Act.9-87 魔法の国事変 scene.27
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
【キング】ネハシム、【クイーン】プレイグ、【ジャック】マシュー・プキン――親衛隊所属の魔法少女三人の討伐をノイシュタイン達に任せ、ボク、雪菜、黒華、ラインヴェルド、オルパタータダ、ミーフィリアの六人は瓦礫の山と化したハート魔導城を目指していた。
崩落したハート魔導城の玉座の間には圧倒的な強者の気配が一つ依然として存在し続けている。それどころか、圧倒的な強者の気配の持ち主であるQueen of Heartを守護している者達の気配も一つとして減っていない。
どうやら「震撃薙刀【神薙】」を使って引き起こした震動による宣戦布告は大した影響を与えなかったようだねぇ。
……それどころか、ハート魔導城から魔力が溢れ出して、まるで時間を巻き戻しているかのように少しずつ再生していっている気配もある。流石は始まりの魔法使いノーア=ネフィリムが残した遺産の一つ、一筋縄ではいかないみたいだねぇ。
まあ、あれはただの宣戦布告であの攻撃一つでどうこうするつもりは更々無かったんだけど。
最初はゆっくりだった再生も徐々に加速し、数十分後にはハート魔導城が完全復活を遂げた。
一方、ボク達は俊身を駆使しても未だハート魔導城に到着することはできず……何らかの距離に干渉する魔法の効果が発動しているようで、明らかに魔法の国の中心街区画からハート魔導城までの距離が長くなっている。……まあ、同じところをぐるぐる回らされている訳でもないし、ハート魔導城までの道が引き伸ばされて恐ろしいほどの距離になっているだけだからはしっていればいつかは辿り着くんだけどねぇ。
【ジョーカー】スートランプ・ロイヤルガードや【エース】ネモフィラといった襲撃が想定されていた魔法少女達の襲撃も今のところは兆候すら無し。
ハート魔導城に到着した頃に残る親衛隊の魔法少女達が攻撃を仕掛けてくるんじゃないかと思っていたんだけど……。
ハート魔導城へと続く大通りの終着地点、迷路と化した庭の入り口で、一人の魔法少女がボク達を待ち受けていた。
透け透け素材のロングスカートの占い師風の魔法少女……正直、何故この場所に彼女が、と思ったよ。ボクの予測だと研究部門に居る筈なのに……まあ、どこに居ても同じこと、倒さなければならない敵ということに変わりはない。
「……五老臣、カルファ・ミディ・ベルン・エディア」
「黒の使徒の刻曜黒華さんに、真白雪菜さん……それに、多種族同盟の方々ですね。お会いできることを楽しみにしていました、百合薗圓さん」
全く一点もボク達に対する害意も殺意を抱かずに、この場所で待っていたカルファにボクも驚きを隠せない。……はっ? これ、どういう状況?
『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』の中で五老臣という存在は影が薄い。一応、五人とも設定されているけど、その設定が『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』を作るにあたり効果的に使われたかという問いには否と答えるしかない。つまり、半分くらいは没設定の、空気みたいな存在だったということになる。
まあ、治世などという面倒なこと甚だしいことは下々の者に任せて玉座に踏ん反り返っていたいという不遜極まりない女王陛下が魔法の国を運営していくためにはどうしても必要なピースだったから出したという程度の存在でしかなかったんだけどねぇ。……異世界化後のQueen of Heart政権の魔法の国というものを考えるためには重要な存在ではあるし、最重要暗殺対象ではあるのだけど。
一応、カルファは他の五老臣とは異なり魔法少女という存在を比較的大切に扱っている存在ではある。……というか、自他共に認める魔法少女マニアの変態という行き過ぎた愛を魔法少女に向けるような人なんだけど。
清く正しい魔法少女という存在に強い拘りと執着心を持っているが、その価値観は歪んでおり、理想の魔法少女を生み出すためならば、他者を犠牲にすることを厭わず、良心の呵責すら覚えないという狂人でもある……とまあ、魔法少女にとってはベクトルが違うだけで、他の五老臣と同じく危険人物なんだけもねぇ。
カルファは魔法少女にとって最悪の環境である魔法の国の現体制に不満を持っており、五老臣になったのもQueen of Heartに三賢者のうちの二人を倒してもらうためであった。
その目標は達成されたものの、彼女が五老臣の一角として君臨するQueen of Heart政権は彼女にとっては魔法少女を使い捨てるという最悪に等しい治世の筈なんだよねぇ。……この大いなる矛盾は『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』の中で五老臣が空気扱いになることが決まった時点で放置され、それ以上進展することは無かった。
