Act.9-39 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.6
<三人称全知視点>
「遂に来てしまったか……ウォンカ、剣を下ろせ。どちらにしろ勝ち目はない。初めまして、ダルフ=ムーランドーブだ。領主をさせてもらっている」
「メアレイズ=淡霞=ブランシュ=ラゴモーファでございます。ユミル自由同盟で文官をさせて頂いているでございます」
「……文官ですか? いえ、失礼しました」
「ウォンカ殿でございましたね。まあ、多少やり過ぎたので疑われても仕方がないでございますが……」
メアレイズはスーツの胸ポケットから名刺を二枚出すとダルフとウォンカに手渡した。
「ユミル自由同盟の文長……ということは文官のトップということで良いのでしょうか? 国交がないので風の噂レベルですが聞いたことがあります。亜人種族が多種族同盟という互助組織に加わっていると。この大陸において無視できぬ巨大秩序……その一国が同盟の外部であるロッツヴェルデ王国に来たということは、まさか戦争ですか!?」
一気に青褪めるダルフとウォンカ。ロッツヴェルデ王国は決して大国ではない……況してや今は内憂のせいでボロボロだが、ある程度の力は有している。
しかし、多種族同盟はロッツヴェルデ王国に比肩する、或いは凌駕する大国が数多く加盟している組織――その尖兵である目の前の兎人族だけでも勝ち筋が見えないのに、それ以上のものがロッツヴェルデ王国の敵に回ろうとしている。
ダルフ達はようやくここで自分達が悪夢だと思っていたものがほんの序章に過ぎないことに気付いたのだ。
「少し見てもらいたいものがあるでございます」
そういうとメアレイズは四次元空間からパソコンを取り出してダルフ達の目の前に置いた。
そのパソコン――二人にとって見慣れない面妖なものに映し出されたのは、ロッツヴェルデ王国の第一王子がユミル自由同盟の一行に喧嘩をふっかける姿。
『ここは獣臭いなぁ。誰だ、この園遊会の会場に獣を入れたのは』
『――ッ! この獣人がッ! 奴隷になるしか能のない劣等種風情がこのロッツヴェルデの王子である俺の言葉を無視するだと! 獣は獣らしく俺達人間様を敬っていればいいんだ!!』
『お、俺は王子だぞ! こんなことをして許されると思っているのか!!』
『やってしまえ! ここにいる獣人共に俺達人間の恐ろしさを見せつけてやれ!!』
その映像を見たダルフとウォンカは石化したように固まり……そして、ほぼメアレイズに土下座をした。
「「うちの莫迦王子が申し訳ございませんでした!!」」
「やっ、やめて欲しいでございます!」
その場をメアレイズに頼まれてお茶とお茶菓子を持ってきたメイド達に目撃され、メアレイズは誤解を解くために骨を折ることになった。
「……衛兵倒すよりも疲れたでございます」
「すまない……しかし、こうなったことも納得できる。我が国では亜人種族に対する偏見は根強く残っているが、多種族同盟ではエルフもドワーフも獣人族も海棲族も、そして少し意外だったが魔物や魔族も対等な存在として認められている。園遊会の開催国であるブライトネス王国がそのような態度を取っているならば、郷に従うべきところだ。……元々頭が足りないとは思っていたが、まさかここまで」
「この時の第一王子の言葉を宣戦布告と受け取り、早速戦争のためにロッツヴェルデ王国に来たところでございます。……本当は一人で戦争するつもりで来たのでございますが……クソ陛下にVIP押し付けられたのでございます」
「いやいや、そもそも戦争って一人でするものではありませんから! それで、わざわざ領主の館を訪れた理由はどのようなものですか? 生憎と今は突如した迷宮と中央による度重なる増税で疲弊している状況なので何も差し出せるものは無いのですが」
「そうでございますね……例えばA国とB国が戦争をして、B国が勝ったとするでございます。最もA国が利益を得られるのはどのような勝ち方だと思うでございますか?」
「……最も利益の上げられる方法ですか。どのような条件で、ですか?」
「今回の戦争は私もどうなるか分からないでございます。私も一応要求を通すつもりでございますが、ロッツヴェルデ王国がどうなろうと知ったことではないのでございます。……まあ、そうでございますね、現王朝への委任統治の形でも割譲するとしてもどちらでも利益が出る方法でございます」
「……そんな方法、本当にありますか?」
「無血で制圧……だろ?」
ダルフの問いに答えたのは、いつの間にか領主の執務室に入ってきたランレイクだった。その隣にはフューズと、信じられないという表情でメアレイズに視線を送っているメイナードの姿がある。
「ランレイク大公閣下とフューズ大公閣下、ランレイク大公閣下の側近のメイナード卿、つまりクソ陛下が押し付けてきた挙句、不平不満な態度を示し続けて来たVIP共でございます」
「いや、文句言っていたのはメイナードだけだからな?」
「そうですよ! 折角のチャンスをランレイク様の側近が台無しにしたのですよ」
「というか、そもそもブライトネス王国でローザ様に修行をつけてもらえばよかったのに危険な旅に同行したお前らはどうかしているでございます」
「……いや、ローザ様はその……お忙しいだろ? 近々臨時班も動くようだし」
