Act.9-88 魔法の国事変 scene.28
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「……まず、Queen of Heartの討伐についてはいくつか策がある。ボクの狙う『管理者権限』を手に入れるためにはQueen of Heartの討伐は必須だから、当然ながらあの固有魔法の対策も考えてきているよ。ただこのまま、『はい分かりました仲間に加わりましょう』というのは少し違うと思うんだよねぇ。……身の潔白を証明したいのなら誠実に話すべきことは話すべきなんじゃないかな? 君は一方的にボク達のことを知っているようだけど、そちらはまだ隠し事をしているようだし。それに、君の戦力や君の仕出かした大きな失敗にも興味がある。……無論、後者は今後、ボク達多種族同盟の脅威になりかねないものかもしれないという意味でねぇ」
「……えぇ、勿論お話しするつもりです。この件は圓さんや多種族同盟にとっても関係深い問題ですからね。……その脅威を十分理解している圓さんや多種族同盟の皆様には今更説明する必要もないと思いますが、『冥黎域の十三使徒』の一人である那由多彼方と、次期『冥黎域の十三使徒』と言われるオルタ=ティブロン、彼女達を魔法少女にしたのはこの私です」
そうカルファが打ち明けた瞬間、黒華が圧倒的な霸気を纏ってカルファの胸倉を掴み、カルファを睨め付けた。
「――それは、つまり貴女が、貴女が雪菜さんを危険に遭わせることになったそもそもの元凶ってことなの!?」
「……黒華さん、気持ちは分かるけど少し落ち着こうねぇ。というか、それを言うなら黒華さんの『管理者権限』をオルタ=ティブロンに奪われることになった元凶でもあるんだけど」
「『管理者権限』よりも雪菜さんの身の安全の方が百倍重要よ!!』
「本当にブレないねぇ。最高の百合、ご馳走様です。じゅるり」
「「……本当に親友もブレないよなぁ」」
ラインヴェルドとオルパタータダに呆れられた。……心外だよ。
「私もまさかこんなことになるなんて、あの時には思ってもみませんでした。その時の行いが、結果として自分の首を絞めるような事態になると想像が付いていたらあんなことはしていません。……当時、私はQueen of Heart派を倒すために必要な戦力を集めることに必至でした。魔法の国と地上世界を繋ぐゲートを偶然発見し、この国に流れ着いた、竜の姿から元に人間の姿に戻れなくなってしまった亡国の女王プシューケー=ファルファッラとの出会いを切っ掛けに、那由多彼方、コルヴォ=ロンディネ、オルタ=ティブロン、太多繁松――魔法少女適性を持っていた五人の男女を仲間に加えることに成功した……とあの時は思い込んでいたのです。……実際にはもう一人、ギョドゥ=ドラヴァズという老人も流れ着いていたのですが、彼には魔法少女の適性が絶望的なほど無かったので今思えば良かったのですが、当時、私はそれを非常に残念がったことを覚えています。当時の私は知りませんでしたが、ギョドゥ=ドラヴァズは当時から『這い寄る混沌の蛇』に蛇導師として所属し、那由多彼方もその教義に賛同して信徒となっていました。オルタ=ティブロンは当時は『這い寄る混沌の蛇』に所属していなかったどころかその存在すら知らなかったと思いますので、恐らく那由多彼方経由で『這い寄る混沌の蛇』と接触し、所属したのだと思います」
無関係だと思っていた点と点が繋がっていく。
那由多彼方とオルタ=ティブロンは分かるけど、そこに初代冒険者ギルド総長でスマートフォン専用ノベルRPG『False heaven〜偽りの神と銀河鉄道の旅〜』に登場するDr.ブルカニロの転生体であるコルヴォ=ロンディネや『絆縁奇譚』シリーズのラスボスで『管理者権限』を持っている可能性の高い太多繁松まで絡んでくるとはねぇ。
……というか、プシューケー=ファルファッラやギョドゥ=ドラヴァズといった名前を聞いたことがない人達の名前も覚えておいた方がいいんだろうねぇ。まあ、まず確実に関わってくるだろうし。
……しかし、太多繁松、魔法少女化しているのか。……うん、全く想像がつかない。
あのお姉ちゃんが大好きで色々拗らせまくって「最終的に美とは空虚である」、「時間と空間により隔てられること、更に言えば永遠に失われてしまうことによってその存在は究極の美となって立ち現れる」という考えに到達して狂ったギィーサム。
見た瞬間にの存在が滅ぼされるほどの圧倒的な認識力――神瞳通を持つギィーサムの戦いは『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』、いや『絆縁奇譚』シリーズ最大のクライマックスであり、この戦いはトゥルーエンドであっても死屍累々、犠牲は避けられないものになっている。……そもそも、トゥルーエンドは主人公の四季円華が生き残ることができる世界線という意味だしねぇ。……ハーレムルートに入っていても、ほとんどの場合、攻略対象のいずれかが死ぬ。
真トゥルーエンドのハーレムルートは数ある選択肢の中でもシビアな選択の連続の末に辿り着けるもので、更に太多繁松の行動もバリエーションが用意されていて毎回変化するから彼の行動を先読みした上で正しい選択を連続で選ばなければならないという攻略者泣かせの仕様になっている。……現実で真トゥルーエンドのハーレムルートをクリアできた人って多分そんなにいないんじゃないかな?
