Act.9-46 ロッツヴェルデ王国の崩壊〜【智将】メアレイズ閣下の真っ黒な策略〜 scene.2
<三人称全知視点>
「お久しぶりでございますね、クソ王子。予告通りロッツヴェルデ王国に戦争しにやってきたでございます!」
うさ耳をピョンと伸ばし、グランビューテを馬鹿にするメアレイズに対し、グランビューテだけではなくガルマロッゾも怒りを露わにする。
「兎人風情が! その態度はなんだ! 身の程を弁えろ!」
「身の程を弁えるのはお前の方でございます莫迦国王……と、お前のことは後でしっかり潰してやるから安心して待っているでございます! シャルティローサさん、まずは例のものをお願いするでございます」
「承知致しましたわ」
ガルマロッゾとグランビューテに睨まれたシャルティローサだが、柳に風――全く臆した様子もなく(まあ、当然だが)、淡々とパソコンを起動しつつ、プロジェクターを設置――パソコンとプロジェクターを接続して映像を映し出す。
流れたのは園遊会の一幕――グランビューテがユミル自由同盟に喧嘩を売り、返り討ちにされた姿だ。
「……それの何に問題があるというのか、余に分からん。強いて言うなら獣人風情に負けたまま帰ってきたところには問題がある。奴隷風情に良いようにされているようでは王は務まらん――」
ガルマロッゾはそれ以上言葉を告げなかった。消えたと錯覚するほどの速度でメアレイズはガルマロッゾに肉薄、そのまま拳を腹に打ち込んだのである。
痛みのあまり座り込んだところにメアレイズの踵落としが炸裂し、頭蓋骨にヒビが入った感触をガルマロッゾは味わった。
メアレイズはガルマロッゾの頭を踏みつけたまま話を進める。
「その奴隷風情に良いようにされているならお前も王の資格ないでございますね。……まあ、コイツの処遇は後回しにするつもりなので話を戻させてもらうでございますが、この国において獣人族を含む亜人種族に対する差別、奴隷の所有は容認されているでございます。ただし、それはこの国の内部に限る――ブライトネス王国は亜人種族、そして魔族――種族の垣根を越えた新秩序を作り上げようとしている多種族同盟の一員、そのブライトネス王国がホストとなっている園遊会という場において自国のルールを持ち込むのは通りに反するのではございませんか? 郷に入れば郷に従え、でございます。本当は殺されていても文句は言えなかったのでございますよ。まあ、処分の方法はいかようにもあったでございますが、牢屋にしばらく放り込んだとはいえ五体満足で帰国できた理由、それは簡単でございます。戦争の大義名分を得るためでございます。邪魔なんでございますよ、我々にとってこの国は。闇を抱えたマラキア共和国の永世中立の容認、旧態依然の亜人差別……我々の目指す秩序にお前らは不要なのでございます。と、同時にこの国を我々が滅ぼすことができたらどのような影響が世界に及ぶか……そうでございましたね。脳みそ空っぽのお前らに分かる訳ないでございますから出血大サービス、特別にレクチャーしてやるでございます。今後、多種族同盟との向き合い方は二種類、共存するか敵対するかの二択でございます。そして、敵対を選んだ場合、どのような目に遭うのか、ロッツヴェルデ王国と同じ末路を辿ることになるだけでございます。あの時、私は内心嬉しかったのでございますよ、いい鴨がネギを背負ってきてくれたって……ロッツヴェルデ王国潰しは良いデモンストレーションになると、そう期待してきたのでございますが」
その時、メアレイズの気配が変わったことに鈍感なガルマロッゾとグランビューテも気づいた。
「……シャルティローサさん、次の画像に切り替えてくださいでございます」
「……承知致しました」
次に映し出されたのは近年の税金に関する調査の報告書である。
当然、他国のメアレイズが知る筈もない情報だ。
「……何故それをお前達が持っているのだ! 誰だ、ダルフ貴様か!?」
「さあ? そもそも私が存じ上げる訳のないことです。自分の領地のことならともかく他の領地に関する情報もありますからね。裏切り者はそちら側にいるんじゃないんですかね? まあ、至極当然のことですよ。中央の一握りの人間が甘い汁を吸う中、故郷に多大な税金が課されて苦しむ姿をずっと苦しみながら見てきた方々は大勢いる。そうした良心の呵責を覚える方々の中にメアレイズ閣下に情報をリークした方々が居たのではないでしょうか? 特に近年は増税が著しい。理由は国王陛下、貴方のご子息のせいですね」
「わ、私は王子だ! 未来の王妃となるフォーリアに贈り物をして何が悪い!」
「失礼、私の記憶ではグランビューテ王子の婚約者はレティーシャ=アマルファド公爵令嬢だったと思いますが、記憶違いだったようですね」
「ふん、あの女とは近々婚約破棄をするつもりだ。可愛いフォーリアに嫉妬し、嫌がらせばかりする性悪女だからな」
「あっ、そういう話はどうでもいいでございます。ちょっとだけレティーシャ様に同情するでございますが、こんな崩壊寸前の白い巨塔みたいな斜陽国家と心中するくらいなら他の縁を見つけて幸せになった方が絶対に幸せでございますし……しかし、良かったでございますね、オーガスタ、ジェルファ、フォーテュード」
ガルマロッゾの腹に蹴りを入れて玉座にゴールインさせてからメアレイズはグランビューテ達の方に近づいていく。