「……それはまるで私が忙しくないみたいに聞こえるでございます! 戦争に託けて大義名分提げて休もうとしたのに、VIPのお守りを押し付けられるとか、私はベビーシッターではないのでございますよ!」
「ベビーシッターって、子供扱いですか」
「そうでございますよ! というか、子供の方がもっとマシでございます! ……まあ、フューズ様は巻き込まれでございますから十把一絡げでございますから申し訳ないでございますけど……」
「無罪放免ですか!?」
「きったねぇぞ!」
「無罪放免ではないでございますよ! 勘違いも甚だしいでございます。問題はランレイク閣下でございますよ! 特にメイナード卿、着いてくるなら指揮官に従うべきでございます。今回は色々なことを捻じ曲げて筋の通らないことをしているのでございます、その上で指示に従えないと、餓鬼かッ! でございます! 不殺もできない雑魚はいらないでございます! そんなに命が大切なら大公軟禁してエタンセル大公領から一歩も出ずにガタガタ震えながらつまんない人生送っていろでございます!」
「……いや、流石に軟禁はなぁ。悪かった、メアレイズ閣下。度重なる部下の不快な行動、言動、申し訳なかった。……許してもらえないことは分かっているが」
「……はぁ、ラインヴェルド陛下と約束してしまっているから追い返したら何を言われるか分かったものじゃないでございます。お前ら三人、この街に留まっているでございます。その間にシアさんと私で戦争を終結させてくるでございます」
「いやいや待て待て、それは……」
「ラインヴェルド陛下の依頼はランレイク大公閣下とフューズ太閤閣下をロッツヴェルデ王国に連れて行くこと……であって、参戦させるかどうかは協定の範囲外でございます。ロッツヴェルデ王国の国境を越えてロッツヴェルデ王国に入り、その後再び国境を越えてブライトネス王国に戻れば何も問題はないでございますよね? ダルフ伯爵様には申し訳ないでございますけど、しばらくこの三人を預かってもらえるとありがたいのでございますが」
「……構いませんが」
「そりゃねぇぜ……メイナードは必ず説得する。だから……」
「期限は私が話を終えて出発するまで、それまでに話をつけられなければ《蒼穹の門》を使って帰国してもらう……それが私の最大限できる譲歩でございます」
メアレイズはランレイク、フューズ、メイナードを掴むと次々と窓から外に放り投げていく。
一仕事終えたという風にやれやれとコーヒーを煽り……。
「邪魔が入ったでございますが、話を戻すでございます」
「……いいのか? 先程の方々は……」
「窓の外を見てみるといいでございます」
ダルフが外を覗くと怪しげなトロール――ブリスコラに掴まれたランレイクとフューズとメイナードの姿があった。
「ちょっといきなり何すんだよ!」と叫ぶがメアレイズは聞こえるにも関わらず知らぬ存ぜぬである。
「先程の話の続きでございますが答えは無血制圧でございます。死者を出せば消えない禍根が残る。しかし、無血ならばそういったことにはならない……勿論、地位を追われたとかそういう細々としたことはあるでございますが。国を支配する時、重要なのはその国の国民達にどう思われるかということでございます。国民に支持されぬ国の寿命は短い。批判が高まれば、国を打倒しようという勢力が生まれるものでございます。……それに、民は資本主義的に考えればリソースでございます。人の命を商品のように扱うのは批判される考え方かもしれないでございますが、労働力は事実、莫大な富を生み出すでございます。戦争で得られる利益を最大限にしようとすれば、それは誰一人殺さずに戦争を終結させなければならない。先程のメイナードはそれを不可能と断じた訳でございますが、結果は見ての通りでございます。……ムーランドーブ伯爵領は敵味方誰一人死者を出さないまま私に制圧された、違うでございますか?」
「……まあ、確かに理論上はそうだな。しかし、まさか本当にそれを成し遂げるとは。……それで、メアレイズ閣下は私達に何をして欲しいのでしょうか?」
「元々私はこのまま三つの領地を文字通り突破して王都に攻撃を仕掛けるつもりだったのでございます。……ただ、もしロッツヴェルデ王国国内で協力者を得られれば話は別――例えば、領主様の一行に混じって王都に行けば、戦いを回避することもできるでございますよね?」
「なるほど、つまり私達にロッツヴェルデ王国潰しを協力して欲しいと」
「悪い話ではないと思うでございますよ。……正直、戦争の結果としてロッツヴェルデ王国がどうなるかは分からないでございます。パイの如く切り分けられて各国による分割統治になるのか、それとも現王朝を傀儡とするのか、それとも首をすげ替えるのか。ただ、ロッツヴェルデ王国崩しに協力してくれた者に恩を仇で返すようなことはあり得ない……今後、ユミル自由同盟、多種族同盟は誠実ではないと睨まれることになるかもしれないでございますよね。……まあ、個人的にはどっちでもいいでございます。あくまでサブプラン、国に仕えて来た領主が国を売る訳ないと頭の片隅に留めておいただけのものでございますから」
「……もし、断られたらどうするつもりだったのですか?」
「その時は次の領地に進むだけでございますよ」
あっけらかんと言うメアレイズを見ながら、さてどうしたものかとダルフは頭を悩ませた。
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