Act.9-52 メアレイズの凱旋帰国 scene.1
<三人称全知視点>
「ん〜♪ ふふふ〜ん♪ ふふんふ〜ん♪ 凱旋でございます!」
ブライトネス王国の王宮――謁見の間へと続く長い廊下をうさ耳をピョンと立てたスカートスーツにハイヒール姿の兎人族――メアレイズが適当なメロディの鼻歌を歌いながら先導して歩き、その左斜め後ろを真っ白な毛皮に、大きな赤い目と発達した後ろ足を持つ兎の魔物――因幡、その背後に顔の怖いファドルフ=エビーナ元宰相、声の煩いヴォワガン=イノーマタ元騎士団長、実戦が苦手なラッツァ=トッリィ元宮廷魔法師長が続き、更にその後ろに十人を越える獣人族達が並んでいる。
その姿は宛ら大名行列を思わせるが、メアレイズは総回診をしている病院長でも外科統括部長でもない。
メアレイズに大名行列を引き連れて歩く趣味はない。
では、何故このような状況になっているかというと、メアレイズ一人で行って戦争に関する報告とその他諸々をするよりも全てを目で見てもらった方がいいと思ったからである。
これが最初で最後の大名行列になるんだろうなぁ、なんて甘いことをこの時のメアレイズは考えていた。……まあ、メアレイズの狂信者三人がそれを許す可能性は万に一つもないのだが。メアレイズは三人の匂いがローザを神と崇める狂信者達と似たものであることに不覚にも気づいていなかった。
さて、今日のメアレイズはご機嫌だ。怒っているのがデフォルトになっているメアレイズの久々の登城と珍しくご機嫌そうな様子に、廊下付近を歩いていた騎士達や文官達は揃って真っ青になってブルブルと震えながら「何も見てない何も見てない」と念仏を唱えてその場を足速に去っていく。
メアレイズが恐怖の対象として刻まれている彼らにとっては天変地異の前触れに思えたようだが、メアレイズがご機嫌な理由は単純明快――仕事から解放された有意義な時間を過ごせてリフレッシュできたからである。名目上は視察という形ではあったが書類仕事に追い込まれることなく比較的自分の時間を取ることができて旅行気分にも浸ることができた。
「戻ったら頑張ろう! でございます!」と普段なら絶対に見せない仕事への意欲を見せるくらいメアレイズはこの時、珍しく満たされていたのである。
「よっ、お前の笑顔久々に見たな? 旅行は楽しめたか?」
「旅行じゃなくて視察でございます! というか、私がストレス抱えている理由は基本的にお前と、後はフォルトナ王国のクソ陛下とエルフの阿呆族長のせいでございます!!」
亜人種差別が元で戦争になったこともあり、興味本位で結末を知りたいと謁見の間を訪れていたエイミーンが「私は阿呆族長じゃないのですよぉ〜!」と叫んでいるが、メアレイズはいつものようにエイミーンを放置して報告をすることにした。一々構っていたら時間がいくらあっても足りないことをメアレイズも承知しているのである。
「まず、もう既に皆様知っていると思うでございますが、旧ロッツヴェルデ王国との戦争は既に終戦したでございます。その後、私はムーランドーブ王国の建国のために必要な準備等をダルフ=ムーランドーブ新国王と共にビオラ商会合同会社と協力しながら進めていたでございます。帰国が遅れた理由は、そのために必要な視察や新国家体制を築くための諸々の仕事をしていたからでございます」
「……サーレは許さないのです。仕事をサーレとオルフェアを押し付けて豪遊なんて……最低なのです」
「まあまあ、サーレさん。メアレイズさんも何もしていなかった訳ではありませんから……彼らですか? アルティナさんが募集し、メアレイズさんが直接選抜した文官達というのは」
メアレイズとサーレは基本的にブライトネス王国に留まって多種族同盟の文官として職務に励んでいることが多いが(書類仕事に関してはユミル自由同盟の分も当然引き受けている)、ヴェルディエとその秘書という立ち位置に落ち着きつつあるオルフェアはユミル自由同盟とブライトネス王国を往復している。
「と、その話をする前に紹介させてもらうでございます! まず、この蹴り兎は因幡、迷宮でやられていたところを助けた縁で従魔になった向上心の強い兎さんでございます!」
「むきゅ! きゅきゅ! (あんじょうよろしゅう)」
予想外な翻訳がされた心の声を見気で聞き取り、流石のラインヴェルドも「アハハハ! その見た目でそれかよ!」と腹を抱えて笑い、因幡の飛び蹴りを腹に喰らった。
「おいおいッ! その兎、武装闘気使えるのかよ!」
「因幡は私の最高の相棒でございます! ストイックな性格でどんなことでも完璧を目指す完璧主義者なのでございます! スペックも高くて飲み込みも早く、書類仕事のやり方を教えたらすぐに習得してみせたでございます!」
「……最高の、相棒?」
その不意打ちにメアレイズは反応できなかった。一瞬にして距離を詰めていたサーレの拳がメアレイズの腹に炸裂、メアレイズは天井まで吹き飛ばされる。
「ゲホッ、ゴホッ……な、何をするでございすか!!」
