Act.9-51 新たな諜報員達と『フォーリアの指輪』 scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「しかし、フォーテュードとジェルファは面白みの欠片も無かったねぇ。フォーテュードはその見た目とは裏腹に可愛い物好きでロリィタ見せたらすぐに堕ちちゃったし、ジェルファも甘いもの好きだったからそれを取っ掛かりにしたらすぐにスイーツ女子になっちゃったし……まあ、その後の所作指導とか所謂女体化教育の難易度は変わらなかったけどねぇ。……フォーテュードの力の入れ具合が怖過ぎてボクもドン引きだったんだけど」
「あの怖い顔ではどうやっても可愛くはなれませんでしたら諦めていたのですわ。ですが、ローザ様のおかげでこんなにも可愛らしくなれました」
「……男の癖に甘いものが好きだなんてと散々言われてスイーツを食べに行くこともできませんでした。でも、女の子になってしまえば誰も似合わないなんてとは言いません。ローザ様のお力で女の子にして頂いたこと、とても嬉しく思っていますわ」
「……スイーツ男子ルートのある甘い物好きのジェルファと、怖い顔が本当はコンプレックスで少女趣味を隠していたフォーテュードは比較的簡単に堕ちるわよね? でも、オーガスタはどうやって落としたの?」
「グランビューテとオーガスタはまあ、そういった取っ掛かりも無かったねぇ。……グランビューテの方は女性に対して物理的に酷いことをしていたっていう記憶も無かったし、レティーシャ公爵令嬢に対してしていた仕打ちも心を折るほどでは無かった……まあ、物心つく前から婚約者で王妃教育を受けてきて、それ以外に生き方を知らないのに、全く身に覚えのない濡れ衣を着せられたり、公爵令嬢として当然の注意をしていたのに嫌がらせをしたといって王子に文句を言われたりとか、普通なら凹むよねぇ。そして、婚約破棄されたらその令嬢の立場は無くなる。誰とも結婚できずにいつまでもその家に留まっていたら、家にとっては無駄飯食いのお荷物だから肩身の狭い思いをするに決まっているし。……結局、貴族令嬢にとっては結婚できるかできないかって大きなポイントなんだよ。まあ、一人でも生きていられるだけの商才やら財力やら能力やらがあればまた別だけどねぇ。……とりあえず、王子の記憶からトラウマになりそうなものを拾って追体験させるという方法は使えない。……そこで、ボクが選んだのは王子との婚約が決まった貴族令嬢の記憶を適当に捏造して、その人生をしばらく追体験させるという方法だった。エイフィリプの時と同じはちょっと違うかな? って思って……『眼には眼を、歯には歯を』作戦は見事に成功し、一般的な王子の婚約者に選ばれた公爵令嬢が婚約破棄される辛さと貴族令嬢として必要な最低限の知識を学ばせることに成功したって訳。そして、公爵令嬢として十年以上の時間、つまり第一王子グランビューテと同等の時間を体験したことでその公爵令嬢は確実にグランビューテ……ディートリンデに根付いた。最初は『俺は第一王子だ!』とか言って周りのメイド達を困惑させていたけど、次第に貴族令嬢の所作も身について、次第に女の子に染まっていくのは見ていて楽しかったねぇ。そして、政略結婚だった筈の王子にも本気で恋をして、王子から捨てられた時には最悪の失恋を経験して泣いちゃっていたっけ……その時はちょっと可哀想になって止めに行こうかと思ったけど、でも、それってレティーシャ公爵令嬢にしたことと丸っ切り同じだからねぇ。……その後、婚約破棄されたところで追体験は終わり、ディートリンデとして目を覚ましたグランビューテのその後の教育は簡単だった。すんなりと女性である心の中にいるもう一人の自分を――貴族令嬢としての自分を受け入れて諜報員の技術習得に打ち込んでくれたよ。まあ、ボクもそれなりに楽しめたけどねぇ」
試しにやってみたけどこういう時間を掛けて少しずつ所作と共に心も染めていく方法もいいかもしれないと思ったよ。男として生きてきて培われた心を恐怖でもって砕いて、飴と鞭みたいな方法で女の子にしていく方法と今後は使い分けていきたいよねぇ……諜報員にするようなタチの悪い奴が早々現れるとは思わないから、次の機会はまだまだ先になるか、一生ないかのどちらかだと思うけど……ないよねぇ?
