Act.9-44 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.11
<三人称全知視点>
迷宮の最奥部でメアレイズ達を待ち受けていたのは一体の翼竜だった。
漆黒の翼に一対の角、巨大な翼……似たような魔物が居そうではあるが、色まで完全一致となるとメアレイズに思い当たるものはない。
『――既存のデータベースに該当無し。解析を開始……暗黒の竜王、『Eternal Fairytale On-line』のレイドボスであるバハムートの派生……』
ブリスコラのサイボーグ化された瞳には【解析】の能力が組み込まれている。
その【解析】に間違いはない……とすれば。
「困ったでございます。……こんな浅い迷宮には居ないと思っていたでございますが、新種の魔物でございます」
素早くスマホを取り出して暗黒の竜王の写真を撮ってメールに添付してローザに送る。
返ってきた返信には「忙しい中、気を遣わせちゃって申し訳ないねぇ。生捕りにする手間を掛ける必要はないけど、死体の回収をシアさんに伝えるようにお願いしてもいいかな?」と書かれていた。どうやらお眼鏡には適わなかったようだが、遺伝子の回収はしておきたいらしい。
「どうするでございますか? 特に希望が無ければ私が倒させてもらいますが」
「戦いたいのは山々だが、霸気を獲得してから時間が経っていなくて扱えなくてな……暴れたくてうずうずしているみたいだし、メアレイズ閣下に全て任せるぜ」
「私をクソ陛下みたいな戦闘狂と一緒にしないでもらいたいでございます」
『神雷の崩砕戦鎚』を一振り取り出すと、聖属性の魔力と稲妻のように迸る膨大な覇王の霸気を纏わせた状態で覇王の霸気の力で強化した神速闘気で雷の如き速さで移動しながら『神雷の崩砕戦鎚』を振り下ろす。
口から圧縮して漆黒の光と化したブレス――「メガフレア」を放とうとしていた暗黒の竜王は頭蓋を粉砕され、一撃で撃破された。
「兎式・雷鎚迅雷八卦・骨砕猛打衝!! でございます!!」
ヴァケラーの聖属性魔法「雷霆覇勁・猛打衝」を元にしたローザのオリジナル魔法「雷鳴迅雷八卦・骨砕猛打衝」をアレンジしたメアレイズの一撃はレイドボスすらも粉砕する力を持っていたらしい。
メアレイズはあまりの手応えのなさに「えっ、もう終わりでございますか?」と亡骸を突つきながら「やったでございますか?」と言ってみたが、暗黒の竜王はピクリとも動かなかった。
◆
迷宮の最深部には見覚えのある真紅の魔法陣と青色の魔法陣が設置された大部屋があった。
メアレイズは大量の財宝が置かれ、ランレイク、フューズ、メイナード、ザックス、ガルムが思わずゴクリの唾を飲み込んだ青色の魔法陣……は素通りにして真紅の魔法陣の方へと向かう。
「とりあえず、そっちの財宝は後で恨みっこ無しに均等に分けるでございます」
「流石にそれはダメだろ! 俺達ほとんど働いていないし! 今回はほとんどシア嬢とメアレイズ閣下の手柄だろ?」
「あっ、私はカウントから外してくださいね。確認したところあんまり目ぼしいものは無かったので」
「ユミル自由同盟の迷宮に潜ればもっと稼げるので……そうでございますね。エタンセル大公家、シンティッリーオ大公家、ザックスさん、ムーランドーブ伯爵家で分ければいいと思うでございます」
「メアレイズ閣下が受け取らないっていうのに他国の俺達が受け取るのもなぁ。エタンセル大公家はこの財宝に関する権利の一切を放棄する」
「右に同じです」
「ってことは、俺とムーランドーブ伯爵家で分けるってことかよ。……流石に伯爵家と均等に折半とかは言えないですし、俺はほんの少しだけでも分前が貰えればいいですよ」
ということで、この財宝はムーランドーブ伯爵家に持ち帰り、その後分けるということになった。
結果として、その一部は迷宮に潜るという危険を冒して財宝の獲得に貢献したザックスとガルムに支払われることになった。ちなみに残りはムーランドーブ伯爵領のために全額使われることになったらしい。欲のない領主である。
「それではシアさん、お願いするでございます」
「承知しました」
