Act.9-35 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.2
<三人称全知視点>
「人工の『天恵の実』でございますか? ですが、『天恵の実』は普通に【万物創造】で作れるものでございますよね? それか、天恵の種を使うことで作ったオリジナルの天恵の実……でも、それだと人工とは言えないでございますよね?」
「人工の『天恵の実』の製作にはまず、その対象の遺伝子を必要とする。その遺伝子をアネモネ殿とビオラ特殊科学部隊が開発した特殊な科学薬品を混ぜ、それを天恵の木の苗木……まあ、枝を挿木したものだ十分なのだそうだが、その天恵の苗木に吸わせて成長させることで開発できるようじゃ。弱点は『天恵の実』と同じく二つ以上の『天恵の実』を食べた場合に全身が破裂して死んでしまうこと。……まあ、これはオリジナルと同じじゃから『天恵の実』のリスクと言えるじゃろうな。それ以外の違いは動物系の『天恵の実』しか作れないこと。……『泳魚の天恵』、『両生の天恵』、『爬蟲の天恵』、『昆蟲の天恵』、『飛翔の天恵』、『獣化の天恵』は他の『天恵の実』とは異なり複数の種類がある。『飛翔の天恵(モデル:燕)』と『飛翔の天恵(モデル:鳳凰)』は全くの別物じゃな。そして、この人工の『天恵の実』のシステムを使えば『飛翔の天恵(モデル:鳳凰)』と同系統――つまり、『天恵の実』の中でも希少とされる幻獣系の『天恵の実』を作れるようになるとのことじゃ。例えば、『獣化の天恵(モデル:首無しの騎士)』とかもありじゃな」
「つまり、魔物の遺伝子を手に入れれば、その力を宿した『天恵の実』を作り出せるってことか?」
「それだけではない。遺伝子は今の時代には存在しない太古の存在であっても取り出すことは可能だ。既に絶滅した古代の強力な生命の力を復活させることも可能だそうだ。……かつてこの世に存在し滅んだ種族というものも僅かな伝承レベルではあるが魔族の中で伝わっておる。例えば、その圧倒的な力で世界を支配下に置いていた巨人族と呼ばれる存在もそうした滅びた種族の一つじゃな。メアレイズ殿には馴染みもあるじゃろ? ユミル自由同盟の名は、全ての獣人族の祖となった原初の巨人――ユミルに由来しておる」
「……聞けば聞くほど底が知れないでございます。……アネモネ閣下が味方で良かったでございます」
「本当じゃな。……馬鹿な魔族が喧嘩を売らなければ良いが、まあ、それで滅ぶのは隔絶した実力を理解できなかった故、仕方ないことかも知れぬな。では、そろそろ我は失礼させてもらうとする。……あー、そうじゃった。我もブリスコラが戦闘した姿は見ておらんし、シア部隊長の底も知らん。もし、帰国後良ければ是非メアレイズ閣下を招いてお茶会をしたい。良い土産話が聞けることを楽しみに待っておるでのぉ」
「……承知したでございます」
他人事だからと気軽に後ろ向きに手をひらひらと振るアスカリッドをメアレイズは溜息を吐きながら見送り、この場に居た近衛騎士達の大半はアスカリッドが落としていった爆弾の衝撃で全員が青褪めて震えていた。
◆
翌日、メアレイズの姿はビオラ商会合同会社の本社前にあった。
他に集まっているメンバーはランレイク=エタンセル、フューズ=シンティッリーオ、そしてメアレイズも初対面のメイナード=フリーゲートの三人である。
メイナード=フリーゲートはランレイクの側近でエタンセル大公家の執事長兼エタンセル大公領領軍の剣術指南役、師範代である。騎士時代のランレイクの相棒だけあってその実力は折り紙付きだ。
ランレイク、フューズを含め揃っているメンバーは猛者ばかりだが、今回の戦争は啖呵を切ったメアレイズが主導することが決まっており、その活躍の場が用意されるかどうかはかなり怪しい。
四人が待っていると、本社ビルの自動ドアが開き、中からエルフの特徴である耳を持つ黒髪の美しい女性が現れた。タイトスカートを美しく着こなし、銀縁眼鏡をかけた姿は知的で仕事のできそうな印象を抱かせる。
「お初にお目に掛かります。ビオラ商会合同会社の本社で広報戦略課の課長を務めていますシア=アイボリーと申します、以後お見知り置きくださいませ」
「初めまして、メアレイズでございます。VSSCの隊長のシア様、お会いできる日を楽しみにしていたのでございます」
「……ダミーの方では流石にダメですか。改めまして、Viola Special Science Corpsの隊長を務めているシア=アイボリーと申しますわ。アネモネ会長に引き上げてもらえたことを誇りに思い、日々研究をしております」
狂いに狂ったマッドなサイエンティストが現れるのではないかと身構えていたメアレイズは意外に真面そうな女性の登場に驚いた。
これなら旅も比較的真面なものになるのではないか……と期待したメアレイズだったのだが……。
「エンジンフルスロットル! アクセル全開! いくぜぇぇぇぇひゃっはーーーーー!!」
「やっぱり全然真面じゃなかったでございますぅぅ!!」
慌てたメイナードが全力でシアを止めようとしたが、その前に運転席をその他の座席を仕切る特製ガラスが上昇して運転席を隔離、その後急激にアクセルを踏んだ反動でメイナードは背中を強打された。
