Act.9-71 魔法の国事変 scene.11
<三人称全知視点>
アクア、ディラン、マグノーリエ、プリムヴェールの四人は監査部門部門長の執務室を目指して監査部門の施設内を走っていた。
他の部門とは異なり魔法使いの姿は見えず、魔法少女達は侵入者のアクア達を見るなり襲ってくる。
監査部門にアクア達が侵入したタイミングで行われた放送を聞いてから魔法少女達がいきなり襲ってくるようになった。
どうやら、洗脳ではなく思考誘導をされているらしく、意識そのものはしっかりと持っているようである。……正常な意識を保ったまま監査部門を守るべく敵意剥き出して襲ってくるというのもそれはそれで恐ろしい。
魔法の国の名門家系の生まれでホムンクルス研究には一格言ある監査部門の部門長のコルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンは魔法少女反対派というほどではないが、魔法少女達が問題を起こすことに辟易としていた。
その対策として、コルジの命令に従うように改良された特殊なホムンクルスを用いて監査部門所属の魔法少女達をホムンクルスに憑依させており、魔法少女達の記憶や自我をそのまま継承させて違和感を持たさせずに戦力として使用できるようにしている。
このホムンクルスは高い再現性を持ち、身近な人物どころか本人すらホムンクルスに憑依させられたことに気づかない。
ホムンクルスには管理者の権限を持つ者に逆らうことができないと性質がある。これは、本人の意思云々ではどうにもならないものであり、このホムンクルスに憑依した魔法少女達も例外ではない。
例えば、監査部門所属の魔法少女と言えど、仲の良かった犯罪を犯した魔法少女に手心を加えてしまったという事例は存在する。しかし、ホムンクルスに憑依された魔法少女に「適切に任務を遂行せよ」と事前に命じておけば、それが例え、親友でも血を分けた兄弟でも疑問を抱かずに着実に実行する。管理者の命令は至上命令であり、その命令に疑問を持つことも、やってしまったことに罪悪感を持つこともない。そういうふうに思考誘導がされ、疑問を持つことも管理者を疑うことも、叛逆する意志を持つこともないように設計されている。
勿論、監査部門の魔法少女達がホムンクルスに憑依しているということは事前の情報共有で聞いていた。彼が魔法使いの肉体をホムンクルスに差し替えることが始まりの魔法使いに対する冒涜となるため、所属の魔法使い達に疑惑を持たれたら困るため、監査部門から魔法使いを排除し、魔法少女だけを残したことも当然把握している。……まあ、アクア達にとっては興味のない話だが。
今回の任務にあたり重要なのは、魔法使いがいないという情報ではなく、監査部門の攻略にあたり脅威となりうる魔法少女や利用することで制圧がやりやすくなる魔法少女についての情報だった。
制圧がやりやすくなる魔法少女という都合の良い存在がいるのか、とアクア達も疑問に思ったが、圓の情報によればどうやら約一名監査部門の中にいるらしい。
魔法少女の名前は警邏婦警マリエラ――レオタード改造されたエロ警察官という表現が適切な格好の魔法少女で、紺色のレオタードとピチピチなポリスジャケットを着用し、谷間を見せ付けるスタイルで、ガーターベルトで締め付け、靴と一体化したブーツと繋げて履き、頭にはアメリカンポリス風の警官の帽子を被っている。
固有魔法は「相手を無効化する魔法の手錠」――手錠を掛けられた相手は抵抗もできなくなり、人を遥かに超えた身体能力を持つ魔法少女であっても力づくで外すことは不可能である。
「相手を無効化する」という効果のため、手錠を掛けられた場合は一切の戦闘行為が不可能になる。
闘気などの能力も使用できなくなり、辛うじて体術を使えるかという状態になると圓は推測していた。その予測が正しければ、闘気などの新たな技術を得たアクア達にとっても苦戦は必至の相手ということになるが、もし、仮にアクア達が「魔法の手錠」を手に入れればその手錠を使って魔法少女達を無力化することもできる。
「魔法の手錠」そのものは魔法少女本人の死後も消滅せずに残り、本人以外でも使用できるものであるため、警邏婦警マリエラ以外に「魔法の手錠」を使えないという事態にはならない。
警邏婦警マリエラは監査部門制圧において、アクア達にとって確実に撃破して「魔法の手錠」を回収しておきたい相手だ。
一方、警戒しなければならない魔法少女は何人かいるが、その中でも格別に警戒すべき魔法少女は二人いる。
どちらも監査部門内戦闘サークル「明王會」の関係者で一人目は「明王會」の創設者であるち【明王】森羅鬼燈。
鬼をモチーフとした魔法少女で二本の小さな角を持ち、花魁のような豪奢な和装を纏っている。武器は棍棒。【明王】の異名を持つ。
「鬼の力をその身に宿す」という固有魔法を持つ。
もう一人はくま子。
監査部門所属の魔法少女の一人。熊の着ぐるみを着た魔法少女で、「魔法の熊の着ぐるみ」という固有魔法を持つ。
その愛くるしい見た目に反して戦闘力は高く、鋭い熊の爪による攻撃や、疲労などの目に見えないものも含むあらゆるものを弾力のある肉球で弾く、魔法の熊の召喚、熊型の魔法の発動など応用性は高い。
