Act.9-47 ロッツヴェルデ王国の崩壊〜【智将】メアレイズ閣下の真っ黒な策略〜 scene.3
<三人称全知視点>
「流石にアホ過ぎるでございます。手術中に止血の前に貯めた血を輸血するくらいのとんでもない初歩的なミスでございます」
「ど、どういうことなのよ! これは! えっ、つまり、オーガスタ様もジェルファ様もフォーテュード様も私とグランビューテ殿下を纏めて処分するつもりだったってこと!? そんなの乙女ゲームの展開には無かったわ! 全員攻略してハーレムルートに入っている筈なのに……おかしい! おかしいわ! どうなっているのよ!!」
「あっ、やっぱり転生者でございましたか。なんかおかしいと思っていたのでございますよね。入学してからすぐにオーガスタ、ジェルファ、フォーテュードと親しくなり、最短距離でグランビューテを籠絡……とても現実的ではない、となればそれしか考えられないでございますよね。ただ、この世界はゲームの知識を使ったところで攻略できるような甘っちょろい世界じゃないでございます」
「……まさか、貴女も転生者だっていうの!? 転生者である貴女がいるからシナリオに破綻が生じたのね!!」
「はぁ……馬鹿でございますか? グランビューテとお揃いでお似合いカップルに見えるでございますよ! 私は純正の兎人族でございます。ローザ=ラピスラズリ公爵令嬢の見立てでは一度も転生の経験のない第一世代の真っ新な魂ということでございますが」
「……ローザ=ラピスラズリ!? 『スターチス・レコード』の悪役令嬢の!? まさか、あの悪役令嬢も転生者ってことなの!?」
「どうしたフォーリア! さっきから一体何の話をしているのだ!?」
「メアレイズ閣下、フォーリアの身柄を私共でお預かりしてもよろしいでしょうか? 恐らく彼女はマリエッタの秘密にも関わる知識を有していると思われます。……恐らく、パラレルワールドの『スターチス・レコード』を知る転生者です」
「あー、だったらグランビューテ、オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの身柄も預かって再教育をお願いしたいでございます。ローザ様であればきっと素晴らしい淑女に育て上げてくれるでございますよね? ……まあ、そのクソみたいな性格が改善されれば紳士でも淑女でも何でもいいでございますが」
「元よりそちらも許可を頂くつもりでした。我が主人様のお手を煩わせてしまうのは大変心苦しいですが、中途半端になって主人様の望みに反する結果になってしまうのはもっと良くありませんからね。責任を持ってローザ様にお引き渡し致します」
「よろしくお願いするでございます! シャルティローサさん」
「『陰者』です」
シャルティローサは黒い穴をグランビューテ、フォーリン、オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの足元に展開する。
当然、グランビューテ、フォーリン、オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードは重力で穴の中へと落下し、その後すぐに穴が消えたため第一王子とその愛人の男爵令嬢(王子曰く婚約者)、そしてその側近達が玉座の間から姿を消すことになった。
「空の穴……それでは、私は失礼致します。後の仕事は私の部下に任せますので」
「お疲れ様でございます」
シャルティローサが空間魔法によって作られた黒い穴に消える。
その姿を見送ってから、メアレイズはガルマロッゾに視線を向けた。
「さて、話を戻すでございます。先ほどの増税の話、寝耳に水だったのではございませんか? 陛下は税金に関わる情報――つまり国家の中枢しか知らない筈の情報を私が持っていることに驚いたのであって、民にどれほどの重税が課されているのかを知らなかったし、興味も無かった、そうなのではございませんか?」
「ふん、民が苦しもうと余には関係ないこと。しかし、ファドルフ宰相。余に何故断りも入れずに増税を行ったのだ?」
「……第一王子殿下による度重なる出費で国家の運営に支障が出ておりましたので、増税を行いました。陛下のお耳に入れるようなことではないと判断しましたので」
「……本当に国王につくづく相応しくない人物でございますね。ちなみに、あの王子も相当なクズでございますが、国王陛下もその見た目相応の愚物であの王子を馬鹿にできないくらい女癖が悪いそうでございますね。次の画像をお願いするでございます」
映し出されたのは護衛一人すらつけていないガルマロッゾが様々な女性と建物の中に消えていく姿である。高級娼婦から美人の庶民の女に至るまでその数なんと十人以上。
「……あの王子がいなくても案外国は存続できるのではございませんか? この様子だと隠し子の十や二十、普通に居そうでございますし。……まあ、王妃様が結婚後すぐに王子を産み、その後それほど時間が掛からずに命を落とした……しかも死因が自殺だったというのも理解できる話でございます。……同情するでございます」
真面目な人間では到底耐えきれない、そういう環境であるとこの王に嫁いだ伯爵令嬢が証明している。
元々婚約者が居たにも関わらず一目惚れしたと仲を引き裂いた。「余の妻となれるのだ! 光栄に思うが良い」と伯爵令嬢を犯し、その結果誕生したのがあの王子である。……どうやら、母親の要素はその容姿の美しさ以外一ミリも受け継がなかったらしい。
その伯爵令嬢も腹の子には罪はないと産んでから自ら命を絶ち、その知らせを聞いた元婚約者も後を追うように命を絶った。
妻の死に何かを思うこともなく、死の知らせを聞いた時も無関心を貫いた。流石に外聞が悪いという諫言を受けて仕方なく(その諫言をした執事には腹が立ったので一族郎党皆殺しという形で処分させた)新たな貴族令嬢や貴族夫人に手を出すことは無かったが、その頃から女遊びが一層激しくなったという。
