Act.9-36 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.3
<三人称全知視点>
メイナードにとってメアレイズはなかなか扱いに困る相手である。
メイナードがメアレイズを亜人族だからと軽んじている訳ではない。メアレイズはブライトネス王国と対等な関係にあるユミル自由同盟の獣王の地位にあり、兎人族を統べる族長でもある。そして、何よりユミル自由同盟の数少ない政治を司ることができる存在――文官の頂点に君臨する三文長の一角であり、その重要性はユミル自由同盟だけに留まらず多種族同盟内部でも高い。
そのメアレイズがユミル自由同盟の代表としてロッツヴェルデ王国に攻め入ると聞いた時、メイナードは別段何も思わなかった。
ユミル自由同盟とロッツヴェルデ王国が戦争をしてもブライトネス王国への被害はない。仮に負けても責任はユミル自由同盟が支払うことになり、勝てば園遊会で騒動を起こしたことを理由にブライトネス王国への賠償を命じることができる。
だが、そこにエタンセル大公であるランレイクが関わってくるとなれば話は変わってくる。
エタンセル大公家を含む大公家はブライトネス王家が断絶した場合、次の王家を継ぐ可能性がある。
その大公が二人、敵国に出向く――その話をランレイクから聞いた時、メイナードは「何故そんな話になった!?」と内心頭を抱えた。
メアレイズが二人を指名したなら強気に出ることもできるが、これはランレイクとフューズがゴリ押しした話らしく主導権はメアレイズが握っている。
まあ、それは当然のことではあるのだが、流石に不殺という条件は容易に呑めるものでは無かった。
それは勿論、敵対する相手の命を奪わないで戦争を終結に導けるのならばそれに越したことはない。しかし、それは努力目標だ。とても現実的とは言い難い。
メイナードにとってこの場で重要なのは主君であり相棒であるランレイクの命であり、次点でフューズの命である。
ググッと範囲を拡大すればメアレイズやシアの命も守備範囲に含まれるがそこが限界域……最悪、命を天秤にかけるような事態になればメイナードは確実にメアレイズとシアを見捨てる。まあ、メアレイズもメイナード程度の者に守られるほど弱くはないが。寧ろ、メアレイズを守護すべき存在に含めている時点でメイナードはメアレイズの実力を軽んじて舐めている訳だが、その事実にメイナードは気づいていない。
守れる命には限界があるというのがメイナードの常識である。敵も味方も守るなどというのは理想論。
そんな甘いことを言っている者ほど先に死んでいく。
敵の命を守るために動いた結果、ランレイクやフューズを危険に晒すのでは本末転倒。……じゃあ、そもそも危険に身を晒すようなことをしないように全力で止めろよ、という話なのだが。
そんなメイナードの心を読んだのか、それとも読むまでもなくメアレイズはメイナードを内心鼻で笑ったが(ちなみに、ランレイクとフューズはメアレイズが不殺を条件にしたことは実に彼女らしいと捉えていた。選択肢としてもし不殺という手段が取れるならば、制圧後のリソースを減らさないという意味でも、与える印象の意味でも最良の選択である)、その後少し残念そうな顔をして……。
「しかし、そうなると折角のブリスコラの実力を見損ねることになるでございます。……アスカリッド様が土産話を楽しみにしているのでございますのに……」
「でしたら、旅のどこかで模擬戦をしてはいがでしょうか? ――それに、気になっているのはブリスコラの実力だけではないのでしょう? 私の力も知りたいのではありませんか? ……流石に閣下には劣りますが、そこの大公様お二人よりは強い自信がありますからね」
満面の笑みで地雷を踏み抜くシアに青筋を立てるメイナード。
一方、ランレイクとフューズはその言葉を聞いてゴクリと唾を飲み込んだ。
ランレイクとフューズはどちらも戦いの世界に身を置いたことのある人間だ。
しかし、それはローザ=ラピスラズリ公爵令嬢が頭角を表す以前である。
ローザの登場以降、戦いのスケールは一変した。
園遊会の一件が皮切りとなり、国と国の戦争が小競り合いに思えるほどのレベルに到達し、ブライトネス王国でも騎士になるためには闘気と八技の習得が前提となっている。
ランレイクもフューズもシアの名前を聞いたことはないが、この戦争にシアがローザの推薦で派遣されている時点でただものではないと何となく感じ取っていた。
あわよくばメアレイズから新時代の闘い方を学びたいとわざわざラインヴェルドに直談判してロッツヴェルデ潰しについてきたランレイクとフューズにとっては僥倖である。
「……不殺に関しては私も賛成ですが、今のメアレイズ閣下の作戦には正直賛同でき兼ねます。馬鹿正直に三つの領地を越えていくよりも……」
「えぇ、そうでございますね。三つくらいならそのまま突き進んでも支障はないでございますし、我々が逆立ちしたところで絶対に勝てる相手ではないと思い知らせるためにあえて真正面から攻める方法を考えていたのでございますが、このムーランドーブ伯爵領の領主様に協力して頂ければ二つの領地を無視して真っ直ぐ王都を目指せるでございます。ムーランドーブ伯爵一行を装う作戦でございますね。一応、サブプランとしては考えていたところでございます」
「……流石は智将メアレイズ閣下、進言する必要もありませんでしたね。素人が口を出すべきところではございませんでした。謹んで謝罪致します」
