Act.9-37 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.4
<三人称全知視点>
最初に異変に気づいたのはブライトネス王国とロッツヴェルデ王国の国境を守護するロッツヴェルデ王国の砦の衛兵達だった。
一人の兎人族が砦の方へと歩いてくる。その歩行速度は明らかに異常――そもそも亜人族が一人で国境を歩いていることがまずおかしい。更にそれが最弱の兎人族となればますます異常だ。
もし、ここでムーランドーブ伯爵がロッツヴェルデ王国の第一王子が園遊会の場で同じ参加者であるユミル自由同盟一行を侮辱し、それをユミル自由同盟及びブライトネス王国に、多種族同盟加盟国に宣戦布告と受け取られたという情報を手に入れていたら戦闘態勢を整えられたかも知れないが、ロッツヴェルデ王国の第一王子は園遊会の終了後、そのままロッツヴェルデ王国の王都に向かってしまった。
人間の下に置かれる奴隷にされて当然の被差別種族――獣人族に現実を思い知らせるつもりでグランビューテ=ロッツヴェルデ第一王子は居たが、そのためには父である王に状況を伝えて兵を動かす準備をしなければいけない。
グランビューテも流石に園遊会の終わって間もないこのタイミングで戦争を仕掛けてくることはない、正式な宣戦布告の後に戦争になると考えていた。
いや、そもそも実際に戦争にはならないかもしれない。獣人族は人間に劣る――すぐに許しを乞いてくるだろう。その時にユミル自由同盟に戦争を仕掛け、全ての獣人族を奴隷にする。
と、このようなミルクチョコレートよりも甘過ぎる考えをグランビューテは持っていたが、まあ、そんなことはあり得ない。
というか、まだ交渉の余地が残っているとか、許しを乞いてくるとか考えている時点でグランビューテの頭の中はお花畑である。現実というものが見えていない。
ある意味において、ムーランドーブ伯爵領から派遣された衛兵達は被害者と言えるかもしれない。……まあ、愛玩用に人気のある見目麗しい兎人族がノコノコとやってきたと下卑た妄想を持っている時点で彼らも被害者と言えるかは微妙だが。
「あー、邪魔でございますね、この門」
手にはいつの間にか背丈ほどの巨大な戦鎚――『霹靂の可変戦鎚』を最適化することで誕生した『神雷の崩砕戦鎚』の一振りを持ち(なお、メアレイズの全力は伸縮自在の柄の部分を短めにすることで成立する『神雷の崩砕戦鎚』の二刀流である。流石に二振りの柄の長い『神雷の崩砕戦鎚』はメアレイズにも扱いきれない)、思いっきり砦の壁に『神雷の崩砕戦鎚』のヘッドを叩きつける。
その瞬間――漆黒の雷が迸ると共に砦に穴が空いた。「そんなまさか」と衛兵達が見つめる中、穴と共に生じたヒビは物凄い勢いで広がっていき――。
「く、崩れるぞ!!」
衛兵達が我先にと脱出する中、たった一人の一撃で壊せる筈のない砦はたった一人の一撃で崩壊を迎えた。
「せ、戦略魔法も使わずに、たった一撃で……ば、化け物だ」
「これが兎人族だと……いや、仮に人間だとしてもこんなこと……」
「ぐだぐだ五月蝿いでございます! ユミル自由同盟の三文長が一人、メアレイズ=淡霞=ブランシュ=ラゴモーファでございます。お前らの国の第一王子に売られた喧嘩を買いに来たでございます。今すぐこの領地の責任者を出すでございます――それができないなら、ここで全滅してもらうでございます」
『神雷の崩砕戦鎚』を軽くブンブンと振り回し、メアレイズが衛兵達を睨め付ける。
対する衛兵達は砦を一撃で壊されたショックもあって剣を持つ手は震えていてとても戦える様子ではない。
しかし、メアレイズはその衛兵達が一人も逃げ出さずにこの場に留まったのを見て僅かに驚く。
「……慕われているでございますね、この地の領主は」
獣人族への偏見がない方が珍しい――メアレイズは人間との関わりを持ってますますそれを実感した。寧ろ、対等な存在として見てくれる者の方が異端なのだ。ロッツヴェルデ王国の第一王子の反応が正しいものだったのかもしれない……まあ、それが正しいものだとしても園遊会という場に対等な存在として呼ばれているのだから対等な存在として接するべきだったが。
「もう一度言うでございます。……この地の領主を出すでございます」