まあ、彼女はそもそも魔法使いでありながら魔法少女の素質を持つ珍しい存在として設定されていたんだけど、『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』には全くと言っていいほど登場しなかったから、その要素も全く活かされなかったし。
……と言いつつ、その立場と彼女の思想を考えればどういう意図で動いているのか察しはつくんだけどねぇ。
でも、それは五老臣の中に裏切り者がいるという物語を更に複雑にしてしまうような要素を持っているし、Queen of Heart派という巨大な勢力に例え五老臣の一角であったとしても所詮は現身ですらないただの魔法使いで魔法少女が挑んだところで勝利は現実的ではないということにもなるんだけど。
臥薪嘗胆の末、密かに手勢を集めたところであのQueen of Heartの固有魔法を打ち破ることが不可能にことは、Queen of Heartを設計した彼女自身にも理解できている筈だし、Queen of Heart自身が最大の弱点である現身停止機能を取り外して制御不能状態になっていることに気づかない筈も無い。
理論上、Queen of Heartを倒せる魔法少女な魔法の国には居ない筈なんだよ。
だから、カルファがQueen of Heartを倒すなんてことを考える筈がない。そんなリスクしかない選択をするよりも自分の命を大切にして五老臣として君臨し続けた方が良いに決まっている。
Queen of Heart自身はほとんど治世に無関心なんだから、魔法の国の魔力の欠乏という問題が生じることさえ無ければ、Queen of Heartは魔法少女に対してそもそも興味すら抱かないしねぇ。
「単刀直入に聞かせてもらうよ。……君は敵かな? それとも、味方かな?」
「――私は味方です」
「……嘘、でしょう?」
黒華は戸惑いを隠せない。かく言う、ボクもカルファの言葉に驚きを隠せない。
ボク達は見気を使って心を読むことができる。嘘を言っているのであれば、副音声として心の声が、本音が聞こえる筈だ。
それが、聞こえない。つまり、「味方である」と言う言葉に嘘はないと言うことだ。
「……カルファ・ミディ・ベルン・エディア、君は最悪の環境である魔法の国のかつての体制に不満を持っていた。五老臣になったのもQueen of Heartに三賢者のうちの二人を倒してもらうためだった。……そして、予定通りQueen of Heart派がミューズ・ムーサ・ムーサイとリツムホムラノメノカミを殺害することに成功した後、Queen of Heart派の五老臣の一人として表向き行動しながら、裏ではQueen of Heart派を倒すための人材を集めていた……ということに相違はないかな?」
「えぇ、流石は創造主様。その推理に異論は一切ありません」
「……おい、親友。もしかしなくても、こいつって敵じゃないってことか?」
「そうみたいだねぇ。……というか、ボク達多種族同盟の目的である黒の使徒を中心とする新体制の魔法の国の建国、魔法少女の権利を保障し、魔法使いと魔法少女が平等に暮らせる新国家の建国と、彼女の求めるものは多少差異は見られるだろうけど、大凡一致しているってことになるんだろうねぇ、ボクの推理が正しいとすれば」
「「……マジかよ」」
ラインヴェルドとオルパタータダが揃ってガッカリしている。……ミーフィリアが呆れるのも仕方ないねぇ……コイツら折角戦えると期待していた相手が実は味方だったと知って、戦えなくなったことを悔しがっているだけだし。
「ですが、圓さん。この方は魔法の国に圧政を敷いてきた五老臣の一人……なのですよね? 確かに、嘘は言っていないのは分かりますけど」
「……雪菜さん、黒華さん、本当に申し訳ございません。しかし、三賢者の支配する旧体制の魔法の国を変革するにはこれしか方法が無かったのです。……どちらにしろ、Queen of Heartに魔法の国が支配されることは決まっていました。ですから、私は本来の流れに抗うことなく五老臣となり、その上で叛逆するための力を秘密裏に蓄えてきました。……五老臣となったことで、私を含めた魔法の国の関係者が『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』の登場人物であること、そして、それ以外に二十九個の世界が存在し、真の世界の支配者を決める戦争が行われていることを知りました。私は地上世界に魔法の国を変える未知の力を求めてきました。多種族同盟について知ったのも、魔法の国で噂を聞かなくなった黒の使徒が地上世界で活動をしていることを知ったのも、私が地上に目を向けてからです。……大きな失敗もしてしまいましたが、同時に得難い仲間も得ることができました。しかし、それでもQueen of Heartを倒す力はありません。……雪菜さん、覚醒した貴女ならばQueen of Heartを討つことができます! どうか、私に力を貸してください!」
カルファの懇願を受け、雪菜が困った顔で黒華とボクに視線を向けた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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