Act.9-53 メアレイズの凱旋帰国 scene.2
<三人称全知視点>
メアレイズが連れてきた獣人族の文官達はいずれも高い能力を持つ者達だが、その中でもヴェルディエが名前を呼んだ六人は別格である。
ガリーゴラ=猿賢=サージュ=オランウータンは猩々人族の族長であるゴリオーラの弟だが脳筋な兄とは違って賢く、文官の素質があった。
ユミル自由同盟では頭脳面は評価されないことを理解しており、「出る杭は打たれる」と確信して実力を隠してきた。
あまり戦いを好まなかったため族長争いには不参加だったが、パワープレイ一辺倒にならない分実はゴリオーラより強かったりする。
ウルフィア=凛美=カニスルプス=アルバスはツンドラオオカミの狼人の女性で銀色の髪と同色の犬耳が特徴だ。
猫人族の族長であるイフィスとは種族は違うが子供の頃からの親友でイフィスが絶対に勝てないと認めるほどの才女だが、ガリーゴラと同じく「出る杭は打たれる」と確信して実力を隠してきた。
アンディゴ=智狗=ジャーマン=シェパードは犬人族の現族長である「ルシアン」ことキュアノス=慧主=アラスカン=マラミュートの息子で元ル・シアン商会の番頭である。商人としての才覚に長けており、最も「ルシアン」に近いと言われる人物だ。
引かれたレールをただ歩くだけの人生を送るつもりはなく、様々な経験をしてそこで得られたものをル・シアン商会に生かしたいと考えており、文官試験もその一環として受けた。
レパード=豹尾=ブラック=パンサーは豹人族の中でも珍しい黒豹の豹人で豹人族の中のグループでも異質な存在であることから幼少の頃に豹人族のグループから独立、その後は傭兵のような立ち位置でユミル自由同盟を渡り歩いていた。
腕っ節だけに頼らず学べることは全て学んできたため事務処理能力も高い。また、獣人族内部に蔓延る差別意識も様々な獣人達と関わってきたためほとんどないと言っていい。
前歴はル・シアン商会の用心棒でアンディゴに誘われる形でメアレイズ主催の文官試験を受けた。
ジャクドン=陽輪=ウルスス=アルクトスはヒグマの熊人で、ツキノワグマの熊人である熊人族族長のヴォドール=鋭爪=ベイージェ=ウルススとはライバルの関係にあるが、ヴォドールには及ばない万年二番手の立ち位置にあった。
長く燻っていたが、メアレイズ主催の文官試験を受けるとメアレイズに認められて文官として見出される。
獣人族の多くと同じく強さ至上主義者ではあるが、最弱と呼ばれながらも獣王にまで上り詰めたメアレイズの生き様を見て感銘を受けており、「生まれ落ちた種族よりもその後の成長しようとする意思の方が重要である」と考えている。
頂点に立つことに高い執着を覚え、いずれはメアレイズを越える優秀な文官になりたいと考える野心家だ。……まあ、メアレイズにとっては自分より優秀でも優秀じゃなくても仕事がしっかりとこなせるなら何でもいいのだが。
そして、最後の一人がオーガイル=鰐王=コッコ=ドリッロである。
鰐人族の族長でヴェルディエ以前に獣王を務めていた人物。捉えどころのない性格で好奇心旺盛な一方、自分の興味のないことにはとことん無頓着。
力こそが全てと考える獣人族の中では珍しく「力という一面だけで判断するべきではない」、「人には必ず出番がある」という考えの持ち主で、獣王時代には自ら治世を行わずにその分野の得意な者に仕事を丸投げしては興味のあることのみに全力投球していた。
本来交わることのない虎人族と獅子人族が周囲の反対を押し切って子を成したことで誕生し、差別の対象とされていた少数民族の虎獅子族にも目を掛けており、幼少の頃にヴェルディエに気功を教え、戦いを好まないヴェルディエに「獣王になってみる気はないか?」と提案した。
この提案には虎獅子族の地位向上という目的があることを見抜いたヴェルディエはオーガイルの提案に乗り、獣王を目指し、そして激闘の末に自身に勝利したヴェルディエに獣王の地位を明け渡した。
本人は族長であることに興味はなく族長の座を明け渡そうとしていたが、鰐人族の中でオーガイルの人気は高く、次の族長を選ぶ獣王決定戦にも参加すると思われていた……が、その数日前に失踪し、鰐人族はその混乱で獣王決定戦に参加することなくネメシアの勝利で獣王決定戦は締め括られることになる。
……まあ、実際に獣王決定戦に出たところでネメシアに勝てた可能性はほとんど皆無に等しいが。
ちなみにヴェルディエの一人称が「儂」であるのは老人のような口調であるのも幼少の頃から師匠であるオーガイルの真似をしていたのがそのまま定着してしまったからである。
「……私も流石に二代前の獣王様を部下にするというのも気が引けたのでございますが……」
「ふぉふぉふぉ。儂よりもメアレイズ閣下は優秀じゃから何も問題はないと言っておろう。……お主は昔から賢かったが、かつてのユミル自由同盟ではその力を発揮できる環境では無かった。弱肉強食、力こそが全ての世界で腕っ節の強い肉食系の獣人達が跋扈し、メアレイズ閣下はくだらない争いに巻き込まれて死にたくないと徹底的に我らを避け、隠れ里に引き篭もっておった。……儂もその才能を活かせるようにしたいと思っておったが、獣王の力を持ってしても長く染みついた意識の改革は不可能じゃった。……儂は崇められるような者でも、畏れ多いと言われるような者でもない。何も変えられなかった臆病者じゃ。こんな老骨の力を必要としてくれるのであれば、長く生きて培ったもので少しでもメアレイズ閣下の役に立ちたいと思う」
「……珍しいのぅ。お師匠様が役に立ちたいとは。興味のあることしかやらないのじゃなかったのか?」