シアは懐から瓶を取り出すと、深紅の魔法陣に向かって投げつける。
瓶の中に入っていた赤い砂のようなものが魔法陣を上書きしていき、魔法陣の外の床や壁にも複雑な紋章が刻まれていく。
「何をしているんですか?」
「迷宮を殺しているでございます。旨味は薄くスタンピードが頻繁に発生する迷宮に価値はないでございますからね。魔物を迷宮内に留めておくこともできるでございますが、ここまで浅いと悪意ある攻略者に設定を書き換えられると面倒でございますし、リターンよりリスクが大きいということでこの迷宮を破壊することにしたのでございます。ちなみに、伯爵様の許可は得ているでございます」
「この小瓶の中身には迷宮の機構を破壊するプログラムが組み込まれています。製法を知られると不都合がありますので、作り方については企業秘密ということで」
迷宮はスタンピードの発生などで周辺に大きな損害を発生させるが、一方で攻略した場合には莫大な富をもたらす諸刃の剣である。
今回、ダルフ伯爵はリスクの方が大きいと考えて迷宮の破壊を求めた。
悪意ある者が迷宮を攻略して再び魔物を解き放った時、ムーランドーブ伯爵領の力では対処できないかもしれない。その可能性を危惧して迷宮を殺すことに同意したダルフの考えをメアレイズは英断だと考える。
欲深い領主なら……いや、普通の領主であっても迷宮のもたらす莫大な富に目が眩んで迷宮を活かす方の道を模索する。真に民を思うのであれば、迷宮という危険そのものを排除してしまった方がいい。
「さて、この後はダルフ伯爵に迷宮潰しの報告をするでございます。確か迷宮攻略もダルフ伯爵名義で依頼になっていたでございますから、冒険者資格が唯一あるザックスさんが報酬を全部懐に入れられるでございます。良かったでございますね」
「えっ……まさか、この上報酬までもらえるんですか!? いやいや、それは流石に」
「当然の権利でございます」
メアレイズは冒険者登録はしておらず、ランレイク、フューズ、メイナード、ガルムも同様、シアに至ってはローザの隠し球でほとんど裏の人間なので表側の冒険者に名前を連ねている筈がない。つまり、正統に報酬を受け取れるのはザックスだけということになる。
「……あーぁ、もしザックスさんが受け取らなかったら報酬は誰の手にも渡らないでございます。それくらいなら、ザックスさんが受け取って宵越しの金は持たないという感じで全部パパッと使っちゃえばいいと思うでございます。どうせこの財宝の山分け分もあるでございますし」
ずっと最前線で魔物と渡り合って街を守ってきた冒険者達だ。
それくらいの細やかな幸せくらい認められて当然なのではないかと提案するメアレイズの意見を押すようにランレイク、フューズ、メイナード、シア、ガルム、因幡が首肯した。
◆
迷宮探索から一週間経った。迷宮探索後に財宝を山分けした後にランレイク、フューズ、メイナード、シアの四人はブライトネス王国に帰国した。
一方、メアレイズはブライトネス王国に戻らずにユミル自由同盟に久々に帰国し、アルティナに依頼していた仕事の進捗を確認するとメアレイズにしかできない大仕事に手を付け、一週間の間に見事やり遂げてみせた。
その成果の報告はブライトネス王国へ帰国したタイミングでロッツヴェルデ王国の戦争に関する報告と共にしてラインヴェルド達の度肝を抜いてサーレとオルフェアに感動の涙を流させるつもりだが、そのためにはもう少しユミル自由同盟に滞在して仕上げておく必要があるだろう。
それに、久しぶりの休暇を堪能したいという気持ちもある。
ゆっくり視察の名目でロッツヴェルデ王国を巡りながら優雅な時間を過ごす計画をメアレイズはロッツヴェルデ王国の名所案内片手に既に立てていた。
まあ、それも今日の直接対決で勝利することが前提ではあるが。
馬車に乗るのはメアレイズとダルフ伯爵、伯爵の側近であるウォンカの三人である。因幡はユミル自由同盟に置いてきたので、今頃兎人族の面々やアルティナに修行をつけてもらっている頃だろう。
ちなみに、今回は後二人ゲストがいるが二人はブライトネス王宮の一室で今頃優雅にお茶会をしている。
《蒼穹の門》を発動し、いつでもロッツヴェルデ王国の王宮に転移することができるように準備は整っている筈だ。
