Act.9-55 〝四人目〟の三賢者 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「……お主、やはり我を全く信用しておらぬな」
「基本的にラツムニゥンエルさん以外の八賢人は信用していないよ。話が通じるかそもそも会話が成立しないかの個体差はあるけど、まだマシってだけで基本的には下々の者を何とも思っていないからねぇ。在り方を見ていれば分かるし、最低限の警戒は維持するつもりだよ。ボク達に友好的といっても仲間じゃないからねぇ。というか、やろうと思えばボク達全員戦奴にできるでしょう? そもそも探り合いとかしなくてもいいんだからさぁ、そっちの方が楽だって思っているんでしょう?」
「……まあ、理論上は我の力を使えば戦奴にすることは可能だが、それは我に死ねと言っておるのか? 敵対すれば我に万が一にも勝ちはないことぐらい分かっておるのだろう? 我の﴾神すら殺し英霊を従える槍を操るよ﴿はお主にも通用するだろうが、この槍が当たるとは思えないし、仮に当たったとして何かしらの対策で無効化される未来しかない」
「まあ、敵対するなら躊躇いなく魂諸共滅するけどねぇ。現身に魂を入れ替えられないように。そりゃ当然でしょ? 仲間でも家族でもないんだから。……ボクにとっては敵じゃないけど、同時に仲間じゃないからねぇ」
「これまでの行いを考えれば信じられなくて当然か。……特に戦奴化は仲間を家族を大切に思うお主にとっては忌むべき力――この力を使われたらと思うとゾッとするのも当然か。我には危険な状況を救ってもらった恩もあるし、ラツムニゥンエルのことでも大きな借りがある。それに、お主と敵対する気もない。この世界で我はこの﴾神すら殺し英霊を従える槍を操るよ﴿の力を妄りに使うつもりはない。流石に戦奴がゼロでは我も流石に心許ないのでオスクロを戦奴にさせてもらったが、これ以降は圓殿の許可を得てから行うつもりだ。無論、圓殿が求めるのであれば聖痕を解除する」
「……疑って悪かったねぇ」
「我のような八賢人を相手にするなら当然の反応じゃ。……我の立ち位置は微妙じゃからな。敵でもなければ味方であると宣言している訳でもないからな」
「とりあえず、オスクロのことは強化させてもらうよ。有象無象の戦奴を大量に集めたところで戦力はそこまで高まる訳ではない。それよりも戦奴そのものを強化した方が戦力増強になるからねぇ。それに加えて、そこの人事部門の魔法少女三人はノイシュタインにあげるよ」
「なっ、何を勝手に!!」
「そもそも、敵対して捕まった時点で末路を決められる権利は君達には無いよ」
「……本当にいいのか?」
「流石に一人だけじゃ心許ないでしょう? 戦奴。その代わり、今後戦奴を増やすならお手数だけどボクに一言確認を取ってもらってもいいかな? ボクにとって重要な人を戦奴にされた場合、解除してもらうか、敵対ルートしか無くなるからねぇ」
「それは勿論だ」
「それと、三人に――セイント・ピュセル、拳法姫の娘々、紅桜に一つ質問させてもらってもいいかな?」
「ああ、構わんぞ。我も良い情報を引き出せると思って連れてきたのだからな。その代わり、その話、我にも聞かせてもらえるか?」
「そりゃ勿論」
三人は名前を言い当てられて驚いたようだ。まあ、名乗ってなかったしねぇ。
「何者かは知らないけど、私達は何かを話すつもりはない」
「どの道、人事部門の下っ端に過ぎない君達に国家機密とか期待していないよ。それに、君達の国の独裁者である三賢者Queen of Heartを含め主要な人間からそうでない者まで大体のプロフィールは頭にあるからねぇ。……例えば、君達の上司の人事部門部門長の名前はウェネーフィカ、固有魔法は『道具に魔法の力を与える』というものでその力で作り出した猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を愛用しているんじゃないかな? なんならここで君達の固有魔法を一つずつ明かしても構わないけどねぇ? 分かったかな? 魔法の国に関する情報は少なくとも君達より持っているんだ。……ボクが知りたいのは君達魔法の国側にとってもあまり痛手にはならない情報の筈だよ。シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメは元気にしているかな?」
ボクがある魔法少女の名前を口にした瞬間、三人の顔が強張った。
「……誰じゃそれは?」
「まず、ノイシュタインさんには魔法の国がどういうものであるかを説明するところから始めた方がよさそうだねぇ。この世界の魔法の国は法儀賢國フォン・デ・シアコルをモデルに構築されている。法儀賢國フォン・デ・シアコルが最初の魔法使いによって作られたように、魔法の国の基礎もまた最初の魔法使いに作られた」
「……つまり、魔法の国はその最初の魔法使いの死後、その弟子達によって運営されているということであるな。なるほど、八賢人に対応する存在が、魔法の国における三賢者ということか」