完全にシアの独擅上となった車は時速80kmまで加速、王都を抜けて王都と各領地の都市を結ぶ道路に入ると時速180kmまで加速――メアレイズだけではなく、このレベルの速度の乗り物を体験したこともないランレイクやフューズ、メイナードも流石に涙目になっていた。
……よく事故を起こさなかったものである。
◆
臨時班団長のメアレイズがゲロゲロ袋を手放せなくなった(流石に吐いてはいない)地獄の車旅はロッツヴェルデ王国との国境を守護するウォルザッハ侯爵領を越え、ロッツヴェルデ王国国内に入ったところで一旦終わりを迎えることになった。
「じ、死ぬかと思ったでございます」
「だ、大丈夫ですか!?」
「……大丈夫じゃないでございます」
「まさか、シア嬢は自分の運転のこと気づいていないのか!?」
本気でメアレイズを心配するシアの姿に戦闘狂であること意外は割と常識人に属するランレイクは戦慄を覚えた。
「あまりよく分からないのですが、ローザ様は『今すぐアウトバーンに行っても走れそうだけど、乗り心地は保証しないねぇ』と仰っていました」
「……何故、そのような方をローザ様は運転手に選んだのでしょうか?」
若干ローザに対する信頼が揺らぐフューズである。
さて、色々と問題のある旅立ったが国境を越えることはできた。しかし、王都まではまだまだ距離がある。
三つの領地を経由しなければ王都には辿り着くことはできず、広い道を通って王都に向かおうとすれば必ず領主の住む地球で言うところの県庁所在地――領都を通ることになる。領主貴族の目が光るお膝元を通ればそれだけ戦闘の機会は増える。
まあ、どれだけの戦力を揃えてもメアレイズならば突破は可能だ。
そもそもメアレイズは単騎でロッツヴェルデ王国の精鋭が集結する王宮を制圧するつもりだったのだから、領主軍程度に怖気付くようなことはない。
「メアレイズ閣下、どういう作戦で行く?」
「なーんにも考えていないでございます。そもそも、私一人ですから気儘に邪魔するものを根刮ぎ倒して王都まで行くつもりだったのでございます。ついでに色々と観光しながらのんびりと……予想もしていなかった人数変更で高貴な身分のお二人がいらっしゃるとなると、そう長居もできませんし、このまま真っ直ぐ王都まで行くべきだと思うでございます。邪魔する者は全て潰す、この方針に関しては変わりませんが、行軍スピードは少し速めた方が良いのではございませんか?」
「……メアレイズ閣下にはご負担をお掛けしますが、その方が良いかと存じます。ランレイク……様はいつまでも若い騎士であると思っておられるようですが、既に地位のあるお方。フューズ大公様も同様です。お二人の身に万が一のことがないように早めに戦争を終結させるべきだと私は思います」
「……メイナード、お前さぁ、こっちは二人とも無理を言ってついて来た立場なんだよ。死んだところで自己責任、そういう話でついてきている。元々は陛下がメアレイズ閣下に一任した件だし、俺達の都合で色々とメアレイズ閣下に迷惑を掛けるのは」
「別に観光は諦めているでございますし、もう何でもいいでございます。ただ、一箇所帰りにユミル自由同盟に寄ることだけは許して頂きたいのでございます」
「……すまない、メアレイズ閣下」
本当は戦争に託けて事実上の有給を獲得しようとしていたが、この夢は潰えた。大公を二人連れて観光など不可能、二人の身の安全を考えてもメイナードが同意したように行軍スピードを早めた方が良い。
……これがラインヴェルド達であれば「俺達の身の危険とかどうでも良くない? それよりも思いっきり楽しもうぜ」と屋台に突撃してそれはそれで気苦労が絶えない旅になりそうだが……。
「とりあえず、越えなければならないのはもう既に入っているでございますがムーランドーブ伯爵領、その先にあるゼネクス侯爵領とパドール公爵領の三つ。これを越えると王都でございます。方針としては王宮以外では必要のない戦いは避け、仮に戦う必要がある場合でも原則は不殺を通して欲しいでございます」
「……随分と甘い考えてございますな」
「後々併合することも考えれば我々に対する印象はクリーンに近い形を維持すべきでございますよね? 殺さないだけの実力差があれば殺さない選択肢を選ぶ方が良いに決まっているでございます。少なくとも、我々ユミル自由同盟には戦争をするだけの大義名分がある……最悪、殺すのは王族だけで良いと思うのでございますが。まさか、不殺などできないなど仰るつもりはないでございますよね? ブライトネス王国の生ける伝説である『赤焔』と『赫雷』の異名を持つお二方と、元宮廷魔法師団師団長様ともあろう方々が」
色々と計画を狂わされて苛立っていたぶちギレウサギが「せめて足は引っ張るんじゃねぇぞでございます」という目でランレイク、メイナード、フューズを睨め付けた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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