Act.9-84 魔法の国事変 scene.24
<三人称全知視点>
「雷鳴閃刀!」
軍刀に雷を纏わせたヴァレンシュタインが地を蹴って加速――陸獣神に斬り掛かる。
ここに暗黒剣を発動して闇を纏った黒騎士セレンディバイトが続き、二人掛かりで斬撃を刻んでいく。
ジョリーロジャーは遠方からピストルで狙撃を続ける。見た目は弱そうだが、固有魔法によって生み出されたピストルのため、攻撃力は見掛けよりも高い。
『フン! その程度の攻撃、我に通用すると思ったかァ! 恐怖の遠吠え!!』
しかし、魔法少女三人掛かりでも相手は伝説級の守護者として創り出された魔法生物。
最初の魔法使いノーアという規格外の存在によって作られた魔法生物は現存するホムンクルスよりも遥かに高位の技術によって作られた存在のため、生半可な攻撃では討伐することは不可能に近い。……本来は、三賢者の現身レベルの魔法少女でようやく太刀打ちできるような存在――魔法の国の大半にとっては厄災の如き存在なのである。
陸獣神にとっては小動物に戯れられている程度の痛みでしかない。……とはいえ、鬱陶しいのには変わらないので、陸獣神も攻撃の手は緩めない。
耳を劈くような咆哮と共に紫の波のように見える声が放たれた。声に触れた瞬間に発生した爆発によってヴァレンシュタインと黒騎士セレンディバイトは遥か後方まで吹き飛ばされ、少し遠くにいたジョリーロジャーも巻き添えを食らって二人を追うように後方まで飛ばされる。
紫の声の波は続いて菊夜、沙羅、美姫、火憐、シーラ、ラファエロ、ミリアム、アルベルトに襲い掛かるが、武装闘気を全身に纏った八人は爆発を耐え抜き、後方に吹き飛ばされることなくその場に二つの足で立ち続けた。
『なんと! 魔法少女に変身してすらいない矮小な人間如きか我の攻撃を耐えるか! 殺戮天使よ、真の脅威はこの人間どもかも知れぬぞ!』
『侮れば、我々が命を落とす可能性もあるでしょうね。大渦禍!!』
殺戮天使が小さな紫の魔法陣を手の甲に出現させ、頭上に掲げた瞬間、無数の青紫色の竜巻が発生した。
途方もない破壊のエネルギーを秘めた竜巻であり、魔法少女であっても耐え切ることは厳しい技である。
「恐怖の遠吠え」は広範囲攻撃で攻撃者の背後に回り込めなければ回避できないという厄介な技だが、その分威力は低めだ。例え相手が面妖な力で防御面を強化してもその強化を容易く突き破る――そのように計算して発動したのだか。
「氷結冷気-ホワイトサイクロン-!!」
美姫が「極寒の天恵」に氷魔法を融合した技「氷結冷気-ホワイトサイクロン-」の力を惜しみなく発動して、魔法の国の地下渓谷の七層を覆うほどの極寒の領域を形成し、更に複数の猛吹雪の竜巻を作り出して「大渦禍」によって生じた無数の青紫色の竜巻にぶつけて相殺してしまった。
これには、流石の陸獣神と殺戮天使も予想外だったのか、驚きの表情を浮かべ……カチコチという小さな音に気付くのが僅かばかり遅れた。
『まさか!? 我々を凍らせるほどの力を持っているというのか!? 魔力もそこまで大量に含まれてはいないというのに!?』
「……やっぱり、凍る速度が遅い……半減しているようね。火憐さん、そっちはどうかしら?」
「あたしの再生の炎の力で三人は全快させたわ! ……ただ、この様子だと魔法少女組に任せるよりもあたし達の方で制圧した方が簡単そうね」
「……くっ、不甲斐ない」
「別にあんたらが弱いって訳じゃないよ。あたしらだって元々そこまで強かった訳じゃない。圓さんに魔法や闘気や八技――戦うための技術を教えてもらって強くなることができた。魔法の国も多種族同盟に将来的に組み込まれることになるだろうし、近いうちに圓さんか、それとも他の人になるかは分からないけど、闘気や八技、地上世界で使われている魔法については教えてもらえると思うわ!」
「そうか、それは楽しみだな。……無理を言ってついてきた以上は戦力になりたかったが、下手に出しゃばって邪魔になるのでは本末転倒、この戦い、後はよろしく頼むぜ」
「あら、戦闘狂のヴァレンシュタインさん達なら是が非でも戦闘に参加してくると思っていたのだけど」
シーラが皮肉たっぷりに、少しだけ意外そうに感想を漏らす。
口に出さなかったが、菊夜達も同意見だった。……どうやら、ヴァレンシュタインは戦闘狂ではあるが、無鉄砲に突っ込んでいくという訳ではなく、状況を見て引く時は引けるタイプの戦闘狂らしい。
