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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-45 ロッツヴェルデ王国の崩壊〜【智将】メアレイズ閣下の真っ黒な策略〜 scene.1

<三人称全知視点>


 ロッツヴェルデ王国の王宮へと通じる正門の前に一台の馬車が止まる。

 ムーランドーブ伯爵家の紋章の馬車であることは門番もすぐに気づいたが、その日、ムーランドーブ伯爵が王宮を訪れるという報告を受けていなかったため門番の騎士達は警戒を強める。


 真っ先に馬車から降りてきたのは真っ白なうさ耳をピョンと伸ばした紺のレディーススーツを纏った兎人族の女性だった。

 その首に奴隷であることを示す首輪がないこと、そして兎人族に続いて降り立ったムーランドーブ伯爵ダルフとその側近であるウォンカがその兎人族の従者の如く付き従っている姿を見ると、騎士達は一気に警戒を強めた。


 グランビューテは帰国後、ブライトネス王国で起きた騒動に関する一切を全力で隠蔽した。

 たった一人の兎人族に徹底的にやられたという屈辱的な話を自らの口から王である父に伝えたくなかったのである。

 下等な兎人族一人黙らせられなかったとすれば王として民を従えられるかという資質が問われることになってしまう。


 まあ、既にフォーリア=スヴィルカーチ男爵令嬢に骨抜きにされて国家は腐敗の一途を辿っているのだが、それを王に奏上する忠臣はロッツヴェルデ王国にはいない。

 ロッツヴェルデ王国において王の次に権力を握るヴォワガン=イノーマタ公爵、ラッツァ=トッリィ公爵、ファドルフ=エビーナ公爵はこの騒動を利用して次代の王になるために密かに邁進中である。

 盛大に足を引っ張り合う協調性のカケラもない象牙の塔に、心から国を、民を慮る者はいないのだ。


 もし、グランビューテが恥を捨てて王に報告をしていれば迎撃の態勢を整えることができたのかもしれない。……まあ、それでも勝ち目は皆無なのだが。

 その上、今回は完全にメアレイズ達の不意打ちである。入念に必要な準備を整え、確実に潰せる段階に来てから姿を見せた。

 チェスで言えばチェックメイトからのスタートである。ロッツヴェルデ王国に勝ち目など無かった。


「邪魔でございます」


 無慈悲な言葉と共に覇王の霸気が放たれ、門を守る騎士は全員意識を失った。


「……情けないでございます。ムーランドーブ伯爵領の騎士の方がまだ強かったでございます……これが国の中枢でございますか?」


「お褒めに預かり光栄です、メアレイズ閣下。その言葉、戻ったら必ず伯爵領の騎士達に伝えます」


「まあ、王国中枢の騎士が弱いのは当然かもしれませんね。騎士の子は騎士になるもの、最初から道が用意されていますから。幸いか不幸か、ロッツヴェルデ王国はかなりの長い年月、戦禍に巻き込まれていません。有事がない以上、騎士の仕事も少ないですから名誉職のようなものとなっているというのが現状です。魔物の討伐も国が率先して動いた試しはなく、その地方に対処させていますからね……まあ、苦労するのは領主や貴族から委任された代官、地方の人間です。そりゃ、戦闘経験に断然な差があるのですから強かった方がおかしいですよ」


 ダルフのように爵位を持つ貴族でありながら代官を領地に派遣して治めるのではなく直接統治を行う貴族は少ない。

 ダルフは時に領民に混じり、共に汗を流し、生の声を聞きながら領民のための治世を行ってきた。そういった貴族は世界的に見ても稀だが、民を顧みない貴族が大多数を占めるロッツヴェルデ王国では尚のこと貴重な存在となっているのである。