ちなみに、監査部門内戦闘サークル「明王會」では鬼燈に次ぐ二位の実力者だ。
『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』においては、どちらも魔法の国の五老臣の一人――コルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンの最強の手駒として登場し、魔法の国に敵対する黒の使徒や魔法の国と敵対することを決めたルートの雪菜と敵対し、猛威を振るう。
当然、今回の侵攻においても鬼燈とくま子は警戒すべき対象だ。
「魔法少女は超人的な身体能力を持つと聞いて楽しみにしていたけど、今のところそんなに歯応えのある敵は出てきていないな。汀さんの方が強い気がする」
裏武装闘気の剣に武装闘気と覇王の覇気を纏わせ、襲い掛かってきた魔法少女を峰打ちで壁に向かって吹き飛ばし、魔法強化されている壁を突き破って部屋の中で気絶させたアクアがつまらなさそうに敵意を剥き出しにする監査部門の魔法少女達に視線を向ける。
どうやら、リストの中で上位に上がってくる危険度の高い魔法少女も、警邏婦警マリエラも、ここにはいないらしい。
「……本気で暴れられないってのもストレスだな。霸気を纏わせた攻撃を何とか耐え切れるっていうだけでも賞賛に値すべきところなのか? なんか感覚がバグって色々と分からなくなっているなぁ。そう思わねぇか? 相棒?」
「……確かに、戦ってみるとアレって? 思うことが最近増えてきた気がする。まあ、相手が弱いからと油断して戦っていたら手痛いしっぺ返しを喰らうものだし、気を引き締めてことにあたらないといけないけどな」
「今回は能力を完全に無効化してくる魔法少女がいる。それに、監査部門部門長のホムンクルスも厄介だ。……最悪の場合は私達が術中に嵌り、圓達と同士討ちさせられることになるかもしれない。一先ず、警邏婦警マリエラを倒し終えるまでは油断できそうにないな」
圓から監査部門の魔法少女達は可能な限り殺さないようにと言われているので、プリムヴェールも「ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー」などの大技は使用せず、「ルナティック・キャリバー」、「ルナティック・フレア」、「ファンタズマゴリア」、「ダブルディスターバー」などの技を中心に組み合わせて魔法少女達と交戦している。討伐した魔法少女達を裏武装闘気と聖属性魔法を融合した特殊な鎖で拘束する役割はマグノーリエが担っていたが、マグノーリエ自身が戦闘には参加せず……といったことはなく、水属性と雷属性のオリジナル複合魔法の「雷迸水広弾」や「雷纏激奔流」などの魔法を使い、魔法少女の撃破に貢献している。
ちなみに、「雷迸水広弾」はマグノーリエの開発した「アクアスプレッド」を、「雷纏激奔流」は無数の小さな青い魔法陣を六角形状に敷き詰め、そこから無数の細い水撃を放って攻撃をする「デリュージランチャー」をそれぞれ基にしている……と言いたいところだが、それぞれローザが改良を加えた「広がる水球」と「奔流の束撃」が存在し、そのどちらも魔法構成の参考にしているため、どちらが基になったかという問いに明確な答えは存在しない。マグノーリエなりにどちらの魔法も下敷きにして作り上げたというのが正しい見解と言えるだろう。
アクア、ディラン、マグノーリエ、プリムヴェールの四人は誰一人欠けることなく監査部門の四階を通過し、七階へと差し掛かる。魔法のエレベーターが停止している今、地道に階段を上っていくしか監査部門部門長の部屋にいく方法はないが、監査部門は十階建てで、部門長の部屋は最上階……つまり、後三階上がれば目的地に到着できる。
だが、そう易々と監査部門側も侵入者を先に進ませる気はないようで――。
突如、床がホットチョコレートの底なし沼へと変化した。液体のチョコレートの中に落下する前にアクアは【天使之王】を使って天使化――ディラン、マグノーリエ、プリムヴェールの方に向かって裏武装闘気の鎖を投げて掴んだタイミングで飛翔し、チョコレートの沼から脱出する。
「洗浄! 乾燥」
マグノーリエが呪文を唱え、アクア、ディラン、プリムヴェール、マグノーリエを一瞬にして全身を水で包んで洗浄し、風の魔力で乾燥させる。チョコレートの液体をほんの僅かも逃さない完璧な洗浄を行った理由は、場合によってはほんの僅かでも命取りになるからである。
「ビターバレンタインに、ビスケット公女。ミセスあっぷる、テスタメント、それに警邏婦警マリエラか。……監査部門の上位陣結構揃っているみたいだな! ようやく面白くなってきたぜ!」
ディランがニヤリと笑いながら剣を構え、プリムヴェールとマグノーリエもそれぞれ細剣と杖を構える。
アクアがチョコレートの沼を避けるように床に降り立った瞬間、鎖を手放した四人は臨戦体制に入り、戦いの火蓋が切られた。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