「ちょ、ちょっと待つアル! それが本当なら私達は作られた存在ということアルか!?」
「情報を吐いてくれない人に教えるつもりはないねぇ。続けていい?」
「分かったアル! 私達が知っていることは全て教えるアル!」
「……娘々さん、どういうつもりかしら?」
「……どの道、この状況で黙秘を続けたところで無意味アル。……私達がいくら頑張ったところであの魔法少女には勝てないことは分かっているアルよね? それに、ここにはもっと恐ろしいのがもっと沢山いるアル。どうせ拷問なり何なりでいつかはその情報も知られることになるなら、ここで情報交換をした方が建設的アル」
「まあ、確かに一理あるね。幸い、そこのお嬢さんが求めてきているのは人事部門の機密でも、魔法の国を揺るがす秘密でもない……魔法の国の誰もが知っているような情報だからね。それに、そういった情報は既に握っているようだし……手遅れだね」
「そりゃ、黒の使徒達と組んで魔法の国潰す気満々だからねぇ。ボクは個人的にQueen of Heartに恨みがあるんだ。アレを殺せる策は、ボクも黒の使徒側も用意している。……まあ、でも君達にとっても悪い話じゃないんじゃない? 三賢者の争いの果てに政権を取ったのは魔法少女を道具などと称し使い捨てるQueen of Heart派……今の魔法の国は暗黒時代なんじゃないの? その地獄から解放されるんだから、魔法の国に面従腹背する気で情報提供してくれたっていいと思うけどねぇ」
「……あのQueen of Heartに本気で勝てると思っているのかい? ミューズ・ムーサ・ムーサイもリツムホムラノメノカミも、魔法の国の三大勢力の二角がQueen of Heartには勝てなかったんだ。どちらも反則級の固有魔法を持ちながら」
「勝てるさ。ボクの知っている史実でもQueen of Heartと敵対するルート、といっても二つだけどそのどちらでもQueen of Heartは倒されているし、それ以上のものを用意したんだ。万が一にも負けはない」
「……分かった、君の知りたいことを教えよう。ただし、まず君から情報を開示してもらう。そうでなければ君の知りたいことは教えない」
「そんな話に乗らずとも魔法で記憶を奪えばいいだけのことではないのか? 我ならできるぞ?」
「『記憶取り出し魔法』ならボクも使えるよ。ただ、折角教えるといってくれているんだからフェアな交渉をするべきだとボクは思うんだよねぇ」
「……物好きであるな」
「まあ、君達には想像もつかないことだし、恐らく嘘だと思いたいものではあると思うけど、この世界は三十の創作物の世界観が融合した世界だ。そして、君達は『魔法少女暗躍記録〜白い少女と黒の使徒達〜』という創作品の登場人物なんだよ。まあ、当時は人事部門のモブ魔法少女A、人事部門のモブ魔法少女B、人事部門のモブ魔法少女Cだったけどねぇ」
「そんな筈はないアル! 私には地球で生まれ、魔法少女認定試験で魔法少女に選ばれ、人事部門に所属して……この世界で生きてきた記憶があるアル! た、確かに何故か地球には戻れなくなっているアルが! で、でも……」
「別に創作物の登場人物だからって下に見るつもりはないよ。この世界は紛うことなき現実だし、君達はこの世界で確かに生きている。その記憶だって本物……と言いたいところだけど、君達の言う地球が実装されていない以上、まあ、どう答えていいか難しいところだねぇ。この世界は創作物をもとに生み出され、独自の進化を遂げている。ボクも三十のゲームの知識は持っているけど、それが全部通用する訳じゃなければ、未来を見通せる訳でもない。……この世界は元々ハーモナイアという女神が管理していた。しかし、その力を、『管理者権限』を簒奪した者達がいる。その一人がQueen of Heartだよ。……ボクはその三十の創作物の製作に関わった中核の人間の一人。だから、ゲームに実装されていない没設定の知識もある。まあ、信じる信じないは君達が決めればいいことだよ。さて、教えてもらえるかな? 本来は存在しない筈の四人目の三賢者――シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメに関する情報を」
「……まさか、本当に知らないのか? シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメは刑務部門の管理下にある魔法大監獄の最下層であるレベル七に収監されていたが、数年前に魔法大監獄が破られ、多くの囚人が逃げ出した。その中にシャッテンの姿もあったと魔法の国で大々的に報道されていたが」
「何やってんだよ! アレが脱獄ってマズいでしょ! コルジ・カッファ・ペル・ゲフォルンのホムンクルスで支配された……って、あの人は例え大犯罪者でも魔法使いを神聖視してホムンクルスに憑依させたりはしないと思うけど……そういうんじゃなくて? 本当に、嘘は良くないよ、嘘は……本当に? えっ、本当に言ってんの? 何やってんの刑務部門。一番出しちゃいけないでしょ、アレは。何のための大監獄だよ」