とにかく、生まれる世界を間違えたと言われるほど太多繁松の存在は世界観から乖離している。……魔法のある世界だから、ゲーム時代よりはマシになっている筈だけど、その太多繁松も魔法を手に入れているっていうのはねぇ。
「……しかし、彼女達は私の考えに賛同してくれていた訳ではありませんでした。彼女達は数年前、魔法大監獄に秘密裏に潜入し、レベル七に収監されていたあの大犯罪者を含む多くの犯罪を犯した魔法少女達と共に脱獄させてしまったのです。それ以来、プシューケー達は私の前から姿を消してしまったのです。その時になって、私はとんでもない者達に力を与えてしまったのだと、自らの過ちを理解しました」
「ってことは、シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメの脱獄にも絡んでいるってことだよねぇ? ……やらかし度合いが尋常じゃないんだけど」
胃が痛くなってきた……これ、本当に悪意あってやっているんじゃないか? って思うレベルのやらかしだよねぇ。本人は真剣に魔法の国を変えようと必死に努力した結果なんだろうけど。
なんというか、最悪な連中に力を与える原因になっちゃっているし、牢獄から解き放っちゃいけない奴を解き放っちゃっているし……ここまで全部裏目に出ているっていっそ笑えてくるねぇ。
「……あっはははははははははははははははははは」
「やべぇ! 親友が壊れた! おい、圓! ローザ! しっかりしろって!」
「ペドレリーア大陸で、ティアミリスとジョナサンの暴走、先代ラピスラズリ公爵達の暴走、ライズムーン王国でのアクア達の暴走の報告を波状攻撃で受けた時みたいに精神崩壊しているけど、本当に大丈夫か?」
「あははは! 超ウケるんだけど!」って言いそうなラインヴェルドとオルパタータダが本気で心配するくらいボクの気は動転していた。……うん、正直受け止め切れる訳がないよ。
「まあ、いいや。カルファさんのやらかしについてはいずれどこかで響いてくるだろうし、そのタイミングで対処すればいいや」
「……申し訳ございません」
「……ローザ嬢、今は一旦、カルファ殿の失敗には目を瞑り、それよりもカルファ殿の仲間に関する情報を聞いてはどうだろうか?」
「ミーフィリアさんの言う通りだねぇ。……それに、ボク達はそのまま放置していてもQueen of Heartを倒しに向かった。それをわざわざ待ち構えていたってことは、他にも話したい……いや、話さなければならないことがあったんじゃないかな?」
「私はプシューケー達の時の失敗から学び、新しい協力者を今度は更にしっかりと選定して集めました。……その分、人数はあまり集まりませんでしたが。協力者は四季円華さんと、【明王】森羅鬼燈さんの二人です。残念ながら、森羅さん以外の『明王會』所属の魔法少女をコルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンの毒牙から守ることはできませんでした」
「……カルファさんが四季円華さんとコンタクトが取れるのは僥倖だねぇ。彼女は恐らく『蛇の海〜絆縁奇譚巻ノ一〜』、『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』、『日蝕〜絆縁奇譚巻ノ三〜』、『氷の伯爵と二輪の花〜絆縁奇譚巻ノ四〜』、『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』の『管理者権限』を全て持っている。ハーモナイアの完全復活のためには彼女の持つ力が必要不可欠だからねぇ。……ラスパーツィ大陸に派遣した諜報員からセレンティナ=フリューリングが『管理者権限』を持つ神の片鱗を見せていないという報告を聞いて、ローザ=ラピスラズリと同じパターンで『管理者権限』を持つ彼女がいるんじゃないかと予想はしていたんだけど、正直、どこにいるかは全く想像がつかなかった。彼女を探す手間が省けたことについては感謝したいねぇ」
「ありがとうございます。ただ、一つ問題がありまして……その、最近になって、魔法の国から姿を消した筈の那由多彼方、オルタ=ティブロン、太多繁松の目撃情報が上がってくるようになりました。彼女達の目的は不明です……ただ、四季円華さんとの共闘の条件が太多繁松を止めるために協力することなので……もし、心当たりがあれば教えて頂きたいのですが」
「彼女達の目的はイドルフ・ギャラン・バグ・チェペシュの持つ『魔法無力化装置』と並ぶ始原の大賢者ノーアが遺した秘宝『魔法増幅装置』だよ。……そして、恐らくこちらが派遣した多種族同盟と黒の使徒連合軍とイドルフの勢力を潰し合わせた上で、弱ったところに仕掛けるつもりなんだと思う。タイミングを計っているんじゃないかな? じゃなかったらとっくの昔に制圧している筈だし」
「まさか、最初からそれが狙いだったのですか!? あの屋敷には……ですが、潰し合いになって両者が疲弊した後なら……。圓さん、イドルフの屋敷に四季円華さんと森羅鬼燈さんを派遣してもよろしいでしょうか?」
「まあ、あのメンバーじゃ潰されて終わりにはならないだろうけど、因縁ある四季円華さんの気持ちを汲むならそれしかないだろうねぇ。一応、イドルフの屋敷に向かって面々にはメールで連絡を入れておくよ。……そっちも大切だけど、もしカルファさんが味方になってくれるのなら、研究部門を制圧しに行ったメンバーを止めないとねぇ。カルファさんならきっと彼女達のことを説得できるだろうし」
「……そうですね。私は留守を預けたステラさんに連絡を入れます」
「じゃあ、ボクは榊さんに……戦闘になっていないといいんだけどねぇ」
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