 そう考えれば、ダルフの高い人気を誇るのも納得できるだろう。


 カタンカタン、とメアレイズのヒールの音が石畳を叩く。本来王を守るために命を張るべき筈の騎士は怯えながら一歩一歩後退り、剣を投げ出して逃げ出した。

 忠誠心のない騎士、そして忠誠を誓われるほどの何かを持たない王侯貴族に溜息を吐きたくなるが、メアレイズは表情を崩さずに王宮に向かって進んでいく。


「門が閉まっているでございますね。『神雷の崩砕戦鎚ヴィレ・トール・ドリュッケン・ミョルニル』で粉砕――」


『その必要はございませんわ』


 閉ざされた王宮の門が開く。中に居た騎士達が「何をしている!!」と叫び、一斉に剣を向けられる中でも平然とたった一人で門を押し上げたのは地味な見た目の侍女だった。

 メアレイズも見たことがない女性だが、王宮に派遣されていたのが何だったのかと考えれば見当はつく。


「諜報部隊フルール・ド・アンブラル所属の協力者でございますね」


「お初にお目に掛かりますメアレイズ閣下、ムーランドーブ伯爵様、マクルフィ準男爵様。私のことは気軽に『陰者(ヒドゥン)』とお呼び下さいませ」


「……シアさんはあの方が動くと言っていたでございますが、まさか諜報部隊フルール・ド・アンブラルのサブリーダーさんとこんなところでお会いできるとは思っていなかったのでございます。初めまして、メアレイズでございます。それで、首尾はどのような感じでございますか?」


「ご到着後に舞台を整えるつもりでしたので、今暫くお待ち頂けると……我々はあくまで引き立て役、本日の主役はメアレイズ閣下ですので、あまり出しゃばり過ぎない方が良いかと思いまして」


「主役のつもりはないでございますが、シャルティローサ様もお疲れだと思うので私が最後の舞台の準備くらいはさせてもらうのでございます」


 『陰者(ヒドゥン)』と名乗ったシャルティローサ=ハーミットの名前を呼ぶことで「お前のことは知っているのでございますよ」と牽制しつつ、メアレイズは騎士の目の前で『神雷の崩砕戦鎚ヴィレ・トール・ドリュッケン・ミョルニル』を振り下ろした。

 武装闘気だけを纏った『神雷の崩砕戦鎚ヴィレ・トール・ドリュッケン・ミョルニル』は床を破壊しただけでなくその勢いで王宮入り口の壁、更には天井にも無数のヒビを入れる。圧倒的な力を見せつけられた騎士達はあまりの怖さに失禁してしまった。


「誰でもいいでございますが、とっとと主要人物揃えてくるでございます! ……下等な獣人、それも最弱の兎人族から挑まれた戦争、逃げ出さないでございますよね? 上位種族のニンゲン様ぁ?」


 メアレイズが宣戦布告の書かれた書状を放り投げる。

 騎士の一人がそれを拾うと生まれたての子鹿のようにガタガタ震えながら王宮の中へと消えていった。


「それ以外の舞台の登場人物は用意してあります。グランビューテ=ロッツヴェルデ、フォーリア=スヴィルカーチ、オーガスタ=イノーマタ、ジェルファ=トッリィ、フォーテュード=エビーナ、一人ずつ確実に一人になったところを空間魔法で狙い撃ちして目隠しと猿轡と魔封じの手枷と魔封じの足枷を嵌めて亜空間に閉じ込めてありますのでご安心ください」


「……見た目に反してやっぱりローザ様の仲間なのでございます。やっていることが外道のそれでございます」


「そういう役目を我々はローザ様より拝命しておりますので当然です」


 メアレイズから外道と言われてもシャルティローサは顔色一つ変えずに人畜無害そうな笑みを浮かべている。

 カノープスにも似たその作り物めいた微笑を見て、「白夜さんとは違う方向の怖い人でございます!」とメアレイズは戦慄を覚えた。



 ロッツヴェルデ王国の王宮の玉座の間には、ロッツヴェルデ王国の主要人物が全て集められていた。

 玉座に座るのはガルマロッゾ=ロッツヴェルデ国王陛下。そしてガルマロッゾよりも少し前に立つのは騎士団長ヴォワガン=イノーマタ公爵、宮廷魔法師長ラッツァ=トッリィ公爵、宰相ファドルフ=エビーナ公爵。


