Act.9-40 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.7
<三人称全知視点>
「王政打倒……それにこの条件は悪くはないと思います」
「そうだな……寧ろメアレイズ閣下が救世主のように思えてならない」
「それはどういうことでございますか?」
ダルフの話を聞くメアレイズの顔が徐々に怒りに染まっていく。
メアレイズの側で控えていたメイドはメアレイズから漏れ出る霸気に震えていた。
「つまり、その男爵令嬢に第一王子……色ボケ莫迦王子が貢ぎまくった結果、その煽りを食って増税に次ぐ増税、更に迷宮まで出現して弱目に祟り目のところに私が来たということでございますね。あのクソ王子、どれだけやらかせば気が済むのでございますか!!」
「……しかも、その男爵令嬢はなかなかの策士のようで、国内の学園内で何人もの有力者の子供……騎士団長やら、宮廷魔法師長やら、宰相やらの息子にもモーションを掛けているようで」
「……とんだ尻軽女でございますね」
「ただ、男爵令嬢に魅了されているのは第一王子だけのようです。ヴォワガン=イノーマタ騎士団長、ラッツァ=トッリィ宮廷魔法師長、ファドルフ=エビーナ宰相は元々仲が悪く、その子供達も互いに仲が悪いことで有名です。出世欲の強い三人の息子達はあわよくば男爵令嬢と第一王子と残り二人を排除して次期国王になりたいと考えているようで、仲良くしている風を装って足の引っ張り合いをしているようです」
「……どこの象牙の塔でございますか!?」
「象牙の塔?」
「あっ……すまないでございます。最近ハマっている小説の読み過ぎで……あっ、よろしければどうぞでございます」
四次元空間から二冊の本を取り出してダルフとウォンカに手渡す。
「『象牙の塔の零落』という小説でございます。多種族同盟国内で高い人気を誇るブランシュ=リリウム先生の作品で学校の同級生で後にフリーのジャーナリスト、フリーの外科医、弁護士になった三人のそれぞれの半生を描く物語なのでございますが、それが少しずつ繋がってくるような絶妙な物語展開を続けているのでございます! 外科医……医者というのは、この世界で言うところの光魔法の使い手――治癒術の使い手のことでございますね。ここでの象牙の塔は閉鎖的な空間を比喩した言葉として使っているでございますが、特権階級である医療界の不透明さと腐敗、『象牙の塔の零落』で描かれる医療現場はそうしたものが描かれているのでございます。まあ、描かれている政界、法曹界も似たようなものでございますが……例えば特権階級の優先した受け入れ、賄賂、院長戦の根回し――そういった院内政治が描かれているでございます。ちなみに、描かれている医療はブライトネス王国で有名な医師であるルクシア第二王子殿下が帯に『この本はそのまま医療の教科書になります』と書くほどで、一切の虚構が混ざっていないもののようでございます」
「……な、なるほど。ありがとうございます、読ませて頂きます」
メアレイズの熱弁に少し引き気味になりながらダルフとウォンカは本を受け取った。
「とにかく、このいずれが国をとっても第一王子がそのまま王となっても国が良くなるとは思えない。メアレイズ閣下に協力してこの国を打倒するのが最善に思えるが……この国をこれ以上疲弊させることはないのでしょうね?」
「えぇ、その点はお約束するでございます。……必ずこの国の現状をお伝えし、民の疲弊しない国にできるよう微力ながらお手伝いさせて頂くでございます。民があってこその国でございますね」
「……メアレイズ閣下のようなお方が王になって頂けるときっと良い国になるのでしょうね」
「あー、そういうのは嫌でございます。そもそも、私、最弱の兎人族の族長として細々と生きて死んでいく筈だったのに、当時の獣王様に文官のトップに任命され、脳筋な族長達からは睨まれ、労働環境はブラックの一言、もうとっとと仕事を辞めてユミル自由同盟の片田舎で余生を送りたいでございます。権力者なんてなるものじゃないと思うでございますが、どいつもこいつも権力が欲しい人ばかりでございますね」
「……それは、メアレイズ閣下が真面目だからご苦労されているのでしょう。権力を欲しがる者達は民を見ていない者ばかり……権力に踊らされるのではなく、何かの願いを叶えるために権力を使う、それが本来あるべき姿なのでしょうね」
◆
