Act.9-34 ロッツヴェルデ王国打倒臨時班始動〜メアレイズと愉快な? 仲間達〜 scene.1
<三人称全知視点>
――時は少し巻き戻る。
園遊会の場においてロッツヴェルデ王国に宣戦布告をしたメアレイズは当初一人でロッツヴェルデ王国に赴き、そのついでに事実上の有給休暇を満喫する腹積りでいた。
事前にどこの役職にもついていない自由人かつ暇人のアルティナを捕まえ、とある仕事のためにユミル自由同盟に向かってもらった。
本人的には「ウチも暇じゃないんですけど」とどの口が言ったんだ? という反応をしていたが、メアレイズがブラック極まった日々の苦労とアルティナに託した仕事の重要性をコンコンと話すと元気が取り柄の筈のアルティナも徐々にどんよりムードになり、最後には「はぁ、分かったっスよ。ウチもできる範囲で頑張ってみるっスが、あくまで下準備だけっスよ。ウチが余計なことをしたみたいに言われるのはなんか違うと思うっスから」と応じてくれた。メアレイズ的にはアルティナにそれ以上のことを求めるつもりはないのでそれで問題無しである。寧ろ、それ以上のところまで話を進めて結果的に無能だったら……と考えると背筋が凍る。
まあ、アルティナが仕事を終えるくらいにユミル自由同盟に着くくらいの速度で終わらせばいいか? と半ば観光気分で行くつもり満々だったのだが……。
「なんで私、正装姿で謁見の間にいるのでございますか?」
理由は分かっているが、現実逃避したいメアレイズは死んだ魚の目で玉座に座るラインヴェルドに視線を向けた。
逃げ場がないように公式の場をセッティングし、王様然とした顔の裏に「メアレイズが困っていやがる! クソ笑えるぜ!」と少年みたいな無邪気さというか、悪餓鬼がそのまま成長したというか、タチの悪い大人の本音を隠そうともしない(見気を使えば丸聞こえなのがなお質が悪い)ラインヴェルドに、メアレイズは青筋を立て、護衛のために配置されている近衛騎士達が一斉に後退った。
近衛騎士達はメアレイズという兎人族に対してあまり良い思い出がない。可愛いのは外見だけで中身は極めて苛烈――日頃のストレスもあって加減というものを知らず、一度大義名分を得たら暴力の化身と化す。
本人は勤勉かつ真面目かつ優秀な文官で特に文官達からはアーネスト、ミスルトウなどの高位文官達と並んで英雄視されているのだが、近衛騎士達を含め、メアレイズと相対した者達からすれば優秀な人間という評価を軽々と上回る恐ろしい相手である。
……まあ、その責任はメアレイズの才能を見込んで文官にしたヴェルディエと、三大暴君と言われるラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンにあるのだが、どれも各国のトップであり相手取れば不敬罪で処分される。
触らぬ神に祟り無しを地で行くことを学んだ近衛騎士はわざわざ地雷を踏みに行くことはしない。
「メアレイズ、園遊会で宣言した手間申し訳ないんだが……」
「全く申し訳なさそうじゃないでございます! というか、そんな嘘を吐くくらいならクソ面白いから嫌がらせしてやったって言ってくれた方がよっぽどマシでございます。まあ、マシだからと言ってもそれはそれで腹が立つでございますが……」
「……言っとくけど、今回は俺じゃねぇぞ。久しぶりに剣を振りたいっていうエタンセル大公と、後学のために現代の戦闘というものを体感したいというシンティッリーオ大公からの依頼だ。流石に俺も大公家からの頼みを断れるほど……」
「別にできない訳ではないでございますよね? 『暴君』陛下」
「まあ、そりゃできるけどさぁ。正直に言おう、俺がクソ面白いと思ったから許可を出した」
「……デスヨネでございます。どうせそんなことだろうと思っていたでございます」
「まあ、それだけじゃないんだけどな。アネモネからも一人人員を貸したいっていう話が出ている」
「……はぁ、アネモネ閣下がでございますか」
メアレイズの師匠でもある圓は少なくともラインヴェルドよりは常識人である。己が楽しみたいからと人員を選定することはなく、その選定には何かしらの思惑や意図があるものだ。
しかし、今回に限ってはメアレイズとしてもあまり嬉しい提案ではない。……本当は観光も兼ねて馬車を乗り継ぎながらロッツヴェルデ王国に襲撃を仕掛けようとしていたのだが、二人の大公に加えて圓の推薦した人員を加えた旅となれば自由度は格段に落ちる。
「……私は一人で、って言ったのでございます。大公なんて高位貴族を連れて行くとなれば護衛も必要でございますし、大所帯になることが目に見えているでございます。私のセルフ慰安旅行が潰されたのは百歩譲るとして、そんな話になれば大名行列ダラダラ引き連れて戦争に行く羽目になるでございます。私はVIPの顔色窺いながら戦争とかしたくないでございますよ。……それに、私程度の人材ならいくらでも替えが効きますが、高位貴族となればそんなことはないでございます。万が一のことがあれば私のせいにされるだけに留まらず、最悪両国の関係性が壊れる可能性もあるとなると、そのような恐ろしい旅はできないでごさいます」
