Act.9-83 魔法の国事変 scene.23
<三人称全知視点>
糸を束ねて槍を創り出した菊夜は白竜に肉薄して近接戦闘を仕掛ける……のではなく、妖気と武装闘気、剛力闘気で強化した腕力を惜しみなく発揮して武装闘気と覇王の霸気を纏わせた糸製の槍を槍投げの要領で次々と投擲した。
『クカカカ! そんな攻撃は効か――』
白竜は糸を束ねた槍などには負けないと高を括ってろくに防御や回避行動をしなかったが、一つ目の槍が尻尾を容易く貫通したことで自分を殺せるほどの驚異的な攻撃だと理解し、回避行動を取ろうとするが――。
「空間魔法・転移窓」
菊夜が『最窮極の腕輪』を使って無数のゲートを展開し、ゲートの中に向かって槍を投げ始めたことで戦況は更に悪化――転移先が完全にランダムのため、どのゲートから槍が飛んでくるか予想することもできず、白竜は無数の槍に串刺しにされて致命傷を負う。
それでも、せめて菊夜だけは道連れにしようとブレスを放つ……が、ゲートに阻まれてあらぬ方向に命中してしまう。その後も白竜は一切抵抗できないまま無数の槍に刺し貫かれ、息を引き取った。
「遺骸は私が回収しておくわ」
「お願いします、シーラさん」
シーラが四次元空間に白竜の亡骸と『聖槍』を放り込み、一行は更に先へと進んでいく。
一行が次に足を止めたのは五層に到達した時だった。
今度も先程のものとよく似た形の祭壇があり、青い輝きを放つ魔力が埋め込まれた線のようなものを流れる特徴的な両手剣と甲冑と籠手、盾が祀られている。
今度はミリアムが代表して鎧に触れようとしたが、そのタイミングでやはりというべきか威圧的で禍々しい魔力を持つ守護者が姿を見せた。
その姿は巨大な翼竜、白竜は東洋竜の印象が強かったが、こちらは西洋のドラゴンを彷彿とさせる見た目である。
『我が名は混沌龍王、「魔導の完全武装」の守護者である。凡人ですら最強に至れるノーアの秘宝、手に入れたくば我を倒して見せるがいい!』
翼を羽搏かせ、混沌龍王は上空に巨大な真紅の魔法陣を展開する。
次の瞬間――菊夜達に猛烈な重力が掛かった。
『どうだ? 動けぬだろう? これが、超重量圏域だ! デヒャヒャヒャヒャ! そのまま我がブレスを喰らって死ぬがいい!! 竜焔咆哮!!』
混沌龍王が口に猛烈な紫焔を集中させ、収束させて熱線の如く解き放った。
「空間魔法・転移窓」
混沌龍王の放った重力魔法「超重量圏域」は確かに強力な魔法だった。神攻闘気や武装闘気、覇王の霸気を纏わせて筋力を強化しても重力圏を脱出して混沌龍王に攻撃を仕掛けることは困難を極める。
しかし、その状況でも魔法は封じられていないため『最窮極の腕輪』に魔力を流して魔法を発動することは可能だ。
沙羅は『最窮極の腕輪』に魔力を流して「空間魔法・転移窓」を発動し、一つのゲートを「竜焔咆哮」の射線上に、もう一つのゲートを混沌龍王の背後に展開――まさか、自分の背後にゲートが展開されているとは思いもよらない混沌龍王は「竜焔咆哮」を放ち、そのまま背中に「竜焔咆哮」を喰らうことになった。
ところで、混沌龍王は全属性半減の耐性を持っている。白竜の全属性吸収に比べたらマシだが、半減の耐性を持っている以上、属性攻撃では討伐完了までに二倍近くの時間が掛かる計算となる。
しかし、「竜焔咆哮」は属性を持たない、つまり無属性の攻撃であり、更に威力も申し分ない。混沌龍王を最も簡単に討伐できる手段があるとすれば、混沌龍王自身が放った「竜焔咆哮」を混沌龍王に浴びせることである。……勿論、流石に一撃で倒されることはないが。
ちなみに、「竜焔咆哮」には魔法障壁を貫通するという貫通効果を持つ攻撃のため、反射することはできない。
通常であれば回避一択……なのだが、空間魔法は攻撃を跳ね返す障壁ではなくゲートの先の場所を繋げる魔法のため、「竜焔咆哮」による自滅作戦が成立したのである。……まあ、空間を操作する魔法は魔法の国でも高難易度のものでかなりの準備を必要とする。まさか、瞬時の判断が求められる戦闘で何の対策もしていない相手が使ってくるなど想定すらしていなかっただろうが。