「さて、そうと決まれば国崩しに……と行きたいところでございますが、その前に迷宮の件を解決しなければならないでございますね」
「まさか、迷宮をどうにかしてくださるのですか!?」
「何を言っているでございます? 当然のことでございますよね? 危険な迷宮のせいで生活が脅かされていることを知っているのに、解決できる人が見て見ぬふりをするなどあり得ない……少なくとも私はそう思うでございます。別に王朝打破に協力してくれるからとか、これを対価に……という話ではないでございますよ。それに、私としても手間が省けて大助かりでございますし」
「ブリスコラと、ついでに私の実力把握ですね。……お初にお目にかかります、伯爵様。シア=アイボリーと申します。メアレイズ閣下と共に多種族同盟から来た臨時班の一員です。メアレイズ閣下が気絶、或いは軽傷レベルのダメージで傷をつけたムーランドーブ伯爵領の衛兵達ですが、全員救護用のプレハブ小屋に運び入れた上で必要に応じて治療を行いました」
「お疲れ様でございます」
「あ、ありがとう……ダルフ=ムーランドーブだ。それで、メアレイズ閣下と共に迷宮の調査を行ってくださると言うことで良いのか?」
「えぇ、私を含め五人で迷宮を探索、可能であれば迷宮を死滅させて脅威を無くすつもりです」
「五人……ということはアイツらやっぱり着いてくるでございますか?」
「ランレイク閣下とフューズ閣下が二人して必死に説得していましたからね。メイナード閣下からメアレイズ閣下の指示に全て従うという言質を取ったようですので、あのような無礼千万な行動はしないと思います」
「来なくていいのに……でございますのに。とっとと帰ってもらいたいでございます……はぁ」
「あー、とっとと帰って欲しいなぁ」と願うメアレイズだが、その願いはどうやら叶いそうにないようだ。
「申し訳ないのだが、迷宮攻略が達成されたかどうかをしっかりと確認したい。……信用していないという訳ではないのだが、部下を一人同行させてもらえないだろうか?」
「まあ、当然のことでございますよね。ポッと出のよく分からない輩に迷宮を任せた結果、被害拡大となれば困るのはダルフ伯爵様達でございますし、私達が信頼できるかどうかを確認するためにも部下を一人同行させるというのは良い手であると思うでございます。逆に私達もしっかり仕事をしたことの裏付けが取ってもらえるでございますし、WIN-WINな提案でございますね」
「……てっきり気を悪くされるのではないかと思っていたのですが」
「別にそんなことで怒るほど短気ではないでございますよ。ただし、あんまり出しゃばり過ぎないでもらいたいでございますね。私達も指示も聞かずに飛び出していく輩を守ってられるほど全能ではないのでございますので」
その辺り、メアレイズの師匠である圓ならば嫌な顔をしながらも確実に守って見せそうだが、メアレイズは師匠のような実力はないのでもし指示に従えずに死ぬならそのまま無慈悲に見捨てるつもりである……といいつつ、最終的には見捨てられずに助けそうな気もしないでもないが。
メアレイズが貧乏籤を引き続けているのは、その根底にある優しさが理由かもしれない。
「そうと決まれば準備ができたところで出発でございます。そちらの人選が決まり次第連絡してもらいたいでございます」
「分かりました。できる限り早く人選を行います」
◆
ダルフとの交渉が終わり、メアレイズは一時間ほどムーランドーブ伯爵領を観光していた。
街道筋で貿易の拠点になっているため、本来ならばムーランドーブ伯爵領は活気がある。度重なる増税の影響でムーランドーブ伯爵領は疲弊している筈だが、そのような様子は一切見られない。
ただ少しピリピリとした空気が漂っていた。その理由はメアレイズが暴れ回ったからか、将又、迷宮という脅威が身近に生まれたからか。
ちなみに、ムーランドーブ伯爵領で増税の影響が見られない理由は至極簡単――ムーランドーブ伯爵領が家財を売るなどして増税分を補填しているからである。
くだらない増税で民を苦しめる訳にはいかないというムーランドーブ伯爵の意地の結果だが、ムーランドーブ伯爵領も閉鎖された世界ではないので近隣の領地から増税の情報が入ってくる。
ダルフの領民を第一に考える性格も踏まえればダルフが無理をしていることなど誰もが簡単に予想することができた。
「……いい街でございますね」
しかし、そのムーランドーブ伯爵領にも終焉が迫っていた。
