Act.9-68 魔法の国事変 scene.8
<三人称全知視点>
アルティナの魂魄の霸気《狐九仙》は発動することで闘気や霸気のエネルギーの一部を妖力と仙氣に変換し、その身に纏うことで狐九仙の力を得るというものだ。本来、アルティナが使えない筈の仙術が使えるようになる他、アルティナが使用する妖術も妖力が上昇するため威力が大幅に上昇する。
能力の使用中は普段は茶色の狐尾が橙色のオーラを纏った金色の豪奢な尻尾へと変化する。
魂魄の霸気《狐九仙》によって変化した尻尾は一体一体が命を持ち、それぞれ自立した生き物――八体の黄金の狐へと変化させて戦わせることもできる。《狐九仙》使用時にはアルティナの命が実質九個になるため、本体が死亡しても黄金の狐のいずれかの命を吸収することで復活することができる。
また、複数の尻尾がある状態で死亡した場合には尻尾に宿った金色と橙色のオーラが一つ分消滅するのと引き換えに復活することができる。
黄金の狐が残っている場合は、蘇生限界時間を超えても蘇生は可能だが、時間経過によって霸気が分散してしまえば黄金の狐そのものが消えてしまうため注意が必要だ。
しかし、この《狐九仙》は膨大な霸気を消費するため長時間の使用は現実的ではないのだが。
現在のアルティナの霸気のレベルでは《狐九仙》を十分維持するのが限界である。そのため、理論上は可能な金色の狐による蘇生限界時間を超えた蘇生は現時点では現実的ではない。
サーレの魂魄の霸気《狸王》には、一度会ったことのある相手を対象としてその姿に変身することができる《変貌》と塩の武器を生成することができる《塩王》の二種類の効果がある。
《変貌》は姿形だけでなく使用できる技も含めて完全再現できるが、その戦闘能力や技の威力は六十パーセントまでしか引き出せない。
《塩王》によって生じた武器には傷つけた部分を塩に変化させる効果がある。
メアレイズは身体強化によって筋力を上昇させる《暴兎》、耐久力を上昇させる《防兎》、体を軽くして身軽な動きを可能にする《軽兎》、敏捷を上昇させる《俊兎》、聴力を上昇させる《兎耳》、危機的状況の時に幸運が発生する《兎足》を同時に発動した上で武装闘気と覇王の覇気を纏い、「兎式・雷鎚覇勁・猛打連撃」を放ち、アルティナは《狐九仙》で『妖怪仙人九尾の妖狐』の姿に変化すると、仙氣を混ぜることで威力を高めた「妖力収束・指鉄砲」――「妖仙収束・指鉄砲」と呼ぶべきものを放ち、サーレは《塩王》によって作り出した巨大鎚を【ガーディアン・ゴーレム】に向かって振り下ろした。
塩の巨大鎚を振り下ろされた部分は塩と化して崩壊し、「妖仙収束・指鉄砲」を浴びた部分は消し飛ばされ、瀕死のところにメアレイズの『神雷の崩砕戦鎚』が炸裂し、決戦用ホムンクルス【ガーディアン・ゴーレム】は撃破される。
これは、ダラグにとっては予想外の展開だった。
魔法少女相手にも優位に戦うことができる最高傑作――万に一も負けはないと確信して送り出したが、仮に三人に負けるとしても長期の戦いによるダメージで落とされると考えていた。まさか、一撃で倒されるなどとは想定すらしていなかったため、メアレイズ、アルティナ、サーレの三人掛かりとはいえ、一人一回の攻撃で壊滅するという状況は悪い夢のように思えた。理解したくなど無かったが、目の前で起きたことは現実である。いつまでも現実逃避していても仕方がない。
全力のぶつけ合いでは絶対に勝てないと【ガーディアン・ゴーレム】が倒されて確信したダラグは魔法少女並みの力を得る錠剤を大量に飲み、武闘派魔法少女数人分にも迫る力を得ると床を踏み抜く勢いで加速――メアレイズに向かって至近距離から体力の火球を撃ち込みつつ、杖を思いっきり振り被って打撃を放つ。
マジカルドーピングアイテムを使えば効果時間の十五秒程度は魔法少女と戦う力を得ることができる。用法容量を守らない使い方をした大丈夫は恐らく大きいものとなるだろう。この薬の効果が切れた時、真面に動けるかどうか正直自信はない。薬を抜くために数日間動けないというレベルで済めばいいが、このまま死亡という可能性も十分に考えられる。
しかし、そんなことはダラグにとってはどうでもいいことだ。絶体絶命という状況は変えられない。ならば、最低でも一人は道連れにしたい。一人でも撃破できれば、後は暴れるだけ暴れてやろう。
しかし、ダラグの願いは叶わない。
「兎式・雷鎚迅雷八卦・骨砕猛打衝!! でございます!!」
ダラグの攻撃が直撃する前に聖属性の魔力と武装闘気、覇王の霸気を纏った『神雷の崩砕戦鎚』がダラグの腹部に直撃して吹き飛ばされた。
マジカルドーピングアイテムのおかげか辛うじて意識はあった……が、身体の自由は効かない。
