Act.9-42 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.9
<三人称全知視点>
ランレイク、フューズ、メイナード、シア、ザックス、ガルムの六人はザックス、ガルムの案内でムーランドーブ伯爵領の頭痛の種である迷宮へと向かった。
「スタンピードで出てきた魔物は灰色の体毛と赤い瞳を持つ、牙の鋭いネズミのラッドマン、青色の小さな蝙蝠のウェアバット、二つの頭を持つ狼のツーヘッドウルフの三種でございましたね」
「魔物自体はそれほど強くはないのですが、スタンピードの際にはとにかく大量に出現するものですから止めるのも一苦労です。まあ、幸い死者は出ていませんが」
「根本原因を潰すほどの戦力はないということでございますね」
「その程度なら苦もなくブリスコラ達で制圧できそうですね。……というより一方的な蹂躙になってしまいそうですが。必要であれば何体か魔物をそちらに流すので必要なタイミングで声を掛けてください」
シアは六体のブリスコラを連れている。見た目は凶悪な魔物で手に持った巨大な棍棒で破壊の限りを尽くす。
ヒエラルキーを有し、様々な職業を持つ群的なイメージが強いゴブリンなどとは違い、トロールは基本的に単独で出現するが、その分単体の脅威度はゴブリンよりも遥かに高い。
それが六体……暴れ出せばザックスやガルムでも太刀打ちが難しい相手だが、不思議なことにトロール達には暴れ出す気配はない。それどころか、魔物であっても大なり小なりある筈の本能や意識のようなものが目の前のトロール達からは感じ取れなかった。
ただ、呼吸はしているようで生物的な要素は残しているようだが、一方で感情が削ぎ落とされた無の表情を見ると、それが機械的な何かのように見える。
身体もどこか金属的なところがあり、ランレイクが触った時には中身の肉体ならば感じる筈の体温の暖かさや皮膚の感触はなく、少し冷たいと感じるものであった。
「ご安心を、ブリスコラは決して暴れ出すことはありません。元々、このブリスコラは一体のトロールを元に作り出したクローンをサイボーグ化したものです。管理者の指示に従い、壊れるまで戦う殺戮兵器――まあ、それでも多種族同盟の上位陣、一騎当千の猛者達には遠く及びません。実戦に投入するためには更なる改良が求められることになるでしょう」
「……いやいや、これ以上何を改良するっていうんだよ!!」
ブリスコラの口から金色に輝くレーザーが放たれ、ラッドマン、ウェアバット、ツーヘッドウルフが何もできないまま一方的に焼き尽くされていく。
もし、ムーランドーブ伯爵領の制圧にあれが送り込まれていたかと思うとゾッとする。メアレイズが不殺を貫いたからこそ死傷者がゼロだったが、もし狙いがムーランドーブ伯爵領の破壊と皆殺しであったとしたら、ブリスコラがそのために投入されていたとしたら、今頃ムーランドーブ伯爵領は火の海になっていたのではないか?
「今回のブリスコラはブリスコラの中でも初期型なので闘気を扱うことはできません。しかし、レーザー兵器の他に魔法を使うための機構が内蔵されている他、サイボーグ化の材料にはアダマンタイト、ミスリル、オリハルコン、アザンチウム鉱石、ウルツァイト窒化ホウ素、ロンズデーライト、カルメルタザイト、ニオブ、『End of century on the moon』の宇宙船装甲板に使われている金属を融合した世界最硬の合金である究極合金を使用しているのでそう簡単には破壊できないと思ってもらって良いと思います。……ローザ様は霸気を纏わせた剣でかなり楽々と破壊していましたが」
「まあ、お師匠様は色々と規格外でございますからね」
シアがブリスコラを使って魔物達を駆逐していく中、メアレイズは闘気、八技、仙術、原初魔法、瀬島新代魔法、『SWORD & MAJIK ON-LINE』のマジックスキル、霊力の使い方をそれぞれ実践しながら教えていった。
その後はシアに流してもらった魔物との実戦――出現する魔物は闘気だけでも習得していればほぼ一方的に蹂躙できるほどの雑魚ばかりなので歯応えは全く無かったが、どれほど強くなったかのを測る指標としては十分役に立った。
迷宮の地下五階に到達する頃にはメアレイズの教えた全ての技術を一通り会得するに至っていた。まだまだ荒削りなところも多いため、これから自己練習で鍛えることでまだまだ強くなれる余地は残っているが。
「しかし、本当に良かったのか? ザックスは冒険者だから他国の利益にはならないと思うが、俺はムーランドーブ伯爵領の人間だ。俺には秘匿しておいた方がいいと思うんだが」
「ロッツヴェルデ王国の膿を全て出し切った後、ロッツヴェルデ王国には多種族同盟に入ってもらうことになるでございます。その時はガルムさんのこと頼りにするつもりでございます」
「あっ、これ逃げられない奴じゃん」とザックスを慰める立場から一転巻き込まれる側になってしまったガルム。
まあ、メアレイズの霸気を耐えられた時点で素質があるのは間違いないのだが……今日非番だったら良かったのにと反実仮想を思い浮かべて溜息を吐く。
