Act.9-81 魔法の国事変 scene.21
<三人称全知視点>
「多種族同盟の目的……というよりは、その創設者の一人で、国際秩序の中核を担う百合薗圓さんの目的ということになるわね。まあ、多種族同盟もその意志に賛同しているという意味では多種族同盟全体の目的とも言えるのだけど。彼女の目的はQueen of Heartが他の神々と共にこの世界の女神から簒奪した力の欠片――『管理者権限』をQueen of Heartから取り返すこと。そして、その上でこの世界の本当の神である女神ハーモナイアをこの世に甦らせることよ」
「ちょ、ちょっと待ってもらえないか? 女神? 『管理者権限』? 話が飛躍していて全く意味が分からん。一体何の話をしているんだ!?」
「私を含め……菊夜さんと沙羅さんは圓さんの暮らしていた世界と同じ世界から召喚された例外だから除くけど、貴女達も物語の、ゲームの登場人物なのだそうよ。圓さんとその仲間達が作った三十のゲームを基に、上位存在から『管理者権限』を受け取った女神ハーモナイアが、三十のゲームを融合する形で創造した世界、それが、この世界――ユーニファイドよ。そして、ハーモナイアから力を簒奪した神々は互いに『管理者権限』を奪い合う戦争を始めた。魔法の国がユーニファイドに人事部門を派遣し、魔法少女を増やそうと動いていたのも、『管理者権限』を持つ他の神々と戦争をするため。……この国と同じディストピアが大陸中に広がることになるのよ! 貴女達はそれに加担しようとしているの! 多種族同盟としてもハーモナイアから力を簒奪した神々は信用ならない。それよりも、この世界の人々を自分と対等な存在と考え、神として君臨するつもりはないと、共に世界を作っていきたいといってくれた圓さんを多種族同盟は信じた。……勿論、信じる信じないは勝手だし。Queen of Heartと心中したいならどうぞご自由に、というのが今回の私達のスタンスよ」
「……話のスケールが吹っ飛び過ぎていてついていけてないところもあるし、信じたくないところも多々あった。だが、それでも私は今のクソ忌々しいQueen of Heartと五老臣がてめえ勝手にやっている治世よりも、未知な未来に賭けてみたいという気にはなった。ジョリーロジャー、セレンディバイト、お前らはどうしたい?」
「意地悪な質問するじゃない! 私も少しでも希望の光があるのなら、それに賭けてみたいと思ったわ」
「ジョリーと同意見です」
「決まりだな。ということで、私達は降伏させてもらうとしよう。……それとも、そっち側に味方した方がいいか?」
「ヴァレンシュタインさん達が好きなようにすればいいんじゃないかしら? ――元々、貴女達が参戦してくることは圓さんも想定していたわ。ここにいるのは、多少苦戦を強いられる可能性があるとしても一人も欠けることなく勝利できると圓さんが選抜したメンバーよ!」
「では、お手並み拝見と行こうか?」
ヴァレンシュタインがジョリーロジャー、黒騎士セレンディバイトを伴って屋敷の壁の方に歩いていき、腕を組んで中立の立場を取る中、戦闘再開……と思いきや、ここで戦闘態勢を解き、シーラに声を掛ける者がいた。
「退魔局」所属の魔法少女シスタールクスだ。
「待ちな! 『管理者権限』には興味はないが、それを巡る戦いっていうのはなかなか心躍るものがあるな! よし、あたしも仲間になってやろうじゃないか! ただし、条件がある」
「…….えぇ、ただし私にも叶えられるものであればね。流石に無理難題には応じられないわ」
「百合薗圓って奴、強いんだろ? 一度手合わせする機会を恵んでくれないか?」
「……圓さんの予想通りの展開になったわね。えぇ勿論、回答は預かっているわ。模擬戦で良ければお相手するって」
「決まりだな!」
「……あら? まさか、シスタールクス? あの咎人達の味方になるということですか?」
「まあ、そういうこった。あたしが『退魔局』に在籍しているのは強い奴と戦えるからというただそれだけだからな!」
「……愚かな! 罪人を救済する『退魔局』にあろうことか罪人が紛れ込んでいたとは! せめて大いなる慈悲の光で罪から解放して差し上げましょう! 浄罪聖爆」
「うぉッ! マジかよ!」
「させません! 断光の暗黒剣!!」
シスタールクスの前に俊身で移動したラファエロが暗黒剣の力で「浄罪聖爆」を吸収する。
そして、ホーリーヴィーナスがシスタールクスに意識を向けている隙を突いて黒竜が「呪縛の冷気」を放ってスートランプ達の動きを封じると、そのまま JOKERに「黒い牙」を浴びせる。
ホーリーヴィーナスは「黒い牙」の即死効果で一瞬にして息を引き取った。
「……ホーリーヴィーナス様を一撃で……た、確かにホーリーヴィーナス様はシスタールクスを殺そうとしたわ。でも、だからと言って……」
「殺される覚悟がない者でなければ戦場に立ってはならない、傷つけられる覚悟がなければ傷つけてはならない。まさか、自分達だけは安全だと信じておったのかのぅ? お主はどうするのじゃ? 巫水羽」