「……お前さあ、それ本気で言ってんの? 替えが効く訳ねぇだろ? それ本気で言ってんならメアレイズ、お前は自分の価値を軽んじ過ぎている。俺は自国の高位貴族六十人とお前一人の命が天秤に乗せられているとしたら間違いなくお前の命を優先するぞ? 多種族同盟にとってメアレイズという存在は無くてはならない存在だ。いい加減さぁ、最弱の取るに足らない存在だと自己卑下するのはやめろよ。そんな風に思っている奴、もうお前の国の一部にしかいねぇからな」
「その割には私に対する扱いが物凄い雑な気がしないでもない気がするでございますけど……」
「……まあ、エタンセル大公とシンティッリーオ大公については安心しろ、『自己責任でついて行きます』って一筆書かせたからな」
「そ、外堀がとっくの昔に預かり知らぬところで埋められていたでございます」
「まあ、メアレイズが嫌がっても決まったものは変えられないんだけどなぁ。宮仕えって辛いよなぁ」
「一度も宮仕えの経験がない、かつ、振り回す側の陛下にだけは言われたくない言葉でございます」
「……さて、問題なのはそこじゃなくてだな」
「さらっと流されたでございます」
「アネモネ閣下が推薦してきた奴なんだが、これがまた妙なんだ。アイツが楽しそうに秘密にしやがったから是が非でも突き止めてやろうと思って暗部を総動員して調査させたんだが、そいつがシア=アイボリーというドゥンケルヴァルト公爵領の出身で性別が女であること、そして魔法の才能が全くないってことの二点しか分からなかった。ビオラに入社してからの経歴も謎……まあ、これだけ聞けば非戦闘員にしか思えないが、戦力にならない奴をアイツが嬉々として連れて行くことはまずねぇだろ?」
「まあ、そうでございますよね……」
「一応資料には車の運転技能あり、って書いてはあるが魔道四輪の運転が珍しいとしても運転手だけで抜擢するとは思えないしなぁ」
当日になれば分かることだろうが、旅をする前にメンバーに関する情報を得て心算しておきたいところだが、メアレイズにもシア=アイボリーという名前は聞き覚えがない。
「……シア=アイボリーは狼にも影にも所属していないアネモネ閣下の戦力じゃな」
「おっ、アスカリッドじゃねぇか。アーネストのところに用があったのか?」
「いや、プリムラ姫殿下にお茶会に招かれたその帰りに面白い話が聞こえてきてな。しかし、素晴らしいお姫様じゃな。……とても、お主の遺伝子を継いでいるとは思えん。聡明さのみ残して残りの害悪にしかならん部分を丸々削ぎ落とした感じじゃな」
「酷い言種じゃねぇか」
ちなみにアスカリッドは園遊会後、アーネストに頼み込んで文官の仕事を手伝っている。将来魔王となった時に備え、国政について学んでおきたいと考えた故である。
その申し出を受けた時、アーネスト達は泣いたとか、号泣したとか。……どこぞの国王達に爪の垢を煎じて飲ませたい。
「それで? お前なんか知っているんだろ? シア=アイボリーは何者だ?」
「VSSCのリーダーじゃ」
「……聞いたことがないな。VはビオラのVだろ? 後は……」
「Viola Special Science Corps、つまりビオラ特殊科学部隊じゃな。ビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局、極夜の黒狼と並ぶビオラの保有する裏の三大勢力の一角。シア嬢は元々魔法が使えないただの人間じゃったが、ORIGIN細胞と呼ばれる人工的に作られた多能性の幹細胞から作られた魔力炉・魔力回路・魔力変換器を移植し、魔法師となった。それだけではなくエルフの遺伝子を取り込んだことで十二重奏に至っておる」
「……おいおい、エルフでも十二重奏を持っている奴はなかなかいねぇだろ?」
「まあ、それだけなら可愛いものじゃ。……我も詳しい話を聞いてはいないからシア嬢の力の全てを把握している訳ではない。しかし、ブリスコラと呼ばれる兵器をこの目で見た時に我は確信したのじゃ……あの兵器に攻められれば魔族は壊滅すると。流石に今のブライトネス王国を攻め落とせるほどの力はないようじゃが」
つまり、これまでの圓の手を借りていない国家レベルであれば容易に殲滅できる兵器の大量生産にそのビオラ特殊科学部隊は成功しているということである。……まあ、元々圓ならその程度造作もなくやりそうではあるが。
「ブリスコラは魔物の一種であるトロールのクローンから作り出したサイボーグ兵器じゃ。銃や刃物のような並みの攻撃では通用しない頑丈な身体を持ち、鉄を溶かす程の高熱のレーザー光線を口から放つことができる。その他にも様々なギミックが搭載されている。一見するとロボットやアンドロイドの類いにも思えるが、生物組織も存在しておるようで、完全な機械という訳ではないようじゃのぅ。……まあ、このブリスコラに代表されるようにビオラ特殊科学部隊は天上の神々に唾を吐くが如く倫理的にも禁忌の研究に幾つも手を出しているようじゃ。武器に意志を宿らせる技術、遺伝子に関わる技術、彼女自身の研究成果としてはサイボーグ化技術と、それから人造『天恵の実』に関する研究があるようじゃ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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