メアレイズと今日対峙しなければ一生見出されずに終わったかもしれない才能――強くなれるのは嬉しい反面、メアレイズほどの実力が必要な戦いの世界にこれから嫌でも身を投じていかなくてはならなくなるとゾッとする。
訓練は迷宮の五層の階段を降りたところで終了し、残る五層は通常の探索に戻った。
五層目までは入り組んだ薄暗い洞窟というイメージの空間だったが、この六層は通路と扉で構成された人工物的な空間であり、まるで別世界に来てしまったような雰囲気を抱く。
迷宮の魔物もそれに合わせて顔ぶれが変わっており、ラッドマンの派生である鼠人族の採集者と鼠人族の首領、個体ごとに色が違う巨大蛙型の魔物――巨大な蟾蜍、紫斑点の蛙で巨大な蟾蜍と同程度の大きさの猛毒の巨大蛙が出現する。
……どれも洞窟が似合いそうな魔物達だ。
「……何か嫌な予感がするでございます」
「そうか? 洞窟よりこっちの方が立ち回りは楽そうだが?」
「そうですね。特に扉……これだけの数があるというのにただ扉を開けさせる無駄を増やすためにあるとは考えにくい。――ブリスコラ!」
ブリスコラの口からレーザーが放たれ、扉に命中する。随分と乱暴な開け方だなぁ、と思っていると扉にギザギザの口と凶暴そうな目が現れた。レーザーを浴びて頭の一部が溶けたようだが、どうやら撃破はできていないようで前衛のブリスコラ一体に狙いを定めて襲い掛かる……が。
狙われたブリスコラは一瞬にして姿を消し、次の瞬間には扉型の魔物の背後に現れた。「弾力空気」を使ったのだ。
背後に現れたブリスコラは「凍焔劫華」を纏わせた拳で扉型の魔物――悪魔の罠扉を殴って凍結させると、他のブリスコラと共に二度目のレーザーを放って悪魔の罠扉を完全に焼き尽くす。
悪魔の罠扉は物理的な即死級攻撃の「クラッシュ・ダウン」と異次元に対象を転送することで即死させる魔法攻撃の「ナインス・ディメンション」を使う強敵なのだが、ブリスコラ相手にはその強さが通用しなかったらしい。
そもそも、悪魔の罠扉は初見殺しの魔物である。初見殺しで相手に不意打ちを仕掛けた後、即死攻撃で確実に仕留める……逆に初見殺しが回避された場合は対処方法もあるので攻略できない敵という訳ではない。まあ、六層に出現する魔物の中では強い部類には入るのだが。
「……当たり前のように討伐成功ってことになっているが、これメアレイズ閣下とシア嬢が居なかったら俺達死んでいたんじゃないか? なあ、フューズ」
「そうですね。きっと躊躇いなくドアを開けていたことでしょう」
そして、悪魔の罠扉の不意打ちを浴びてほぼ確実にデッドエンドである。扉を開ける時に中に警戒することはあっても扉そのものに警戒を向けることもないため、ほぼ確実に不意打ちには対応できないだろう。
「迷宮に挑戦しなくて良かった」と胸を撫で下ろすザックスと、どんな洞察力なんだとメアレイズとシアの方に視線を向けるランレイク、フューズ、メイナード、ガルムだった。
◆
魔物の種類が変わってもブリスコラが強過ぎて基本メアレイズ達の出る幕は無かった。
鼠人族の採集者も鼠人族の首領も巨大な蟾蜍も猛毒の巨大蛙も悪魔の罠扉も戦闘が成立することすらなくブリスコラ達に一方的に蹂躙される。
「……やっぱり成長途中の迷宮でございますから歯応えは全然でございますね。まあ、悪魔の罠扉はかなり強かったでございますが……」
「配慮が足りずに申し訳ございませんでした。メアレイズ閣下も戦いたかったのですね」
「いや、そうじゃなくて! でございます!! シアさんの力を見て見たかったのでございます。ブリスコラの性能も見たいとは思っていたでございますが」
「そうでしたね……では、僭越ながら私の力をお見せ致しましょう。――人獣型!」
動物への変化を可能とする「天恵の実」には人獣型と完全獣型の二種類の形態が存在する。
人獣型は文字通り動物と人間の両方の性質を兼ね備えた姿ということになる。
シアは大きさこそ変わらないが、茶色の毛に覆われた姿となり、腕や脚も格段に太く筋肉質になる。
「『獣化の天恵(モデル:獣の巨人)』」
獣の巨人の名が馴染み深いユミル自由同盟出身のメアレイズはその名を聞き、意外にも驚かなかった。
少し前に師匠である圓の手によって発掘された獣の巨人、そして「天恵の実」を人工的に作り出す技術。
その二つが揃えば、「獣化の天恵(モデル:獣の巨人)」は実現できる。
「……師匠なら完成させているんじゃないかと思っていたでございますが、貴女が食べていたのでございますね、ユミル自由同盟の守り神の『天恵』を」
「メアレイズ閣下達獣人族にとっては複雑な心境だと思いますが……」
「そんなことないと思うでございますよ。ご先祖様だか何だか知らないでございますけど、とっくの昔に忘れ去られているような存在でございますので」
「……あっ、そうでしたか。まあ、使い勝手が悪い『天恵の実』ですよ、これは。怪獣大戦争には役に立ちますが、巨体を生かした戦いの機会は早々ありません。ただ、人獣型でも巨人の力を宿しているだけあって身体能力は大幅に強化されますので弱いという訳ではありませんが」
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