「……メアレイズも、アルティナも酷いとサーレは思います。……メアレイズは、サーレのことを最高の仲間と言ってくれたのです。アルティナは、サーレのことを親友と言っていたのです。……都合の良い時だけ適当なことばかり言って……サーレはもう何も信じないのです」
因幡はポンポンと「あんまり泣くなよ」という態度を取るが、サーレは因幡を無視してとぼとぼと謁見の間を出て行く。
「私もずっとこちらには居られませんし、ヴェルディエ様もそれは同じです。……メアレイズさんはなかなか帰ってきませんし、いつもはちょっかいを掛けてくるアルティナさんもいない。……ずっと寂しかったんだと思います。その上、ずっと苦楽を共にしてきた筈の仲間が新入りを連れてきて最高の相棒なんて言ったら怒るのも仕方がないと思います」
「……後で謝罪しないといけないでございますね」
……まあ、サーレは不貞腐れたまま仕事を全て放り出してどこにいくかも告げずにユミル自由同盟の自宅まで帰ってしまったので、手掛かり一つない状況でメアレイズは謁見の終わった後から失踪してしまったサーレを探すためにあちこち探し回ることになるのだが……。
ちなみに、最終的には無事和解できたそうである。良かったね。
「因幡には私専属の筆頭補佐官になってもらうでございます。三文長の一段階下という立ち位置でございますね。そして、ロッツヴェルデ王国の騎士団長、宮廷魔法師長、宰相の三人――御意三人衆には私の補佐官として働いてもらうことになったでございます」
「……まあ、それが落とし所としては妥当じゃな」
「粉骨砕身頑張るのでございますよ!! ファドルフ! ヴォワガン! ラッツァ!」
「「「――御意!」」」
ラインヴェルド達は御意三人衆のことを「怪しげな宗教みたいだなぁ」と死んだ魚の目で見ていた……が、オルフェア達文官にとっては前歴や狂信的なところはさておき、頼りになりそうな戦力である。
三文長と言いつつ、実質メアレイズとサーレとオルフェアだけがユミル自由同盟の文官として活動している現状では猫の手も借りたいというのが本音だ。
戦力になってくれるのなら猫でも魔物でも魔族でも邪神でもこの際何でもいいとすら思っているので、今回の大量な文官部への追加戦力の投入はオルフェアにとっても、既に退出してしまったサーレにとっても実は嬉しい話である。
それに、ファドルフ=エビーナ宰相はロッツヴェルデ王国の政治を動かしてきたロッツヴェルデ王国の元文官の長であり、ラッツァ=トッリィ宮廷魔法師長は戦闘経験はほぼないが論文で高い評価を受けている。事務処理能力についても大いに期待できそうだ。
最後のヴォワガン=イノーマタも騎士であると同時に貴族としての顔も持ち合わせており、学園時代の成績も良好だったという。脳筋タイプではないため、文官の仕事でも活躍できそうである。
実務経験豊富で粉骨砕身働く理由がある……「狂信者」の匂いがするというネックな部分もあるが文官の仕事にはあまり関係ない。
細かいところに目を瞑れば三人は文官部にとって救世主となり得る存在ということになる。いずれにしても、今後、メアレイズ達三文長に掛かる負担は大きく軽減されることになる筈だ。
しかし、今回のメアレイズの最大のお土産がファドルフ、ヴォワガン、ラッツァの三人ではないことにオルフェアも気づいていた。
「それで? 本題の方を聞こうじゃねぇか? 今回の戦争の裏でアルティナとこそこそと何かやっていたんだろ? そいつらがその成果か?」
「えぇ、そうでございます。アルティナさんに依頼して募集を行い、その後私が試験を行なって選抜したユミル自由同盟の文官達でございます! 私は彼らのことを文武官僚精鋭軍――文官としても武官としても一流の精鋭部隊であると考えているでございます。彼らはきっと、いえ、確実に多種族同盟の文官部とユミル自由同盟の内政・外政を支える大きな柱となると思うでございます。……正直、私は一部族長を除けば獣人族は脳筋の集まりだと思っていたでございますが、ダメ元で募集と選考をしてみたら案外見所がある人がいっぱい居てびっくりだったのでございます」
「……相変わらず、偏見凄いなぁ、お前。メアレイズ、仮にも獣人族の一員なんだからさぁ……俺が言うことでもないけど」
「……メアレイズはこれまで散々馬鹿にされてきて優秀な頭脳を持ちながらも否定され続けてきたからのぉ。……獣人族の一員であると言われることにも嫌悪を覚えているのじゃろう。メアレイズが色眼鏡で獣人族を見るようになったのも当然の流れだとは思うが、そうした中で少しは頼りになる者もいると気づいてもらえたこと、我は嬉しく思う。……しかし、なかなか見所がある者を連れてきたようじゃのう。ガリーゴラに、ウルフィアに、アンディゴに、レパードに、ジャクドン。それに失踪していたオーガイル師匠まで……お久しぶりじゃな、師匠。息災か?」
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