ダルフがいくら頑張ろうと増税は重くのし掛かる。いずれは選択を迫られることになっていただろう。領地の維持のために民を犠牲にするか、それともそのままムーランドーブ伯爵領と心中するか……どちらを選んだにせよ、良い未来にはならない。ムーランドーブ伯爵が自ら暗黒の時代を到来させるか、新たに赴任した領主が暗黒の時代を到来させるかの違いに過ぎない。
メアレイズの到着が遅かったら……と考えるとメアレイズの背中に冷たいものが走る。笑顔溢れるこの街道はきっと荒廃した悪夢のような場所になって居ただろう。棲家を追われて亡命し、ブライトネス王国にも難民が雪崩れ込んできていたかもしれない。
屋台で買った串焼きを片手にメアレイズは冒険者ギルドを訪れた。
迷宮に関する情報を事前に集めておくためだ。こういった情報は領主よりも実際に最前線で戦っている冒険者の方が持っている。
「お邪魔するでございます」
最弱の兎人族だと軽んじて一悶着あるかとメアレイズは警戒していたが、そのようなことは無かった。
冒険者達は目に見えて怯えている。……まあ、あれだけの大蹂躙劇を見せつけたのだから怯えられないという方が無理がある。
「メアレイズ閣下、まさかこの国に来るとは思いませんでした」
「領主様以外には名乗っていない筈でございますが、どこかで会ったことがあったでございますか?」
この冒険者ギルドを拠点にする冒険者の中では最もランクの高いAランク冒険者がメアレイズに声を掛けたため、やはりあの兎人族は只者では無かったのだと納得する冒険者達。
一方、メアレイズは目の前の男に全く見覚えがなかった。流石にメアレイズの関係者であれば名前は覚えていなくても顔は覚えていそうなものだが……。
「一方的に知っていただけですから、ご存知ないのも当然だと思います。Aランク冒険者のザックス=ヴォルトォール、元ブライトネス王国の近衛騎士です」
冒険者ギルドに居た者達はザックスの前歴を知らなかったのだろう。
近衛騎士と言えばエリートの中のエリート、何故それほどまで上り詰めた男が異国の辺境で冒険者をしているのかと疑問を持つ者がほとんどの中、メアレイズは彼が近衛騎士を辞めた理由が思い当たり、「『怠惰』戦でございますね」と溜息を吐いた。
ブライトネス王国を含む多種族同盟諸国が初めて経験した『管理者権限』を持つ神との戦争。
園遊会を舞台にした戦争に比べれば小規模なものであったが、あの戦争に参加した騎士の大半が騎士を辞め、一時期各騎士団も人材不足に陥ったことがあった。
ブライトネス王国の騎士団は各団長、副団長が突出していて団長、副団長クラスが単独で動いた方が強いためそれほど大きな変化があった訳ではないが、あの戦争が多くのブライトネス王国の元騎士達の心に影を落としたことは間違いない。
「……あの戦争、俺も近衛騎士の一人として参戦しました。先陣切って戦っておられた閣下のような方々にとっては恐ろしくも何とも無かったのでしょうが、俺にとってあれは恐ろしい戦場でした。襲い来る夥しい魔物の群れを今でも夢に見ては飛び起きることもあります。……俺はあの戦争の終わった直後に近衛騎士を退役して冒険者になりました。結局、俺には剣しかありませんでしたから。……あれで終わりではないことを、もっと恐ろしいことがこれから起こると俺は心のどこかで確信していました。それから逃げたくて、俺は冒険者になったのです。……今の仕事にやり甲斐は感じていますが、心のどこかで今の俺のしていることは逃避なのだと理解しています」
「……そんなことはないと思うでございますけどね。今のザックス様はこのギルドの冒険者達から信頼されていることが伝わってくるでございます。戦場は一つではございませんし、戦場の大小は関係ない……この地で必要とされているなら、それでいいのではございませんか?」
人にはそれぞれ役割があるとメアレイズは考えている……自分に与えられた役割が何なのかを考えるとゾッとして現実逃避したくなるが。
紆余曲折あってムーランドーブ伯爵領に流れ着き、そこでしっかりと向き合って冒険者をしている。そんなザックスのどこに批判されるべきところがあるだろうか。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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