Act.9-74 魔法の国事変 scene.14
<三人称全知視点>
監査部門の最奥部――監査部門部門長の執務室は不思議な空間だった。
どこまでも広がっていると錯覚するほどの果てしない地平、その遥か遠くにデスクが置かれている。
座るのは白髪を腰まで伸ばし、白い顎髭を生やしたとんがり帽子にボロボロのローブ姿の老人。
彼こそ、五老臣の一人――コルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンである。
「……女王陛下より百合薗圓なる者が女王陛下と同じ権能を持ち、自らの権能もいずれは狙われる可能性にあると聞いていましたが、貴女達はその仲間ということでしょうか? ここまで監査部門の警備を掻い潜ってきた強さは素直に認めましょう。……どうでしょうか? この国に仕える気はありませんか?」
「……それは、私達にお嬢様を、祖国を裏切れと……何を甘いこと言ってやがる? お前は暗殺対象だ。ここで俺達に殺されることになる。そんな未来は訪れない」
「残念ですね……立場をご理解されていないようだ。ここは私の世界、支配領域です。そんなところにやってきて私を倒せるとでも? ホムンクルスに憑融させる方法は魔法少女以外にも通用すると思われます。貴女達を私の手駒として、百合薗圓追討の手札としましょう。そして、百合薗圓を倒し、彼女も私の手札の一つになって頂きましょう」
「……井の中の蛙、大海を知らずだな。マグノーリエさん、任せて本当に大丈夫か?」
「はい、少々お時間が掛かると思いますが」
「じゃあ、予定通り大将はマグノーリエさん。俺、ディラン、プリムヴェールさんの三人で前衛をする」
「それで問題ない。私は私に与えられた役割を果たすだけだ」
「それじゃあ、仕掛けるとしますか!」
マグノーリエが後方に下がり、プリムヴェールがマグノーリエを守るように前へ、そしてアクアとディランが左右に走り、左上、右上へと二方向からコルジに迫る。
「身の程知らずは貴女達ですよ。――行きなさい!」
コルジが指を鳴らすと同時に、森羅鬼燈、くま子、ナイトメアメリーを模したホムンクルスが一体ずつと決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】が複数体現れる。
『『『『『『絶望の奔流』』』』』』
戦闘開始早々、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】は六体全て膨大な負のエネルギーを解き放つ「絶望の奔流」を前衛のアクア、ディラン、プリムヴェールに向かって放った。
「反射障壁」
アクアとディランが攻撃を紙躱で躱す中、プリムヴェールは魔法攻撃を反射する効果を持つオリジナルの無属性魔法「反射障壁」を発動して決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】へと「絶望の奔流」を跳ね返す……が、「絶望の奔流」は何故かそのまま物理法則を無視してUターンしてプリムヴェールに跳ね返った。
幸い、武装闘気によって守られたプリムヴェールに効果は無かった……が、この不可思議な現象を解明しなければまた同じ轍を踏まないとも限らない。
「……なるほど、『矢返魔法』か。飛び道具による攻撃を跳ね返す魔法だが、拡大解釈すれば遠距離攻撃を跳ね返す魔法ということになる。コルジはこの魔法と『治癒回生』を複雑な儀式を必要とせず魔法使いの魔法を使えるようにする魔法陣を展開する魔法――『創魔の魔法陣』と組み合わせることで鉄壁の戦法を完成させているのだな」
「――何故、それを」
見気でコルジの作戦を見抜いたプリムヴェールだが、その表情は暗い。
流石に完全に倒した存在を蘇生させる力はないようだが、絶えず垂れ流すように回復魔法が使われている状態になっている。一撃で撃破しなければすぐに回復されてしまうため、最悪、千日手を覚悟しなければならなくなってしまう。
それに、「矢返魔法」も厄介極まりない魔法だ。遠距離攻撃は全て封じられるとなれば、アクアの切り札の一つ【劇毒之王】の「劇毒八岐蛇」なども使用できないということになる。
アクア、ディラン、プリムヴェールの場合は剣を使った近距離戦闘を得意としているため、「矢返魔法」の効果を受けないが、マグノーリエに関しては攻撃がほとんど全て遠距離攻撃の性質を含んでいる。
マグノーリエにはコルジ戦で使用可能な魔法がほとんど存在しない。
『『『『『『絶望の魔力、充填開始』』』』』』
