Act.9-43 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.10
<三人称全知視点>
シアの能力が明かされた……までは良かったが、それが宝箱の前で周囲に魔物が居ない状況だったので格好が付かなかった。
……少なくともメアレイズとシア以外は何でこのタイミングで、と思ったが。
「おいおい、まさか……魔物の扉を倒して入った部屋にあった宝箱だぜ? そんなことないよな?」
「迷宮のクリア報酬は基本的に最奥の魔法陣で手に入るものでございます。……あんまり聞いたことがないのでございますよね、迷宮内の宝箱の報告。なので、あの扉と同じで油断させる方だと思った方がいいような気がするでございます……って、シアさん、無防備なまま宝箱を開けようとしちゃダメでござい……」
メアレイズの静止も聞かずに宝箱に触れた瞬間――宝箱から無数の触手が飛び出してシアの身体を突き刺そうとして、そのまま擦り抜けた。
獣の巨人の伝説に敵を擦り抜けるという逸話はない、とすれば恐らく別の力だ。
しかし、これが「天恵の実」であったとすれば「天恵の実」は二つ食べると身体が耐えきれずに四散してしまうという「天恵の実」固有の性質の説明が付かなくなってしまう。
人工の「天恵の実」にはその性質がないということもアスカリッドの証言が否定している。となれば、「天恵の実」以外の力か。
「『風化の天恵』を持つ私に物理攻撃は効きませんよ。武装闘気を習得してから出直しなさい。――獣巨人の鉄拳!」
シアの拳が宝箱に擬態していた魔物――擬態する捕食者を粉砕する。
「……いくらなんでもおかしいでございます! 『天恵の実』は一人一つしか食べることができないと聞いているでございます。それなのに、シアさんは『獣化の天恵(モデル:獣の巨人)』と『風化の天恵』の二つの力を有しているでございます! ……まさか、そこまで研究が及んでいるのでございますか!?」
「まあ、私の事例は思わぬ副産物ですが、遺伝子研究の技術を応用することで『天恵の実』の能力を二つ以上獲得することは可能ですわ。詳しい説明は省かせて頂きますが、これもローザ様の研究成果です」
「天恵の実」を二つ食べるという前例はゲーム時代には存在しなかった。
そもそも、そのような事例を考えていた可能性も低い……となれば、ゲーム制作者の特権を使った訳ではなく純粋な科学の知識でシアの身に起きた事例を完全に理解し、二つ以上の「天恵の実」を食べる技術を完成させたのだろう。
流石は世界の元となったゲーム制作者という特権的な立ち位置を抜きにしても化け物じみている天才――百合薗圓である。
「しかし、その組み合わせ……厄介でございますね。圧倒的な巨体と身体能力、幻獣系の中では特殊な能力を持たない部類のようでございますが、『風化の天恵』の力で風と同化すれば武装闘気の使い手以外には優位に立てる……魔法でどうにかできない訳でもなさそうではございますが。それに、『風化の天恵』は何となくダブルミーニングな気もするでございます」
「えぇ、『風化の天恵』には風と同化する力の他に、万物を岩石の如く風化させる力もあります。例えば、触れた相手の細胞組成を解体して分解するということも可能ですね。流石に《万象劣化の魔手》ほどの強力な作用はありませんが」
「……それでも十分強いと思うでございますが。まあ、食べるなら普通は強いの二つ食べるでございますよね」
「流石にメアレイズ閣下には遠く及びませんわ」
「……お世辞とかいらないでございます。全く勝てる気がしないでございます」
もし、シアが正式に時空騎士となってメアレイズと当たった場合のことを考え、胃が痛くなるメアレイズだった。
……まあ、シアの立ち位置を考えれば秘匿される可能性もあるのだが、この旅に同行させていることを考えるとそれも希望的観測になってしまいそうだ。
◆
順調に進んでいたメアレイズ達……だったが、そんなメアレイズ達が足を止める出来事が起きたのは七層に到達したタイミングだった。
魔物の群れに襲われ、血を流している存在をメアレイズが見つけたのだ。
人間ではない。明らかに魔物だが、これまでの階層で見かけた魔物とは明らかに違う。
真っ白な毛皮の兎のようだが、大きな赤い目と発達した後ろ足を持ち、その見た目から蹴りを得意にしていることが分かる。メアレイズはその姿を見て蹴り兎と呼ばれる魔物であることを見抜いた。
