Act.9-48 ロッツヴェルデ王国の崩壊〜【智将】メアレイズ閣下の真っ黒な策略〜 scene.4
<三人称全知視点>
「メアレイズ閣下、一つよろしいでございますか?」
急に態度を変えたファドルフに若干の困惑を持ちながら見気で最大級の警戒をしてファドルフの言葉に「いいでございます」と許可を出す。
「どこまでがメアレイズ閣下のご計画だったのでございますか?」
「聞いて驚け、全てメアレイズの掌だ。……ってかさぁ、やっぱりお前って俺やオルパタータダやエイミーンより賢いんじゃねぇの?」
「……私がもし仮に陛下達より賢かったらこんなに振り回されて疲れることもないでございます。私はただの何にもできない最弱の兎人族でございます」
「まあ、その最弱の称号もとっくの昔に返上しておる上に、獣人族一の才女じゃがな。脳筋が多い獣人族で賢い者が生まれるのも珍しいが、メアレイズの賢さは外の世界と交流して分かったが既に世界の上位に入るレベルじゃ。今すぐにでも獣皇とユミル自由同盟の国家元首の座を譲りたいものじゃが」
「そんなのいらないでございます。私は政治云々とかと縁のない田舎でスローライフを送りながら娯楽を楽しんで自堕落に生きたいのでございます。……すぐにでも文官を辞めてどこかの田舎で暮らしたいでございます」
「そんなこと俺が許す訳ねぇだろ?」
「悪いがメアレイズ、お主のことだけは手放す気にはなれんのじゃ。……気持ちは分からないでもないがのぅ」
「ブラック企業でございます!」
「というか、もう戦争は決着だろ? とっとと次の話に進めば良いんじゃねぇか?」
「余はまだ負けておらん! ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフ! ブライトネス王国の国王と裏切り者のダルフとウォンカを殺し、獣人族の二人を捕らえるのだ! おい、どうした! 余の命令が聞けぬというのか!?」
ヴォワガンもラッツァもファドルフも動こうとしない。
痺れを切らしたガルマロッゾは立ち上がるが既に身体はボロボロ。それに剣を握ったこともないガルマロッゾではメアレイズ一人を倒すことなど不可能。
況してやメアレイズとヴェルディエを殺さずに捕らえ、ラインヴェルドを殺すことなど絶対にできる筈がない。どちらか片方だけでも無理がある。
メアレイズはガルマロッゾを無視してヴォワガン、ラッツァ、ファドルフに紙束を渡し、最後にガルマロッゾに同じ紙束を投げつける。
「『ロッツヴェルデ王国リバースプラン』ですか?」
「えぇ、お前ら腐った中枢が崩壊の一歩手前まで進めたこのロッツヴェルデ王国を救うためのプランでございます」
ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフは無言で紙束の内容を読み始める。先程までメアレイズのことを汚らしい獣人と蔑んでいた者達と同一人物とは思えないほど素直な行動に、メアレイズだけでなくラインヴェルドやヴェルディエも拍子抜けしていた。
「これを、メアレイズ閣下がお一人で……」
ポロポロとラッツァの目から涙が溢れ、紙束を濡らす。
「俺も読んだ時、コイツは本当に凄いなぁって思ったぜ。一週間で集められるだけの情報を集め、その状況で何が必要かを的確に判断し、そのための最良の方法がこの『ロッツヴェルデ王国リバースプラン』に纏められている」
「……大したことはないでございます。ほとんどビオラ商会合同会社におんぶに抱っこでございます。情報を集めることも、国を建て直すことも師匠の力を借りなければ何もできない、不甲斐ないことは重々承知しているでございます」
「そんなことはございません! メアレイズ閣下に不甲斐ないところなど一点もございません! 不甲斐ないの我らの方……本来この国の将来を憂うべき立場でありながら出世の欲望に駆られ、醜い争い繰り広げていた我らの方が不甲斐ない!!」
「声がうるさいでございます! ……というか、なんで私、ヴォワガンに援護されているのでございますか!?」
「本当そうだよなぁ……お前らどうしちまった? 変なものでも食ったか?」
流石にラインヴェルドもヴォワガン、ラッツァ、ファドルフ――三人の変貌っぷりに驚いている。
しかし、その姿はガルマロッゾの目には映っていなかったようだ。
「よ、余を准男爵に降格させ、ダルフを多種族同盟の推薦で新国王に推挙するじゃと! 貴様らどれだけふざけたことをするつもりじゃ! この国は我の持ち物! ラインヴェルド! メアレイズ! ダルフ! こうなれば貴様ら全員、余の手で地獄に送ってやる! 断頭台にかけて公開処刑にしてやる!!」
「……はっ、聞いてないんだけど。メアレイズ閣下、まさか、本気で言ってないですよね?」
「ダルフ様、先程反乱の話があったことを覚えていらっしゃるでしょうか? その反乱ですが事前に我らが食い止めました。彼らが反乱を取り消す対価として求めたのはダルフ様の新国王への即位です。もうこの国を治められるのは貴方しかいないと、皆様そう仰っています。ちなみに各地で街頭での調査を実施して国民の生の声を動画にしましたが、今お見せ致しましょうか? これを見て頂けたらこの国の民がどれほど貴方様を信頼しているのかお分かり頂けると思いますが」
メアレイズの代わりにメイド服姿の諜報員がダルフにとどめを刺した。