「謝ることではないでございます。……改めて考えてみると、確かにそちらのプランの方が良いかもしれないでございますね。一つ領地を落とせばそれだけ周辺の領地に警戒されて応援を呼ばれることになるでございます。私一人の場合であればゆっくりロッツヴェルデ王国に進軍して敵戦力を集める余裕を与え、全戦力が集まったところで纏めて相手をした上で完膚なきまで叩き潰してトラウマを植え付けるのが良いと思っていたのでございますが、それだと時間が掛かり過ぎるでございます。このまま予定通り進軍すれば徒にロッツヴェルデ王国の本体――王都周辺の警戒レベルを高めることになるでございますが、戦力を集める時間を考えると全面戦争レベルの戦力を集めることはほぼ不可能……王都には精鋭戦力が揃っている筈でございますので、そもそも王都を落とした時点で国内に与える影響は充分……となると、三つ程度の領地を潰して真っ当に攻め込むよりも協力者を得た上で奇襲を仕掛ける方が余計な戦いをしないで済む分良いかもしれないでございますね」
「ちょっと待ってもらいたい。メアレイズ閣下の言いたいことは分かる……が、それはムーランドーブ伯爵領主が協力することが前提になっている。そもそも、ムーランドーブ伯爵領主が我々に協力する必要はないのではないか?」
「まあ、そうでございますね。ランレイク閣下の仰る通りでございます。……ただ、ムーランドーブ伯爵が聡明な人間であれば乗ってくる話でございますね。戦争の勝利に貢献すれば、ユミル自由同盟を含む多種族同盟はその貢献に報いる必要が出てくるでございます。裏切ることによって、ムーランドーブ伯爵の地位は約束されるかもしれないでございますし、場合によっては、戦争協力の褒賞として新たな領地を得られるかもしれない、戦争後のロッツヴェルデ王国がどうなるか私にはどうでもいいことでございますが、いずれにしても戦争に貢献したムーランドーブ伯爵に恩を仇で返すような真似をする筈がないでございますよね? ……まあ、そういう損得勘定ができない莫迦だった場合はもっと単純に協力させればいいだけでございます」
話の通じない脳筋は基本武力で捩じ伏せるというやり方が染み付いているメアレイズにとっては当然の流れだが、ランレイクとフューズとメイナードは心の中で「物騒だなぁ」と呟いた。まあ、ランレイクもフューズもそういうやり方が嫌いではないし、メイナードも暴力反対というタイプではないので、そういう分かりやすい方法は有難いのだが。
「ということで結論でございますが、まずはムーランドーブ伯爵に力を見せつけて協力者に引き込んだ後、ムーランドーブ伯爵の使節に扮して王都に乗り込んで制圧……この流れで行くことでよろしいでございますか?」
「意義無しだ」
「意義無しです」
ランレイクとフューズの同意を得たことで作戦は決まったのだが……。
「……しかし、まだ不殺の件が片付いていません。ランレイク様とフューズ様に身の危険があるかもしれない戦場で不殺を強要し、万が一のことがあれば――」
「メイナード、お前も強情だな。見苦しいぞ。俺もフューズも危険を晒すことを承知の上で来ている。そもそも、自分が傷つくことを承知している者だけが戦いに身を投じることを許される。それはお前も承知の上だろ? 何故、今になってお前がそれを口にする。ずっと共に戦ってきたお前が――」
「昔と今では立場が違います。ランレイク様は今は大公です! 立場のある人間が正面切って戦う必要など、身を危険に晒す必要などありません。そういうことは――」
「そういうことは、他国の死んでも支障のない一兵卒がやるべきでございますよね。分かっているでございます。最弱の兎人族に相応しい仕事……というか、そもそもこれって私が一人で担当する権利を与えられた仕事でございますよね? 寧ろ、勝手についてきたのはそちら側でございます。……何故、私が責められる必要があるのでございますか?」
「なんで毎回私だけ貧乏くじを引かされるのでございますか」とどんよりムードになりながらメアレイズは一振りの短剣を取り出した。
その短剣を有無を言わさずランレイクの手に握らせる。
「《蒼穹の門》のナイフでございます。それを使えばブライトネス王国の王都に帰還可能でございます。どうぞお帰りくださいでございます。……この程度の相手に不殺もできない雑魚は要らないでございます」
メアレイズは満面の笑みで三人纏めて戦力外通告をすると、意気揚々と鼻歌を歌いながらムーランドーブ伯爵領へと向かっていく。
「……メアレイズ閣下のお怒りはごもっともです。いくら雑魚でも流石に自分の身くらいは守れるでしょう? 見学するだけして帰ったらどうですか? 前時代の元英雄の皆様。――ま、待ってくださいメアレイズ様! 私は死んでも支障のない一兵卒ですからー!!」
これまでとは打って変わって冷たい双眸でゴミを見るような目をランレイク達に向けたシアはすぐに表情を変えると、シアはメアレイズの後を必死で追いかけていった。
「……ランレイク殿、どうしますか?」
「帰国する、なんて選択肢はないだろ? ……しかし、前時代的っていうのは分かっていたが、ここまで二人に徹底的に罵倒されると苛立ちしか覚えないな」
「えぇ、気分は最悪ですね。……自分の身くらい自分で守れること、メアレイズ閣下に見せつけてやりましょう」
その後をランレイクとフューズが追いかける。最後に残されたメイナードは「ちくしょう! やっぱりこうなるのかよ!」と叫びながらランレイクとフューズの後を追った。
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