出血した血が池のように広がっている。この出血量では助かる道は絶望的だろう。
少しずつ薄れゆく意識の中、メアレイズ達を睨め付け、ダラグはそのまま息を引き取った。
◆
刑務部門の管理する魔法大監獄はレベル一から最下層のレベル七まで存在する。
レベル一は刃物のように切れ味鋭い葉を持つ木によって構成された森から成る「鉄の森」。
レベル二は強力なホムンクルスが犇めき合っている「悪魔の国」。
レベル三は特殊な魔法により方向感覚を狂わされる「迷いの樹海」
レベル四は煮えたぎる血の池と燃え盛る火の海からなる「焦熱地獄」
レベル五は絶えず雷撃が降り注ぐ「雷平原」。
レベル六は猛吹雪が吹き荒れる「極寒地獄」。
そして、レベル七は凶悪な魔法少女や死刑囚を収監しておく「無限地獄」。
今回、スティーリアが目指す先はレベル四だ。その理由は職員用のエリアがレベル四にあるからである。
別に大監獄攻略と言っても最下層まで降りる必要はない。刑務部門の部門長以下、主要な職員を撃破すれば任務は完了である。
スティーリアには制圧するならば最下層まで全て制圧してしまいたいという気持ちも確かにある。しかひ、そうなると懸念されるのは戦禍を拡大した結果、凶悪な囚人が大量に脱獄して逃げてしまうといった事態が起こることだ。
そのツケは戦後に魔法の国を統治する黒の使徒達や多種族同盟が支払うことになる。そう考えると、最低限の被害で魔法大監獄を落としてしまうのが賢明だ。……最悪の場合は、その脱獄囚達がご主人様達の敵に回るかもしれない。そのような事態は絶対に避けなくてはならない。
個人的には猛吹雪が吹き荒れる「極寒地獄」を味わってみたかったが、スティーリアは自身の好奇心を押し留め、「氷武創造」で『氷百合の魔剣』と『氷百合の聖剣』を作り出すと、武装闘気と覇王の霸気を纏わせた上で武器を大きく振り回して敵の首を刈るイメージで『氷百合の魔剣』と『氷百合の聖剣』を振るい、暗殺者系の攻撃特技の中でも最強クラスのダメージ出力を誇り、高確率の即死効果が付与された暗殺者系四次元職の暗殺帝の奥義を巨大な門へと放った。
魂魄の霸気《暗殺者》によって模倣された暗殺帝の奥義は魔法によって強化された門の巨大扉を最も容易く両断し、斬撃を浴びた扉は耐え切れずにスティーリアの反対方向――魔法大監獄の内部へと倒れる。
魔法大監獄の内部には脱獄警戒のために三人の看守の魔法少女達の姿があった。侵入者を見つけると同時に臨戦体制を取る……が。
『大紅蓮凍寒摩訶鉢特摩』
圧倒的な極寒の風がスティーリアを中心に広がり、次の瞬間――看守の魔法少女達の下半身が全て凍りついた。凍結の勢いは留まることを知らず、そのまま看守達を氷で覆ってしまう。
魔法少女の身体能力があれば氷を内部から破壊して脱出することもできそうだが、氷はびくともせず、魔法少女達は意識があるまま氷に閉ざされて完全に身動きを封じられていた。
更に極寒の風はそのまま殺菌消毒を兼ねた百度の熱湯に突き落とされる「地獄の洗礼」と呼ばれる大監獄一階を一瞬にして囚人達と看守の魔法少女達諸共凍結させ、魔法大監獄の一階を完全に制圧してみせた。
「大紅蓮凍寒摩訶鉢特摩」は新たにスティーリアが作り出した技で、極寒の魔力の風を解き放つというものである。この極寒の魔力の風は魔法少女であっても身動きが取れないほどの凍結効果を引き起こす。
しかし、それは技の片鱗に過ぎない。「大紅蓮凍寒摩訶鉢特摩」を展開したエリアではスティーリアの望むままにスティーリアの氷技を発動することが可能になるのである。例えば、局所的に「氷雪の暴風」を展開したり、「氷華の茨荊」を発動して増殖する氷の茨荊を発生させたり、ダイアモンドダストを起点に「凍結する大気」を発動したり、ダイアモンドダストを媒介に「超越する絶対零度」を発動したり、シャーベットデザートゴーレムの「氾濫し雪崩れる氷菓子」から着想を得て、スティーリアが開発した新技である「溢れた氷が押し寄せる」というスキルカードを十枚設置する効果を持つ魔法陣を展開して大量の雪を降り注がせる「白冷の大雪崩」に繋げるという戦法も可能である。
流石にスティーリアの渾身のブレスである「白氷竜の咆哮」を複数展開して放つことはできないが、それでも大半の技を瞬時に、同時多発的に発動することが可能となる。この技は反則級の力を持っていると言っても過言ではないだろう。流石は古代竜の一角である。
魔法の国最強と言われる魔法大監獄の一角もその恐ろしい力を前に平伏し、レベル一へと続く階段を明け渡した。
スティーリアはそのまま真っ直ぐレベル一へと続く階段に向かって歩いていくと、冷気の鎧を纏って階下へと降りていった。
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