「担ぐ神輿が軽くてホッとしたのではございませんか? 見ての通り、腹芸の一つもできない脳みそ空っぽでございますからね。ちょっとでも煽てれば豚も木に登るでございます。三人はそこのフォーリア嬢に魅了されたフリをしつつ、王子の側近として行動しながら機会を待っていたのでございますよね? グランビューテとフォーリアがどこに辿り着くかなんて火を見るより明らか、同情は王妃教育を頑張ってきたレティーシャ様に集まるでございましょうし、そうなればたった一人の王子でも廃嫡は免れない。そして、王子の責任は親の責任でございます。そのように王が消えたら次に王に近い存在は誰か? 有力なイノーマタ公爵家、トッリィ公爵家、エビーナ公爵家でございます。王子と馬鹿な男爵令嬢が消えることは確定しているなら、そこにできるならライバルの二家も巻き込んでこの期に滅ぼしたい、そう考えていたんじゃございませんか?」
「な、何を馬鹿なことを」
「王子殿下、この兎人族の言葉に耳を貸してはなりません!」
「薄汚い獣人の言葉など――」
「はい、ここで映像!」
プロジェクターの映像が切り替わり、次は短い動画が三つ流れる。
それは、誰も知らない筈のオーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの姿だった。
『馬鹿な王子だ、女に騙されて貢ぎまくって。まあ、あのクソ女も王子と一緒にお祓い箱だがな。女は男の奴隷だ。子を成し、子孫を繁栄させるための道具。そして、家を大きくしていくための道具だ。せいぜい俺の役に立てることをありがたく思うが良い、フォーリア』
『……面白いくらい順調に進んでいますが、オーガスタとフォーテュードは厄介ですね。なかなか決定打を与えてはくれない。……このくらいのこともできないのか? と父にネチネチ言われそうですね。……最悪ですよ、論文を書くことしかできない癖に父よりも遥かに優秀なこの私にああしろこうしろと五月蠅いんですから。論文馬鹿は大人しく論文だけ書いてろ! というか、そもそももっと早くにヴォワガンとファドルフを失脚させられれば私がこんな苦労をする必要も無かったのですよ』
『……ちっ、オーガスタとジェルファ……アイツらもきっと俺と同じ考えだからな。絶対にグランビューテとフォーリアと共に処分するつもりだろうが、そうはいかないぞ。次の王になるのはこの俺だ!』
オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの顔が一瞬だけ強張ったのをメアレイズは見逃さなかった。
「王子殿下、これは何かの間違いです!!」
「騙されてはなりませんよ。この兎人族が捏造したものでしょう。先程の王子殿下の映像もあの兎人族が王子殿下を嵌めようとしたもの……そうなのでございますよね? 殿下?」
「そ、そそ、そうだとも! この私があのような無様を晒す訳がないだろう! そもそも現実を切り取るなどという面妖な妖術だ! そんなもの証拠には断じてならぬ!」
と、必死に自己弁護をするグランビューテがオーガスタ、ジェルファ、フォーテュードに向ける視線は冷たい。
あの映像は紛うことなき事実であることをグランビューテは知っていた。そして、それが事実であるとすればこの三人の暴言も彼らの本音ではないのだろうか?
メアレイズの目論見通り、確実にグランビューテと取り巻き達――オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの信頼関係は崩壊を始めた。
「ただ、莫迦殿下……じゃなかったグランビューテ殿下は怒りの矛先を向ける相手を間違えているでございます」
「……怒りの矛先を向ける相手を間違えている? いや、私は決して貴様の言葉を信じている訳ではないが、私は寛大だ。特別に貴様の推理を特別に披露させてやろう」
既にグランビューテの中でオーガスタ、ジェルファ、フォーテュードの裏切りは確定していた。
後で相応の処分を下すことは決定済みだが、この三人を操っていた黒幕がいるとすればそちらも一掃しなければならない。
そのような不届き者が誰か、メアレイズが明言せずとも分かりそうなものだが、グランビューテは本気で分からないらしい。
「そこに転がっているデブと、お前――王族が纏めて失脚した時、次に王となる可能性が高いのは誰でございますか? 私の推理では……というか、推理するまでもございませんが、オーガスタ、ジェルファ、フォーテュードという代理者を立てて次の玉座を狙う戦いをしていたのはヴォワガン=イノーマタ公爵、ラッツァ=トッリィ公爵、ファドルフ=エビーナ公爵の三人でございますよね?」
「……お前達、まさか?」
「ご冗談を! まさか、この兎人族の言葉を信じるつもりではございませんよね! グランビューテ殿下!!」
「私は無実です! この兎人族が我らを分断してロッツヴェルデ王国を混乱の渦中に落とそうとしているのです! 信じてはなりませんよ!」
「まさか、殿下。我々が謀反など考えていると本気で思っているのですか? 馬鹿馬鹿しい。我ら三人、国王陛下に、王子殿下に、王家に粉骨砕身仕えてきたのでございます。怪しげな兎人族の妄言と我々の忠義、どちらを信じるのでございますか!?」
「ふん、俺が父上の手駒だと? 笑わせることを言うな! オーガスタとジェルファを処分した後、父上も排除して俺が玉座に座る。俺の方が父上よりも優秀だからな。御意御意言ってへこへこと顔色を窺ってしか生きられない父上と俺は違うのだよ!! 分かったか、兎人! ……あっ」
よっぽどメアレイズの言葉が腹に据えかねたのだろう。
フォーテュードは先ほどのメアレイズの推理が事実であることを認めただけでなくいずれは父ファドルフも罪を被せて失脚させ、王として君臨するという野心を全て語ってしまい、グランビューテ達だけでなく実の父ファドルフまでも敵に回して一瞬にして孤立無縁となった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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