決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】が絶望の魔力を溜め始めた直後、森羅鬼燈、くま子、ナイトメアメリーを模したホムンクルスが一斉に攻撃を開始した。
一瞬にして弾力のある肉球で大気を殴り、ディランの背後に回ったくま子が熊の手型の炎の塊を大量に放ってくる。
「……本物のくま子よりも迫力がねぇな。やっぱりホムンクルスとなると戦闘力の劣化は防げないようだな」
霸気を纏わせてから低く構えを取って、剣を背に担ぐと、思いっきり剣を振るって炎の塊を粉砕――ディランと共に爆発に巻き込まれたくま子に向かって斬撃を放つ……が攻撃が浅かったようで「治癒回生」に回復される。
「ちっ、面倒くさいなぁ」
回復したくま子は手を前に押し出して肉球型の衝撃波を放つ。ディランは空歩で空を駆けながら攻撃を躱し、霸気を纏わせた斬撃を放つが、やはり一撃では倒しきれない。
一方、ナイトメアメリーに狙われたプリムヴェールも苦戦していた。
攻撃手段は本物と同じく「メリーさんの雷雲」と格闘術でどちらも本物には劣る攻撃力だが、「ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー」を直撃で胸に浴びても一撃で死亡しない耐久力はこの状況では悪夢でしかない。相手は一撃で倒されなかった場合、何もでも復活できる。一方のプリムヴェールは戦えば戦うほど魔力も闘気も消費していく。どちらが有利かは明々白々だ。
そして、アクアと対峙する森羅鬼燈――彼女のホムンクルスは別格である。
「鬼の力をその身に宿す」という固有魔法で特殊な白い雷撃を愛用の棍棒『六道怨羅』に宿らせ、上空で振り回した後にアクアに向かって振りかざす。
「金剛夜叉霹降靂」と呼ばれる技をアクアは武装闘気と覇王の霸気を纏った剣で受け止める。
闘気によって強化されたアクアは上空に森羅鬼燈を打ち上げる。
しかし、空中で体勢を整え、森羅鬼燈のホムンクルスはプラズマ化した強力なブレスを吐く「大威徳咆熱覇」を放つ。
アクアは飛翔してこれを回避すると、武装闘気と覇王の霸気、更に「天使の加護」の効果で聖属性を付与して攻撃を仕掛けようとするが、矢の形をした無数の衝撃波を放つ「軍荼利衝激鏑」を放たれ、なかなか近づけない。
三人が苦戦する中、追い討ちを掛けるように決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】達も絶望の魔力を溜め、敵にダメージを与えつつ、負のエネルギーで自身を回復する効果のある膨大な負のエネルギーを放出する「絶望の氾濫」を次々と放ち、着実にアクア達を追い詰めていく。
作戦を切り替え、決戦用ホムンクルス【ガーディアンゴーレム】から倒そうとしても、一撃では撃破し切れずに、「治癒回生」ですぐに回復されてしまう。毒などの状態異常も「治癒回生」で治癒されてしまうので状態異常に持ち込んで討伐も難しい。
「……どうやら、私の切り札を使うまでもなく倒せそうですね」
その上、コルジ自身もサポートだけでなく攻撃に加わっており、漆黒の炎で敵を包み込む「黒縄炎獄」、漆黒の炎を放射する「黒縄炎砲」、局所的に猛吹雪を発生される「凍寒吹雪」、赤く輝く魔法陣が出現させ、四つの雷で作られた柱を生成し、四つの柱を繋ぐように雷撃が走って菱形の領域を作り出し、雷撃に囲まれた領域を超高電圧の雷撃が満たす「滅煇雷域」を予備動作なく放ってくる。
絶体絶命か……と思われたその時、コルジの顔が強張った。
「上手くいったようだな?」
「『第零改変術式』……成功です」
魔力そのもので複雑な術式を編むことで大規模な事象改変を可能とするエルフ固有の魔法――五大術式の一つに区分される「第零改変術式」には対象範囲に存在する概念の一時的な書き換えを行うという効果がある。
通常は特定の素材を指定し、その素材を書き換えることで爆破させ、更にその爆発に巻き込まれた対象物質を誘爆させることで連鎖爆発を巻き起こす「連鎖爆散」として使用するのだが、今回、マグノーリエは「創魔の魔法陣」の書き換えに使用するという本来のものに近い方法で使用した。
結果として、「創魔の魔法陣」というコルジを有利にしていた魔法は消え、「治癒回生」を連発されることも、「矢返魔法」「矢返魔法」を常時発動状態にされることもなくなった。
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