「た、例え俺達が殺されるとしても領主様を差し出すなど絶対にするつもりはない!! 兎人族、ここから先に進みたければ俺達を倒していくがいい!」
既に兎人族だからという偏見はない。相手は兎人族の形をしている正真正銘の化け物――衛兵達に勝てる相手ではない。
「――ッ! ドリー! お前は今すぐ領主館へ向かえ!」
「しかし隊長!」
「このまま全滅したら誰が襲撃を領主様に伝える! ……相手は化け物かもしれねぇが、数分は稼いでみせるさ」
「化け物扱いは心外でございます。……まあ、分かっていて行かせるほど私はマヌケではございませんので。――覇王の霸気ッ!」
メアレイズから圧倒的な霸気が放たれ、隊長を残して衛兵達は突如として昏倒した。
次々と倒れていく衛兵達を見渡し、放たれた圧倒的な霸気に屈して膝をついた衛兵の隊長は「何をした!」と叫んだが、隊長自身は聞くまでもなく何をされたのかを理解していた。
「その身で浴びて分かっているとは思いますが、彼らは別に死んでいないし、命に別状もないでございます。圧倒的な霸気を浴びて気絶しただけの話……というか、手加減したとはいえよく耐えることができたでございますね。びっくりでございます」
「まさか、気迫だけでこれだけの手勢を気絶させたということか!?」
信じたくは無かったが信じるしか無かった。相手は気迫だけでこれだけの衛兵を倒すことができる……そのような相手に果たして勝てるのか、その答えは問うまでもなく衛兵隊長自身が理解している。
しかし、だがそれでもここで退散するという選択肢はない。逃げようとしても決して目の前の兎人族は逃してくれないだろう。
「……名前を聞いても良いでございますか?」
「……ムーランドーブ伯爵領ランパーレン砦衛兵長のガルム=ドールファードだ」
「意外でございますね、まさか名前を教えてもらえるとは……その名前、覚えておくでございます」
メアレイズは『神雷の崩砕戦鎚』を四次元空間に放り込むと素手でガルムと対峙する。
一方、ガルムは帯刀した剣を抜き払い、油断なく構えた。
「それは手加減をするという意思表示か? 敵に情けを掛けるかッ!」
「『神雷の崩砕戦鎚』では手加減しても殺してしまうでございますから、無手の方が加減しやすいでございます。……殺すのは簡単でございますけど、殺したところで損しかないので――大人しく沈んでおけ、でございます!」
メアレイズの姿が掻き消え――次の瞬間、ガルムは腹に強い衝撃を受けた。
メアレイズの手がガルムに触れていないにも拘らず、ガルムは遥か後方へと飛ばされて木に激突し、そのまま意識を失った。
「武気衝撃……簡単過ぎでございますね。霸気を耐えたのだから少しは骨があると思ったのでございますが」
「これはまた派手に暴れましたね」
「あー、丁度いいところに来たでございます。シアさん、気絶した衛兵達のことをお任せしてもよろしいでございますか?」
「承知致しました、ここはお任せください。……あの、私のことは置いて行かないでくださいよ」
「分かっているでございます。衛兵達を運び終えたら領主の館まで来るでございます。それまでに領主には話をつけたいと思っているでございますが……難航していたらしばらく待ってもらうことになると思うでございます」
「お気遣いなく、私はただついて来ただけでございますので」
笑顔でメアレイズを見送るとシアは四次元空間から最低限の寝床として使える設備が揃っているプレハブ小屋を次々と取り出すとその中に倒れている衛兵達を収容していく。
「……まさか、本当にメアレイズ閣下は不殺を……」
後から追いついたメイナードは不可能と思った不殺をやり遂げたことを知って驚愕し、ランレイクとフューズは揃って「折角の戦いを観戦できなかった」と溜息を吐いた。
ちなみに既に神速闘気を纏い走っているメアレイズとランレイク達の距離は離れている。この感じだと確実にムーランドーブ伯爵との戦いも見れないまま終わってしまう。
折角ラインヴェルドに直談判して掴んだチャンスを台無しにされ、若干苛立ちを覚えているランレイクとフューズはシアにその場を任せてメアレイズの後を追い、メイナードも二人を止めるべくその後を追った。
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