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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-73 魔法の国事変 scene.13

<三人称全知視点>


 七階の激闘以降はそれほど苦戦を強いられることもなく、アクア、ディラン、マグノーリエ、プリムヴェールの四人は九階に突入――そのまま十階へと続く階段を目指していた。

 しかし、階段を目前に四人は足を止めることになる。


 熊の着ぐるみを着た魔法少女と黒い羊をモチーフとした魔法少女――監査部門でも上位に位置する魔法少女達が行く手を塞いでいたからだ。


 「眠らせた相手に悪夢を見せる」という固有魔法を持つ黒い羊をモチーフとした魔法少女――ナイトメアメリーと、「魔法の熊の着ぐるみ」という固有魔法を持つ熊の着ぐるみを着た魔法少女くま子。

 どちらも監査部門内戦闘サークル「明王會」に所属していた化け物であり、その実力は折り紙付きである。


 四人はナイトメアメリーの対策として圓から『状態異常無効化の指輪』という「眠らせた相手に悪夢を見せる」固有魔法の直接対抗策を渡されていたが、ナイトメアメリーの固有魔法を封じられたからといって簡単に勝てるほど甘い相手ではない。


 戦闘開始早々、ナイトメアメリーは羊の見た目からは想像もつかない速度で加速――双剣を抜いたアクアに向かって拳を振るう。

 アクアは双剣で攻撃を易々と受け止めると、剣の腹で押し返しつつ圓式の斬撃を放とうとするが、その前に黒い羊毛を展開されて攻撃が届かない。


メリーさんの雷雲メリーズ・サンダークラウド


 更にこの羊毛は防御に優れるだけでなく、雷撃を発生させることもできる。雷撃は剣を伝いアクアに流れるが、全身に武装闘気を纏ったアクアに雷撃は通用しない。


「――ッ! 危ない! アクア殿! ダークマター・フォージ」


「分かっているッ! 【天使之王】――天使化!」


 天使の翼を生やしたアクアが飛翔のとほぼ同時に宛ら転移したかのように現れたくま子にプリムヴェールの細剣の先から放たれた暗黒物質が炸裂する。

 瞬間移動に錯覚するほどの高速移動は回避は極めて困難である。見気が未来視のレベルまで高まっているからこそこの奇襲を回避することができた。……もし、圓と出会っていない時代に相見えることになっていたらと思うとゾッとする。


「お嬢様の光速移動に比べたらマシだな。……まだ目で追える。……でもどういう原理なんだ? これ?」


「くま子の肉球にはあらゆるものを弾く力があると言っていたな。恐らく、その肉球で大気を弾くことで瞬間移動にも匹敵する高速移動を実現したのだと思う。ローザが、全くそれと同じ原理で高速移動する魔法――『弾力空気(バウンド・エアー)』を使っていたところを見たことがある。原理についてはこれで間違い無いと思う」


「……この高速移動を初見で回避できた人はあまり見たことがありませんが、事前に情報を得ていれば対処もできるということですね。見たところ、魔法少女と互角以上の力を貴女方は持っている……本当に厄介なことこの上ない。しかし、瞬間移動は私の魔法の一部に過ぎない。私の肉球は火炎放射、雷撃、大気、斬撃――あらゆるものを弾き返します。それに加え、人体から疲労や痛みなどの物質ではないものも弾き出して回復させることや、弾き出したダメージを相手にぶつけて与えることもできるのです。それに、魔法の熊の召喚、熊型の魔法の発動など私の魔法の汎用性は極めて高い。簡単に突破できると思わない方がいい」


「……となると、やっぱりナイトメアメリーから落として万全の状態で闘うしかないってことか」


「私を甘く見てもらったら困りますよ!」


四方聖封陣ホーリー・シール・フィールド


 ナイトメアメリーが再びアクアに攻撃を仕掛けようと地を蹴った瞬間――四つの聖なる魔力の柱が生成され、頑強な聖属性のバリアが柱同士を繋ぐように張られる。完成した底面のない聖なる立方体から無数の聖属性の鎖が伸び、ナイトメアメリーを縛る。鎖を破ろうと足掻くも、魔法少女の中でも上位の戦闘力を持つナイトメアメリーの力を持ってしても鎖は決して砕かれることはない。


 聖なるバリアの一部がまるで繰り抜かれたように消え、マグノーリエが聖なる立方体の中へと歩いていく。その手には警邏婦警マリエラの「魔法の手錠」が握られている。


「ま、まさか! や、やめてくれ! この力がないと監査部門を守ることが……」


「やめません。……今の貴女達は間違っています。魔法の国の圧政に手を貸し、本当に守るべき人達に牙を剥き、悲しませる今の貴女達に正義などありはしない。……大人しく捕まってください。今の貴女達は魔法の国の警察失格です」