「だから興味のあることをしておるのじゃ。獣人族一の才女であるメアレイズ閣下がどこに辿り着くのかを儂はこの目で見てみたい。時代の畝りの行く末を特等席で見てみたい。そのためには多種族同盟の文官になるのが一番だと思ったのじゃ。それに、もしかしたら選ばれるかもしれないしのぅ、時空騎士に」
「……最後のが一番の狙いじゃな。野心丸出しじゃぞ……まあ、お師匠様なら儂でも適ったローザ嬢のお眼鏡に適うじゃろう」
「おう、そうじゃそうじゃ。そのローザ嬢に伝言があったんじゃ」
「ん? ローザには会ったことがないんだよな? 誰からの伝言だ?」
ローザへの言伝をローザに会った筈のないオーガイルが預かっているというのはまた妙な話だ。
ラインヴェルドの問いにオーガイルは「そうじゃのぅ」とどう説明した方がいいかと少し考え――。
「まず、儂が失踪した後のことを話すとしよう。その方が分かりやすいじゃろうし。儂はお主が獣王になった時点で引退したいと思っていたのじゃが、クロコダイルの奴に全力で引き止められてのぅ、仕方ないから獣王決定戦に出場するために準備をしていたのじゃ」
クロコダイル=鰐牙=クラカディール=アリゲーターは現在の実質的な鰐人族の族長である。
しかし、彼はオーガイル以外に鰐人族を束ねられる者はいないと考え、現在まで鰐人族族長代理として鰐人族を纏めてきた。オーガイルは鰐人族にとってはまさに英雄的存在であり、クロコダイルの考えを支持する者が鰐人族の中の大多数を占めている。
ちなみに、それはクロコダイルの人気が低いという訳ではない。クロコダイルもまた次期族長として嘱望されるほどの有望株であり、オーガイル亡き後には彼以外に鰐人族を纏め上げられる者はいないと言われている。
「……クロコダイルの奴もお主の帰りを待ち侘びておったぞ。鰐人族の者達も心配している筈じゃ。……顔は見せたのかのぅ?」
「顔を見せおうかとは思っていたんじゃが、ユミル自由同盟の首都についたら面白い話があってついついそっちを優先してしまってのぅ。まだ顔は出せておらぬ。まあ、大丈夫じゃろ? 儂抜きでもやって来れたんじゃし」
「……頼むから後で一度はクロコダイル達に顔を見せて来るのじゃ」
オーガイルの最優先事項は自分が楽しいことであり、そのためには人の気持ちも平気で蔑ろにする。その点は、ラインヴェルドやオルパタータダ、エイミーンとも近い。
もし、ヴェルディエではなくオーガイルが族長になっていたらメアレイズ達文官衆の疲労はどれほど凄まじいものになっていただろうか……とヴェルディエの背中に冷たいものが走った。
……まあ、仮にラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーン、オーガイルという問題児ばかりでも圓は完璧に纏め上げてしまいそうだが。
「……話を進めても良いか? 儂はその修行中に崖崩れに巻き込まれてしまってのぅ。獣王決定戦の最中にはゴルジュ大峡谷を彷徨っていたのじゃ」
「あぁ……もしかしなくてもあの渓谷か。ディラン、覚えているか?」
「あー、『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』で超えていった奴だろ? 確か、飛空艇で大峡谷を突破した先、真針山岳の山頂でヴェルディエさんと会ったんだよな?」
「……確か、あの時って大峡谷を探索するっていう案も出ていたよな。もしかしたら、その時に会えたかもしれないってことか」
アクアとディラン、ヴェルディエにとっては随分と懐かしい記憶だ。
結果として『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』で大峡谷を越えていったため、出会うことは無かったが、もし仮に探索を選んでいたとしたら、ヴェルディエではなくオーガイルと出会い、彼を救助した功績によって獣人族とはもう少し友好な関係からスタートできたかもしれない。
「……あり得べからざるものを考えても仕方ないんじゃないかな? それに、ボクはヴェルディエさんとあの時に出逢えて良かったと思っている。ヴェルディエさんと出会って、メアレイズさん達と出逢えたから今がある、違うかな?」
「よっ、ローザ。忙しい中こっちまで来てくれるとは流石に思っていなかったぜ」
「……こっちの姿の時はリーリエって呼んでもらいたいけどねぇ。――メアレイズ、お疲れ様。身柄を預かった五人に関しては処理を終えたよ。それに予想外のお土産もあったしねぇ。そっちは今、元第一王子と元男爵令嬢に任せてある。――ファドルフ=エビーナ補佐官殿、ヴォワガン=イノーマタ補佐官殿、ラッツァ=トッリィ補佐官殿におかれましては初めまして、リーリエと申します。御三方の息子さん達については命に別状はありません。今後は白夜の配下としてしっかりと職務に励んで頂くことになりますので、ご了承くださいませ」
「お初にお目に掛かります、リーリエ様。我々の愚息に慈悲をくださいましたこと、感謝に堪えません。我ら三人、今後はメアレイズ閣下の配下として微力ながらリーリエ様と多種族同盟のために働かせて頂きますのでよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
「ボクはともかく多種族同盟とユミル自由同盟のために誠意を持って働いてもらいたいものだねぇ。期待しているよ。……さて、オーガイル元獣王殿、ボクがそのローザだ。まあ、今のこの姿はボクの姿の一つで、もっとボクにしっくりとくる姿、リーリエのものではあるんだけどねぇ。話の腰を折ったボクが言うのもなんだけど、大峡谷を彷徨っているところまでは聞かせてもらったからその続きを話してもらってもいいかな?」
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