ジョリーロジャー、黒騎士セレンディバイトもヴァレンシュタインの意見に賛同し、なおも戦いに参加しようとするシスタールクスを二人掛かりで捕まえて後の戦いをシーラ達に託した。
『ならば、これならどうでしょう? 陸獣神、挟み撃ちにしますよ! 聖なる息吹!』
『竜焔咆哮!!』
殺戮天使は聖なる力の込められた純白のブレスを解き放ち、陸獣神は猛烈な紫焔を集中させ、収束させて熱線の如く解き放つ。
左右からの挟撃をシーラとラファエロが「空間魔法・転移窓」を発動して、殺戮天使に「竜焔咆哮」を、陸獣神に「聖なる息吹」をそれぞれ背後に展開したゲート経由で浴びせる。
『なっ! 何が……グァ』
『ま、魔法で、竜焔咆哮を、転移させた……ですって!?』
「仕掛けるわよ! 沙羅さん!」
「えぇ! アタシの全力、受けなさいッ! 日輪赫奕流・劫火赫刃爆」
菊夜が武装闘気を纏わせた糸を束ねた槍に更に猛烈な覇王の霸気を纏わせて全力の突きを放ち、沙羅が霊力を変化させた焔と武装闘気を纏わせた剣に更に覇王の霸気を纏わせて焔の斬撃を放ち、斬撃が命中した地点で爆破させた。
陸獣神ですらゾッとするほどの膨大な霸気の乗せられた攻撃を浴びた陸獣神は致命傷を負い、意識を失い掛けた……が、辛うじて命を繋いでいた。
……とはいえ、このままであれば確実に命を落とすだろうが。実際に少しずつ命の灯火が消え掛かっていっているのを陸獣神は実感している。
一方の殺戮天使もミリアムとアルベルトの武装闘気と覇王の霸気を纏わせた斬撃を浴びて瀕死の重傷となっていた。しかし、こちらも驚異的な生命力で辛うじて意識を保っている。
『……次の一撃が最期になるでしょう。陸獣神、やりますよ』
『『W 隕石雨』』
殺戮天使と陸獣神が共に使える「隕石雨」を二人同時に波長を合わせることで発動できる「W 隕石雨」は上空に無数の隕石を出現させて降らせる「隕石雨」と似た魔法だが、「隕石雨」二発分よりも攻撃力が高いという特徴がある。
降り注ぐ無数の隕石の後に巨大な隕石が降り注ぐというもので、宇宙空間にアダマンタイトとミスリルを主成分とした隕石を作り出し、狙った地点に落下させる「隕石落爆」ほどではないが、それでも高い威力を誇る。
『聖なる神剣!!』
『獣神の鉤爪!!』
しかし、この大魔法も二体の切り札ではない。
殺戮天使と陸獣神は隕石に注意を引きつけた隙に創り出した聖剣と低確率で即死効果がある爪でミリアムとアルベルト、菊夜と沙羅にそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「元々一度で倒せるとは思っておらんかった。アルベルト! 隕石のことは気にするな! 儂らは儂らのやるべきことを果たすぞ!」
「はい、師匠!」
「沙羅さん、私達も――」
「今度こそ絶対に仕留めさせてもらうわ!」
ミリアムとアルベルトが再び覇王の霸気を纏わせ、殺戮天使の聖剣による斬撃を上回る速度で斬撃を浴びせて撃破し、菊夜と沙羅もそれぞれ槍と刀に覇王の霸気を纏わせて刺突と斬撃を放ち、今度こそ陸獣神を撃破した。
しかし、殺戮天使と陸獣神が撃破されても、降り注ぐ隕石は止まらない。
「――時間停止! 時間を止めたわ! 今のうちに早く次の階層に行くわよ!」
シーラが時間魔法で隕石を止めている隙に「透明外套」と「神殺しの剣」、殺戮天使と陸獣神の遺骸を回収してから菊夜達は第七層を脱出する。その直後、無数の隕石が落下して無数のクレーターを刻みつけた。
◆
一行はその後も探索を続け、魔法の国の地下渓谷の階層も二桁に到達した。
先程の隕石落下で下へと続く階段が破壊されてしまったので、空歩や飛行能力を使わなければ上の階層には戻ることができない。ヴァレンシュタイン達にとっては事実上、退路が塞がれてしまったという状況である。……まあ、空間魔法が封じられていないので脱出も可能であり、更に魂魄の霸気《転移》のナイフもあるため、《蒼穹の門》を使った脱出も可能なので、何一つ問題はないのだが……。
そして、探索を続けた一行は魔法の国の地下渓谷の十八層に到達し、最後の祭壇を発見する。
祭壇に置かれた指輪にアルベルトが触れた瞬間、青から薄緑へと鮮やかなグラデーションの魔物リヴァイアサンを彷彿とさせる海竜が姿を見せた。
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