Act.9-90 魔法の国事変 scene.30
<三人称全知視点>
イドルフの屋敷の襲撃を任された桃花、篝火、美結、小筆、汀、クレール、デルフィーナ、レナード、トーマス、エイミーンは屋敷の敷地内に潜入して早々、スートランプⅡ、防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム・バースト】と戦闘になった。
「桜花の砲浄!!」
「業火偃月! 業火絢爛!!」
「絹紐の小銃! 銃弾の乱嵐!」
「幻想戯画・絹紐の大砲! 究極の一射!」
「氷槍雨」
「魔法の手術室。――魔法の刃の舞!」
「幻想魔法毒・凝膠弾!」
「終焉の光条!」
「倶利迦楼羅剣」
「燦く星、宙より堕ちる、なのですよぉ〜!!」
スートランプは魔法の国の人造魔法少女としては最前線の研究の産物であり、配備されているホムンクルスも厳選に厳選を重ねたものであった。
しかし、今回イドルフの屋敷に派遣されているのは冥黎域の十三使徒達との戦いも想定して選ばれた精鋭達である。遭遇直後の総攻撃を浴びてスートトランプⅡ、防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム・バースト】は為す術なく全滅した。
ただし、これは流石にイドルフの屋敷を守る防衛戦力の第一陣に過ぎなかった。
その後も防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム・バースト】はどこから湧いてくるのかと突っ込みを入れたくなるほど屋敷の至るところから現れては桃花達に攻撃を仕掛けてくるが、スートランプⅡという戦力が欠けた第一陣に劣る戦力では桃花達を撃破することができる筈もなく、見気の索敵でホムンクルス達が奇襲を仕掛ける前に把握され、総攻撃を浴びて殲滅されていく。
屋敷はシンメトリーの二階建て、それほど広くはなく攻め落とすのも容易かと思った桃花達だったが、多種族同盟、黒の使徒連合軍の快進撃は二階への階段を上ったところで終わった。
「あれは……なんだ? 魔法少女って感じじゃないよな?」
双子か三つ子のように見える似通った魔法少女が五人。その身纏う揃いの貫頭衣は魔法少女のコスチュームとは思えないほど味気なく、その顔には感情を感じさせる一切の表情がない。
『――まさか、二階まで到達されるとは思ってもみませんでした。念のために戦力を揃えておいて良かったです。初めまして、イドルフ・ギャラン・バグ・チェペシュと申します。本来ならば、私自らお客様をお出迎えするべきでしょうが、生憎と私は魔法少女と戦えるほど強くはありません。それに、魔法少女に比肩する地上の方々もいらっしゃるようですし、私では到底勝てる筈もありません。ということで、私は部屋の中で侵入者の皆様が全滅するのを待つことに致しましょう。――ああ、彼女達は現身の素体です。まあ、残念ながら中身は疑似人格ですが。シェンテラ派でもアヴリス派でもなく、最弱のラスタ派の素体ですので、戦闘力は二派閥のものに劣りますが、それでも並の魔法少女とは比べ物にならない強さを秘めています。それでは、精々頑張って足掻いてくださいね』
屋敷内部で反響するように聞こえていたイドルフの声が消えると同時に、素体達は一斉に拳を構えた。
「八重魔法なのですよぉ〜」
エイミーンの八重術者としての本領を発揮し、ストックしていた水、氷、風、木、土、光、闇、影属性魔法を全て解放する。
対象に命中すると同時に破裂し、無数の水の刃と化して対象を切り刻む水弾を放つ「水斬弾」、対象に命中する寸前で爆発し、傷口から冷気を流し込んで周囲を凍結させる効果のある無数の氷の礫と変化する氷の球体を放つ「氷爆結」、風の刃で構成された竜巻のように変化させた暴風を放って攻撃する「竜巻撃」、対象の生命力を吸収して成長する蔓植物を地面から生やして対象に巻き付ける「吸蔓樹」、無数の岩石を流星群の如く降らせる「流石群」、爆発を浴びた対象には無数の小さな光の粒が付着し、小さな粒が破裂する度に猛烈なダメージを発生させる追加効果を持つ猛烈な光の爆発を発生させる「光爆裂」、ドリルのように回転する無数の闇の弾丸を放つ「常闇弾」、対象の影に干渉して影から無数の槍を発生させて対象を突き刺す「影突槍」が同時に発動して五体の素体に襲い掛かる……が、五人を狙って放ったことで威力が分散したとはいえ、魔法を直撃で浴びたのにも拘らず素体達は一体として撃破された様子もなく、圧倒的な速度でエイミーンに襲い掛かる。