「一番の難関はオーガスタだった……まあ、一番張り合いがあったとも言うんだけど。彼、男尊女卑が凄くてねぇ……女は男に従属するしか生きられない、生まれた時から男のために尽くす生き物だって本気で思っていたみたいでねぇ。女の姿にした時は『こんな汚らしい姿に変えやがって! 戻しやがれ!!』って叫びながら暴れて大変だったよ。まあ、鍛えていない非力な女性の力でボクを倒すことなんてできる筈も無く簡単に組み敷くことができたけどねぇ。ただ、コイツも賢かったから男尊女卑思想を表に出すことは無かったみたいだ。……まあ、一人の時とかには散々暴言を吐きまくっていたけど。なかなか手強そうだったから飴と鞭戦法を使ってまずは徹底的に男の恐怖を叩き込んでから、心が壊れたところで少しずつ女の子に染めていった。エイフィリプよりはもっと手強かったけど……流石にやり過ぎて男性恐怖症を発症しちゃった時には今後任務に支障が出るといけないから記憶を弄ったり、ちょっと魔法を使って精神に調整を加えたけど、まあ概ねそのままだよ。……最後には『もう男に戻りたいなんて言いません! あんな恐ろしくて不潔なケダモノに私をしないでください!!』って泣いて懇願しちゃって、あの時のギルベルタ、可愛かったな」
「……完全にやっていることも言っていることもドSを通り越してサイコパスだわ」
「ただ困ったことに、あの男尊女卑がそのまま女尊男卑になっちゃってねぇ……終いには『女性は男よりも優れた生き物だから世界中の男を女に変えればもっと素晴らしい世界になります! 女は女同士で結婚すべきですわ! この世界から男なんて消えてしまうべきです!!』って言い出しちゃってねぇ」
「だってそうではありませんか! あんなケダモノ、この世から絶滅した方が絶対にいいですわ! それに女の子として生きる方が男として生きるよりも絶対に幸せです! 圓様だってそう教えてくださったではありませんか!! 男として生きることを強いられている可哀想な皆様を私達が救済しないと!!」
「……まあ、それはそうなんだけどねぇ。勘違いしないでもらいたいのはこの女体化教育は特別措置なんだよ。懲罰的な意味合いが強い……派遣されていたシャルティローサが必要と判断したから行ったのであって、その必要がない人にこの処置を施す気はないよ。……というか、多種族同盟内では既にかなり割高だけど『分身再生成の水薬』や『外観再決定の魔法薬』も出回っているからねぇ。今や手術をしなくても種族や性別、見た目を再決定できる時代、お金に余裕があって姿を変えることを望むなら割と簡単に変えられるんだよ。……ただ、売れ行きはあんまり良くないからねぇ」
もっと売れるかと思ったけど、なかなか売れないというのが実情。今の姿に満足している人が圧倒的多数を占めていて、わざわざ高額を出してまで……と思っているか、そもそも認知されていないのか。……ダイエットクッキーはバカ売れして凄い利益を出したんだけどなぁ。
「えっと、それでなんだっけ? そうそう、今後の話をしておかないとねぇ。今後、ディートリンデ、フロラシオン、ガブリエーレ、ギルベルタ、ヨゼフィーネの直属の上司は白夜ということになる。ここにいる五人は互いの顔を知っているけど、諜報員全員の顔を知っていると敵の捕虜になって記憶を抜き取られたりとかしたら諜報員として働かなくなるから、歓迎パーティとかは開かないからそのつもりでねぇ。指示もほとんど白夜が出すから基本的にはそれに従ってもらえばいい。白夜がいない時にはシャルティローサが指示を出す可能性もあるけど、ボクと同じく直接指示を出すことはほとんどないと思って構わないよ。……基本的には単独での任務になるけど、ディートリンデとフロラシオンは特別措置として原則二人での任務をしてもらうことになる」
「「ありがとうございます!!」」
二人組の百合を離すとか、そんなことボクにはできないからねぇ。……まあ、流石に任務中にイチャイチャはやめてもらいたいけど。
「さて、ディートリンデとフロラシオンには最初の任務だ。……シャルティローサ、申し訳ないんだけどガブリエーレ、ギルベルタ、ヨゼフィーネを家に案内して簡単な説明をしてあげてもらえないかな?」
「承知致しました」
変身を解いたシャルティローサ=ハーミットの本来の姿は真紅の瞳と濡羽色の髪――どことなくリーリエに違い印象を抱かせる容姿端麗な女性だ。……まあ、容姿そのものはジェルメーヌ=ディークスに近いんだけどねぇ。
ゲーム時代から存在する「天恵の実(モデル:天狐)」を食べていて、使用時には狐耳と銀色の髪、透明な複数の尾を持つ美しき女神のような姿に変化する他、その力で様々な妖術を使用することができる。……任務中の地味な侍女の姿もその一つ。