最早ダルフに選択肢など残されていない。
「……諦めてください、ダルフ伯爵。もう逃げられません」
「……ウォンカ、頼む……代わりに」
「残念ながらできかねます。……大丈夫ですよ、私も共に地獄までご一緒致しますから」
最後の抵抗を試みるもウォンカにも拒否され、ダルフは項垂れた。
「「「メアレイズ閣下!」」」
犬猿の仲である筈のヴォワガン、ラッツァ、ファドルフの声が被った。
三人の気持ちが一緒であることを、初めて気持ちが一つになったことを実感したのだろう、互いに頷き合い、代表するようにファドルフが一歩前に出る。
「メアレイズ閣下、我々は本日をもって宰相、騎士団長、宮廷魔法師長を退任致します。……閣下、『ロッツヴェルデ王国リバースプラン』を読ませて頂き、我々は悟りました。真に仕えるべき主人はメアレイズ閣下以外に存在しないと。……雑用でもなんでも致します。必ずやメアレイズ閣下の役に立ってご覧に入れましょう。どうか我らをメアレイズ閣下の部下の末席に加えてくださらないでしょうか! お願い致します」
「え、ええええ……な、な、な何の冗談でございます! た、た、たたた、助けてくださいでございます!」
「メアレイズがバグってやがる! クソ笑えるんだけど!! アハハハ!!」
「……奴らは本気じゃ、諦めるしかないようじゃのう。……ほら、お主、優秀な文官が欲しいと言っていたではないか? 丁度いいのではないか?」
「ヴェルディエ獣皇陛下! ご助力ありがとうございます! メアレイズ閣下、このヴォワガン! ラッツァ、ファドルフと共に必ずやメアレイズ閣下のお役に立って見せますので! どうか!」
「分かった、分かったでございます! 五月蠅いでございます!! ……流石にただの文官として引き受ける訳にはいかないのでポストは後ほど考えさせて頂くでございますが、そうと決まればきっちり働いてもらうでございますよ! 私は無能が大っ嫌いでございます!!」
「「「御意!!」」」
「ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフ! 貴様らもこれが終わったら処刑じゃ! だが、その前に奴らを殺せ!!」
「では最初の命令でございます! あの愚王を玉座から引き摺り下ろし、本来座るべきお方のために玉座を明け渡させるでございます!!」
「「「御意!!」」」
ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフは玉座に近づき、ガルマロッゾを掴むと、息を合わせてポイっと瓦礫の山の中に向かって投げた。
その後、三人はハンカチーフを使って綺麗に玉座を拭くと、メアレイズの背後に控える。
「さあ、ダルフ伯爵!」
「分かった、分かりましたよ! ……ううっ、私は辺境の伯爵としてそのまま一生を終える筈だったのに……」
「諦めろ! でございます! 被害者は多い方がいいに決まっているでございます!!」
「ううっ……メアレイズ閣下、こうなったのは全部戦争を仕掛けてきた閣下のせいですからね! 私が困っている時、絶対に助けてくださいよ!!」
半泣きになりながら一歩一歩寒空の下を玉座に向かって歩いていくダルフ。
ダルフが玉座についたその日、ロッツヴェルデ王国という象牙の塔は完全に崩れ去った。
そして、その日、同時に新たな国が誕生したのである。
新国家ムーランドーブ王国は旧王国が崩壊したその日、多種族同盟に所属すると共に悪しき風習である亜人差別と魔族差別を禁止すると共に国中の全ての民達にこう宣言した。
「もう二度と民の苦しむ国には戻さない。ムーランドーブ伯爵領の当たり前の幸せを国中に広め、この国を平和で豊かな国にする」と。
勝利の余韻に浸っている余韻などなく、ラインヴェルドとヴェルディエが帰国した直後からダルフとウォンカはメアレイズと共に国家再建のために動き出した。
ビオラ商会合同会社の支援を受けつつまずは国家の安定を図り、税金についても見直しを行う。その後はメアレイズと共に各地を巡りながら見聞を広め、自分で見てきた情報とメアレイズの『ロッツヴェルデ王国リバースプラン』を元に国家をより良い形に再構築していく。
幸い、王国中枢の運営には支障がなかった。辞表を出した全使用人達と文官達はダルフが新国王に就任してムーランドーブ王国を建国することを決めたと分かると全員メアレイズに頭を下げて辞職を撤回、提示されたロッツヴェルデ王国時代よりも高額な時給でありながらその誘いを蹴ってそれぞれの仕事に戻ったのである。
……結果として、この戦争でメアレイズが手に入れたのはヴォワガン、ラッツァ、ファドルフ――扱い辛い立場の文官三人だけだった。
「全然話が違うでございます!!」
ちなみに、その他の戦争の賠償についてもムーランドーブ王国には責任がないこと、またムーランドーブ王国の再建のために費用も人材も必要ということで無しとなり、多種族同盟全体の利益はムーランドーブ王国の多種族同盟加盟という一点のみである。
多種族同盟にとって旨味は薄い戦争だったが、その結果として貧困で苦しむ民が死なずに済んだと考えるとメアレイズ達も悪い気はしなかった。
お読みくださり、ありがとうございます。
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