 玉座の間の壁には一列に王国の精鋭である近衛騎士が配備され、いつでも剣を振るえるように腰の剣に手を添えている。

 国王側の端の方には目隠しと猿轡、手枷足枷から解放されたグランビューテ=ロッツヴェルデ第一王子、フォーリア=スヴィルカーチ男爵令嬢、オーガスタ=イノーマタ公爵令息、ジェルファ=トッリィ公爵令息、フォーテュード=エビーナ公爵令息の姿がある。


 グランビューテはメアレイズの姿を視認して一気に怒りで顔を赤く染めた。園遊会の場において浴びせられた屈辱、まだ癒えぬ心の傷がメアレイズの姿を見たことで再び抉られたのである。


 一方、他の者達はメアレイズに対して不快感を滲ませるか、あるいはこれほど美しい兎人族は市場にもなかなか出回らないので奴隷に落として堪能してやろうかと下卑た妄想を浮かべたかのどちらかだったようだ。

 王宮の門が突破された時点で全力で警戒するべきところだが、メアレイズに警戒心を向ける者は一人としていない。


 王に正対する位置にいるのはメアレイズ、そしてダルフとウォンカ。

 この時、ちょっと頭が足りないどころか愚王に片足を突っ込んでいるガルマロッゾはダルフが兎人族を捕らえて奴隷として献上しにしたのではないかとあり得ない妄想を浮かべていたようだ。……首に奴隷用の首輪がない時点で気づくべきだが。

 王も王だが、王に書状が届く前に破り、食べて揉み消してから玉座の間に主要人物だけを集めるよう王に求めたファドルフ=エビーナにも責任の一端があると言えよう。すぐに分かってしまうことでも隠蔽して無かったことにしようとするのがロッツヴェルデ王国のお家芸なのである。


 ダルフが王の前へと進む。手には紫の風呂敷が一つ。それを王に献上し――。


「メロンです」


「ほう? メロンとな……聞いたことがないな。ほれ、ファドルフ」


「御意」


 ガルマロッゾから受け取った風呂敷をファドルフが開ける。中にはガルマロッゾもファドルフも見たことがない果実のようなものが入っていた。……まあ、分類学上は野菜に区分されるのだが。

 ちなみにこのマスクメロン、ロッツヴェルデ王国では流通していない。

 ロッツヴェルデ王国では真桑瓜と呼ばれるウリ科キュウリ属のつる性一年草が庶民を中心に食べられているが、高級品というイメージがないため真桑瓜と同じメロンは王侯貴族に献上されることもなく、従ってこの場にいる上流階級に属する者達には馴染みが無かった。


「ほう、なかなか良いものを余に献上してくれたようじゃな。して、そろそろ本題に入っても良いのではないか?」


「えぇ、勿論ですとも」


 ニヤリと下品に笑ったガルマロッゾの顔が次の瞬間、一瞬にして怒りに染まる。


「これは、何のつもりじゃ!!」


 ガルマロッゾが落とした紙を拾ったヴォワガンはすぐに騎士達に剣を構えるように命令を下した。


「それはメロンの請求書でございます。何分高級品でございますからね、丁度ブランドが低下に低下を重ねているロッツヴェルデ王国と同等の価値だと……いえ、メロンの方が価値が高いかもしれないでございますね」


 騎士達は一瞬にして気絶し、剣を取り落として崩れ落ちる。

 騎士達だけを的確に狙って気絶させるという高等技術(そもそも霸気を知らないものには高等技術かどうかの区別も付かないが)を使ったメアレイズは混乱に陥った玉座の間に一瞥も与えずグランビューテを射程に入れて(ロックオンして)、満面のゾッとするような笑みを浮かべた。


「お久しぶりでございますね、クソ王子。予告通りロッツヴェルデ王国に戦争しにやってきたでございます!」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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