メアレイズの手には紫の風呂敷がある。ローザから手渡されたもので中身は高級なマスクメロンらしい。
「大事な交渉ごとの手土産にはやっぱりこれだよねぇ」とユミル自由同盟を訪れたローザから満面の笑みで渡されたが、ブライトネス王国にもそれ以外の国にも、少なくともメアレイズの知る範囲にはそのような風習はない。
「メアレイズ閣下、『象牙の塔の零落』を読ませて頂きましたがとても面白かったです。続きってどこで買えますか?」
「多種族同盟加盟国にあるビオラ商会合同会社の書店で販売している本なのでビオラの支店で取り寄せをお願いすれば書店が入っていない場所でも購入することができると思うでございます。ちなみに、ビオラ商会合同会社の会長であるアネモネ閣下は国家元首や領主の顔を持つお方で多種族同盟会議の議長の役割も持っている方でございます。ちなみに、『象牙の塔の零落』の著者のブランシュ=リリウム先生はアネモネ閣下が使っているペンネームでございますので、ムーランドーブ伯爵領と接するウォルザッハ侯爵領の支店に掛け合うという手もあるでございますが、近いうちにアネモネ閣下と会う機会があると思うので、そこで直にお願いした方が喜んでもらえると思うでございます」
「……アネモネ閣下の名前は聞いたことがあります。圧倒的な力を持つ冒険者で、『世界最強の剣士』の異名を持つお方である一方、ビオラ商会という商会を立ち上げていくつかの商会を取り込み、今やブライトネス王国どころかこの大陸でも随一の資本を持つ商会にまで育て上げた御方だと。しかし、まさか文才まであるとは……」
「ちなみに、私の師匠で度々名前が上がっているローザ様はローザ=ラピスラズリ公爵令嬢、つまりブライトネス王国の公爵家の令嬢なのでございますが、このアネモネ閣下と同一人物でございます。前世の記憶を持つ転生者であり、ブライトネス王国のラインヴェルド陛下、フォルトナ王国のオルパタータダ陛下、緑霊の森のエルフの族長のエイミーン様、こうした天才と呼ばれる方々と互角以上に渡り合ってきた規格外のお方なのでございます。折角時間もあるので色々とローザ様の伝説をお話しさせてもらうでございます。事実は小説よりも奇なりという言葉を体現するように波瀾万丈で物語の主人公のような壮絶な半生を送ってきたお方なので、退屈凌ぎにはなると思うでございます」
メアレイズが語った理由が退屈凌ぎなどではないことをダルフとウォンカもその前世――百合薗圓の半生の一部を聞いただけで悟った。
これは、この世界の真実――知ったら後戻りができない類のものであることを。
ダルフにとってもウォンカにとっても到底信じられない話だったが、入ってくる情報が少ないロッツヴェルデ王国のムーランドーブ伯爵領に入ってきた情報と照らし合わせても矛盾はない。
信じるしか無かった。
しかし、ダルフとウォンカにとって重要なのはそれが真実がどうかでは無かった。問題なのは多種族同盟における第一級の秘密を何故他国の一領主に過ぎないダルフとウォンカに語ったのかということである。
ダルフもウォンカもロッツヴェルデ王国に対する処遇がどのようなものになるのかをメアレイズから打ち明けてはもらっていない。
ただ、メアレイズとラインヴェルド、ヴェルディエの三人で話し合って処遇を決めたことだけは今日、ムーランドーブ伯爵領にメアレイズが姿を見せたタイミングで予感していた。
メアレイズが語らないその意図はダルフとウォンカにとっては嬉しいものでもある。ダルフとウォンカの為人を認め、信頼に足る存在であると考えてくれているということなのだから。
その気持ちは確かに嬉しい……が、ダルフとウォンカは自分達は自意識過剰だと、その推測が間違っていて欲しいと切に願っていた。
「……小さな領地で伯爵やっていられるのが一番気楽なんだけどな」
「どうしたでございますか?」
人畜無害な兎のように微笑みを浮かべるメアレイズ――その顔がダルフには獲物を見つけてニヤリと笑った肉食獣と重なって見えた。
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