「……ローザ、そんなにも恐ろしい存在なのか?」
「魔法の国が最初の魔法使いによって建国され、その後、三人の弟子――三賢者によって統治されてきたということまでは話したよねぇ。一人目はアルフォンティエンヌ=アヴラパチバルタ=ピュトロスがモデルとなった『誰とでも友達になれる』という固有魔法を持つミューズ・ムーサ・ムーサイ、二人目は『質問したら真理が分かる』という固有魔法を持つリツムホムラノメノカミ、そして三人目は『自分に対する攻撃を全て無力化し、一方的な干渉を可能とする』という固有魔法を有するQueen of Heart」
「モデルはザンダロエッテ=シェヌバルメルヴィ=シュピェレンハーツか?」
「正解だよ。だけど、最初の魔法使いにはもう一人弟子がいた……という没設定がある。それが、シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメ――固有魔法は『死者蘇生』」
「『死者蘇生』だと!? しかし、それは神界の力をもってしても死んだ直後の者にしか効果はない筈。我に『蘇生術式』をかけたお主が一番それをよく分かっているのではないか?」
「確かに蘇生可能なのはタイムリミットを越える前まで、つまり死後から三十分を超えて以降の蘇生は物理的に不可能。だから、シャッテンの死者蘇生は死者蘇生であって死者蘇生ではない」
「……つまり、お主は何を言いたいのだ?」
「正確に言えば、強力な残留思念を黒百合に移し、儀式によって素体に特殊な憑依をさせることで擬似的な死者蘇生を行う魔法だよ。生前の力を完全に再現できる一方、一度蘇生させた存在を再度蘇生させることはできない……魔法の正式な名称は『残留思念から英雄を復活させる』だ。一度しか蘇生できないというのは大きなデメリットだし、強力な残留思念が残っていなければ蘇生はできない。満たす必要のある条件は多いけど、本来は蘇生できない筈の存在を一度だけでも確実に蘇生させることが可能だとしたら?」
「……ヴェーガが欲しがりそうな固有魔法だな」
「ヴェーガ=シィエスティルス=エンワールドレス、確か法儀賢國フォン・デ・シアコルを作った最初の魔法使いの一番弟子でそのまま死に絶えていく運命にあった浮浪児だった自分を見出し、導いてくれた師を愛しており、師の凄惨な死を回避するために既に十不可思議回以上のループを行っているんだっけ? たった一人、師の運命を変えられれば後はどうでもいいという一途に師を愛する乙女で、他は一切省みないって話は聞いているよ。それがなんで瀬島奈留美の誘いに乗っちゃったんだろうねぇ? 好感を持てるところもあったけど、今は殺すべき敵としか認識していないよ」
「……自分の力ではどうしようもないと思ったからだろうな。そもそも、〝熾侍〟ヴィクトリアセラフィを魔法の国に招いたのもヴェーガだ。瀬島派とヴェーガの間で何かしらの取引があったと見るのが妥当だろう」
まあ、気持ちは分かるけどねぇ。助けられる可能性があると言われたなら、その手を掴みたいと思うのは至極当然かもしれない。
でも、それはヴェーガが選んだ道。それでボクと敵対するなら容赦なく滅ぼす。慈悲など与える必要はない。
ラツムニゥンエルを孤立させ、命の危機に瀕する切っ掛けを作った忌まわしい存在でもある訳だから尚更ねぇ。
「まあ、シャッテンのことは考えても仕方がない。仕掛けてくるかどうかも分からないし、それよりも重要な今回関わってくる敵に関する話をしようか? ……ただ、話は一度に纏めてした方がいいからねぇ。役割分担も決めたいし、ノイシュタインさんにも今回の戦争の目的があるでしょう? もし可能であれば対魔法の国の臨時班派遣に向けた作戦会議に参加してもらいたいんだけど」
「お主が良ければその会議、我らも参加させてもらおう。そちらの思惑を把握しておいた方が競合せずに済みそうだしな」
「じゃあ、明日の明朝、地下鉄王都中央駅の隠しルート経由で作戦本部に来てねぇ。案内は……ネスト、申し訳ないんだけど頼めるかな?」
「それって義姉さん? 僕も臨時班の一員に選ばれたってことかな?」
「後で正式な依頼書が来るけど、ネストが断らない限りは臨時班のメンバーだよ」
「断る訳ないじゃないか……ようやく義姉さんの役に立てる時が来たんだね。ノイシュタインさんでしたね、明朝、僕が責任をもって作戦本部までお連れ致します」
「良かったらラピスラズリ公爵邸の来賓用の部屋に泊まっていくといいよ。その方がネストも迎えに行きやすいと思うし。お父様にはボクの方から伝えておくよ」
「折角の申し出だ。受けさせてもらおう」
「決まりだねぇ」
その後、ボクはカノープスにノイシュタイン達がラピスラズリ公爵邸に一泊まることを伝えてから王女宮に戻った。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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