『ま、まさか我の竜焔咆哮を転移させるとは!? くっ、予想外だ! ――ならば、転移させられないほどの手数で潰してやる! 竜焔流星群! 超竜焔咆哮!!』
混沌龍王は上空に向かって「竜焔咆哮」を放ち、上空で炸裂させて宛ら流星群のように無数の紫焔を降らせる。
更に駄目押しとばかりに口だけでなく両翼に展開した二つの魔法陣からも紫焔を顕現して収束させ、「竜焔咆哮」以上の一撃を放った。
「「「「「「「「空間魔法・転移窓!」」」」」」」」
絶体絶命かと思いきや、菊夜、沙羅、美姫、火憐、シーラ、ラファエロ、ミリアム、アルベルトの八人が同時に無数のゲートを展開して「竜焔流星群」に生じた無数の紫焔の塊と「超竜焔咆哮」を全て混沌龍王着弾させることに成功し、混沌龍王は自分の最大威力の攻撃を耐え切ることができず、今度こそ墜落し、そのまま息を引き取った。
◆
混沌龍王を討伐して『魔導の完全武装』と混沌龍王の亡骸を四次元空間に放り込んだ後、一行は更に下の階層を目指して探索を再開した。
菊夜達が次に足を止めたのは魔法の国の地下渓谷の七層だった。
今度は二つの祭壇が西の端と東の端にそれぞれ配置されており、西の端には金色に輝く長剣が、東の端には精緻な刺繍が施されたマントのようなものが置かれている。
「……今度は二つか。さて、どのような作戦にする?」
「安全牌を狙うなら一つずつだけど、同時に守護者を呼び出して同時に戦うという手もあるわね。その方が戦闘経験としてはより濃いものになると思うけど、その分全滅の危険性も高まるわね」
「そんなの決まっているだろ!」
沙羅達がどうするか思案している中、シスタールクスに声を掛けられ、何やら話していたヴァレンシュタインが突然、何の断りもなく台座に置かれた金色に輝く長剣に触れた。
それと同時にシスタールクスも精緻な刺繍が施されたマントに触れる。
「……あの人達、連れてこなかった方が良かったかしら?」
独断先行するシスタールクス達に沙羅達がジト目を向ける中、純白の三対六翼の翼を持つ天使と四つ脚の長い角と牙を持つ獣がそれぞれの祭壇付近に姿を見せた。
『我が名は陸獣神! ノーアの大秘宝「透明外套」を貴様らの手に渡す訳にはいかぬ!』
『我が名は殺戮天使、「神殺しの剣」の守護者です。神殺しの力を手に入れたければ、この我を倒して力づくで奪ってみせなさい!』
シスタールクスとヴァレンシュタインはそのまま逃走を開始、殺戮天使と陸獣神を予定通り七層の中央部に集める。
最初は背中を見せて撤退など度し難いと思っていた殺戮天使と陸獣神も彼女達の狙いが二人同時に相手をすることであると察すると、「いい度胸だ」と殺気を滾らせる。
「殺戮天使の方は見た目的に光系属性はあまり効かなさそうね。闇属性は弱点か、或いは逆に無効にするのかのどちらかしら? 陸獣神の方は予測がつかないわ。とりあえず、戦いながら考えていくしかないわね」
菊夜が糸を束ねた槍に武装闘気を纏わせ、沙羅が霊力を変化させた焔を剣に纏わせ、その上から武装闘気を纏わせた。
美姫は「氷結冷気-ホワイトサイクロン-」を発動して特殊な氷で作られたスピードスケートスーツを纏い、火憐は「飛翔の天恵(モデル:鳳凰)」の力を解放して鳳凰の姿へと変化した。
シーラとラファエロは手を繋いでいつでも二人掛け魔法を発動できるように準備を整え、ミリアムとアルベルトは剣に武装闘気と覇王の霸気を纏わせて構える。
シスタールクスは固有魔法で拳に聖属性を付与する「聖拳」を発動し、ヴァレンシュタインは軍刀に雷を纏わせて構え、ジョリーロジャーは右手でカトラス、左手でピストルを構え、黒騎士セレンディバイトはコスチュームの一部となっている暗黒剣の力を解放して命を削って武器の暗黒剣に闇の力を纏わせた。
殺戮天使と陸獣神が挟撃の形で戦いを仕掛け、魔法の国の地下渓谷の七層の戦いが幕を開けた。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