 マグノーリエの霸気の篭った視線を向けられ、ナイトメアメリーがたじろぐ。

 見た目は魔法少女よりも非力そうだというのに、その意志の力は他の者達と比べても遜色がない。

 手錠を掛けられ、ナイトメアメリーの変身が解ける。


「……ナイトメアメリーの変身が解除されたか。しかし、ただ力を封じられただけなれば手錠を外せば済むことだ」


「それを俺達がさせるとでも思ったか?」


「大人しくさせてはくれないだろうな。だから、強行突破する! 出でよ、魔法の熊達」


 魔法によって強化された黒い熊達が出現し、一斉に聖なる立方体を守るように立つアクア、ディラン、プリムヴェールへと襲い掛かる。


「……魔法の熊は殺しても問題ないんだよな?」


「圓は問題ないと言っていた。……私も存分にやらせてもらおうと思う。ムーンライト・ファントム」


 プリムヴェールは月の魔力と武装闘気で実体のある自身の分身を創り出した後、自身の刀身に月属性の魔力を宿す付与術式を発動し、円を描いて中心を突く形で突撃する。

 巨大化した複数の刀身は魔法の熊達の腹を貫き、貫かれた魔法の熊達は攻撃に耐え切れずに四散した。


「おいおい、なかなか恐ろしくなっているじゃねぇか! ――よっしゃ! 俺も好きなように暴れさせてもらうぜ!」


 武装闘気と覇王の霸気を剣に纏わせたディランは軽々と剣を振るって次々と魔法の熊達に斬撃を浴びせていく。しかし、風を切る軽快な音とは裏腹にその威力は尋常ならざるものであり、斬撃を浴びた魔法の熊はたった一撃を浴びただけで次々と両断され、肉塊と成り果てる。


 天使化しているアクアは天使の翼を自分のもののように完璧に使いこなしながら戦場を駆け巡り、すれ違い様に次々と圓式の斬撃を浴びせて魔法の熊達を撃破していく。こちらも武装闘気と覇王の霸気を纏わせており、小さい身体から放たれているにも拘らず、元副隊長と同等以上の威力を叩き出している。


「……そんな魔法の熊達をこんなにあっさり。貴女達は、一体何者なの!?」


「俺達か? 俺達は魔法の国に夜明けをもたらしに来た、多種族同盟所属の時空騎士(クロノス・マスター)だよ。――これで終わりにする! いくら肉球が強力だとしても、肉球に触れさえしなければ攻撃は跳ね返らない!」


「私の魔法は肉球だけではないことをお見せしましょう! 熊焔爆(ベアーズ・バースト)!」


 熊の顔をした巨大な焔の塊がアクアに迫る。くま子最大の魔法攻撃をアクアは真面に受けるつもりはなく、羽搏きを使った応用バージョンの俊身で回避すると、一瞬にしてくま子の背後に周り、圓式の斬撃を浴びせる。

 しかし、流石は魔法少女――人間なら致命傷になるほどの傷を負っても倒れない。……だが、流石のくま子であってもこれほどの手傷を負って隙が生じないなどということはある筈もなかった。


 そして、その隙を見逃すほどアクアも甘くはない。一瞬にして手錠を掛けたアクアは神水を変身を解かれたくま子――熊田(くまだ)結奈(ゆな)に飲ませると、マグノーリエに頼んで念のために「聖なる鎖セイクリッド・チェーン」で拘束してもらった。


「……後残っている強敵は【明王】森羅(しんら)鬼燈(かがち)だけか?」


「……あの裏切り者はここにはいない。……行うべき監査部門の仕事を投げ捨て、行方をくらました。見つけたら魔法大監獄に放り込んでやるというのに」


 くま子の言葉を聞き、ガッカリするアクアとディラン。戦う気満々の強敵の不在を聞き、残念に思ったらしい。分かりやすい戦闘脳の二人である。


「その魔法大監獄にはスティーリア様が向かいました。もうそろそろ陥落しているのではありませんか?」


「……しかし、圓の言っていた話とかなり食い違っているな。森羅鬼燈もコルジの手に堕ち、敵対することになると言っていたが……異世界化の影響で流れが変わったということか?」


「プリムヴェールさん、今は考えても仕方がありませんわ。森羅鬼燈という強敵が減ったということはそれだけ戦いやすくなったということです。――ここに二人が配置されていたということは、強力な魔法少女はこの先にいないということだと思います。ゴールはもうすぐです。皆様、行きましょう」



 マグノーリエの予想は的中し、監査部門の十階には魔法少女の姿は無かった。

 防衛用ホムンクルス【デモンズウィング】と管理部門の切り札であった決戦用ホムンクルス【ガーディアン・ゴーレム】が大量に溢れていたが、いずれもアクア達の敵ではない。次々と呆気ないほどの速さで撃破されていき、アクア達は比較的早く監査部門部門長の執務室へと辿り着いた。


 魔法が施された木の扉の上には「監査部門部門長コルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンの執務室」と書かれている。


「……さて、鬼が出るか邪が出るか」


「歯応えがある敵だといいんだけどな」


「ディラン殿、不穏なことを言わないでもらいたい。……私達は一人も欠けずにあの日常に戻ると違ってこの場にいる。敵が弱いなら弱いに越したことがない」


「……相手は9=2(メイガス)の五老臣の一人、魔法使いの中でも上位の力を持つ上に、この場所は彼の神域です。魔法使いの弱点である身体能力も何かしらの方法で補填していると思います。弱い敵であるという希望は捨てるべきですね。……開けます」


 マグノーリエが扉を開け、アクア達は四人同時に監査部門部門長の執務室に足を踏み入れた。

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