Act.9-82 魔法の国事変 scene.22
<三人称全知視点>
プロフェッサー=リリスに相対するのは、ミリアムの弟子――近衛騎士アルベルト。
裏武装闘気の剣を構え、全身に武装闘気と神攻闘気、神堅闘気、神速闘気――三種の上位闘気を纏わせる。
剣を取り、プロフェッサー=リリスと戦おうとしていた師匠ミリアムを制してまでプロフェッサー=リリスと対峙したのには理由がある。
かつてのアルベルトには剣の腕を鍛えた先にある目標というものがあるとは言えなかった。クラインリヒ宮中伯の言葉を切っ掛けにさっさと家を出ようと決意して家を飛び出し、強さを求める中で『剣聖』と呼ばれるほどの剣士であるミリアムに剣の手解きを受けるという羨望を集める名誉を賜りながらも、それを捧げるべき存在というものをアルベルトは本当の意味で見つけることはできなかった。
ルークディーンとプリムラの顔合わせの場となったお茶会でアルベルトが出会った運命の人。
百合薗圓はアルベルトがその剣を捧げ、守りたいと願う存在だった。しかし、当の本人は『剣聖』候補と言われたアルベルトですら計り知れない高みにいる。
誰が呼んだか、『剣神』――その表現がしっくりとくるほど圧倒的な力を有し、なおも成長を続ける正真正銘の化け物。
アルベルトは愚かにも最強を守りたいという不遜極まりない願いを抱いた。その自覚はアルベルトにもあるが、百合薗圓を守りたいという願いを取り下げるつもりは毛頭ない。
いずれは、百合薗圓よりも強くなる。それは、『剣聖』になるよりもずっと大変な茨の道だが、その道を進むことを園遊会後にローザから全ての真実を明かされたあの日に決めていた。
そのためには、強くならなくてはならない。あの高みに挑むためには、到達するためには猛者との戦いの中で成長が欠かせない。
プロフェッサー=リリスは、その条件を満たした強敵だ。
アルベルトが目指す高みに到達するためには彼女との戦いは避けて通れないと、アルベルトは確信していた。
剣士として小細工抜きで戦う……ことは、そもそも剣士ですらないプロフェッサー=リリスがする筈もなく、アルベルトが剣を構えた瞬間に「マジカル煙玉」を投げて煙幕を展開――その後、左手で「マジカル機関銃」を怒涛の勢いで乱射する。
その全ての弾丸には「狙った相手に必ず命中する」という固有魔法が込められており、多角的に弾みながら変幻自在の軌道で敵に襲い掛かり、必ず敵を蜂の巣にすることができる。
……筈なのだが、アルベルトは見気の未来視を駆使して弾道を完全に予測――的確に斬撃を放って次々と弾丸を両断していく。
「マジカル機関銃」でアルベルトを撃破できないと判断したプロフェッサー=リリスは「マジカル機関銃」を捨てて「マジカル消火器」を取り出して左手で握り、振りかぶって思いっきりアルベルトに向かって打ち付けた。
アルベルトは武装闘気と覇王の霸気を纏わせた剣で「マジカル消火器」を切り裂く……が、中に入っていた消火剤が炸裂――アルベルトの視界を封じる。
しかし、視界を塞がれても見気を使えるアルベルトに効果はない。
いつの間にか剣先が伸びる「マジカル・フレキシブルソード」に持ち替えたプロフェッサー=リリスが鋒を伸ばしてアルベルトの心臓を狙い撃ちするが、アルベルトは紙躱を駆使して攻撃を回避すると、俊身を駆使してプロフェッサー=リリスに肉薄――新たな道具を取り出される前に心臓に聖属性の魔力と武装闘気、覇王の霸気を纏わせた刺突を浴びせた。
「……お見事……完敗だ」
強靭な魔法少女の身体でも武装闘気を纏わせた攻撃を耐え切ることはできない。
心臓を貫かれ、吐血しながらプロフェッサー=リリスが崩れ落ちる。
焼けるように熱かった傷口から、少しずつ熱が消えていく感触を味わいながらプロフェッサー=リリスの命の灯火は消えていき……そのままプロフェッサー=リリスは息を引き取った。
◆
プロフェッサー=リリスの亡骸を抱えたリュネットは公公と共にオルグァの屋敷を後にした。
やり方は間違っていたかもしれない。しかしそれでも、彼女は彼女なりのやり方で魔法の国を守ろうとしていたということに変わりはないからだ。
プロフェッサー=リリスをリュネットと公公はせめて丁重に葬りたいと考えている。その屍が打ち捨てられ、雨風に晒されて風化していく様を見るに堪えない。……それは、那月夏海という魔法の国に全てを捧げてきた一人の女性に対する冒涜に他ならないのだから。
「……さて、先に進むとしよう。我々はまだ目的を達成できていないからのぅ。お主らはどうする?」
「私達『大魔公安処罰班』は一旦拠点に戻らせて頂きたい。……多種族同盟と黒の使徒の連合軍と敵対しないよう周知徹底したいと思う」
「助かります」
マリオネットパペットがアローアローと十六夜を伴ってオルグァの屋敷を後にする。
「水羽、『退魔局』に行ってホーリーヴィーナスの死亡を伝えてきてもらっていいか? 死体を持っていけば納得するだろ? ホーリーヴィーナスの死は『退魔局』にとっては大問題だ。すぐに降伏宣言に持っていける筈だ」
「どちらにしろ、多種族同盟と戦うのは愚策、降伏宣言に持っていくつもりだけど……ルクス、貴女はどうするのかしら?」
「あたしはコイツらについて行くつもりだよ。どうせオルグァのことだ、あたしらが最終防衛ラインって訳でもねぇだろ? ということは、凄い楽しいものが待ち受けているかもしれねぇ。ワクワクするじゃねぇか!」
