール、デルフィーナが勝ち誇った笑みを浮かべ、オルタが青筋を立てる。どうやら煽るのは好きだが、煽られ耐性は思いのほか低いらしい。


「――ッ! あの時の借りを返したつもり? だったから、今度こそあの世に送ってあげるわ! そして、是が非でも泣き面を晒させて、命乞いをさせて、自分達の意思で私に『増魔の指輪アンプリフィケーション』を献上するように仕向けさせる! 鮫攻爆(ダブル・インパクト)


 オルタが持ち手部分に鮫を彷彿とさせる彫刻が施された骨製の不気味な――魔法少女らしからぬ神話級(ゴッズ)の杖「天地喰らいウルトラバイト・スクアーロ」を構えると、杖先から無数の鮫型の魔力弾を放った。


「……オルタ=ディブロン、君の持つ魔法は少々面倒だと聞いている。『日陰潜り(シャドウダイブ)』に、『幻影潜り(ミラージュダイブ)』、一度でも潜られてしまえばこちらの攻撃が当てにくくなるのだろう? だから、先に動きを封じることにした」


 トーマスの持つ『時空魔導剣クロノスソード』に魔力が収束し、次の瞬間――無数の鎖がオルタの周辺から出現し、オルタを拘束するべく伸びた。

 オルタは「幻影潜り(ミラージュダイブ)」を発動して回避しようとするが、その前に鎖がオルタの両腕と両足に触れる。その瞬間、まるでその部分だけ時間が停止したように硬直し、オルタの意思で動かせなくなった。これでは、「天地喰らいウルトラバイト・スクアーロ」を使って攻撃することも、「幻影潜り(ミラージュダイブ)」や「日陰潜り(シャドウダイブ)」を使って脱出することもできない。


「時間停止の効果が付与された鎖で対象を拘束するオリジナルの時間属性魔法――『時鎖牢獄(コーキュートス)』だ。この時間停止の効果は拘束せずとも鎖に触れただけで作用する。……もう逃げられはしない」


桜花の砲滅(サクラメント・ヘブン)!」


業火偃月(ゴウカエンゲツ)! 業火絢爛(ゴウカケンラン)!」


絹紐の小銃(マジカル・マスケット)! 銃弾の乱嵐ピオッジャ・ディ・プロイエッティレ!」


 そして、ブライトネス王国戦争の時の恨みを晴らさんと言わんばかりに桃花が『スターチスレコード』の魔法技術を加えることで強化した桜の花弁状の桃色のエネルギーを収束して極太レーザーを放つ「桜花の砲光(サクラメント・カノン)」の進化技をオルタへと放ち、篝火が灼熱の業火から偃月刀を作り出し、オルカへと振り下ろすと同時に大爆発を巻き起こし、美結がリボンからマスケット銃を作り出して空中に配置し、弾丸の雨を降らせる。

 高い身体能力を誇るオルタも魔法少女三人の集中攻撃には耐えきれず、そのまま命を落とした。


「――ッ! オルタさん!? 今すぐぼくが魔法を使って生き返らせてあげるよ!」


「……やめた方がいいのではないか? 彼方、貴様の魔法は万能ではなかろう? 使えば使うほど呪いが蓄積するのではなかったか? それに、オルタは私の願いとも、貴様の願いとも相入れぬ願いを持っていた。復活させたところでいずれは殺さなければいけない相手だ、わざわざ復活させる必要もない」


「……それも、そうだね」


 那由多彼方はオルタを蘇生させようとするも、両方の瞳を閉じた老境の紳士の言葉を聞いて思い留まる。

 いくら那由多彼方の魔法でも死者を制限時間を越えて蘇らせることはできない。この瞬間、那由多彼方がオルタを見捨てたことで、オルタ復活の道は無くなったのである。


 前世は腐敗した王国に第三王女として生まれ、革命の戦火の中で命を落とした。

 数年後、同じ国に平民として生まれ、かつて革命を起こした彼らが腐敗した王国の王族達と同じように腐敗の一途を辿っている姿を見て絶望し、世界が停滞することで腐敗することを知った。


 魔法少女となり、『這い寄る混沌の蛇』に入信して、「永遠の清浄なる国家秩序を作り上げる」という願いを叶えるために全てを費やしてきたオルタ=ディブロンという少女の人生はこの瞬間、静かに幕を閉じたのだった。



「……やっぱり見覚えないなぁ。汀さん、知っているか?」


「私も見覚えがないわ。『這い寄る混沌の蛇』の関係者なら多少は分かると思っていたんだけど」


 『這い寄る混沌の蛇』は大規模な集団のため、所属している者もその末端に至るまで知識がある訳ではないが、汀、クレール、デルフィーナの三人は一応、那由多の部下だったので、那由多の交友関係についてはある程度の知識があったつもりだった。しかし、汀もクレールもデルフィーナも那由多と一緒にいる男のことは知らない。


「私は『這い寄る混沌の蛇』の関係者ではない。私は太多繁松、この世界の総てを愛するしがない老人だよ」


 老境の紳士が双眸を開いた瞬間、桃花、篝火、美結、小筆、汀、クレール、デルフィーナ、レナード、トーマス、エイミーンの嵌めたブレスレットを構成する『生命の輝石ラピス・フィロソフィカス・セフィロト』が一つずつ砕け散った。


「……おや、私の愛が効かないとは」


「一体何をしたのですよぉ〜!?」


「私は総て愛している。そして、その愛を永遠にする方法はただ一つしかない。即ち、時間と空間により隔てられること、つまり、永遠に失われてしまうことによってのみ叶えられるのだ。私の瞳は認識したもの総てを消滅させる力を宿した。神瞳通と呼ぶべき力だ。この力を持つ私の瞳で認識したものは一瞬にして永遠の存在になるのだよ」


 二重十字の白い文様が浮かんだ双眸は不気味な輝きを帯びている。


「……太多繁松、圓さんからもらった資料にあったのですよぉ〜。『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』の『管理者権限』を持つ可能性のある老人で、前世でシスコンを拗らせすぎて姉の転生者を殺すことで永遠にするという思想に取り憑かれて物語終盤で凶行に走ったタチの悪い人なのですよぉ〜!?」


「つまり、『管理者権限』を持つ神ってことか。強い奴と戦いたい俺としては別に構わないが……まあ、認識したら即死みたいなのは理不尽過ぎて嫌になるんだけどな……これって一気に難易度跳ね上がったんじゃないのか?」


 那由多彼方とオルタ=ディブロンだけだと当初は予定していたが、そこに『管理者権限』を持つ神が加わるとなれば一気に難易度が増す。

 オルタは死亡したので、残るは那由多彼方と太多繁松だけということになるが、情報が少ない太多繁松と固有魔法が強力な那由多彼方を同時に相手することに不安が拭えない桃花達だった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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