八技などの技術を使用しない状態でも、速度は見気を使ってようやく捉えることができるレベルである。
狙われたエイミーンは咄嗟に回避行動に移ろうとするが、エイミーンが俊身を使うよりも早く五体の素体の拳がエイミーンに迫る。
「魔法の手術室。――魔法の刃の舞!」
しかし、五体の素体の攻撃がエイミーンに届くことは無かった。
無数のメスが展開された「外科魔法」の結界の中を縦横無尽に駆け巡り、五体の素体を切り刻んでいく。「魔法の手術室」を利用して触れることなく「魔法の刃の舞」を武装闘気を纏わせることで高い強度をメスに与えることで五体の素体は高級魔法少女に比肩する強度を持つにも拘らず呆気なく無数の肉塊と化した。
『驚きました。まさか、これほど呆気なく現身の素体を倒してしまうとは……困りましたね。少し予定外です。ですが、次はそう簡単にはいきませんよ』
四体の素体を引き連れ、二人の魔法少女が姿を見せる。
黒いアイドル衣装を纏い、魔法の杖と一体化したマイクを持つ高級魔法少女と純白の着物を身に纏った高級魔法少女を見て桃花達は圧倒的なプレッシャーを感じた。
「どうやら先程戦った素体とやらよりも強い魔法少女のようだな。……となると、差し詰め三賢者の魂を宿した現身というところか?」
『なかなか察しがいいですね。その通り、彼女達はアヴリスとラスタの魂を入れた高級魔法少女です。ただし、正規の方法で作ったものではございませんので、人格の方は抑制されていますが。ただ、私を守るための駒、そう考えてる頂いて構いません』
「……ということだそうだ。黒の使徒としては彼女達をどうしたいと考えている? 保護するのか、それとも殺すのか?」
トーマスはプレッシャーを感じてはいたが、同時にこのメンバーであれば二人の高級魔法少女を殺さずに無力化できると考えていた。
確かに強敵であるが、理不尽なほどの力を感じない。仮に三賢者の二人を殺さずに保護することで利益が発生するのであれば、殺さないという選択も視野に入れるべきだろう。
「圓様も黒華さんも三賢者が居ない国を作ることで合意しているわ。三賢者が一人でもいる限り、三賢者の権威は絶対なものとなり、今の国家の体制は変えることができない。……倒しましょう」
「それじゃあ、許可も出たことだし先制攻撃と行こうぜ! 終焉の光斬!」
レナードが『滅焉剣』に装填した魔法を込めた弾丸に闘気を込めて爆発的な威力へと高め、高速で薙ぎ払った。
「おいおい、これを耐えるのかよ」
人間が食らえば一溜まりもない一撃を浴びても【不協和音】の魔法少女ディゾナンスとクシハラホムラヒメは命を落とさなかった。ただ、流石に無傷で耐え抜くことができた訳でもなくかなりのダメージをその身に負っている。
素体達に関しては今の斬撃で完全に蒸発してしまったようだ。
「……本当に、凄い威力ね」
高級魔法少女の素体を一瞬にして蒸発させてしまうほどのレナードの力に、桃花達は引き気味だ。
しかし、レナードは桃花達の味方である。この攻撃が敵のものであるなら恐ろしいが、味方のものなら心強い。
「私の歌でみんなを幸せにするの!」
魔法の杖と一体化したマイクを握り締め、【不協和音】の魔法少女ディゾナンスは歌を歌い始める。
音程が外れ、不快な声が響き渡った。ディゾナンスの固有魔法「聴く者をネガティブにさせ、他人の記憶すら操作することのできる歌」は恐ろしいほどの力を秘めているが、今回の臨時班参加メンバーに配られた状態異常無効化魔法が施された指輪の効果で固有魔法の効果はかき消され、ただの雑音にしか聞こえない。
「……耳障りな歌だ。――倶利迦楼羅剣!!」
「幻想魔法毒・凝膠弾!」
トーマスが火属性と聖属性の複合魔法で作り出した浄焔により生まれた無数の剣に武装闘気と覇王の霸気を纏わせてディゾナンスへと放ち、トーマスとほとんど同じタイミングでデルフィーナが魔法の毒で作ったゲル状の弾丸の雨を浴びせた。
現身のスペックでも見気の未来視を使って絶妙に調整された攻撃を躱し切ることはできず、更にレナードの攻撃で負った傷の痛みもディゾナンスの動きを鈍らせる効果を発揮し、ディゾナンスはトーマスとデルフィーナの攻撃をほとんど浴びることになった。
ディゾナンスは二人の攻撃を浴びても辛うじて生きていたが、デルフィーナの魔法の毒が徐々に命を蝕んでいき、そのまま命を落とした。
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