「ブリスコラ!」
「ちょっと待つでございます!」
「……なるほど、承知しました。魔物の方はどうしますか?」
「それも任せてもらうでございます」
「了解しました」
ブリスコラ達に停止命令を出し、ブリスコラ達を止めると、メアレイズはシアの気遣いに感謝しつつ『神雷の崩砕戦鎚』を取り出して霸気と聖属性の魔力を纏わせ――。
「食らうでございます! 兎式・雷鎚覇勁・猛打連撃」
得物に聖属性の魔力と稲妻のように迸る膨大な覇王の霸気を纏わせた状態で次々と戦鎚を振るい、鼠人族の採集者、鼠人族の首領、巨大な蟾蜍、猛毒の巨大蛙を次々と粉砕していく。
本来、巨大な蟾蜍や猛毒の巨大蛙は高い打撃耐性を誇るのだが、メアレイズの攻撃はそのままの打撃だけでもその打撃耐性を凌駕するほどの力があり、完全にオーバーキルだった。最弱と言われた兎人族のメアレイズだが、幾多の戦闘を経験した素の戦闘力もかなり上昇しているようである。
「おいおい、まさかと思ったが本当にやるのかよ!」
「や、やめておいた方がいいのではないですか? 俺は知りませんよ!」
ガルムとザックスが止めようとする中、メアレイズは躊躇なく神水を取り出して蹴り兎に飲ませる。
傷が一瞬にして治癒し、間も無く蹴り兎は目を覚ました。状況の分からない蹴り兎はメアレイズ達を見て臨戦態勢を取るが、すぐに自分の傷を確認し、倒れている魔物と目の前のメアレイズ達を交互に見て状況を把握――。
「きゅ! むきゅう! きゅきゅきゅ! (あんさんらが助けてくれたんか。いやぁ、助かった。ちょっと武者修行のつもりで挑んだらあの蛙野郎に全然ダメージを与えられなくて困っとったんですわ)」
見気を使えば魔物の心も読めるが、その言葉が明らかにウンブラと同じ関西弁だったので、可愛いのに「それかよ!?」と心の中でツッコミを入れるメアレイズ達。
「うさ耳は仲間でございますからね! 流石に死に掛けのところを見つけたら見捨てられないでございます」
うさ耳をぴょこぴょこさせながら胸を張るメアレイズ。基本、うさ耳は友達(狂信者は除く)、仕事増やす奴と亜人種差別する奴は敵というのがメアレイズの判断基準である。
「むきゅ! きゅきゅきゅ!! (ところであんさん強いねんな。ウチは最強の魔物を目指しとるんやけど、あんさんのところで修行させてもらえたら強くなれそうなんやけど、雇ってもらうこととかできまっか? 修行をつけてくれるなら何でもするんやけど?)」
「な、何でもでございますか!?」
メアレイズの脳裏に一つの名案が閃いた。
目の前の蹴り兎はストイックな武人タイプ、そして何事も妥協をしない性格なのだろう。
そのストイックさをもし文官の仕事に向けてもらえるとしたら、素晴らしい文官に成長するのではないだろうか?
それに、目の前の蹴り兎が求める修行相手も成長途中の自覚があるメアレイズにとっては有り難い申し入れだ。
修行の相手としても申し分のない武人に成長しそうで、更に育て方次第では未来の文官の卵にも逸材が目の前にいる。思わぬ掘り出し物が手に入ったと内心ほくほく顔をしつつ。
「そうでございますね。私はユミル自由同盟という獣人族の国で文官をしているでございます。文官というのは国という集団を運営するために必要な書類仕事などをする仕事でございます。私が出す条件は、その文官の仕事を覚えてもらって、私の仕事に協力してもらうことでございます」
「むっきゅ! きゅきゅきゅ! きゅ! きゅきゅ!! (よう分からんが、その仕事とやらの内容は教えてくれるんやろ?)」
「それは勿論でございます!」
「むっきぃゅう! (決まりや!)」
うさ耳の片方を差し出す蹴り兎と右手を差し出すメアレイズ。固い握手を交わして契約成立である。
ちなみに、因幡の名を与えられたこの蹴り兎は後にメアレイズの副官としてユミル自由同盟、更には多種族同盟の文官部にとっては無くてはならない存在となるのだが、その話は追々していくとしよう。
新たに蹴り兎を仲間に加えた一行は迷宮の最奥部を目指す。
そして、迷宮の最奥部――十層に辿り着いたメアレイズ達を待ち受けていたのは……。
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