「……はぁ、分かったわ。申し訳ございませんが、ルクスのことをよろしくお願いします」
水羽もホーリーヴィーナスの亡骸を抱えてオルグァの屋敷を去った。
「私達もアンタらについていくことにするよ。いいよな?」
「……いいよなって、拒否権ないじゃない。……まあ、いいわー。心強いのには違いないし」
シスタールクス、ヴァレンシュタイン、ジョリーロジャー、黒騎士セレンディバイトを仲間に加え、一行はスートランプの JOKERが居た屋敷四階の最奥部の部屋に向かい、青い魔法陣に乗る。
眩い光に包まれ、次の瞬間にはシーラ達は明らかに屋敷とは違う場所に転移していた。
「……魔法の国の中でも中心部に近い場所のようじゃな」
「そういや、聞いたことがある。魔法の国の中心核には巨大な渓谷が広がっていて、最初の魔法使いノーアがその渓谷に秘宝を封印していたと。……確か、名前は『魔法の国の地下渓谷』だったか?」
「……圓さんからもらった情報には無かったわね。ということは、異世界化後に生まれた場所かしら? ……しかし、随分と続いているわね」
見気で調査すると、最奥部の「中心核」までは二十層ほどあった。
人造魔法少女などは配置されていないようで、「魔法の国の地下渓谷」に巣食う魔物のような敵影もないことは救いか。……ただ、「魔法の国の地下渓谷」の内に五箇所、圧倒的なプレッシャーを放つ場所がある。
菊夜を先頭に見気で階段を捕捉し、最短距離で階段を目指していく。
このまま最奥部のオルグァの討伐をする……と言いたいところだが、最初の魔法使いノーアの秘宝と秘宝を守護する圧倒的なプレッシャーを放つ存在という不穏分子を無視してこのまま最下層に降りていくことはできない。
突発せずに進んだ結果、何らかの魔法でオルグァに召喚され、オルグァ側の戦力を増強してしまう危険性を孕んでいるからだ。
それに、圓ならば、「魔法の国の地下渓谷」に封印された秘宝に興味を持ち、回収を求めてくるだろう。
解析することで多種族同盟の戦力増強に繋がる可能性もある。
それに、例え役に立たないものであっても手に入れておいて損はない。
一行は三層に到着し、圧倒的なプレッシャーを放つ祭壇を発見した。
祭壇に置かれているのは、純白の輝きを放つ槍――素人のヴァレンシュタインが見ても、そこに膨大な魔力が込められていることがひしひしと感じられる。
菊夜が代表して祭壇に置かれた槍に触れようとした時、突如として純白の竜――白竜が姿を見せた。
『大魔導師ノーアの残した「聖槍」、ソナタらに相応しいか見極めてやろう!』
白竜はそう言うや否や純白のブレスを放った。
「「闇巨壁」」
シーラとラファエロが闇の魔力で巨大な壁を展開、その上から武装闘気を纏わせて白竜のブレスを受け止める。
「――隙だらけだぜ! 聖拳」
白竜の視線が攻撃対象のシーラ達に向いていた隙を突き、背後に回ったシスタールクスが聖なる力を宿した拳で右ストレートを放つ……が。
『クカカカ! 我は全ての属性攻撃を吸収する力を持っている! 我に聖属性攻撃は効かん!』
白竜が尻尾を鞭のように使い、シスタールクスを吹き飛ばす。
「ッ! クハッ! 効いたぜ!」
しかし、流石は頑丈な身体を持つ魔法少女――白竜の尻尾攻撃を浴びても僅かに打撲するだけで済んだ。
「……聖属性が効かないってことはあたしの固有魔法が効かないってことじゃねぇか!」
「私の『飛翔の天恵(モデル:鳳凰)』や美姫さんの『極寒の天恵』も通用しなさそうね」
「アタシの日輪赫奕流も火属性だし……でも、闘気なら通用するんじゃないかしら?」
「闘気を使えるのは、私と沙羅さん、美姫さん、火憐さん、シーラさん、ラファエロさん、ミリアムさん、アルベルトさん。……属性攻撃に抵触する可能性のあるヴァレンシュタインさんとセレンディバイトさんを除けば、魔法少女側だとジョリーロジャーさんの攻撃が通用するわね」
「……ちっ、折角戦いたかったのに残念だ」
ヴァレンシュタインも白竜と戦ってみたいと思っていたが、固有魔法が通用しないどころか攻撃を浴びて回復してしまうということであれば、流石に白竜討伐に名乗りを上げることはできない。
ヴァレンシュタインは黒騎士セレンディバイトと共に素直に身を引いた。
「私は闘気単体の戦闘って苦手なのよね。今回は得意な人にお任せするわ」
「私も『極寒の天恵』がベースなので、得意な方にお任せしたいと思います」
「アタシは菊夜さんがいいと思うわー」
「そうじゃな。菊夜殿、お主が良ければこの戦い、お主に任せたいが……どうじゃ?」
「私は大丈夫だけど……でも、本当にいいのかしら?」
「まだ敵は残っておる。戦いの機会はまだまだあるからのぅ。そこで戦いたい者は暴れれば良いのではないか?」
「そういうことなら……白竜! 私が相手になるわ!」
糸を束ねて槍を創り出すと、武装闘気を纏わせ、更に全身に武装闘気と神速闘気を纏ってシーラとラファエロが創り出した闇の壁から脱出する。
『クカカカ! 槍一本で我に勝てるとでも本気で思っているのか? 面白いッ! 受けて立とうではないか!』
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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