「……これは私がこの国に来てから一週間で様々なデータを元に算出したのでございますが、この国の寿命は仮に私が来なかった場合でももって二年」
「……もって二年じゃと! そんな筈がないではないか! この国は至って平和じゃ!」
「そりゃ、この王宮の中だけでぬくぬくと生きていて聞きたくない話には徹頭徹尾耳を塞いでいるお前が危機感を感じるようになったらもう手遅れ、滅ぶ数秒前でございます。度重なる増税で民の怒りは爆発、既にこの国の各地で王政打倒の旗印を掲げる暴徒達が暴れているでございます。……まあ、その多くは領軍によって鎮圧されているでございますが、その領軍を構成するのもまたその土地の増税に苦しんでいる人々でございます。既に各地でも領軍を辞めて革命に加わる者が出てきているようでございますし、大規模な反乱の発生も最早時間の問題でございますね。まあ、その前にこの国は戦争で滅ぶのでございますが」
――ガチャガチャガチャガチャ、と金属音と足音が聞こえる。騒ぎを聞きつけた増援の騎士が到着し、更に倒れていた騎士達も続々と目を覚まし始めた。
「この不届き者達を捕らえよ! あっ、その兎人族には傷をつけるなよ! 余が可愛がるつもりだからな!」
「……流石は莫迦の極まった愚王、全く状況が見えていないでございます。まあ、でもこのタイミングで来てくれたのは良かったでございます。二度と我らに歯向かう気が起きないほどの圧倒的な絶望を刻んでやるでございます! 《蒼穹の門》!!」
メアレイズが懐から取り出したナイフを床に突き刺した瞬間、眩い光が放たれる。
「うわぁ、ボロボロじゃねぇか! アハハハ、クソ笑えるぜ! よっ、ガルマロッゾ! 俺様が来てやったぜ! 感謝しやがれ」
「相変わらず性格が悪いのぉ。……メアレイズ、儂と陛下を呼んだということはアレじゃな?」
「そうでございます!」
「提案された時にはクソ面白いと思ったぜ! メアレイズ、ヴェルディエ! 全力で耐えろよ!」
ラインヴェルドは裏武装闘気で創り出した剣を構え、ヴェルディエがラインヴェルドとメアレイズに向き合って掌底を二人に向ける。
そして、最後にメアレイズが『神雷の崩砕戦鎚』を構える。
ブライトネス王国の国王と新たな獣人を謎の力で召喚をした時には何が始まるのかと身構えていた騎士達が一斉にメアレイズ達に攻撃を仕掛けようとする……が。
次の瞬間、圧倒的な霸気が放たれ、漆黒の雷が無数に迸った。本気で攻撃を仕掛けたように見えたにも関わらずそこに壁でもあるかのように剣も掌底も鎚も互いに触れずに停止するという不可思議な状況の中、圧倒的な力が騎士達に襲い掛かり、吹き飛ばされる。その力は留まるところを知らず、玉座の間の天井が真っ先に崩壊して綺麗な青空を見せ、その空もまるで三等分されたかのようにパッカリと割れた。
超常現象を引き起こした謎の力は留まるところを知らず、そのまま天井に続いて壁に無数のヒビが入って崩壊――百五十年以上の由緒ある王宮の一角が吹き飛んだ。
「ばっ、化け物!」
「こ、こんなの勝てる訳がねぇ!!」
「命だけは!! お助けを!!」
「意気地なしだなぁ。襲い掛かってきたら斬り殺してやったのに」
裏武装闘気の剣を一回振って消し去ると、ラインヴェルドはつまらなそうに瓦礫の一つを蹴った。
謁見の間だった場所にはもう王を守る護衛はいない。残されたのはヴォワガン、ラッツァ、ファドルフとボコボコにされたガルマロッゾだけである。
「これでこの国の騎士団も終わりでございますね。そして――」
瓦礫が散乱する元謁見の間にびくびくしながら三人の男女が入ってくる。
「統括執事長に、侍女長、それに、副文官長……何故お前達がここに」
「元執事長でございますし、彼女は元侍女長、彼も元副文官長です。本日限りで私、ロッドンゲイル=オーツマスと」
「私、イルマ=クォントロ」
「クァルツファー=イゴールグは本日をもってそれぞれの職を辞させて頂きます」
「しょ、正気か貴様ら! 誰のおかげで飯を食えていたと思っている! この王に逆らった者に再就職先があるとでも思っているのか!!」
「我らはあくまで代表でございます。本日付けで、我ら使用人一同と」
「我ら文官一同は職を辞させて頂きます」
「ご安心を、彼らの再就職は責任を持って我ら多種族同盟が斡旋させてもらうでございます!」
「貴様! 計ったな!! ふん、お前らなどいなくても何一つ問題はない! もうお前らの顔など見たくもない、消え失せてしまえ!」
「元よりそのつもりでございます。……貴方様に仕えてきた数十年間、苦痛しかありませんでした。我々を解放してくださり、ありがとうございます。感謝に堪えません、メアレイズ閣下」
「大したことではないでございます」
ロッドンゲイル、イルマ、クァルツファーが元謁見の間を去ると、寒々しい空の下にはもうメアレイズ、ラインヴェルド、ヴェルディエ、ダルフ、ウォンカ、ガルマロッゾ、ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフ、そしてシャルティローサの後任のメイド服姿の女諜報員の姿だけしか残っていなかった。
その中でロッツヴェルデ王国王政府側の人間はもうガルマロッゾ、ヴォワガン、ラッツァ、ファドルフの四人しか残っていない。
そのヴォワガン、ラッツァ、ファドルフも信用できない以上、この場にガルマロッゾの味方は一人も残されていなかった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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