極寒のように冷たい視線を向けるミリアムに萎縮する水羽だったが、ごくりと唾を呑み込んだ後、覚悟を決めたようで。
「……この国は確かに腐敗の一途を辿っているわ。『退魔局』も本来のあり方から外れたものに変質していた。……そうね、可能性があるなら賭けてみるべきだと思うわ。この魔法の国が貴女達の言うような平和な国に生まれ変わるというのであれば」
水羽が鈴のついた錫杖をシャラシャラと鳴らしながら壁際に移動し、戦線から離脱した。
「『退魔局』の二人が戦線離脱、ホーリーヴィーナスが死亡、『独立魔導小隊』は三人が離脱か。……さて、どうしたものか」
「ボス? どうします? ホーリーヴィーナスは手練れでした。それが一撃……あの金縛りと即死攻撃のコンボの突破は厳しいですよ」
「アローアローと十六夜の魔法は死んでも追尾効果が持続する。死なば諸共で行けば一人ぐらいは道連れにできるかもな」
「……まあ、戦うならそれしかないわね」
「確かに、『どこまでも追尾する魔法の矢』と『投げたものが必ず命中する』固有魔法は厄介ですが、命中する前に撃ち落とせば問題ありませんよね? 見気と派生の未来視を駆使すれば、例え魔法少女の攻撃だろうと対処可能です」
「だそうよ。……私、任務に命を賭ける覚悟はあるけど、無駄死にはごめんよ」
「私も流石に勝てるとは思っていない。……格が違い過ぎる。我々『大魔公安処罰班』は国家の安寧を守るために戦ってきた。……無論、それだけではないのも確かだ。善意で組織は運営できない……貴族達の寄付で運営されてきたというのも事実だ。要人警護も我々の重要な任務だ。……しかし、時々、私もこれで本当に良いのか、と思う時がある。何のための『大魔公安処罰班』なのか。魔法の国の安寧と国益を守ると言いながら、民を傷つけ、弾圧の嵐を巻き起こす……本末転倒なのではないかと。Queen of Heartが不当に権力を握ったという指摘は正しい。……魔法の国に住まう魔法使いと魔法少女の益になるのは一体何なのか。この腐り切った国を一度破壊し、新たな秩序を作ることなのかもしれないな。……ということで、私は戦線から離脱させてもらう。プロフェッサー=リリス、お主はどうする?」
「君達の言い分には確かに筋が通っている。しかし、魔法の国は原初の魔法使いであるノーア様によって建国され、その後弟子である三賢者が実権を握ってきた。……例え、その根幹が揺らいでいるとしても、Queen of Heartが他の二人の賢者を倒して国を支配しているとしても、私が仕えるのはこのノーア様が建国したこの国だ。黒の使徒が実現を握った魔法の国は、由緒正しい魔法の国では無くなってしまう。……それが、魔法の国に住まう民にとって幸福の道であったとしても、私はそれを受け入れる訳にはいかない。……リュネット、公公、君達には私ほどの魔法の国への愛国心はないのだろう? 寧ろ、Queen of Heart政権成立以後の我々、『警備企画課参謀第零部』の在り方に疑問を唱えていた、違うか?」
「……リリス様はご存じでしたか」
「私も、リュネットも、越えてはならない一線を越えてしまっているとずっと感じてきました。……それでも、『警備企画課参謀第零部』は魔法の国の国益のために戦っていると、そう自分を信じ込ませてこれまで任務に従事してきましたが」
「……無論だとも。これから君達は君達の信じた道を行くがいい。私は、五老臣の一人――オルグァ様の依頼通り、屋敷に侵入した賊を排除する。……パペット、リュネットと公公――『警備企画課参謀第零部』の者達のこと、後は頼んだぞ」
「……全く手前勝手な奴だ。……しかと引き受けた」
リュネットと公公がパペットと共に壁際に移動し、プロフェッサー=リリスが愛用する「マジカル・レイピア」を取り出した。
元々はある魔法少女の固有魔法だったが、その魔法少女を任務で殺した後に奪ったものだ。「どんな道具でも完璧に使いこなす」という固有魔法を持つプロフェッサー=リリスは、他人の武器であるこの細剣も元の持ち主以上に使いこなせる自信がある。
リュネットも公公もプロフェッサー=リリスを止めようとしない。
元々「警備企画課参謀第零部」が仲間意識の薄い組織であるというのも大きな理由だが、それでも多少の仲間意識はリュネットにも公公にもある。
どう考えても死地でしかないところに飛び込む上司を止めない最大の理由は止めることが不可能であると二人とも理解しているからだ。
彼女は彼女なりの正義感を持って任務に身を投じてきた。それが、本当の意味で公共の利益を守るという「警備企画課参謀第零部」の理念に即したものであったかは分からない。
それでも、彼女は彼女なりのやり方で魔法の国のために戦ってきたのだ。
そして、今も魔法の国のために自らの命を賭けて戦おうとしている。
それが、プロフェッサー=リリスの、那月夏海の生きる理由である。
その願いを打ち砕いてまでプロフェッサー=リリスを生き永らえさせる意味があるのだろうか? 彼女がここを死地と選んだのならば、それを止める手立ては存在しない。
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