変身の対象は既存の人と思い浮かべた空想の姿の二種類があるんだけど、前回の任務は誰かに変身したのではなく地味な侍女を意識して変身したものらしい。
彼女の正体はジェルメーヌのデータを基礎としつつ創り出した素体をリーリエの力で眷属化し、始祖の吸血姫となった後に聖人の修行を積ませることで光を克服させたという特別な始祖の吸血姫だ。吸血姫の力と吸血姫由来の高い身体能力、そして高威力の聖属性魔法を操り、全体的に隙がない。
聖属性魔法と闇属性魔法の他に追加で人工の魔力変換器を移植することで時空魔法を獲得していて、空間同士を繋げる漆黒の穴を作り出す「空の穴」を得意としている。
ちなみに、本来のシャルティローサの姿は四人にもお披露目しているので特に驚かれることは無かった。
フロラシオンは吸血姫を怖がることはなく、その美しい姿に寧ろ見惚れてしまってディートリンデが嫉妬で頬を膨らませた……可愛い。
ディートリンデとフロラシオンが残ったところで最初の任務の説明をする……といっても難しい任務ではないんだけど。
「二人には乙女ゲームをプレイしてもらう。ボクからしたら別バージョンの『スターチス・レコード』と『フォーリアの指輪』の二種類だよ。……実はフォーリアの記憶を読み取らせてもらってその内容を基に二作品を再現してみたんだ。ただ、もしかしたら部分部分間違っているところがあるかもしれないし、欠けている箇所もあるかも知れない。今後のためにも二作品に関する情報はしっかりと正しいと判断できるものを手元に置いておきたいから、フロラシオンにはその内容を実際にプレイしながら確認してもらいたい」
「……はい、分かりました」
「あんまり楽しくなさそうだねぇ。……こっちの世界の『スターチス・レコード』をプレイできるんじゃないかって一瞬期待したんでしょう?」
「はっ……はい」
「……あんまりボクもお勧めできるものじゃないけどそこまでやりたいなら止めることはできないからねぇ。ボクが高槻さん達とこれまでに作った三十のゲームも運び込むように伝えておくから任務が終わったらほどほどにやるといいよ。ただし、別バージョンの『スターチス・レコード』と『フォーリアの指輪』の二種類を優先にしてねぇ」
「良かったわね、フロラシオン」
「はい! ありがとうございます! フルール・ドリス先生!!」
さて、と。とりあえず、これで対マリエッタ=スターチスに必要な情報は手に入った。
……恐らく、マリエッタ=スターチスの前世は蕗谷澪と同じバージョンの完成された『スターチス・レコード』をプレイしていた可能性が極めて高い。
その情報と没設定、そしてボクの持つ『スターチス・レコード』の知識を組み合わせれば今後の彼女の行動をある程度予測立てることができると思う。
……しかし、八嶋奈穂子か。
蕗谷澪の中学と高校時代の親友。
オタク故の内向的な性格でクラスに馴染めなかった蕗谷澪にとっても、他のクラスメイト達にとってもまさに高嶺の花のような少女でクラス委員長を歴任し、クラスの成績も毎回一位という才女で澪との間に同じクラスであるということ以外に接点は無かったけど、テレビゲーム屋で偶然出会って奈穂子が特別な人間などではなく、実は自分と何も変わらない等身大の女の子であると知ってから距離が縮まった。
そして、澪に「平均より優れた面が多かったため、周囲に期待の目で見られ続け窮屈な生き方を強いられてきた」ことや「アルベルトに憧れを抱いており、その代償行為ということで乙女ゲームにのめり込んでいった」ことを打ち明けるほど仲が良くなったらしい。
……そして、澪に「家族関係で一歩引いたりしちゃう暮らしをしょうがないって受け入れているのに、どこかで抜け出したいって願っている系男子で、あの陰のある表情とかも好みにぴったり」とアルベルトのことを最推しだと言っていたらしい。
……うん、どっかで聞いたことがある話というか、もう本人と断定していいんじゃないかと思う。パラレルワールド説や本当は別人説もあるけど一旦置いといて、やっぱり澪が知る八嶋奈穂子がマリエッタの前世と考えておくべきなんじゃないかな?
まあ、この話はラインヴェルド達に話してもあんまり意味がないし、今はボクの心の中だけに留めておくとしよう。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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